GATE×オリ主&オリ国家   作:オシドリ

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第10話

「しかしなんだな」

 

 イタリカ、その近くの野原で。

 日が落ちていき、辺りが暗闇になる中、守人は一人ごちた。服は狩衣のままだが、その顔にはドーランで茶や緑に化粧が施されていた。

 

「なんか面白そうだから、と強引に引っ付いたら、まさかこうも早く面倒事に巻き込まれるとはのぅ……」

 

 どうやらあの隊長さんは、己でも見えない疫病神か何かに好かれているのかもしれない。でなければ、こう何度も厄介事に引っかからないはずだ。難儀な運命である。

 

 

 

 さて、なんでこんな事になっているかというと。

 少しだけ時間を巻き戻してみる。

 

 第三偵察隊に守人が加わり、イタリカからアルヌスの丘へ帰還途中、何かに気付いた倉田は緊急停車した。

 

「どうしたんじゃ?」伊丹と倉田の間に身を乗り出した守人が訊ねた。

「前方に煙です。こっちに向かっています」

 

 また煙かよ、と伊丹は愚痴を零しながら双眼鏡を構えた。倉田も同様に構える。

 守人も、目を凝らして此方へ向かってくる煙を見やった。どうも土煙のようだ。ただはっきりと良く見えない。

 

「あ、見えました」倉田が声を上げる。

「何が見える?」伊丹が訊ねた。

 

「ティアラです」

「ああ、ティアラね……、ってティアラ!?」思わず叫ぶ伊丹。

「金髪です」

「金髪?」

「縦ロールです」

「縦ロールぅ!?」

 

 伊丹は倉田の方へ近寄り、双眼鏡を構え直す。

 

「目標、金髪縦ロール一、男装の麗人が一、後方に美人多数!」

 

 ………。

 

「バラだなッ!」

「バラですッ!」

「お主ら、息ピッタリじゃの」

 

 呆れた表情で守人が言った。

 

 しかし、なんとも華美な騎馬隊である。

 日本人なら「ベルサイユのばら」や「宝塚歌劇団」がまず脳裏に浮かぶかもしれない。

 金銀に輝く胸甲に、見事な装飾が施された武装。軍装にはこれまた金銀の刺繍が施されており、三色の薔薇による旌旗を掲げた、豪華絢爛な集団であった。

 

 だが、よくよく見てみれば馬術の腕は悪くなく、姿勢も良い。強行軍だったようで、後方の人馬は疲労しているものの、隊列を組み直して油断なく構えている。

 

「ふんむ、ちゃんとした戦闘訓練を受けている集団じゃな」

「となると、姫様が言っていた騎士団かねぇ」

 

 伊丹は警戒している隊員達に手を出さないよう厳命した。協定違反になりかねないのだ。

 

「二人とも、手を出さないで下さい」

「あいよ、分かっとるよ」

「はぁい」

 

 そうしている中、白馬に跨った栗短髪の女性騎士が、富田二等陸曹の乗る七三式トラックへと近付く。

 

「何処から来た?」女性騎士が問いかける。

「我々、イタリカから、帰る」辞書を捲り、片言で富田が答えた。

「何処へ行く?」

「アルヌス・ウルゥ」

「なんだとッ!?」

 

 即座に女性騎士団は殺気立ち、天へ向けられていた騎槍が水平に構えられる。

 隊員達もそれぞれ武器を構えた。

 

「ほぉ、良いの。練度も悪くない」

「待て待て待てッ! 総員、発砲するなよッ!」

 

 馬を降りた金髪縦ロールの女性騎士が富田の胸倉を掴み上げ、「貴様ら、異世界の敵か!」と凄んでいた。

 富田を助けるべく、伊丹は武器を全て外し、再度こちらから手を出さないようにと命じて女性騎士に近付く。 

 

「えーと、あの、何か御用でしょうか?」

 

 注意を引こうとした伊丹の発言が彼女らの癪に障ったのか、伊丹は平手で殴りつけられてしまった。

 殺気立つ隊員達。

 

「待て、逃げろ! ここは一旦逃げろッ!」

 

 伊丹の叫びに一気にエンジンの轟音を上げ、三台の車両は土煙を上げて走り去っていった。

 

 一人取り残された伊丹は騎士団に縛られてしまい、イタリカまで連行されてしまったのである。

 

 

「で、どうするんじゃ? 協定違反として攻め落とすのかい?」

 

 イタリカの街を見ると、続々と騎士団の騎兵や歩兵がやってきてはいるが数はそこまで多くは無い。先の戦でイタリカの市民は疲れ果てているし、やって来たばかりの連中は威張りくさっている。

 その為、警備体制が上手く機能していないのだ。

 

 なので門から入り込んで、主要な面々を斬り伏せるなり、捕縛するなりしてしまえば制圧は簡単である。

 

「いやいや、そんな事はしませんって」

 

 倉田が苦笑しながら答えた。どうやら冗談だと思われたらしい。

 

「しないのか? 協定が破られたのじゃぞ?」

 

 例え通知を知らなかったとしても、協定は即時発行されたもの。言い訳は一切通用しないのだ。

 あちらの要求を呑んで協約が発行され、そしてこちらは言い分を守り兵を撤退させた。なのに自由な往来ができる場所で伊丹は捕らえられ、協約を破られたのである。

 

 一度約束したことは絶対に守るべき。そして、破られたのなら相応の報いを受けさせるべき。

 

 守人はそう考えていた。

 

「それでもですよ」倉田が言った。「隊長なら大丈夫そうですしね」

「ええ、伊丹隊長はフォルマル伯爵邸に居ると思われますので、潜入して救出。そのままアルヌスの丘駐屯地へと撤退します」

 

 富田の言葉に、守人はため息しか出なかった。

 

「……協定内容もそうじゃが、お主ら甘すぎるぞ」

 

 チラリ、と他の隊員を見やるが、どうも同じ考えらしい。もう一度ため息を吐く。

 

「まあ、お主らがそういうなら仕方あるまい。帝国に貸し一を作ると考えて納得しよう」

「でも隊長、本当に大丈夫なの? 死んでいるんじゃない?」栗林がぼやく。

「大丈夫だろう。ああ見えて隊長、レンジャー持ちだからな」

 

 富田の言葉に、栗林は目を剥いた。

 

「え、今、なんつった?」

「ああ見えて隊長、レンジャー持ちだからな」

「えええっ!? 嘘でしょぉ!? 有り得なぁいィ!!??」

 

 栗林は悲鳴を上げ、そのまま仰向けに寝転がってしまった。レンジャー徽章にあこがれを持つ彼女にとって、あの緩くて不真面目な伊丹が持っていることが信じられなかったのだ。

 

 レンジャーというものについて説明を受けたレレイやテュカ、ロゥリィですら伊丹とイメージが結び付かず、小さく笑ってしまった。

 

 そんな中、守人だけは「ほぉ、道理で」と一人納得していた。そのような精強な兵士であれば、隠密に感づいてもおかしくなかったのだ。

 そして、帰還したら隠密に調査させておこう、と心に決める。

 

「では、そろそろ行きますか」

 

 富田の声でみな腰を上げる。

 話している間に、辺りは暗闇に染まり、潜入する頃合いとなっていた。

 

 全員が気持ちを引き締め、フォルマル伯爵邸へと向かう。

 

 そして慎重に動き、邸内に侵入したのだが、出迎えたのはウサ耳とネコ耳眼鏡のメイドであり、案内された先では美人メイド達に甲斐甲斐しく世話をされている伊丹であった。

 

「……ん? オッス!」

 

 満面の笑みで言う伊丹に、全員がすっかり毒気を抜かれてしまった。

 そして、老メイド長やメイド達はロゥリィの姿を見るとその側へと集まり、跪いて祝福を願った。ロゥリィは柔らかな笑みを浮かべて、静かに掌を見せる。

 

 厳粛な雰囲気なのだが、伊丹からすれば死と断罪と狂気と戦いを司るというおっかない神の信者ってどうなんだろ、と思ってしまう。

 

「物騒な神に思えるかもしれんが、エムロイの教義は「嘘偽りなく、責任をもって、人生を全うする」というもの。そうじゃな、お主らで言う閻魔大王に近い存在かもしれん」

「へぇ……」

 

 そう言われると、確かにご利益がありそうに思えてくる。

 

「って、何で考えている事が分かったんです?」

「顔に出てるぞい」

 

 そんなことで、フォルマル伯爵家のメイド達と自衛官達は文化交流という名目の下、和気藹々とした雰囲気で会話や茶を楽しむことになった。

 

 そうした中、守人は此方を見つめてくる少女に戸惑っていた。

 

「で、先程からどうしたんじゃ? お嬢ちゃん」

 

 メデュサと呼ばれる種族で、長い緋色の髪が触手状になっているメイド、アウレアに顔を向ける。

 

「ゴシュジンさま、おいしそうなニオイがスル……」

 

 言うや、本能に負けたアウレアはその長い髪を守人に絡みつかせた。

 

「アウレアッ!?」気付いたモームが叫ぶ。

「ふんむ、妙な感覚じゃの。……ほれ、もう止めておけ」

 

 守人が柔らかい笑みを浮かべながら軽くアウレアの頭を撫でてやる。そして、アウレアは陶酔した表情で倒れこんでしまった。

 慌ててモームが近寄り、守人とアウレアの様子を確かめる。

 

「休ませてやると良い。どうも一気に精を吸い上げたようだから、酔ったんじゃろ」

 

 守人は平然とした様子で身体に絡みついた髪、というよりも触手を一つ一つ丁寧に引き剥がしていく。

 

「ご主人様、あの、御身体の具合は……」モームが訊ねた。

「うむ?まあ調子は変わらんぞ。メデュサの吸精は得も言われぬ快楽を受けられると聞いたのだがのぅ」

 

 あり得ない、という表情を浮かべるメイド達。

 本来ならメデュサに吸精されれば瞬く間に乾涸びてしまうというのに、何事もなかったかのようにしていられるのが信じられなかったのだ。

 

「まぁ、守人様だしねぇ」と言ったのはロゥリィだった。

「流浪する神だしぃ、あの程度じゃあ問題ないわよねぇ?」

「……お主な」

 

 ニンマリとした表情で言ったロゥリィに思わず眉の皺を寄せる。この後に起きることが予想できたからだ。

 

「まさか、貴方様が、流浪する神であられる……」

 

 震える声で老メイド長が訊ねた。

 

 やっぱりか、と思いつつ守人が小さく頷くと、メイド達も感極まったような表情となった。彼女らにとって、亜神であるロゥリィだけでなく、まさか伝承の存在である流浪する神を迎えられるとは思わなかったのだ。

 

 すぐさま守人へアウレアの非礼を詫び、そして跪いて祈りを捧げている。

 

 何故、そこまで大騒ぎするのかよく分からない自衛隊員達。

 まあ普段が人と混じって土木作業をしたり、気さくに話しかけてきたりするので、イマイチ実感が持てなかったのだ。

 

 流浪する神とは、守人に付けられた渾名のようなものである。

 守人はよく旅装姿になり、唯の旅人として世界各地を転々としながらその土地の様子を確かめ、旅先で困った人が居れば助け、また困窮する集落には必要な技術を教えることがあった。

 

 そのお蔭なのか、人や集落の生活は豊かになり、栄えるようになった。

 

 そして守人を探し回っていた太郎がその噂を聞きつけ、その正体が判明する。それで流浪する神と呼ばれるようになったのである。

 

 このファルマート大陸でも多くの逸話が残っており、「流浪する神を迎い入れた家や街は栄える」とされている。

 なので、彼女らが忠誠を誓っているフォルマル伯爵家のミュイに祝福を授けて欲しい、と願うのは当然の事だった。

 守人は内心辟易していたが、それを顔に出すわけにもいかず。

 夜が明けたらミュイの元へ訊ねさせてもらうと言い、跪くメイドら一人一人に慇懃に応対しつつ、言葉を伝えていった。

 

 と、まあ、そんな感じで騒いでいたので、誰もピニャの密命を受けてやって来たボーゼスに気付くことなく、そして、プライドが傷ついていた為に逆上して、伊丹は再び平手で殴りつけられてしまったのである。

 

 ……やっぱり、この隊長は誰にも見えない疫病神か何かに好かれているに違いない。

 

 

   ***

 

   

「――それで、なんでこんな事に?」

 

 こめかみと胃に酷い痛みを感じながら、ピニャが訊ねた。

 その前には、頬に紅葉を作った伊丹と隊員に取り押さえられたボーゼス、また部屋に居た面々が勢揃いしていた。

 ボーゼスが「わたくしが、やりました」と蚊の鳴くような声で言うと、目の前が真っ暗になった。

 

 篭絡して来いと送り出した人物が、まさか再びぶん殴ってくるとは思わなかったのだ。

 しかも、守人という流浪する神が自衛隊に協力していることが明らかになり、どうしようもないほどに事態が悪化している。

 

 だが、どうにかしなければならない。それがピニャの、上に立つ者の務めである。

 ともかく時間稼ぎとして、朝食はどうか、接待させて欲しいと言い募ったのだが、レレイの「イタミは元老院から報告を求められている」との発言に、ピニャは今度こそ卒倒しそうになった。

 

 伊丹の発言次第で、帝国の運命が決まると勘違いした為であった。

 ピニャは決意を固め、伊丹達に同行することになった。

 

 

 そして、この数日後。

 

 

 日本では冬に変わり、クリスマスに向けて賑わう頃。

 日本、いや世界にとって重大なイベントを見ることとなった。

 

 ひとつは、特地の現場指揮官および現地住民数名による参考人招致。

 

 そして、扶桑国の存在。並びに同国使節団による日本国訪問である。

 

 


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