IS -黄金の獣が歩く道-   作:屑霧島

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修正しましたので、投稿します。
よろしくお願いします。

屑霧島


ChapterⅩⅠ

一夏とシャルルはアリーナ内の廊下をあるき、観客席に向かっていた。

セシリアへの激励が終わり、試合を観戦するためだ。

だが、二人は観客席に行くことが出来なかった。

 

「何…これ?」

 

なぜなら、シャルルは体を停止させられてしまったからだ。

顔は動くのだが、四肢が全く動かない。声は出るが、大声は出ない。

まるで縄で縛られ、磔にされたかのような錯覚にとらわれる。

どうやら、シャルルだけではないらしく、隣に居た一夏も動かないらしい。

あの怪力の一夏が動けない様を見て、シャルルは現状がかなり危険であると確信した。ISを展開させようとするのだが、ISは全く反応してくれない。

これはどういうこと?シャルルは焦っていると声をかけられた。

 

「初めまして、いきなりで悪いけど、自己紹介させてもらうね。私は夜都賀波岐の一人、マレウスよ。こっちはバビロン。よろしくね。織斑一夏君にシャルル・デュノア君♪」

 

自分たちの目の前に、二人の女性が立っていた。

マレウスと名乗った女性は自分より少し身長の低い赤毛で、青色の瞳の少女である。パッと見では、どこにでも居そうな女の子のように見える。

だが、このIS学園という異質な空間の中、軍服に身を包んでいる。

それだけで、このどこにでも居そうな少女が異質な魔女に見えてしまう。

バビロンは藍色の髪をして長身の女性なのだが、こちらも同じ理由から異質に見える。

 

「貴方たち、誰ですか?」

「誰って、マレウスよ?こっちはバビロンって紹介したでしょ?」

「外部の人は警備のため、警備員が付いているか、特別観客席に居るはずです。となれば、貴方たちは不法侵入者ですよね。でも、普通の人なら高度な警備がされているIS学園に侵入できるはずがありません。…もう一度聞きます。貴方たちは何者ですか?」

「でもね。夜都賀波岐のマレウスとバビロン以外に答えられないのよね。本名は別にあるし、他にも色々答えられることがあるんだけど、言っちゃダメーっていうのが私たちの大将の方針だから。ごめんね」

 

シャルルは敵意を向けながら、強気に質問するが、マレウスに軽くあしらわれてしまった。

 

「さっそくで悪いんだけど、そのIS、お姉さんに頂戴な♪…まあ、頷いたとしても、頷かなかったとしても、君たちが男なのにどうしてISを動かせるのか私たちの大将は知りたがっているから、連れて行くのは決定しているのよね。だから、答えても答えなくても、君たちがたどる道と結果は一緒なんだけどね♪」

 

マレウスはシャルルの体を弄り始めた。

 

「まぁ、連れて行く前に、ちょっと味見させてもらうね。私としてはシャルル君が好みかな?一夏君も悪くは無いんだけどね」

 

最初にマレウスが行ったことはシャルルの指を触ることだった。そこから指を絡ませ、マレウスはシャルルの体の感触を楽しんでいる。シャルルは抵抗を試みるが、体がまったく動かないため、反抗出来ない。

更に、マレウスは手を動かし、全身撫で始めた。

まるでかわいい人形を手に入れた少女が撫でているかのように。

 

「あら?貴方、もしかして?」

 

マレウスは更にベタベタとシャルルの体を撫でまわす。

体の隅から隅まで余すことなく、両の手で。特に胸と股間を執拗なまでに触る。

 

「……女ね」

「本当?マレウス?」

「えぇ。股間にアレがなかったわ。シュライバーみたいに引き千切られたのならって、最初は納得したのだけど、胸にはさらし撒いているみたいで妙に触り心地悪かったもの。まあ、シャルル君が女だったら、ISを操縦できるのも納得いくわね」

「!」

「それで、君はシャルルって名乗っているから、本名は…シャルロットかしら?」

「……」

「図星なようね。シャルロットちゃん」

 

まるで、鬼の首を取ったかのようにマレウスは得意げに言う。

一方のシャルルは隠していた秘密が一夏の前でばらされて青ざめている。

第二の男のIS操縦者ではなく、男装した女のIS操縦者というのがシャルロット・デュノアの真実だった。

 

「ま、女でも楽しみ方はあるから、別に構わないわ」

 

マレウスは少々上機嫌な感じなのか声が弾んでいる。

マレウスのサディスティックな言葉を聞いたシャルロットは我に返る。

一夏への謝罪や弁明などは逃げた後にする。今は逃げることを考えることが先決だ。シャルロットは必死にこの状況からの打開策を考える。だが、何も思いつかない。それでもなお冷静に考えなければならない。

 

「シャルロットちゃん、此処から逃げる方法考えているようだけど、無理よ。私の影を踏んだら最後、私が影をひっこめるまで、動けないのよ。だから、ここから如何にかして逃げ出そうなんて、無理な話、諦めなさい。その状態から逃げられるとしたら、あの五人くらいね」

 

マレウスの言葉を聞き、下を見ると、影が自分の足元に来ていた。

どこか影は不自然だとシャルルは思った。なぜなら、この廊下の明かりは天井の蛍光灯のみ、であるならば、影はその人物の真下にしかできないはずである。にも拘らず、影はまるで夕日の時のように伸びている。しかも、マレウスから延びる影は彼女の形をしていなかった。故に、マレウスの言っていることが間違っていると証明できる要素がない。

 

シャルルは本気で焦り出した。

でも、せめて一夏だけでも逃がしてあげたい。一夏に嘘をついていたという罪滅ぼしのために。シャルルは目を動かし、一夏の方を見る。

一夏を見たシャルロットは理解できなかった。

なぜなら、一夏は…

 

笑っていた。

 

「くっくっくっくっくっく」

「あらあら、どうしたの?バビロンの胸が大きすぎて頭可笑しくなっちゃった?」

「どうして私の胸なのよ、マレウス」

「えぇー?だって、そうでしょ?男の子は溢れんばかりの母性の象徴にむしゃぶりつきたい生き物なのよ。でもね、私が拘束しちゃっているものだから、バビロンに襲い掛かれなくて、発狂しちゃったのよ。ほら、自慰とかしてても、いけなかったら気分悪いでしょ?」

「本当にそうかしら?」

 

マレウスとバビロンが話をしていると、突如、アリーナ内で警報が鳴りだした。

それと同時に、今現在行われているセシリアと鈴の試合は中止、観客席に居る生徒は退避するようにと、アリーナ全体に避難の放送が流れる。どうやら、IS学園のアリーナにマレウスやバビロン以外の侵入者が現れたらしい。

 

「やっと来たわね。ほんと遅いのよ」

 

この事態をマレウスもバビロンは知っていたらしいが、予定より遅かったのか、文句を垂れている。一夏は笑うのを止め、そんなマレウスとバビロンに問いを投げかけた。

 

「卿らはまだ気づかないのか?私が誰であったのか?」

「誰って…織斑一夏でしょ」

「……そうか。あれより百年も経ち、私自身姿を変えていれば、私より離反した卿らには分からぬか。マレウスにバビロンよ。」

「貴方、……何を言っているの?」

 

私より離反した?……何を言っている、織斑一夏。いったい、お前は誰だと。

 

「『その男は墓に住み  あらゆる者も  あらゆる鎖も

  あらゆる総てをもってしても繋ぎ止めることが出来ない』」

 

一夏の瞳は青色から黄金に変色し、同時に、短かった黒髪も長い金髪へと変わる。

この世の黄金率を体現した黄金の獣がそこに居た。

同時に、一夏の体から息が出来なくなるほどの圧倒的ともいえる存在感が流れ出る。彼を中心に津波が押し寄せてくるような感覚にマレウスとバビロンとシャルロットは襲われる。

マレウスとバビロンはこの感覚を知っている。

1939年12月24日、ドイツ、ベルリン。

この感覚を初めて味わった時のことを、彼女らは忘れたことはない。

地獄への第一歩を踏んでしまった瞬間であり、忘れ去ってしまいたい時なのだから。

 

「…ハイドリヒ卿」

「マレウス、逃げるわよ!」

「『彼は縛鎖を千切り  枷を壊し  狂い泣き叫ぶ墓の主

  この世のありとあらゆるモノ総て  彼を抑える力を持たない』」

 

バビロンはマレウスの体から延びる影に飛び込み、逃走を図る。

だが、飛び込む直前で影に亀裂が入り、その亀裂は次第に大きくなり、ヒビは影全体に広がり、一夏の存在感により砕け散った。

シャルロットがどうあがいても抜け出せなかったあの影がいとも簡単にだ。

それと同時に、マレウスのこめかみから血が溢れ出る。

これにより、バビロンの逃走は失敗に終わる。

 

「『ゆえ神は問われた  貴様は何者か

  愚問なり  無知蒙昧  知らぬなら答えよう』」

 

ハイドリヒ化した一夏は電光石火のような速さでマレウスに接近する。何故こんなところにハイドリヒ卿が居るのかと唖然とし、流血で視界を失っていたため、マレウスは一夏の接近を許してしまう。回避しようと思った時には一夏はマレウスの目の前に居た。

一夏はマレウスの鳩尾に向けて、左拳を突き出した。

マレウスはまるでボールのように飛び、アリーナの廊下の壁に衝突し、固い素材でできたはずの壁を陥没させると、床に倒れ込み、咳き込む。

あまりの衝撃で正常な呼吸ができなくなり、激痛で体が動かない。

 

「カイン!」

 

バビロンの背後から突如巨人が現れた。動く死体トバルカインが黒円卓の聖槍を振るい、マレウスにとどめを刺そうとする一夏を止めようと試みる。

一夏はマレウスを相手にしていたため、背中ががら空きだった。

倒すことが出来なくとも、怯ませ、逃げる隙間を作れたら良い。

その間にマレウスと離脱すればいい。目的は果たせないが、仕方ない。

 

「やらせないよ!」

 

影から解放されたシャルロットは一夏から流れ出る気迫に息苦しさを感じ、悶絶しながらISを展開する。それと同時に、サブマシンガンを手にし、カインに向け、一夏の援護射撃をする。カインはまともに食らい体勢を崩したがために、攻撃は空振りに終わった。

一夏は目の前の二人と面識があるとシャルロットは分かり、一夏が何者であるのか不安に思ったが、一夏が何者であれ、彼は自分の友人だ。助けるに理由としては十分すぎる。

 

「『我が名はレギオン』」

 

突如一夏の左手に一本の槍が現れる。

ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒの聖遺物である聖約・運命の神槍(ロンギヌスランゼ・テスタメント)だった。

彼の者を貫いた槍にふさわしい神々しさをその槍は放つ。

 

「『創造  至高天―黄金冠す第五宇宙』」

 

ゾーネンキントも居ないうえに、スワスチカも開いていない、黄金錬成の五色が揃っていない、さらに聖餐杯でない状態で、一夏は己の創造を使う。

故に、ヴェヴェルスブルグの城門は大きく開かない。グラズヘイムの大軍も大隊長であるシュライバーとザミエルを呼び寄せることは出来ない。

ヴェヴェルスブルグの門を通られるのは一般的な兵であればせいぜい数百人、もしくは騎士団の団員一人である。だが、一般的な兵の容姿は髑髏であるため、見てくれが悪く、騎士団の先駆けに相応しくない。

故に、此処に来るに最も適した人物は白貌の吸血鬼のみだ。

 

「これで向こう側も大丈夫であろう」

 

 

 

「あーぁ、真昼間に呼び出しとはあの人も無茶苦茶な命令をしてくれる。おかげで最初から創造を使うはめになっちまった。つーても、一番槍が欲しくば降りてこいなんてあの人に言われたら、誰だって降りてくるに決まってんだろうがよ。…ま、これがどういう状況か知らねぇし、アレが何なのか知らねぇが、あの人が俺を呼んだんだ。とりあえず、全部殺しときゃいいだろう。万事解決だろう」

 

立ち上がった白貌の男は余裕の表情で首を鳴らす。

セシリアと鈴はこの男が何者で、何を言っているのか、何をしたのか、どうやって現れたのか全く理解できなかったが、現状の元凶がこの男にあるということだけは分かった。

突然現れた夜。降ってきた大量の赤黒い杭。しかもこの状況で飛び込んできた軍服の部外者。元凶と判断するのは容易だった。

 

「聖槍十三騎士団・黒円卓・第四位、ヴィルヘルム=エーレンブルグ・カズィクル=ベイだ。んで、てめえら何者だ?名乗れよ。まさか、戦の作法も知らねえわけじゃねえよな?」

 

素手で三機のISの前に立つとは正気なのか?と常人なら思うだろう。

だが、セシリアと鈴はこの男が只者ではないとすぐに分かった。

男から血の匂いを彷彿とさせる死臭が漂っていたからだ。

では、いったいこの男は何者なのかと問われれば、答えがなかなか出てこない。無差別殺人者か?と質問されたら、二人は間違いなく首を横に振るだろう。なぜなら、彼の放つ死臭は常軌を逸し、人外の物であり、獣と成り果てていたからである。

では、彼はいったい何だ?と三度目の質問を二人にしたとしよう。すると、二人は間違いなく、すぐに迷わずこう答えるだろう。

夜とカズィクル=ベイ(串刺し公)という名前を聞けば誰もが分かるだろう。

 

夜の化け物……吸血鬼だと。

 

吸血鬼を前にした二人は史上最強兵器ISを身に纏ってもなお安心できなかった。

それほど、ヴィルヘルムの出す獣性は強烈だったのだ。故に、吸血鬼にISは効くのかと二人は疑ってしまう。それを知る術を二人は持っていなかったが、逃げるわけにはいかない。ここで止めなければ、IS学園が血の海と化してしまう。教師部隊が来ればなんとかなるのかもしれない。故に、二人が取った行動は刺激せずに、時間を稼ぐことである。

 

「イギリス代表候補生、セシリア=オルコットですわ」

「中国代表候補生、凰 鈴音よ」

「は!西と東の戦勝国様か。んで……そっちは?」

 

襲撃者は何も言わずにヴィルヘルムに向けて砲撃を行った。

襲撃者の放ったビームはアリーナの遮断シールドやグラウンドや壁を抉った。

常人なら回避する余裕すらなく、喰らえば跡形も残らない猛攻。故に、モニターからアリーナの様子を見ていた誰もがヴィルヘルムは死んだと思った。だが、セシリアと鈴は違った。まだ獣の匂いが消えていないからである。

 

「おいおい、名乗れと言ったはずだぜ。だが……十分楽しめそうだな。形成のマレウスといい勝負するだろうよ。ってなわけで、まずは…テメェだ」

 

ヴィルヘルムは無傷のまま黒煙と砂塵を突っ切り、飛び出してきた。人間ではありえない速度で地を走り、襲撃者に近づくと、跳躍した。襲撃者は始末したと思っていたため、防御を取ることが出来ない。無防備な襲撃者の顔面にヴィルヘルムは膝蹴りを入れた。

まるで大型トラックに衝突されたかのような衝撃をまともに受けた襲撃者はよろめく。襲撃者は体勢を崩しながらも、拳を振るい、ヴィルヘルムを払い除けようとする。空中に居たヴィルヘルムはこれを避けることが出来ず、襲撃者の拳を受けた。

だが、ヴィルヘルムは笑っていた。なぜなら、襲撃者の攻撃を、体から生える赤黒い杭で防いだからだ。しかも、この杭による防御は単なるガードではなかった。杭の先を襲撃者の拳に向けることで、襲撃者の拳を貫通させ、破壊した。

ヴィルヘルムは襲撃者の拳に刺さった杭を体から切り離し、地に足を付けると、襲撃者の腕を掴み、背負い投げをし、地面に叩きつけた。

 

「舐めてんのか?倒す気あんのか?ヤレルと思ってんのか?ちっとは気張れや!あぁん!」

 

異質な人間がISを蹂躙する常軌を逸した光景を遠くから見ていたセシリアと鈴は戸惑いを隠せない。人体から杭など生えるはずもないし、ISと同等の速度で人間が走れるはずがないし、ISの攻撃を生身の人間が避けられるはずがない。

そんな常軌を逸した吸血鬼が襲撃者のISのシールドエネルギーの残量を奪っていく。

 

「何よ、アイツ人間じゃない。本当に吸血鬼なの?何もかもが出鱈目すぎるわ」

「…鈴さん……ご自分のシールドエネルギーをご覧になってください」

「どうしたのよ…って、なにこれ?」

 

鈴は甲龍のシールドエネルギーの残量を見て、驚いた。

シールドエネルギーの残量が徐々に減少していっている。減少する速度は大したことがないのだが、長期戦になれば、減少する量が圧倒的な量になり、自分たちは更に不利になっていく。事実、ヴィルヘルムが現れてから、三分の二にまで減っている。

 

「これもアイツの仕業ね」

「おそらくはそうかと思われますわ。ヴィルヘルムと名乗ったあの暴れてる男性が来るまでは、こんなことが無かったのですから。鈴さん、このままあの戦いの決着がつくまで、私たちは待機しません?」

「どうして?今あの戦いに横槍を入れれば、二対一対一の混戦になって時間を稼げるかもしれないわよ?」

「ですが、その場合、一対一の掛ける二になれば、ヴィルヘルムと当たった方が真っ先にやられますわ。私たち、二人が掛かりでようやくあのISと相手できたのに、そのISを一人で圧倒している相手に一人で戦うのは建設的ではありませんわ」

「なるほど」

「それに……」

「それに?何よ」

「戦う前に名乗りを上げたのだから、それは騎士の決闘ですわ。要らない横槍を入れて、妨害しては英国淑女の名折れですわ」

「騎士道精神ね……よくわかんないけど、セシリアの言い分には一理あるわ」

 

セシリアと鈴は注意しながら、ヴィルヘルムと襲撃者の戦いを見ていた。

二人の戦いは戦いと呼べるものではなかった。なぜなら、戦いとは双方の戦力がある程度均衡に近くなければ、成立しないものだからである。故に、これはヴィルヘルムが一方的に襲撃者を蹂躙していく殺戮ショーだった。

ヴィルヘルムは徒手空拳と杭を使い、襲撃者を殴り、蹴り、投げ飛ばし、叩きつけ、踏みつけ、杭を放ち、串刺していく。襲撃者はこれに対し、砲撃と格闘で対抗を試みるが、全て防がれるか、回避され、反撃にあう。襲撃者はヴィルヘルムに攻撃されるたびに、シールドエネルギーの残量を減らし、装甲が削れ、砲口が破壊されていく。さらに、襲撃者のシールドエネルギーをヴィルヘルムは奪っているため、時間が経てば経つほど、襲撃者は窮地に追い込まれていく。

さきほどまで、自分たちが苦戦していた相手が圧倒的に押されている。

 

「はぁ、興ざめだわ。威力はシュピーネを越えてはいるが、馬鹿の一つ覚えみたいに撃つと殴るしかしねたぁ。テメェはそれ以下だ……もう、終わりにしようや」

 

ヴィルヘルムは勝利宣言をすると、襲撃者に向かって走り出し、体中に無数の杭を生やしていく。結果、ヴィルヘルムの体は杭に埋もれ、目以外に露出しているところが無くなってしまった。ヤマアラシのような姿をしたヴィルヘルムは襲撃者に向けて特攻する。

体当たりすることで、全身の杭で襲撃者を串刺しにするつもりだ。

襲撃者はヴィルヘルムを迎撃しようと、砲撃と回避を試みる。だが、アリーナのグラウンドから突如大量の杭が生え襲撃者の四肢を串刺しにしたことで、襲撃者は全ての行動を封じられてしまった。襲撃者に出来ることは死を待つことだけだった。

 

「オラァ!行くぜ!」

 

ヴィルヘルムは咆哮しながら、襲撃者に体当たりする。

四肢が破壊された状態で真正面からヴィルヘルムの体当たりを喰らった襲撃者はアリーナの壁際まで押されてしまう。全身が貫かれた結果、シールドエネルギーは底をつき、装甲の半分は崩れ、形を保っているのがやっとの状態だ。

そんな風前の灯の襲撃者に止めを刺すかのように、ヴィルヘルムと襲撃者付近のグラウンドとアリーナの壁から大量の杭が飛出し、襲撃者を貫く。

ISに乗っている操縦者の命は助からないだろう。

 

「Auf Wiederseh´n」

 

最後に、ヴィルヘルムはグラウンドを蹴ると、巨大な杭がグラウンドから生え、襲撃者を下から貫いた。襲撃者はこの衝撃に耐えきれず、装甲が木端微塵となり、粉塵と化した。アリーナの宙を襲撃者のISの破片が飛び散る。

 

「さて、次はテメェらだ」

 

ヴィルヘルムはセシリアと鈴に向かってゆっくり歩き出す。一方の二人は武器を構えた。そんな時だった。

 

ピリリリリピリリリリ

 

携帯電話の着信音がアリーナに木霊する。

セシリアと鈴はISの試合中であったため携帯電話を持っていない。故に、この着信を発している携帯電話の持ち主がヴィルヘルムであることはすぐに分かった。

ヴィルヘルムはポケットから80年前から生産されていないガラパゴス携帯電話を取り出すと、通話ボタンを押した。

 

「あー、もしもし……………マジですか…いやぁ、異論はないんですがね……俺としては獲物を前に撤退ってのは少々消化不良と言いますか…あぁ、っつーても、俺は命令に従わない頭にカビの湧いた蛆虫とは違うんでね。従いますよ。……Jawohl ,Mein Herr」

 

ヴィルヘルムはそう言うと、携帯電話の電源ボタンを押す。

 

「上からの命令でな、撤退だ。だから、勝負は持越しだ。期待外れになってくれんなよ」

 

ヴィルヘルムはそう言うと、足の裏から杭を生やし、上昇していくと、襲撃者が空けたアリーナにシールドの穴から出て行った。

その後、教師部隊がヴィルヘルムの捜索を行ったが、発見できなかった。 


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