IS -黄金の獣が歩く道-   作:屑霧島

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ChapterⅩⅩⅢ:

綾瀬香純という少女はある時まで何処にでもいる凡人であった。趣味は剣道で、高校では剣道部の部長をしていた。料理はそれなりに出来るので、毎朝、幼馴染の部屋に作りに言っていた。変わっているところがあるとすれば、二つぐらい。一つ目は父親と死別していることであり、二つ目はコミ障の幼馴染”藤井蓮”とバイク好きの幼馴染”遊佐司狼”の二人がいることであった。

だが、平凡な彼女の日常は崩れる。

 

聖槍十三騎士団による諏訪原市での黄金錬成。

 

彼女と友人たちはそれに巻き込まれ、様々な物を失った。だが、世界の理は無限の回帰より脱却し、万人に優しい世界へと変貌した。幼馴染や友人は女神を守るための守護者となった。人であった自分も幼馴染と一緒に黄昏の浜辺に居たい。非日常へと足を踏み入れた友人たちの日常の象徴になりたい。そんな願いから自分も人の領域から外れた。ある刀を聖遺物として、体にエイヴィヒカイトという術を聖槍十三騎士団黒円卓の副首領に埋め込んでもらったのだ。

こうして、彼女は百年間友人たちと共に平凡に過ごした。

しかし、今香純は黄昏の浜辺に居ない。何故なら、先日幼馴染と些細なことで喧嘩をしてしまい黄昏の浜辺に居ずらくなってしまった。どうやって、和解しようかと悩んでいるときに、曾祖父から電話があった。要件はよく分からないが、とりあえずこっちに来いとのことらしい。香純は曾祖父に会うべく、現代日本に一週間前に来た。

曾祖父に会うまで時間はあったが、この時代の常識に慣れておく必要があったからだ。だが、100年という月日が流れようとも、その国の人間の慣習は細かいところは変化しても、根本的なものは変化しない。故に、香純がこの時代の社会に溶け込むことはさほど難しいことではなかった。

 

「100年経てば、景色ぐらいは変わるよね」

 

曾祖父との待ち合わせの時間より早く、待ち合わせ場所に来た香純は軽い観光をしていた。

嘗て来たことがある場所だったが、当時とは全く異なった姿をしていた。昔と変わっていないのは人と車の多さ、道路、それと歴史的建造物ぐらいだろう。香純は少し感傷に浸る。

だが、悲しむべきことではない。時代は進んでいく。何かが変わるのは当たり前なのだ。その証拠かどうか分からないが、以前より空気が良くなっている。技術発展によるものか、人が意識しはじめるようになったからなのか、理由は分からないが、良いことであるのに違いは無い。

 

「っと、もう時間だ」

 

楽しいときは時間の流れが早い。気が付けば、もう待ち合わせ時間の三分前になっていた。待ち合わせ場所からそう遠くない所に居るため、すぐに行けるが、少し早めについている方が良いと考え、小走りで待ち合わせ場所へと香純は向かった。

待ち合わせ場所の駅前のあるモニュメントの前に、写メで見た曾祖父が立っていた。

 

「やっほー、曾お祖父ちゃん、ひさしぶり」

 

香純は手を振りながら、曾祖父の方へ走っていく。

女子高生ぐらいの女の子が高校生ぐらいの男子に『曾お祖父ちゃん』と呼ぶのは少々シュールな光景であるが、周りの人間は一瞬振り向くだけで、すぐに興味を失った。

曾祖父は同じ年ぐらいの金髪の男の子と一緒に居た。風貌から見て、日本人ではなさそうだ。曾祖父と一緒に居ることから考えて、自分に会うと言っていた曾祖父の友人とは彼のことなのだろうと香純は推測する。

 

「えぇーっと、曾お祖父ちゃんの友達で良いのかな?」

「綾瀬香純さんですね!は!はじめまして、シャルロット・デュノアです!」

 

一夏の友人はかなり緊張しているらしい。妙に姿勢が良過ぎる。

香純はシャルロットの緊張をほぐすために、笑顔で対応する。香純の人物像がシャルロットの思っていたようなものでなかったため、シャルロットは一安心する。

 

「今日は天気が良く、気温は夏日並みになるらしい。このまま此処で立ち話というのは少々身に堪える。適当な喫茶店にでも入らんか」

「んー、一夏君、どこか、良い店知らない?」

「この近辺だと、サンバツクカフェが近い。卿等はそれで構わんか?」

「アタシは良いよ」

「僕も良いよ」

 

一夏は二人を連れて、近くのサンバツクカフェに入る。サンバツクカフェは全国展開している喫茶店であり、クロワッサンが美味しいことで人気がある。休日の昼間はいつも混雑する。一夏たちが入店したのが混み始める直前だったため、席に着けるのは早かった。一夏たちの席は店の奥の方で、誰かに話を聞かれる可能性の低い場所だ。此処でなら、シャルロットが女性であることや、聖槍十三騎士団について話しても問題ない。それに気が付いたシャルロットは香純に改めて自己紹介をし、自分が男装している理由と聖槍十三騎士団に席をおいていることについて軽く話した。

 

「へー、じゃあ、シャルロットちゃんは神父様の後任なんだ」

「神父様って、ヴァレリアン・トリファさんのことですか?」

「そうだよ。アレでも一応聖職者だったからね」

「一応?」

「えぇーっとね、頭は良いし、基本は優しい人なんだけど、優しさのベクトルがおかしかったり、奇行に走ったりするから……残念臭が」

「……そうなんですか」

 

香純は普通に話しかけているのだが、一夏の曾孫である所為か、シャルロットは相変わらず緊張している。まあ、すごく年上で初対面だから仕方がないのだが……。シャルロットを緊張から解放する方法を思いついた香純はシャルロットにあることを提案した。

 

「ねえ、シャルロットちゃん、アタシたち見た目年齢近いんだし、敬語使わなくていいよ。呼び方も“香純”って名前で呼んでくれた方が嬉しいな」

「確かに見た目だけで言えば、少し香純の方が年上に見える気がするぐらいで、大差ないように見える。実年齢は100年ほど離れているがな」

「む、曾お祖父ちゃん、女性の年齢について細かいこと言うなんてデリカシーがないよ」

「そうだよ。一夏」

 

香純とシャルロットは一夏を睨む。一夏が予想していた以上に早く二人の距離は縮められたようだ。その要因として、人当たりの良い香純の性格が大きいと一夏は考える。となれば、二人の距離を縮める計画は思った以上に可能性は低くないのかもしれない。

 

「ところで、曾お祖父ちゃんはどうして私に会いたいって電話してきたの?もしかして、黒円卓関係?」

 

一夏の頭の中で考えていたことについて、香純に尋ねられる。この件をシャルロットに一任しており、あくまで自分はシャルロットと香純の仲介人に過ぎないと香純に伝える。

 

「遠まわしに言ったところで結果は変わらないので、率直に言います。香純さん」

 

嘗てナチスの高官で今は黒円卓の首領である曾祖父は、部下の才能を見抜き、手綱を握り、指揮することに長けていることを香純は知っている。自分の目で見たことはないのだが、少し考えれば、分かる。曾祖父に才能が無かったのならば、あの戦闘集団をまとめることは出来なかっただろう。そんな一夏が首領代行としてシャルロットを置き、自分とのことを任せた。どうでも良いことならば、曾祖父本人が力技でなんとかするはずであり、このような話す場など設けるはずがない。となると、重要な案件なのだろう。

香純は一度大きく深呼吸し、身構えた。

 

「貴女には娘がいます」

 

香純はシャルロットの言っていることが理解できなかった。

 

「……ごめんね、聞き違いをしたのかもしれないからもう一回言ってくれるかな?」

「ですから、綾瀬香純さんに娘がいます」

 

香純は聞き違いでなかったことは認めたが、“娘”という言葉を理解することができなかった。香純は数十秒ほど呆然としていたが、その後突如高速で瞬きをし、グラスを持ち、水を飲んで落ち着こうとする。だが、動揺のあまり腕が震えてしまい、グラスから大量の水が零れる。コップの中の水が無くなったおかげで、香純はまったく水を飲むことが出来なかった。さらに、零れた水によって、喫茶店のテーブルに水たまりが無数にでき、服まで濡れてしまった。シャルロットは自分に何か話しかけているようだが、まったく頭に入ってこない。香純の頭の中で訳の分からない思考が繰り返される。

香純は混乱しながら思考に耽ってしまったため、息を吐くことを止めてしまう。結果、目の前が揺れ始め、倒れそうになる。

 

「ッツゥゥゥゥ!」

 

香純の額に強烈な鈍痛が走る。目の前には曾祖父の右手があり、中指の先が自分の額にあたっていた。どうやら、曾祖父は自分にデコピンをしたらしい。煉瓦すら貫きかねない一夏のデコピンの痛みに、香純は悶える。エイヴィヒカイトで強化された体であるにもかかわらず、この痛みだ。この体が普通の人間だったら、頭が吹っ飛んでいたか、首の骨が折れていただろう。香純は曾祖父のデコピンを受けた額を抑える。

 

「香純よ、息を吐け」

 

猛烈なデコピンを喰らい涙目になりながらも、香純は我に返る。

 

「事情を聴く前に、彼是考えても仕方なかろう?」

「そ…そうだね。シャルロットちゃん、アタシに娘ってどういうことかな?」

「実は……」

 

シャルロットは香純にラウラが試験管ベイビーであり、母方の遺伝子提供者が香純であることを説明した。そして、父方がベイ中尉であることも。

ドイツとはいえ、遺伝子バンクに自分やベイ中尉があることに疑問を感じた香純はシャルロットに尋ねる。あまり事情を把握していなかったシャルロットに代わって、シュピーネから尋問した一夏が香純に補足説明をする。嘗て聖槍十三騎士団の第十位であったシュピーネがこの世界に来て、レーベンスボルンの関係機関を牛耳り、彼がドイツ国家の立て直しという建前で彼の為による魔人の集団を作ろうとしており、その集団を作るのに、聖槍十三騎士団や夜都賀波岐の面々の細胞が使われた。

シャルロットと一夏から事情を聞かされた香純は自分の知らない間に自分の娘が出来たことに戸惑ってしまう。娘だから愛してあげたいのだが、お腹を痛めて産んだわけじゃないから、ラウラのことを自分は好きになれるかどうか心配だった。

そんな胸の内を香純は一夏とシャルロットに伝える。

 

「香純、心配することはない。卿が相手を愛したいと思っているのならば、卿の中でそれは好意に繋がるはずだ。そして、ラウラが母親である卿を求めている以上、拒絶は無いだろう。気に病むことはない」

「そ……うだよね。ありがとう、曾お祖父ちゃん」

 

香純は太陽のような温かみのある明るい笑みを浮かべる。香純の笑みを見て一夏はツァラトゥストラの永遠に続いてほしいと願った日常の原点がこの笑みなのだと理解した。

 

「香純さん、ボーデヴィッヒさんに会いたい?」

「うん、会いたいな」

「分かったよ。じゃあ、メールアドレスを教えてもらってもいいかな?裏工作をして、僕たちの関係が不自然でなくなるような状況を作り上げたら、連絡するよ。会って、自己紹介するなら、それから」

「裏工作?」

「今、僕たちが香純さんをボーデヴィッヒさんに会わせたら、ボーデヴィッヒさんは一夏と僕と香純さんの三人の関係を疑うかもしれない。シュピーネさんがこの件に関わっているということをボーデヴィッヒさんは知っているからね。最悪聖槍十三騎士団のことが公になって、一夏の立場が悪くなる恐れがある。だから、僕たちはFacenoteかなんかで知り合ったってことにしようと思っているんだ」

「なるほどね。分かった。曾お祖父ちゃんに迷惑かけたくないから良いよ。ちょっと前に、Facenoteに登録しているから、ちょうど良いし」

「本当?ちょっと前に、“綾瀬香純さんという人を探しています”というのを書いたから、数日後、この記事に書き込みをしてくれると助かるな」

「分かった」

 

香純とシャルロットはスマートフォンを弄り、facenoteの画面をお互いに見せ合いながら、今後の流れや綾瀬香純という人物像について話しあっている。二人の会話に耳を傾け、一夏は二人の言っていることに矛盾がないか探している。だが、一夏の心配は杞憂にすんだ。

シャルロットは今後の流れや香純の人物像の設定についてこの一週間で考え、ノートに記し彼女なりに矛盾点を探していた。更に、事実関係の構築が容易な人物像の設定を幾つも考えていた。人物像の設定を幾つも用意することで、香純が演じやすい人物像を選択できるようにしていた。難なくラウラに会うための段取りが決まったことで、香純は無理なくラウラに会えそうだと安心したとシャルロットに伝える。

 

「ありがとうね、シャルロットちゃん」

「え?」

「だって、曾お祖父ちゃんに言われてしたことかもしれないし、ラウラちゃんのためにやったのかもしれないけど、アタシの知らない間に出来ていたアタシの娘に会える為に色々してくれたんだもん。お礼を言うのは当たり前でしょ?」

「……」

「ちょ!え!シャルロットちゃん!」

 

香純は普通の感謝の言葉を口にしただけだったが、シャルロットの両目から滴が溢れる。シャルロットにとって香純の何気ない言葉は衝撃的であったからだ。周りに振り回され利用されシャルル・デュノアであることを強要され続けられた彼女は、母親以外の人間からシャルロット・デュノアという女の子として接することが無かった。

一夏も鈴やセシリアも、プライベートの時は自分のことをシャルロットとして扱ってくれるが、周りの目がある所為で、シャルロットでいれる時間は限られており、シャルルとして接する時がどうしても発生してしまう。これはIS学園にいる以上仕方がない。

だが、香純は人懐っこく、自分に対し敬語を止めてと言い、まるで友人のように接してくれる。そして、自分のことを一度もシャルルと呼ばずに、シャルロットと呼んでくれる。

シャルロットと呼んでくれるただそれだけでも彼女は嬉しかった。

 

自分が他人であることを完全に強要しない相手に対する感謝と、そんな相手と会えた感激。シャルロットはその二つの感情に歓喜していた。

母親が送ってくれた大事な名前を呼ばれることは普通であるかもしれないが、自分にとっては至高であった。僕は僕でありたい。他人になりたくない。普通の女の子でありたい。もっと多くの人に自分の名前を呼んでほしい。そして、本当の自分で、自分以外の人と触れあいたい。そんなシャルロットの渇望の一端は今香純の感謝の言葉によって叶えられた。

今の彼女に嬉し涙を止めることなどできるはずがない。

 

シャルロットは数分ほどむせび泣き続けた。

 

「ごめんね。一夏、香純さん」

「アタシは気にしていないよ。それに、シャルロットちゃんの置かれた状況が悪かっただけで、シャルロットちゃんが気に病むことはないよ。だから、謝らないで」

「私も香澄と同じく卿の謝罪など求めておらんよ」

「ありがとうね、二人とも」

 

シャルロットは涙を浮かべながら、二人に礼を言った。

 

「香純にシャルロットよ」

「ん?」「どうしたの?一夏?」

「この席が奥で目立ちにくいとはいえ、失神しかけたり、泣かれては注目が集まる。話している内容が他言無用な内容である以上、別のところで話した方が良い。移動せんか?」

 

香純とシャルロットは辺りを見回す。すると、サンバツクカフェに居た客たちは一斉に視線を一夏たちの席から外す。一夏の言うとおり、周りの客は自分たちを見ていたようだ。

一夏は周りの客を見ていないが、気配から注目を浴びていることに気が付いていたらしい。一夏自身はそういった周りの反応などに対し無関心であるが、此処に居る三人には事情があるため、話している内容を周りの人間に聞かれたくなかった。だが、人に見られることに慣れていないシャルロットと綾瀬にとっては、話の内容より注目されていることの方が苦手であり、この場から逃げ出したかった。

 

「うん、それに、買い物があるしね」

 

シャルロットは立ち上がり、シャルロットに続く形で香純も立ち上がる。一夏もカップに入っていたコーヒーを飲みきり、伝票を持って立ち上がる。香純とシャルロットは割り勘にしようと言うが、ベイが暗殺者を殺した際に巻き上げた金を、ベイから一夏は貰っていたため、香純やシャルロットより一夏は金を持っている。そのため、遠慮するなと言って、二人の財布をカバンの中に押し込める。

一夏たちは店から出て、近くのショッピングモールへと向かった。来週の臨海学校のための準備をするためにだ。ちなみに、香純もついてきている。どうせ此処で別れて、住込みで働いているバイト先に帰っても、部屋の掃除をするぐらいしかやることがない。それだったら、曾祖父と一緒に買い物をしている方が楽しい。

 

「ちょっと待って、一夏に香純さん」

「どうしたの?」

「このままスポーツ用品店行ったらまずいから、今は違う店行った方が良いよ」

「何か、あるのか?」

「ボーデヴィッヒさんたちがいる」

 

一夏たちがこれから行こうとしていたスポーツ用品店に向かって、一夏たちの前方十数m先に居た鈴、セシリア、ラウラの三人が歩いているのをシャルロットは発見した。臨海学校に向けて女子同士で買い物に行くと鈴が言っていたことを一夏とシャルロットは思い出す。このショッピングモールがIS学園から近いため、遭遇することは十分ある。香純は二人に何があったのか聞く。勘の鋭い香純に嘘をついてもすぐにばれる。それに、自分をシャルロットとしか呼ばない相手に嘘をつくのは気が引ける。そう考えたシャルロットは素直に香純に話すことにした。

 

「じゃあ、あの銀髪の女の子がアタシの娘ってことか」

「……はい」

「……会って話したいけど、仕方ないよね」

「近くでたまたま会話を耳にしている通行人を装って、話しかけられても自分の正体を明かさないんだったら、黒円卓に繋がる手掛かりが無いとから会いに行って良いよ」

「本当!ありがとう、シャルロットちゃん、じゃあ、行ってくるね」

 

香純はラウラたちが入店したスポーツ用品店に入っていった。

意気揚々と入店する香純を見たシャルロットには不安しかなかった。

香純は頭で考える前に思ったことをすぐに口に出すタイプである。故に、香純がすぐにラウラにボロを見せてしまいそうで怖かった。シャルロットはスポーツ用品店から離れた物陰に隠れると、ISの部分展開で志向性集音機だけを起動させ、香純とラウラを監視することにした。シャルロットと共に隠れた一夏も、母と娘の会話に興味があったため、シャルロットの拾った音声をISの機能で共有する。

一夏がISを部分展開すると、セシリア、鈴、ラウラの三人の声が聞こえてきた。

 

『ラウラ、アンタ、水着決まった?』

『私には学園指定の水着がある。今ここで水着を買う必要ない』

『ラウラさん、もしかして、あのスクール水着で臨海学校に行かれるのですか?』

『不味いのか?』

『アンタがそれで良いなら良いけど、じゃあ一夏はアタシが貰ったも同然ね』

『???……どういうことだ?』

『私は男性の知り合いが一夏さんしかいないので、よく分かりませんが、男性は女性の水着姿に魅かれるそうです』

『何故だ?』

『私が思うに、普段の服装より露出が多いことが関係しているのではないかと思います。ですので、少々色気に欠ける水着を着ては意中の男性に振り向いてもらえませんわ。それだけなら、まだ良いですが……最悪嫌われる場合も』

『水着姿で嫌われるのか?』

『えぇ、水着は布の面積が少ないため、センスが問われる服装ですわ。ですので、ミスマッチな水着を選べば、最悪のパターンもあり得るかと…』

『ならば、買っておかねば……だが、選択基準が私には分からない。……どうすれば?』

『私たちがラウラさんの水着選びを手伝ってあげますわ。鈴さんも宜しいですわね?』

『仕方ないわね。腑抜けたライバルに勝っても嬉しくないから、今回だけ手伝ってあげる。言っとくけど、今回だけよ!今回だけ!』

『これがツンデレか』

『アタシはツンデレじゃない!それでアタシの助けはいるの!いらないの!』

『あ…あぁ、では、頼む。セシリア、鈴』

 

その後、数十分ほど、ラウラたちはラウラの水着探しに奮闘するが、難航する。セシリアが店員の意見を聞こうと提案するが、店内に居る店員のほとんどがレジ打ちをしているか、接客をしているため手が離せないようだ。三人はどうしようかと途方に暮れていた。

 

『どうしました?お客様?』

 

店員のフリをした香純がラウラたちに声を掛けた。バイトで客の対応に慣れているのか言葉遣いが丁寧である。鈴は香純に『店員の名札が無いけど、アンタ店員なの?』と聞かれ、『今日はオフでたまたま店に寄っただけ』と説明した。香純の言葉に納得した三人は香純にラウラの水着について相談する。

 

『そうですね。お客様でしたら、こちらの黒のフリルビキニは如何でしょう?肌の白さを強調できますし、眼帯と色も一致していますから、自然な色使いだと思われます。それにお客様は綺麗系というより可愛い系ですので、アクセントとしてフリルは良いと思われます。ですので、可愛さをアピールするために、そちらのお客様のように髪を括ってみてはどうでしょう?』

『髪をか?だが、それでは妖怪キャラ被りになるとクラリッサが……』

『でしたら、髪留めを違うものにすれば、印象はガラリと変わります。私の見立てでは黒めの色の小さな花のついた髪留めか、普通の髪留め用のゴムでも良いと思われます』

『なるほどね。やっぱり店員に聞いて正解だったわね。アタシもそれが良いと思うわ』

『では、これにする』

『それでは、あちらのレジへどうぞ』

 

ラウラたちはレジの前の列に並ぶ。ラウラたちが香純から一瞬目を離した隙に、香純は店から離脱し一夏たちのところへ戻ってきた。向こうから小走りで走ってくる笑顔の香純を確認したシャルロットと一夏はISを待機モードにする。

 

「お待たせ、曾お祖父ちゃん、シャルロットちゃん」

「嬉しそうだね」

「そりゃあ、まあ、アタシの娘があんなに可愛いんだもん。曾お祖父ちゃんとシャルロットちゃんが許すなら、ラウラちゃんを抱きしめて、頬ずりして、頭撫でまわして、添寝したかったな」

「香純さん、僕と一夏の事情が片付けば、母親だと名乗れる機会を絶対に来ます。そして、その時はそんなに遠くありません」

「分かった。それまで楽しみに待ってるね」

「では、今度はベイのところに行くとするか」

「う……うん」

 

香純の返事は鈍い。何故なら、香純はベイに会う心の準備が出来ていなかった。

初恋の相手である蓮をボコった挙句、幼馴染の司狼を殺しかけた相手だ。たとえ、その出来事が100年前でも会うのに気が引けてしまうのは当然だろう。そのような出来事が無かったとしても、ベイの女受けしない脳筋バトルジャンキーな性格を知っている者ならば、ベイに会うことに躊躇う者がほとんどだろう。事実、新旧の黒円卓でベイを苦手としていない者は近衛の三人と双首領ぐらいである。

それを察したシャルロットは助け船を出す。

 

「一夏、僕らも買い物をしないと不味いから、香純さんとベイ中尉を合わせるのはまた今度にしない?」

「確かに、卿の言うとおりだな。私はどうやら此処に来た目的を忘れていたようだ。香純よ、ベイに会わせるのはまた今度で構わんか?」

「うん」

 

ラウラ達が店から出て行ったのを確認した一夏とシャルロットは店に入り、シャルロットが女であることがばれない様に、男物の競泳用の上半身まで隠せる水着を購入した。その後もラウラたちの行動に注意を払いながら、ショッピングモールで臨海学校に向けて買い物をした。




「やあやあ!久しぶりだね!ずっとずーーっと待ってたよ!うんうん。要件は分かっているよ。欲しいんだよね?君だけのオンリーワン、箒ちゃんの専用機が。モチロン用意しているよ。最高性能にして規格外仕様。その期待の名前は―――紅椿」

ピッ

「蓮タン、絶対に束さんは今の理を崩してみせるよ」

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