魔法少女リリカルなのはsts 光の英雄   作:オカケン

44 / 44
ツバサ

 

 

燃え盛る火の海。その火の中にまだ倒れんと耐えている六課の施設だったもの。しかし、それが崩れるのももはや時間の問題。ギシギシと音を立てて徐々に…徐々にそれは形を失う。

 

「うあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

全てが燃えて崩れ去ると同時に頭を抱えた男の後悔の咆哮が木霊する。それは目の前の自分の居場所が無くなった悲しさと…何もかも……全てどころか1つも守れなかった男の魂の絶叫だった。

 

 

 

 

 

……………………………………………………。

 

 

 

 

時を、少し戻そう。神崎賢伍は全速で六課に向かった。ゼストへの無理な追撃のために速影を乱用及び無理やり加速度を高めた影響で少なからず魔力を消耗していたが、それに構わず全速で向かう。

 

「応答願う!こちら神崎賢伍、応答願う!………クソッ!なんで誰も出ないんだよ!」

 

六課に向かいながら通信を何人にも繋げていた。ギンガを探しているなのは班に先に六課に向かったフェイト班、そして六課の本部にも。どれも連絡が取れず焦りもさらに増していた。

六課本部は俺が通信を試みる前から通信が途絶えていたのは分かっていたし、なのは達は地下の探索だろうからたまたま条件が悪かったのかもしれない。まだ、言い訳は見つかる。しかし、フェイト達が誰も出ないのはきっと良くないことが起こっているのだろう。

空に飛んで向かっているのなら通信が繋がらないという事はないのだから。

 

SH『マスター!前方に魔力反応を確認、3人です。内1人は……』

 

「フェイトか!」

 

視認できる距離まで近づくと状況はすぐに理解できた。フェイトが2人の戦闘機人に対して闘いの真っ最中だった。フェイトなら2人相手でも遅れは取るまい。そう思っていたのだが、パッと見た感じ少々分が悪いようだった。

 

「くっ!」

 

表情を歪めるフェイト、まるで落ち着きのない急いでいるような闘い方だった。戦闘機人の1人は一度刃を交えたことのあるトーレと呼ばれた青髪の女性ともう1人は初めて見る、ピンク色の長髪にヘッドギアのようなものを付けた女性だった。

 

「セッテ!」

 

「はぁ!」

 

トーレに名前を呼ばれたもう1人の戦闘機人、セッテは呼びかけに応えるように手の平から魔力砲を打ち出しフェイトを牽制、その好きにトーレが接近戦に持ち込み仕掛ける。

 

「ぐっ!くぅ!」

 

フェイトは魔力刃をこしらえたバルディッシュで応戦するがすかさずに入るセッテのフォローで上手く反撃が出来ない。ならば!

 

「うらあぁ!!」

 

俺は3人の間に割り込む形でまずはフェイトに追撃を与えようとするトーレに突進しながら回し蹴りをお見舞いする。

 

「貴様は!くっ!」

 

頭を狙った俺の蹴りは上手く対応したトーレの両手のガードで防がれる。しかし、トーレはそのまま俺と距離を取って後退する。セッテも突然の来訪者に戸惑いながらも冷静にトーレの隣まで後退した。

 

「賢伍!?」

 

「ようフェイト、無事か?」

 

俺の問いにフェイトは大丈夫と頷いた。

 

「地上の防衛は?」

 

「他の部隊も復帰して合流してくれてな、その人達が戦ってくれている」

 

不測の事態がない限りショウさん達で大丈夫のはずだ。そうである事を祈るしかない。

 

「それで?エリオとキャロは?」

 

一緒に六課本部に向かったはずの2人の姿は見えない。

 

「2人は先に六課に向かわせた、賢伍もここに来たってことは六課の救出に来たんでしょ?ここは私が残るから先に行って!」

 

フェイトも先に行かせた部下でもある2人は信頼してるだろうが、やはり不安は募るだろう。だが、俺はその選択を迷った。

 

「そうは言うが、ここは2人で早く決着をつけて2人で向かうべきだろう。いくらお前でも2人相手は厳しい………」

 

本心はフェイトも心配になったこともある。それに、すぐにでもあの2人相手でも制圧する自慢があった。無意識に刀を握る右手はすぐにでも仕掛けられるように強く握られていた。

 

「賢伍、焦って正常の判断ができなくなってるよ。相手の戦闘機人をよく見て」

 

フェイトに内心を悟られたのかそう言われ素直に目を向ける。

 

「っ!」

 

自分の浅はかさに顔を覆いたくなる。トーレ、セッテと呼ばれていた2人はすでに身構えていつでも戦闘を始めれるよう準備していた。その目にはフェイト、そして俺を敵とみなし見つめている。特に俺に対してはフェイトよりも少し強い敵意の目をしている。

不覚にも、生唾を軽く飲み込む。あの目は、相手にも遅れは取られないと決意を固めた目だ。少なくともあんな目をした相手に俺は速攻を決めようと思った自分を恥じた。なんたる驕り、なんたる慢心。敵と言えども戦士に対する侮蔑他ならない。そして、速攻で決めれるなんて無理だ……勝てたとしても手こずるだろう。実力的にもそうだし、例のガジェットだってある。

 

「私は大丈夫。すぐに追いつくから……六課の皆んなをお願い」

 

「あぁ、分かった……」

 

ここで1番ダメなのは2人とも足止めされてしまうことだ。俺の天敵のガジェットなんか出されたら俺は足手まといになる。なら、そんなリスクを背負うより俺は先に向かった方がいい。

俺よりフェイトの方がずっと冷静だった。

 

「っ!」

 

目を見開き跳ぶ、道を塞ぐ2人の戦闘機人の頭上を抜く。

 

「しまっ……!セッテ!」

 

「はい!」

 

セッテが手を振りかざすと魔力で透明化され潜んでいた件のガジェットが俺に追いすがる。やはり、潜ませていたようだ。

 

「バルディッシュ!」

 

しかしそれは俺に続いて高速で移動していたフェイトによって一刀両断される。俺の魔力には恐ろしい対策を持っている代わりに、それ以外には並みのガジェットにも劣る。

以前の戦闘でエリオが示してくれた事だ。

 

「はぁ!」

 

そのままトーレとセッテに接近して仕掛けるフェイト。仕掛けられた2人は仕方なく迎撃。俺から視線が外れる。それを尻目に俺はそのまま六課に。

 

「……すまねぇ、フェイト」

 

その呟きだけを残して俺はさらにスピードを速めたのだった。

 

 

 

 

 

………………………………。

 

 

 

 

 

「急げ!急げ!急げ!!」

 

魔力を限界まで高め、疾風速影の連続発動での移動。後のことを考えている余裕はなくただ、急いで六課の本部に急いだ。

 

「よし、見えてきっ…………!」

 

唖然とする。おかしい、あそこに六課の本部がある。俺たちの活動の場、その本拠地。稼働してからずっと皆んなと過ごしてきた思い出となる場所。

そこが今、赤く……赤くゆらゆらと揺れている。黒煙が立ちのぼり、陽炎を作る。燃えている、俺たちの六課が……燃えている。笑顔溢れていたあの場所がまるで地獄の業火の如く燃え盛っている。

 

「クソぉ!!」

 

まただ!また、間に合わなかった。ちくしょう、ちくしょう!!

燃え滾る火の手に突っ込む形で六課に突っ込む。降り立った所にちょうどぺたんと呆然と座り込んだキャロがいた。

 

「おい!キャロしっかりしろ!おい!」

 

顔を軽く叩いて意識を戻す。キャロはハッとしながら目に光を灯した。

 

「け、賢伍さん……」

 

泣いていた。大粒の涙をポタポタと地面に垂らしていた。さっきのヴィータの姿と重なる。自然と右腕が力んだ。

 

「六課が……エリオ君が……」

 

小さな呟きと共に俺に縋り付くキャロ。すぐ近くにエリオがストラーダを握りしめたまま横になって気絶していた。生きていた事に安堵しつつ、またも更に右腕が力んでいた。

 

「ごめん、遅くなって……ごめん」

 

左手でキャロを抱き寄せ頭を撫でる。しかし、キャロの涙は止まらない。止まりはしない。

 

「ここで待ってろ、中の様子を見てくる……」

 

一旦キャロを引き離し俺は走って六課の中へ。炎をものともせず突き進む、火を消している時間は無い。他の安否の確認を……。

 

「ザフィーラ!」

 

狼形態のザフィーラが傷だらけで倒れていた。抱き寄せる、息はある。しかし重症。

 

「シャマルさんっ!」

 

シャマルさんも同じく傷だらけで倒れていた。他のここの局員も、戦闘員だけでなく通信班も……皆んな無傷ではなかった。非戦闘員の方々までも。

 

「ヴァイス!」

 

倒れこむヴァイスを発見。すぐさま周りの火の手を遮り火が弱い場所へ。

 

「す、すいま……せん」

 

途切れ途切れながらもヴァイスは声を紡いだ。

 

「ヴァイス、喋らなくていい……今治療を……」

 

「ヴィヴィオ……連れてかれて……俺、守れなくて…」

 

その言葉に背筋が凍った。予感はあった。何でこのタイミングで六課が強襲されたのか。陳述会と同時の襲撃、狙いはなんだ?主力メンバーを欠いた六課になんの用があった?他に沢山の部隊があるなかで何故六課?

変わったことは無かったか?最近になって変わったことは?奴等が欲しがっているものを何度か奪い取っている。レリック、しかしその保管場所は六課じゃない。他に何が?そう、奴らは何故かヴィヴィオを保護したあの日、ヴィヴィオをつけねらっていた。

何故、町の破壊を主としていたガジェットが。無害であったヴィヴィオと雰囲気がよく似ていたあの女の子を追っていた?故障?襲撃中の故障?故障で顔認証に不備があった?似た人物を襲った?

 

「大丈夫だ、ヴァイス……俺に任せろ」

 

全て繋がった。しかし、時すでに遅し。俺はヴァイスに向けて笑顔を向ける。

 

「今はゆっくり休め……よく頑張ってくれた。無駄にはしない。お前が少しでも稼いでくれた時間は無駄にならない。そのおかげで俺はヴィヴィオを取り返せるからな」

 

「お願い……します………」

 

ヴァイスは再び目を閉じる。安全な場所まで運び、キャロの元へ戻る。

 

「キャロ、ここを頼む。皆んなに手当てを…応援が来るまで頑張ってくれ」

 

「は、はい……」

 

時間が惜しい、キャロを奮い立たせる言葉を考えてる時間もない。キャロが自分で気を持ち直すことを願って俺は跳んだ。

 

「シャイニングハート!分かってるな!」

 

『既に準備は出来ています、発動の宣言をマスター!』

 

目を見開き、息を吸い、叫んだ。

 

「シャイニングハート!リミッター解除、レベル2!!」

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

「ここまで離れれば大丈夫でしょう」

 

炎上した機動六課から北東に数キロの空に飛ぶ5つの影があった。1人は一度賢伍とも刃を交えた戦闘機人のディード、同じく戦闘機人であるナンバーズ8、オットー。

さらに、その幼い見た目とはかけ離れた能力を持つルーテシアとその召喚獣であるガリュー。そして、ルーテシアが飛行用に召喚した召喚獣の上で気絶し横たわっているヴィヴィオの姿もある。

 

「後の始末はガジェット達がしてくれます」

 

ディードはそう言葉を紡ぎヴィヴィオを早く連れて行けとルーテシアを促す。彼女らが六課を襲撃し、ヴィヴィオを拉致した実行犯なのは明白だろう。ルーテシアはその言葉に頷くとガリューと共に転移の準備に入ろうとする。

2人の戦闘機人はガジェットに機動六課の本部施設にトドメを刺すためのプログラムの準備を。全員警戒を怠らず魔力感知は常に発していた。

抜かりは無かった。油断も無かった。自らの任務を安全に完了するため余念はない。

 

 

 

 

 

 

なのに、気づかなかった。

 

 

 

「っ!?」

 

ディードの背筋が凍る。表情が強張る。その場にいた全員動きが止まる。見えない何かの圧迫感、緊張する、心臓の鼓動が速くなる。落ち着かない、吐き気がする。何故、何故、何故!?

 

「動くなよ、余計な動きをしたら頭と胴体が離れるぜ」

 

何故!光の英雄が4人の誰にも気付かれずに接近しているのか!それどころかディードは首元に刀を突きつけられ、オットーはそれとは逆の手で顔を鷲掴みにされ動きを止められている。

 

「な、何で………」

 

オットーの呟きに、光の英雄はにべもせず答えた。

 

「俺が速いだけだ、お前達の能力不足じゃない。安心しろ、ただ速かっただけだから」

 

口調は軽やかだが、その言葉に感じる圧力は果てしなく重く感じるものだった。

 

 

 

 

 

 

……………………。

 

 

 

 

そもそもリミッター解除の3段階の制限は単純に能力を3分の1ずつ制限されているわけではない。レベル1の段階で魔力、身体能力は開放はオマケであくまでメインの封じ手は砲撃魔法、『シャイニングブレイカー』だ。これの扱いのためのレベル1である。

そしてレベル2もとある魔法の解除を主とした封印でその魔法を使用するのに俺は魔力も自身の身体能力もフルに使わなければならない。そうしないとその魔法の負荷に耐えられないからだ。つまり、レベル2の解除の時点で俺は魔導士として、戦士としての身体能力は全力状態となる。簡単に言うならば『本気』を出せるのだ。

 

 

 

 

 

「俺が速いだけだ、お前達の能力不足じゃない。安心しろ、ただ速かっただけだから」

 

全速力で魔力を開放した疾風速影の連続使用。普段なら息は絶え絶えとなるが、身体能力を全開放した自分のスタミナは半端じゃないと自負している。19年間どれだけ走り込みを、トレーニングをしたと思っている。

 

「大人しく言う事を聞いてくれるなら、手荒な真似はしない。女の子を斬るような真似は避けたいんだ」

 

優しい口調を心がけるが端々に語気が自然と強くなってしまう。ヴィヴィオを拉致され敵への怒りと自分への情けなさを感じているが今はそれを抑える。感情で正常な判断を下せなくなるのは避けたい。本当ならこの速さで追いつき、奇襲でヴィヴィオをすぐにでも取り戻したかったが、情報ではルーテシアと呼ばれたあの女の子、あの子に付き従うガリューなる召喚獣がヴィヴィオに仕込み爪を突きつけていたのだ。直感というか野生の勘というか、とにかく迂闊に手は出せず仕方なく力の差を見せつけ戦意を削ぐ作戦に切り替えた。

 

「その子を、ヴィヴィオを返してもらう。そうすれば見逃してやってもいい」

 

「そう言って、貴方の言う通りにしたら問答無用で捕縛するんでしょ?」

 

誰も動けない中唯一ルーテシアがそう言葉を発してきた。中々どうして肝の座った子だ。

 

「さあな、どちらにしろ君もこの2人も他に手段はないと思うけどな」

 

「姿は瓜二つだけどやっぱりお兄さんと全然違うのね」

 

ルーテシアの言葉に俺は思わず眉をひそめる。俺もそこまで察しは悪くない。もう1人の、闇の俺の事を言っているのだろう。

 

「時間稼ぎのつもりならそれに付き合うつもりはないぞ。従わないのなら俺はこの力を行使する。お前達を捕縛しヴィヴィオも返してもらう」

 

少しでもヴィヴィオが傷つく可能性のある行動は避けたい。俺の提案に乗ってくれるのを祈るしかない。実力行使は最終手段だ。見逃すと言ったのも嘘ではない。だから、頼む。大人しく提案に乗ってくれ。

 

「選べ、俺の提案にかけるか……お前らにとって最悪の結末を望むか」

 

俺ももう我慢は出来ないぞ。頭は多少なりとも血が上っているのだ。

 

「貴方も譲れないのと同じで私も譲れないの」

 

ルーテシアはそう言ってデバイスを構えた。こいつにもこいつのなりの目的のためにか。心意気は、信念は買おう。幼いながらまるで感情がないような目付きをしていたが、どうやらそんな事はなかったようだ。しかし、ヴィヴィオは渡せない。

 

「分かった……」

 

そう言って戦闘機人2人の拘束をといて一瞬でルーテシアの前まで移動する。ガリューなる僕が間に入ろうとしていたが刀を持ってない左手で裏拳の形で頭部を殴打し隙を作る、そしてそのまま刀を峰打ちでルーテシアに向かって振り上げる。

ちょっと痛いだろうがしばらく眠っていてもらう!

 

「お嬢っ!」

 

状況にようやく気付いたディードは慌てて叫ぶ。しかし遅い。このままでは一瞬でこの化け物に制圧される、ディードは直感でそう感じた。

 

「っ!?」

 

 

ガキン!

 

 

 

ルーテシアに刀を振り下ろす直前、背後に悪寒が走った。殺気、ただの殺気じゃない。よく知っている気配だ。慌てて振り向き刀で受け止めると鉄と鉄がぶつかり合う音が響く。

 

「ようやく、その状態のお前と殺し合えるなぁ………待ちわびたぜ光の英雄…」

 

最悪のタイミングでこいつは登場した。まるで狙いすましたかのように。まるでこの少女を助けるかのようにそいつは現れた。

 

「失せろ、闇の俺…今はお前に構ってる暇はねぇ!!」

 

刀を弾き返しそのまま奴の横っ腹に蹴りを入れる。

 

「ぐっ!」

 

レベル2開放の影響で身体能力は全力を出せる。蹴りの速度も威力も今までとは異なる。闇はもろにそれを受け、仰け反る。その隙にヴィヴィオが載せられている飛行型の召喚獣の元へ移動し手を伸ばす。

 

「ヴィヴィオっ!」

 

指先残り数十センチの所まで迫るがヴィヴィオに触れるその直前に伸ばしていた手に激痛が走った。

 

「っ!」

 

二の腕に俺のバリアジャケットを貫通しそのままガリューの仕込み爪が突き刺さっていた。空中で血潮が舞い俺の動きが止まる。闇の出現で焦りすぎたか、横槍を許してしまった。

そして、その刹那の出来事で闇が体制を立て直し再び俺に斬りかかってくるのには十分な時間だった。

 

 

ガキン!

 

 

 

「くっ!」

 

痛みを堪えて体を捻りながら刀で応戦。その隙にヴィヴィオを連れたルーテシア、ディード、オットーは全速で戦線を離れ逃走した。

 

「待て!」

 

追いかけたくても闇がそれを阻む。奴に立ち塞がれては追い抜きさるのも一苦労だ。いつの間にか俺の腕に一発くれたガリューもルーテシアを追いかけ消えていた。

 

「どけ!どけよテメェ!!」

 

「クハハハハ!!随分必死だなぁ!そんなにあの小娘が大事か」

 

斬撃と斬撃の応酬で火花を散らしながら奴は笑う。嘲笑う。

 

「当たり前だ!大切な……」

 

浮かぶ、ヴィヴィオの笑顔が…ここ最近の楽しい日々が。無邪気に俺に向かって手を伸ばすヴィヴィオ、それに応えて抱っこして笑い合う。そうだ、娘なんだ。俺は父親なんだ、誰がなんと言おうとあの子は俺の娘なのだ。

 

「大切な家族を守れないで、光の英雄なんか名乗れるかぁ!!」

 

 

「ちっ!」

 

力を込めた一振りを見舞いそれを受け止めた闇は一瞬怯む。

 

「うらああああああ!!」

 

その隙に相手の腕を襟を掴み背負い投げの要領で海に向かって投げ落とす。

 

「っ!」

 

普段ならそんな大立ち回りを許してはくれないだろうが今の俺はレベル2解除をしている。身体能力も魔力も前回。力も速さも技術もこれまでで見せたことの無い領域なのだ。

水しぶきを上げて海に落ちた闇を一瞥もせずに足に魔力を込めて速影を発動する。この程度でくたばっちゃいないだろうが距離を開けてヴィヴィオを助けにいかないと。

ヴィヴィオを連れていった三人の位置はまだ掴めている。魔力を気にせず使えばすぐに追いつけるはずだ。

 

「っ!」

 

数十メートル速影で移動した所だった、闇を海に放り投げてから1秒しか経ってないこの時。一瞬で奴は俺の側面に回り込み刀を振り上げていた。

 

「隙だらけだぜ英雄さんよぉ!」

 

「何!?」

 

辛うじて刀で受け止めたが俺の足は止まる。早すぎる、いくらなんでも!

 

「ククク、驚くようなことか?この程度の速さで」

 

互いに距離を開けて構える。闇は心底楽しそうな笑みを浮かべていた。

 

「お前がこれまでレベル2を使わなかったように、俺も今まで貴様に対して本気を出したことはなかっただけの話さ……お前だってそれくらいの事は分かってたろう?」

 

その通りだ。互いに全力を出した事は一度もない。状況や環境がそうさせなかった事が多かった。だが、それは俺の事情であって奴には関係のない事だ。

それでも奴は本気など一度も見せてこなかった、遊び感覚で戦われていたのは最初からわかっていた事だった。しかし、こうして目の当たりにされると思ったよりショックは大きい。今のでさえ奴は別段本気を出しているわけではないのだから。

 

「さぁ来い光の英雄、お前がどれだけ強くなろうと俺には勝てない。何度でもそれを教えてやるよぉ!」

 

両手を広げて挑発するように奴は言う。俺は軽く深呼吸をして心を落ち着かせる。焦るな、冷静になるんだ。………冷静になんてなれるか!

 

「うるせぇ!いいから道をあけろぉ!!」

 

ヴィヴィオが連れてかれてしまう。大切な娘が俺の手からこぼれ落ちてしまう。いやだ、そんなのは嫌だ。分析も、深い思考も出来ない、早くヴィヴィオを救い出したいという気持ちがすぐに俺の体全身に広がって行動を起こす。切っ先は不安定なれど、その斬撃には絶対に救うという想いを込めて。

 

「あけさせてみろぉ!」

 

刀と刀の応酬。火花散る2人の瞳には怒りの炎と底の見えない闇が灯っていた。

 

 

 

 

 

………………………………。

 

 

 

 

 

「ほっほっほ、興味深い……」

 

とある場所。どこかの研究施設。巨大モニターに映し出された映像を見ながら白衣を着た老人が愉快そうに笑っていた。

 

「どこをほっつき歩いているかと思えば早速オリジナルと戦闘とは闇も血気盛んな奴だ……」

 

指先で魔力で構成されたキーボードを操作し、モニターを分割しそれぞれ別の映像に切り替える。1つは光と闇の戦い、1つは燃え盛る町々と逃げ惑う人々、1つはヴィヴィオを抱えて飛ぶ戦闘機人一行と様々だ。

 

「ジェイルも派手な事をする………久々にミッドチルダを観察してみればこんな面白い事になっていたとはなぁ」

 

くつくつと笑いながら老人は肩を揺らす。薄暗い部屋で1人笑う老人はどこか不気味であった。

その施設には様々な機材が置いてあるが異常な数のとある物が埋め尽くされている。

老人はゆっくりと歩を進めてそのとあるものの1つに近づき優しく撫でる。

 

「実験も順調に進んでいる……完成はそう遠くない……「S」計画は誰にも止められぬよ」

 

とあるもの……名を挙げるなら生体ポッドと言うものだろう、それが部屋の3分の2以上に埋め尽くされていてそれぞれに生気のない人の形をしたナニかが入れられている。

 

「ククク、そろそろ『レイン』も動く時かの………こちらも準備を進めておこう」

 

そう言って老人は部屋の奥へと歩き出す。一度立ち止まり、モニター流し見る。

 

「忌々しい神崎夫妻の息子よ………ワシを…このアーノルド・ジーマンを止められるかな?」

 

神崎賢伍が映し出された映像に向かってそう吐き捨て老人は部屋を出た。残ったのはモニターに映像の薄い明かりに照らされた大量の生体ポッドのみだった。

 

 

 

 

 

 

…………………。

 

 

 

 

 

「クソっ!クソォ!どけ、どきやがれこの野郎!!」

 

ただがむしゃらに闇に向かって刀を振るう、いわば突撃。距離が離れれば考えなしに突っ込み斬りかかる。とにかくこいつを早く倒さねばヴィヴィオを救い出せなくなる、既に時間はそれなりに経過している、これ以上は本当にマズイ。

 

「ふん!つまらねぇなぁ……その状態じゃ最初お前と刀を交えた時の方がまだマシだぞ?」

 

鼻でつまらなそうに笑いながら俺の刀を簡単にいなし一太刀浴びせてくる。

 

「ちっ!」

 

肩を少し掠めたがギリギリ回避、いつもなら距離を取る場面だが構わず俺は刀を再び振るった。

 

「つまんねぇって言ってんだろうがぁ!」

 

「がはっ!?」

 

しかし、それよりも早く奴の右膝が俺の鳩尾に入る。堪らずその場でうずくまり動けなくなる。

 

「はっ、こんな攻撃を許すとはな……頭に血を登らせて俺に勝てると思ってるのか?」

 

大きな隙が出来たはずだが、闇は追撃を行わず逆に少し距離を取った。しばらく戦闘を続けたが既に俺は重傷という怪我はないものの刀の生傷があちこちに出来ている。対する闇は目立った外傷はなかった。

 

「はぁ…はぁ……」

 

突撃ばっかり繰り返していたからか息も上がっている。闇の言う通りがむしゃらに戦って勝てる相手ではない。そんなことは分かっている。

しかし、どう律したくてもヴィヴィオの事が頭にちらつき正常な判断を阻害してくる。

 

『マスター……このままでは…』

 

「分かってるシャイニングハート……」

 

もうヴィヴィオを追いかけるのは難しい。既にシャイニングハートの探知可能エリアからは脱出されている。更に時間が経てばもう手遅れになるだろう。

 

「光の英雄ヨォ………今の貴様を相手するのはウンザリしてきた。しかし、ルーテシアに近づけさせないのが俺の仕事だからなぁ……そろそろ終わりにしよう……」

 

そう言うと闇は高度を上げて俺を見下ろす形に位置取った。

 

「安心しろ、殺しはしない………しかし瀕死になるかもしれんがな」

 

闇は真っ黒な刀の切っ先を俺に向け、ブツブツと何かを呟く。すると大気が揺れるような感覚を覚える。ドス黒い何かがその切っ先に大気を揺らしながら集まっている。

 

「収束砲撃……」

 

シャイニングブレイカーの対となる魔法。バレットも奴は発動できた、ならブレイカーだって使えるのは不思議じゃない。

だが重苦しく感じる魔力が俺の背筋を凍らせる。あんなのをまともに受けたら死ぬ未来しか浮かばない。

 

 

 

それはダメだ。死んだらヴィヴィオを助けれない。死ななくてもあれを受けて助けに行けるような状態を保てるなんて思えない。あれは、あの砲撃は何とか防がねばならない。

避けるのもダメだ、寧ろ避けれない。防ぐのだ、耐えるのだ。いや、かき消せ!

 

「ダークネスブレイカー!!」

 

高密度の闇の魔力を帯びた暗黒の砲撃が迫る。迫る、体が動けない。震えるほどの恐怖が身を包む。奴に恐れをなしたのではない、ヴィヴィオがいなくなる恐怖を想像した故。

 

 

 

 

………あなたの力はこんなものではないでしょう?

 

 

 

 

ふと懐かしさを感じる声が頭に響く。誰の声だろう、そんな疑問すら浮かばないほど俺にとって落ち着く響きだった。

 

 

 

「…………それは全てを照らす光」

 

口が勝手に言葉を紡いでいた。先程の声に導かれるように、呪文を唱える。使ったことは一度もない、効能も効果も知っている。しかし、使わなかった。代償があるとかそういう理由じゃない、ただ何故だろう………あまり安易に使ってはダメのような気がして使えなかった。

けど、今はそれを感じない………寧ろ使うべきだと。今こそ解き放つ時だと魂が叫んでいる。

 

「一切の邪悪を許さず、希望と平和の未来の礎となるが為………光と共に羽ばたかん!」

 

突然だが、闇と初めて対峙した時の事を覚えているだろうか?なのは達が俺を見つけて、俺と闇が分離する事となった全ての始まり。

あの時の奴の背中には黒い翼が生えていた。厳密に言うならばあれは生えているのではなく高密度の魔力体が翼の形を有しているだけなのだ。

 

あれ以降、闇はその翼を俺に見せた事はない。今まで一度もだ。あれはただの飾りじゃない。そう安易に使うものじゃない。闇もそれを感じているのだろう。だからあれ以降使わなかったのだ。そして闇も使えるその魔法、切り札となるその魔法。俺が使えないわけがない。

 

「光魔力展開!………『シャイニングウィング』発動!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、辺りは光に包まれる。その光は六課に燃え盛る町にヴィヴィオを連れ去るルーテシアの元まで届いた。暖かい、心地の良い光。それを浴びた人々は一瞬そんな感情を抱いた。

 

「ハッハハハッハハハハハ!!!そうか!貴様もついに使うか!それを!!ようやくだ、待ちわびたぞ我が光よ!!」

 

闇は笑う。目的は達成したと笑う。今まで1番心底嬉しいそうな声音で笑っていた。

そして、闇の砲撃はその光に包まれるように一切消えていた。何の音も衝撃もなく消えた。

 

「俺は光だ。光の英雄、神崎賢伍……」

 

光の高密度の翼が出現している。変化はそれだけ、翼としての役割などあるわけなくただそこにあるだけだ。しかし、それを目前にしている闇はわかる。それだけではない、全てが変わった。強さも、輝きも……。

 

「光の英雄は………伊達じゃねぇぞぉ!!」

 

その力こそ光の英雄と呼ばれる由縁。闇を祓い希望を掴み取る為の力。

 

 

 

全てを救う為に闘い続ける神崎賢伍の力だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ハイというわけでお久しぶりでございます。

相変わらず稚拙で雑な文ですが温かい目で見てくれるとありがたいです。

エたる作者の作品なんか見れるかっ!と思われるかもしれませんが、メールでの催促や続投を希望してくれるメッセージが励みになりなんとか続けれました。ペースを戻せるよう頑張りますんで、これまでの読者様、そして新しい読者様、よろしくお願いします

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。