仮面ライダーディケイド ~The Darkness History~   作:萃夢想天

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どうも皆様、三月を過ぎれば時間が取れると言っていた萃夢想天です。

前回の本編の投稿時、エグゼイドがクライマックスを迎える直前でしたが、
気付けばビルドもクライマックスが迫りつつあります。どういうことなの。

さて前回は、怪我を押して現れた不死身のアクセルが、復活したトリガーを
華麗に圧倒したところで終わりましたね。作者、読み返してきました。
今回はアクセルが戦う数分前、残る最後のドーパントに士が連れ去られた
あたりから始まります。長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません。

これから時間を見つけ次第、少しずつ書いてでも長期更新停止をしないよう
心がけていきますので、どうぞ見守っていてください。

それでは、どうぞ!





Ep,38 『集結するG / 風の都の守り人』

 

 

 

 

 

 

風都タワー東側の展望台エリアにて、傷だらけの重体の身でありながら駆け付けたアクセルの活躍

により、超高度な狙撃能力を有するトリガー・ドーパントは撃破された。

 

ここで、アクセルが切り札であるトライアルを使用して勝負を決めようとする数分前へと遡る。

 

その頃、黄金色に輝くドーパントのしなる腕に抱かれた士は、タワー西側にある第二展望台へと

連れ去られていた。まるでターザンがするように、謎のドーパントはゴム製の鞭のように伸縮が

自在の腕を巧みに操り、タワーの外部にある落下を防ぐ為のフェンスを伝って空を舞っている。

 

敵に体の自由を封じられているというだけでも危機的状況であることに変わりはないのだが、

時折黄金色のドーパントが漏らす、「オイシソウダワァ」や「イイカラダシテルゥ」などの

独特の片言が、只事では済まされないと尋常ならざる危機感を士に抱かせた。

 

 

(このままじゃヤバイ………くそ、変身できれば)

 

 

アナコンダに巻き付かれたような状態の士は、思うように腕や指先を動かすことが出来ない。

どうにかして懐からディケイドに変身するドライバーを取り出し、装着しなくてはと考えは

するものの、身じろぎ一つも苦労する今の体勢ではどうしようもなく、成す術が無かった。

それでも機会を逃さぬよう、敵の動向を窺うべく抵抗を少しだけ緩めたその時。

 

 

「いた! そこだぁッ!」

 

『セッキョクテキィィ⁉』

 

 

下の階層の窓辺から赤い鎧の戦士クウガが跳び上がり、勢いそのままにドーパントへぶつかり

諸共に転倒する。その拍子に拘束が緩み、隙を見逃さなかった士が転がりつつ脱出した。

拘束から解き放たれた士はすぐさまドライバーを腰に装着し、見慣れたカードを右手に持って

表裏を切り替え、立ち上がろうと膝を着いた瞬間にベルトのバックルへと装填。機構を動かす。

 

 

「変身‼」

 

【KAMEN RIDE DECADE】

 

 

瞬間、士の周囲に異なる九つの仮面の紋章(ライダークレスト)が浮かび上がり、それらが人型の影となって士の

体と重なり強固な装甲と化す。直後に、仮面に長方形の板が突き刺さり、全身を染め上げる。

色褪せた返り血の如きマゼンタのボディに、淡く輝くライトグリーンの双眸が、門矢 士という

人間を世界の破壊者ディケイドへと作り変えた。完全なる戦闘態勢を整えた戦士がゆるりと立つ。

 

もはや癖となった両手を打ち鳴らす仕草を交えつつ、ディケイドは起き上がる異形と対峙する。

 

前に戦ったナスカやウェザー、メタルのドーパントたちとは明らかに違う、人間離れした外見。

試験管の底をひっくり返して被せたような黒い頭部に、肩から頭頂部へ向かって伸びる黒い角、

生物的とは言い難い、人工的な色合いをした黄金色の肉体に、伸縮自在の触手染みた両腕。

その怪腕をしならせながら体全体をくねくねと揺らして迫る姿は、異様の一言に尽きる。

 

文字通りに飛び入り参戦してきた赤い戦士と肩を並べる、マゼンタカラーの戦士の二人と相対した

不気味なドーパントは、腕を回しながら鞭のように床に叩きつけて先程と同様の奇声を発した。

 

 

『イケメン、デ、ツヨイ………キラ、イジャナイ、ワァ________キライジャナイワ‼』

 

 

会話の為の問いかけというより、言語の羅列といった方が当てはまるような意味不明な台詞を

どこにあるか分からない口から発しつつ、全身をぶるぶると揺すりながら異形が距離を詰める。

これまでとは毛色が違うタイプの敵に怯えるクウガを横目に、ディケイドは腰のライドブッカーを

ガンモードへと変形させ、不規則に動く標的に向けて正確無比な牽制射撃を連続で放つ。

ところが、ディケイドの射撃の全てが『ヌ~ル~ヌル~♪』という無性に神経を逆撫でする擬音と

ともに躱され、それに動揺した隙に接近を許してしまい、高速でしなる金の両腕に三度打たれた。

 

見た目以上の威力があるのか、吹き飛ばされたディケイドは展望台の上を無様に転がっていく。

その拍子に手から離れ落ちたブッカーガンを拾い上げたクウガは、すぐさま霊石アマダムの力を

解放し、ペガサスへと超変身。緑のクウガに与えられた超感覚を研ぎ澄ませ、異形を撃ち抜く。

クウガが姿を変えたことで手にしたブッカーガンも専用のペガサスボウガンへと変形しており、

凝縮した空気に封印の力を上乗せされた必中の魔弾は、違わずドーパントの胸部に直撃した。

 

 

『アァ………ヤッタワネェェ⁉』

 

 

あらゆる不浄を封じ込めるクウガの弾丸を受けたドーパントは、軟体動物を彷彿とさせるような

ぐにゃりとした動きで体勢を立て直し、狙いをディケイドから武器を持つクウガへと移す。

 

 

『トツゲキィィ~~‼』

 

 

人型の腕が無い為に上半身を丸ごと揺さぶるようなフォームで、何故かまともな人型の脚部は

少女漫画の女の子が似合いそうな内股の走り方になって、開いたクウガとの距離を詰める。

しかし敵の接近を許すはずもないクウガは、再び超感覚を発揮し敵の動きを先読みした射撃で

黄金色に輝くドーパントの肉体に、新たな銃創を幾つも刻み付けた。

 

緑のクウガ、射撃に特化したペガサスへと変わったクウガがドーパントの気を引いている間に

痛みをこらえて立ち上がったディケイドは、もたもたしてられない呟き、カードを手に取る。

変身した時と同じシークエンスでカードをバックルに装填、機構がそれを読み取り反映させた。

 

 

【KAMEN RIDE KABUTO】

 

 

色褪せた返り血の如きマゼンタの装甲は、カブトムシを連想させる強固な紅蓮の装甲へ換装され、

淡く輝くライトグリーンの双眸も、青い複眼状のものへ変わり、蒼天を貫く紅い角が直立する。

 

ディケイドのその姿は、神速の世界で唯一人、天の道を往く最高速の戦士カブトへ変貌を遂げた。

 

ドーパントの攻撃を受けた瞬間、ライドブッカーから抜き取っていたのだろうか。彼の手には

カブトの紋章が刻まれたカードがもう一枚収まっており、躊躇うことなくそれを追加で使用する。

 

 

【ATTACK RIDE CLOCK UP】

 

 

使用したのは【アタックライド・クロックアップ】、世界に流れる時間そのものを置き去りに、

時の流れのさらに先にある時間軸へと押し上げるその力は、カブト以外の全てが活動を停止する。

正確に言えば、止まっているのと変わりないほどの遅さになっている、と言うべきなのだが、

そんな事をわざわざ相手に教える男ではない。神速を超える速さで、異形を一方的に打ちのめす。

 

滞留する世界の中であっても、カブト以外の存在は通常の時間軸で戦っている。数万分の一という

途方もない遅さで放たれる援護射撃を眺めるカブトは、クウガの持つ弩銃をあっさり取り上げた。

 

 

「返せ、俺のだ」

 

 

言葉すら伝わらない速度の世界で悪態をついたカブトは、手にした瞬間に元の形に戻ったブッカー

ガンをライドブッカーへ変え、新たにカードを取り出し、今度はブッカーソードへ変形させる。

砲塔が斜め上を向き、そこへ沿うように刀身が伸びたブッカーソードを左手に持ち直してから、

モードチェンジする際に抜き取っていたカードをバックルへ押し込み、その力を発現させた。

 

 

【ATTACK RIDE SLASH】

 

 

新たに発動させたカードの効果により、刀身が淡く発光したかに見えた次の瞬間。スラリと伸びた

刀身がまばらにぼやけだし、やがてそれらは薄いマゼンタに輝く分裂した無数の刀身と化す。

先程使ったクロックアップの効果がもうすぐ切れることを体感時間で計算していたカブトは、

彼にとっては残り僅かの時間内で右手に持ち替えた剣を振るい、無尽蔵の斬撃を刻み込んだ。

 

 

【CLOCK OVER】

 

 

神速の時間が現実時間に追いつかれたアナウンスがその場の全員に行き届いたと鼓膜が知覚した

その時、カブトとは違い現実時間にいたままの黄金色の異形は金切り声を上げて無様に横転する。

ペガサスフォームの固有能力である超感覚で何が起きたかを理解できたクウガは、自分たち二人を

苦しめていた異形の優位性そのものと言える両腕が細切れにされているのを見て、確信に至った。

 

 

「いきなりボウガンが無くなったと思ったら敵は倒れてるし、メチャクチャだよホント」

 

「勝手に人の物盗っておいてよく言うぜ。助けてやったんだ、感謝くらいしたらどうだ?」

 

「俺のセリフだよそれ!」

 

 

形勢が一気に逆転したのを肌で感じたためか、風都があと数時間で壊滅してしまうか否かの

瀬戸際にもかかわらず、今までの旅の中で交してきたのと同じ軽口を叩き合う赤と緑の戦士二人。

とはいえ、これまで幾度も修羅場や死闘を生き抜いてきた猛者でもある二人は、黄金色に輝く

ドーパントが完全に倒れてはいない事に勘付いていた。戦士たちの複眼状の双眸が一箇所へ向く。

視線の先には両腕を細切れに切断されてもなお転げ回り、奇怪な片言を発する異形の姿が。

 

 

『キレチャッタァア~~~ン‼』

 

 

地団太を踏みながら、人間であれば肘がある辺りから先が無くなっている両腕をまじまじと見て

右往左往しているドーパントを見やり、真面目に戦うのが馬鹿らしく思えてきた戦士たち。

念の為にいつでも対応できるよう、奇声を発する異形を視界の片隅に置きながら、カブトへと

ライドしたディケイドは正面からクウガへと向き直り、別れたはずの彼がここにいる理由を問う。

 

 

「だいたいお前、なんで来たんだよ。フィリップと一緒に光線兵器のあるタワーの中枢に向かう

手筈だっただろうが。まさかそのフィリップに『邪魔だから来るな』とか言われたか?」

 

「うるさいな! それに、俺が駆け付けなかったら負けてただろ、士?」

 

 

自分が敵に攫われる前、風都タワーの最奥部に鎮座する巨大光線兵器の起動を阻止することを

第一目標として動き出したことを再確認したつもりだったが、自信満々なクウガの返答に黙する。

クウガの答えた通り、いくら拉致染みた奇襲とはいえ、それを回避なり迎撃なりを出来ずにただ

捕らえられた事実が、ディケイドから反論の余地を奪う。結果、子供じみた言い訳が口をついた。

 

 

「お前の力なんかなくても、別に」

 

 

普段の傲岸不遜振りは鳴りを潜めた言い方に気付いたクウガは、素直になれない不器用な奴め、

と内心で苦笑を浮かべつつも歩み寄り、頼れる相棒の普段とは違う紅蓮色の肩装甲を軽く小突く。

 

 

「ほらほら、とにかく今は言い争ってる場合じゃないだろ」

 

「お前に言われなくても分かってる」

 

「なぁ、こういう時こそ助け合うべきだろ? 仮面ライダーは」

 

「…………」

 

 

気心の知れた仲間の言葉に、その言葉が真に【ディケイド】という存在がこれまで巡ってきた

あらゆる世界から認められなかった事実を無視し、己自身が仲間である信頼の累積を見た。

どんな世界に辿り着いても、「門矢 士」は「世界の破壊者」でしかない現実、存在意義を全て

飲み込んだうえでのユウスケの言葉に、珍しく士は何も言い返せずに黙り込んでしまう。

 

今まで見たことのない相方の反応に戸惑っているクウガの視界の端で、身悶えていた黄金色の

異形がヌルリと立ち上がり、いつの間にか再生していた両腕を振り回し、叫び声を上げた。

 

 

『オッシャルトオリダワァァ~~~~ッ‼』

 

 

ひと際大きく体を揺すった後、勢いをつけて(何故か両腕を振り回したまま)かなりの速度で

突貫してくるその姿は、獲物を射程に収めた狩人か。あるいはハイテンションな両性類(ニューカマー)か。

一目見て分かる人間離れした上半身と人間に沿った下半身。アンバランスな構造のそれらは今、

少女漫画によくある「トーストを咥えて走る女子高生」と不気味なまでにマッチングしている。

 

場面に相応しくない奇妙な片言、触手染みた両腕という出で立ち、掴み所が一切ない雰囲気。

これら全てが目前の異形と相まって一層の不気味さを醸し出している。ともすれば狂気寸前だ。

そんな相手であっても冷静さを失わない戦士たちは、斬り飛ばしたはずの両腕が完璧に再生

されているのを見て、事前にフィリップから聞いていた特徴のメモリと一致すると気付いた。

 

 

「煌びやかなボディに伸縮自在の肉体、加えて再生能力となると」

 

「フィリップ君が言ってた、<幻想の記憶(ルナ・メモリ)>のドーパントじゃないか?」

 

「ルナ・ドーパントってことか。話の通りだとすると厄介だ、とっとと片付けるぞ」

 

 

過去の人類が抱いた神秘への情景が抽出されたメモリであるルナの再生能力は、どちらかと

言うと再生ではなく増殖や分裂の方が正しいのだが、腕が元に戻る現象には違いない。

地球が記録している記憶から生み出される力の幅広さを知らないディケイドたちに、

フィリップや翔太郎は敵の大まかなメモリの能力を伝えていた。

 

眼前にいるルナ・ドーパントは触手状の腕が変幻自在に動くだけではなく、神秘の具現化と

して下級のドーパント(ショッカー戦闘員のような量産型)である<仮面舞踏会の記憶(マスカレイド)>を

無数に召喚する力も有する。例え一体一体が非力でも、数を揃えられては足止めを食らう。

時間をかけるほどに不利になる今の状況下では、その能力を使われることは避けたかった。

 

迫りくる敵が如何に常識離れした走法で来ようとも、その程度で冷静さを失うような脆い

精神構造はしていない。多少の辟易があることは否定しようにもしきれないのだが。

 

 

『ブッットビィィイィ~~~ッ‼』

 

 

多少、いや、かなり堪えている二人は警戒しながらもやりきれない心情を溜息と共に溢し、

カブトへのライドを解除したディケイドと赤いマイティへと戻ったクウガは呼吸を合わせる。

ディケイドはライドブッカーから一枚の黄金に輝くカードを取り出してバックルへ装填、

クウガは腰を落として両手を大きく開き、そこから右足を後ろへ下げつつ力を収束させた。

 

 

【FINAL ATTACK RIDE DE,DE,DE,DECADE】

 

「やぁぁああぁあああッ‼」

 

「どぉぉぉりゃぁああああぁッ‼」

 

 

ドタドタと内股気味に突貫してくる相手との間合いを完璧に捉え、二人の戦士は同時に跳躍。

九つの次元の壁を潜り抜けるディケイドと、空中で一回転を加えて蹴撃を放つクウガの双方の

必殺たるライダーキックは、目標違わずルナ・ドーパントの胸部中央へ吸い寄せられていった。

 

瞬間的な多重次元の跳躍による爆発的な運動エネルギーと、悪しき存在を封殺せしめる超古代の

エネルギーが混ざり合い、ルナの体内で圧縮と膨張を繰り返したソレが臨界点を突破する。

波のように押し寄せる苦痛の中、一瞬の膨張の後に残ったのは閃光と爆音、そして断末魔。

 

 

『アアァァ…………ス・テ・キィィィイイィィ~~ッ‼』

 

 

いやに艶やかな悲鳴が残響と化し、<幻想の記憶(ルナ・メモリ)>は爆炎の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイドとクウガの二人がルナ・ドーパントを撃破する直前にまで、時は遡る。

 

士がルナ・ドーパントに連れ去られ、その隙を狙ってきたトリガー・ドーパントにクウガが

果敢に立ち向かっていった数分後。フィリップは独りで風都タワーを迷う事なく走破していった。

今回起きた大規模事件の全てが、一年半前にこの街を襲った悪夢をなぞる様にして何者かが計画

したものであると結論付けていたフィリップ。今この場にいない相棒の分も、彼はひた走る。

 

当時の痛々しい面影も随所に残しているタワー内部を疾風の如く駆け抜けたフィリップは、

ついに放送された映像と一致する場所、つまりタワー最奥部にある光線兵器の部屋へ辿り着いた。

かつてのテロ事件の際、フィリップはテロの実行犯の首魁だった男、大道克己の母親と自分の

失われた記憶の中の母を重ねてしまい、騙された挙句敵の手中に収まるという大失態を犯した。

結果、データ人間というべき彼の演算能力を光線兵器に流用しようとしていた大道克己の思惑を

望まない形で叶えそうになった。あの時は自暴自棄になった自分を相棒が救けに来てくれたが、

今回はその逆の構造になっている。街を守る仮面の英雄としての矜持を胸に、部屋の扉を開いた。

 

 

「やはりここにいたか、ラスト」

 

 

開かれた扉の先には、風都の住人全員に被害を及ぼす光線兵器『エクストリームビッカー』の

砲台にあたるパーツや機器類があり、それを背にして淡緑の双眸と紫紺の靄纏う戦士が仁王立つ。

この街に26もの運命をばら撒き混沌を運んだ白磁の戦士、仮面ライダーエターナルを崇拝する男。

Lの一文字を斜めに傾かせた不揃いのアンテナが目立つ、仮面ライダーの名を騙る宵闇の狂信者。

 

 

『来たか、過去の仮面ライダー。偽りの英雄、屑共を庇護する悪辣な偽善者めが』

 

 

現れたフィリップに向かって、己が内に湧く憎しみを隠そうともせず口にするラスト。

その口ぶりもさることながら、装甲が軋むほど握りしめられた拳の震えが、心境を物語っている。

怒りに猛るラストに対して、フィリップは臆する事なく真正面から向かい合い、言葉を返した。

 

 

「君が何故僕らを憎んでいるのか。そして何故、かつてこの風都を震撼させた事件を(なぞら)える

ような犯行に及んだのか。此処に至るまでの間、どれだけ考えても答えを出せなかった」

 

『はっ。地球(ほし)の本棚を持つ貴様ですら分からんか、どんな気分だ?』

 

 

人差し指を立て、いかにも考察している風体を見せるフィリップに、ラストはデータ人間として

フィリップが体内に有する地球のデータベースの存在を引き合いに出すが、努めて無視される。

代わりに向けられたやや刺々しい視線を受け、ラストは不機嫌そうに鼻を鳴らし声を荒げた。

 

 

『何故か、何故かだと? それは貴様らが、真の英雄を殺したからだ‼ あの人を、本当の英雄を

貴様らと醜く薄汚れたこの街そのものが、殺したからだよ‼ 誰も彼もお前ら偽者を崇めてな‼』

 

「……君の語る『真の英雄』が、大道克己であるなら。それは正しくもあり、間違いでもある」

 

『_____________なんだと?』

 

 

自らが語る言葉を薪にして燃え盛る炎の如き苛烈さで攻め立てるラストだが、フィリップは逆に

そよ風を受けて靡く木のように柔く、冷静過ぎる応対と肯定でも否定でもない言動に首を傾げた。

憤怒の中に突如放り込まれた一瞬の困惑を逃さず、フィリップは大道克己を狂信というレベルで

崇拝する眼前のラストに、今は亡きその男が何を成し、何故闘ったのかを重々しく語り出す。

 

 

 

 

 

かつてガイアメモリをばら撒いていた組織『ミュージアム』への資金援助を行っていた、とある

秘密結社があった。その名は『財団X』といい、過去にそこから派遣されたエージェントの内の

幾人かと仮面ライダーたちは死闘を繰り広げたこともあったが、それは別の話。

 

財団Xは言わば死の商人。世界全土に手を伸ばし、あらゆる技術を軍事兵器に転用させることで

戦争の需要と供給を陰からコントロールしていた。そんな財団Xが過去に資金提供を打ち切って

兵器運用を凍結させた『NEVER』と同様、超能力を人為的に生み出して作り上げた超人工作兵士

こと『クオークス』というプロジェクトがあった。

 

念動力(サイコキネシス)発火能力(パイロキネシス)思念読視(サイコメトリー)などの超能力を代表する様々な力を人工的に植え付けられた多くの

人間の中の一人の少女が、テロ事件の傷跡深い一年前の風都に現れ、探偵コンビに真相を語った。

少女の名はミーナ。大道克己が風都を襲う悪魔へと成り果てる前に、命を救った孤独な少女。

 

 

世界中から集められ、実験台として肉体や尊厳を弄ばれていたクオークスの少女ミーナと克己の

出会いは、戦場のド真ん中である。共に財団Xからの資金提供を打ち切られたモノ同士での闘いは

不毛と断じた克己だったが、彼に救われて今日まで共にいた個性派揃いのNEVERたちにとって、

彼がクオークスの実験に憤っていることなどお見通しであった。

 

彼女らクオークスを日の当たる世界へ解放する為、大道克己とその仲間たちはクオークスを収容

している『箱庭(ビレッジ)』と呼ばれる施設へ潜入するも、新入りのレイカ共々捕らわれる。

辛くも単身脱出した克己は、レイカを研究施設へ置き去りにしてきたこと、そして命じられるまま

関係ない戦場で駒にされるクオークスの諦観に憤り、『過去が消えるなら明日が欲しい』と一喝。

(死体に細胞活性酵素を投与して疑似的に蘇るNEVERは、徐々に細胞が劣化していく影響で記憶の

一部が少しずつ失われていく。克己は、過去(おもいで)の忘却を恐れてもなお明日(みらい)を望んでいた)

 

克己の慟哭に近い言葉がクオークスの胸を打ち、『箱庭』からの解放を実現すべく蜂起を決行。

その際、『箱庭』の管理者として君臨していた財団のエージェント<眼球の記憶(アイズ・メモリ)>のドーパントと

彼の様子を見に来ていた別のエージェントと接触。克己は持ち込まれていた新型ガイアメモリと

ドライバーを奪取し、驚異の適合率90パーセント超えを果たして【仮面ライダーエターナル】に

覚醒した。仲間たちにクオークス脱出の援護を任せ、克己は英雄として人々を守り施設を破壊。

 

ところが、助け出したはずのクオークスがアイズ・ドーパントによって皆殺しにされてしまう。

管理者であるエージェントは、反乱や脱走を見越してクオークスの脳内にチップを埋め込んで

いたようで、『箱庭』から一定距離まで離れるとチップのプログラムが脳回路を焼き切ったのだ。

 

次々倒れていくクオークスの苦痛に歪む表情と救けを呼ぶ声に、克己は自身の行動が救いではなく

彼らの死期を早めただけの行為であり、自分は彼らを死に誘っただけの『死神』だったと涙する。

手を伸ばし、彼の名を呼び瞳を閉ざしたミーナを抱き、絶望に沈んだ克己は涙を拭い嘲笑した。

 

「負けたよドクター。俺としたことが一瞬忘れちまってたぜ。人は皆、悪魔だということを‼」

 

守ろうとした人々を守れず、己の言葉に従い明日を求めた彼らの明日を奪ったという事実が、

NEVERと化したことで人間性を失いかけていた克己の、欠片ほどの優しさを奪い去ってしまう。

 

「お前の『箱庭』より面白い所なんざ、もう本当の地獄しかあるまい。先に逝って遊んでこい‼」

 

彼をわずかながらに英雄たらしめていた人の性は消え去り、適合率が100パーセントへ到達。

完全適合者となった彼はアイズ・ドーパントに止めを刺し、事の発端であるガイアメモリを、

それらを人に浸透させている風都という街そのものを憎み、報復としてのテロ行為を決意した。

 

彼らが起こしたテロ事件は、背負った憎しみだけが増長し続けた事で、『風都を死者の生きる

地獄の楽園に変える』などという歪み切った救済思想を生み出してしまった結果だったのだ。

 

 

 

 

 

「…………これが、奇跡的に一命を取り留めたミーナが僕らに語ってくれた、真相だ」

 

 

一つひとつの出来事を丁寧に紐解いていったフィリップの話を、無言のまま聞いてたラスト。

きつく握りしめられていた拳は既に緩み、余程衝撃的だったのか、左手で顔を押さえよろめく。

 

 

『財団Xが……⁉ 奴等、そんな事、一言も………』

 

 

狼狽する様子を隠す事すら考え付かないほど思考が乱れているラストは、フィリップを前に

していることを忘れ、つい口を滑らせてしまう。それを聞き逃すような人間に探偵家業が

務まるはずがなく、しっかり聞いていたフィリップは小さく「キーワードは揃った」と呟く。

そして相手の混乱が治まるまで待つような隙を作る相棒とは違い、堅実な彼は畳みかけた。

 

 

「彼も、大道克己もまた、誰かを守ろうと戦った一人の仮面ライダーだったんだ。

やり方を間違えてしまっただけで、心を持たない生まれながらの悪魔なんかじゃなかった!

この街に涙を流させ、仮面ライダーの名を穢す悪がいる限り、大道克己の生き様を貶す君が

いる限り、僕たちは戦う! それが風都の全てを愛し守ろうとした、鳴海荘吉と左翔太郎の!」

 

普段の非力で儚げな雰囲気を漂わせる彼からは想像もつかないほどの覇気に満ち充ちた言葉を

宣言代わりに叩き付ける。懐から倒れた相棒から拝借してきた________ロストドライバーを

腰に押し当てベルトにして装着、さらに相棒の手に握られていた二本のメモリの内、自分と最も

適合率の高い若草色のメモリを右手に持ち、彼の挙動を見て我に返ったラストに向け咆哮した。

 

 

「そして僕の__________仮面ライダーの流儀だ‼」

 

【CYCLONE】

 

 

彼は<疾風の記憶(サイクロン・メモリ)>の起動トリガーを押し込み、そのまま右側片方のスロットしか存在しない

専用のドライバーへと装填し、機構を動かして地球が内包する疾風の記憶を余さずその身に宿す。

あらゆる束縛をものともせずに流れゆく、一陣の風の如きライトグリーンが全身を包み込み、

突風ともそよ風とも取れる独特なメロディの後、室内でありながら風が吹きマフラーが棚引く。

 

普段は二人で一人の仮面の英雄だが、ロストドライバーを用いることで単独での変身が可能と

なり、メモリが単一な分、相棒への負荷を気にせず全力全開でメモリの力を引き出せるのだ。

 

『な、なんだその姿は………サイクロンメモリでの単独変身だと⁉』

 

 

突如として広いとは言い難い室内に吹き込んだ風に驚くラストだが、若草色の外装データの

破片と共に風が舞い上がった先に立つ全身緑一色の戦士の姿に、驚きを超えた驚愕を見せる。

彼が収集したデータにあるW(ダブル)は、六本のメモリで九つの形態の基本フォームに加えて更に、

ファングとその上をいく究極のWを体現するエクストリームのみ。唯一、左翔太郎が単独で

変身する姿は【仮面ライダージョーカー】であり、厳密にはWと呼べる存在でないとされている。

 

三度目となるラストの狼狽する姿を真紅の双眸に収めた新緑の戦士は、粛々と言葉を紡ぐ。

 

 

「此処へ来るまでに傷つき倒れた相棒に代わって、僕が君の悪意を止めてみせる」

 

 

左手を口元へ運び、拳銃を模したように人差し指と親指だけを立てた右手をゆっくり持ち上げる。

視線と平行になる位置へ到達した人差し指が指し示すのは、染み着いた怨嗟の如き紫紺の戦士。

そこから一度右手を少しだけ下げ、間を置いてからスナップを聞かせ、角度を変えて上げ直す。

 

これまで幾度となく共に見て、共に繰り返してきた、見様見真似の男の信条(ハードボイルド)を貫いた。

 

 

「今こそ名乗ろう。僕は、風都の涙を拭うハンカチ_________仮面ライダーサイクロン!」

 

 

真紅の眼光が真っ直ぐにラストを射抜き、彼はこの街を泣かせる犯罪者に最終通告を言い渡す。

 

 

「さぁ、お前の罪を数えろ‼」

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか。

いや、『風都探偵』最高ですね。滅茶苦茶面白いですよ!
アレを読んだおかげでこの作品を書き込む上でのイメージがより
やりやすくなったといいますか、ええ。やっぱ原作者様は偉大だなぁ。

さて、随分を期間を開けてしまい、申し訳ありませんでした。
さらに私自身、八月九月は恐ろしいほどに予定が立て込んでおりまして、
最悪の場合次回の更新が十月以降になる恐れなどありますが、
出来る限り最速でこのWの世界を堂々完結させてやりたいと思っております!

これからさらに暑さ増す季節、皆様もどうかご自愛ください。


それでは次回、Ep,39『Hは誰だ / 答えは何処に』


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