GATE×オリ主&オリ国家   作:オシドリ

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ようやく投稿です。楽しんで頂ければ幸いです。



第17話

 

 世間一般的に、この世の中で生活するには必要なものが有る。

 それは通貨、お金の事である。

 

 通貨の始まりは取引の際に公平さを保ち、持ち運びに便利、そして誰もが一定の価値のある代用品を作り出した事からなる。

 

 通貨が出来る以前は、自分の持っている物と相手の持っている物を交換する事によって取引を行っていた。いわゆる、物々交換である。

 例えば、自分が魚を持っていて相手が毛皮を持っていたとする。自分は服に使う毛皮が欲しい。相手は今日食べるものが欲しいとした時、お互いの持ち物を差し出す事によって成立する。

 だが、物々交換だと何時も魚や毛皮を持ち歩かなければならないし、不便だ。また人の考え一つで価値が大きく左右されてしまう。

 

 そこで考えられたのが貨幣である。 

 この時に使われたのが素材そのものに一定の価値のある物、例えば古代ローマ時代には塩。オセアニアなどでは現代でも使われる貝殻。日本の江戸時代には米。最も多かったのが、金や銀といった希少な金属を使う事であった。

 

 特地で使用される通貨はこれに該当し、金銀銅などの貴金属を使った秤量貨幣である。これは使用される金属素材の価値と重さが、貨幣の金額と等しい。後は商取引などで額が大きい場合、額面上の金額を保証した為替手形を利用する事になっている。

 

 対して、現代の地球で使用される通貨はこれより更に発展し、信用通貨と呼ばれるものとなった。

 この信用通貨とは、国の信用で流通するお金の事である。通貨は銅を主体とした貨幣と紙製の銀行券、つまりお札である。信用が有れば素材以上の価値を持ち、通貨として使用できるが、無ければ唯の紙屑となる。更に架空通貨も登場しているが、これは置いておく。

 

 紙幣の始まりは持ち運びに不便な貨幣や貴金属の預り証として発行された手形であり、後のこの手形自体で取引出来るように発達していった。

 近代になると金本位制、もしくは銀本位制が始まり、兌換紙幣(だかんしへい)が登場する。これは政府が同額の金貨、銀貨と交換することを保証した紙幣であった。

 

 だが、現代では通信機能の発達、取引が世界規模になった事により、経済が急速に発達すると金の生産量が追いつかなくなった。そして経済活動を抑制する金本位制が廃止となり、不換紙幣、つまり信用貨幣を扱う管理通貨制度に移行したのである。

 

 未だ経済活動が小さく、未熟な特地で地球世界と同じような通貨が発行されるようになるのは、まだまだ当分先の話になるだろう。

 

 さて、なんでこんな話をしているかというと。

 この通貨の違いで、問題が発生したからである。

 

 

「やはり、美味いですな」

「うむ、贅沢な気分じゃな」

 

 アルヌスの丘にある、扶桑国大使館。

 

 突貫工事でつい先日完成したばかりのこの建物の一室で、守人と菊池は銀座でお持ち帰りで買った特盛の牛丼を食べていた。二人とも笑顔だった。ちなみに、「うまい、やすい、はやい」を掲げて日本全国に展開する牛丼チェーン店のである。

 

 扶桑国では酪農があまり発達しておらず、牛肉は高級品扱いである。これは良い物を食べられる使節団員であっても年に数回しか食べられなかった。その為、こういう牛肉を安く食べられる店は上から下まで人気があるのだ。

 

 暫く、他愛のない雑談をしながら牛丼を食べ、ペットボトルの茶を飲む。

 

「で、相談はなんじゃ?」食べ終えたところで、守人が訊ねた。

「通貨についてです。このままですと、非常に拙いです」と、菊池が告げた。先程とは違い、沈痛な表情であった。

「拙いか」

「はい。思っていた以上に、日本と我々では金銭の価値観が違いすぎます。そして視察をするたびに購入するべき資料が増えているのも一因かと」

「ふうむ」

 

 ペットボトルの茶を飲みながら、守人は思案する。

 

 先に言ったように、現在の地球では信用貨幣が、特地では秤量貨幣が使われている。

 

 日本国と扶桑国では貨幣制度が全く違う為、扶桑国の貨幣を素材そのものの値段で売って日本の銀行券を手に入れていた。

 扶桑国において一般的に使われる金貨に十圓金貨幣というものがある。直径は二十四ミリほどで、日本の十円硬貨とほぼ同じ大きさである。しかし大きさの割に重みがあり、金含有量は十グラムよりやや少ない。これはファルマート大陸で広く流通しているシンク金貨とほぼ同じ価値を持つ。

 

 この金貨を日本の今の金相場に当てはめると、大体四万~五万円近くになる。たが、この金貨は扶桑国での価値観に合わせれば、この数倍の価値はある貨幣である。

 この差は、物価と金銭価値の差が大きく異なっている為に起きていた。

 

 このままだと扶桑国から大量の金銀が流出し、扶桑国は貨幣不足から国内の経済が悪化してしまう事になる。

 また、日本側にも問題が起きる。流入が続けば金銀の価値の暴落が起きかねない。地球世界は各国の経済の結びつきが強いだけに、日本で起きた金銀相場の暴落が世界経済に影響を与えかねないのだ。

 

 つまり、お互い現状のままだと非常に拙いのだ。

 

 かといって、資金の消費を抑える事は出来ない。

 扶桑人にとって、日本にあるものはどれもが新しく、目移りしてしまうものが多すぎたのだ。 

 

 例えば、誰しもが持っているだろう携帯電話。

 とても軽く衣嚢(ポケット)に入る大きさでありながら世界中の人々と会話や文章のやり取りが出来る。そして写真の撮影や必要な情報の検索なども自由に行える。

 扶桑国にも通信機器はある。地球世界では最初期の無線機や、劔冑の通信機能がある。だが、非常に高価であり通信範囲は狭く、携帯電話とは比べ物にならない。

 なまじ自分達にも知識があるだけに、これだけ取ってみても自国と日本国の間に隔絶した差があるのを感じ取っていたのだ。

 

 故に知りたい、調べてみたいという欲求に従って様々なものを買い漁っていた。

 

 世界最大の「本の街」と呼ばれる神保町に行って技術書やら歴史本、哲学や経済学などのお堅いものからライトノベルや漫画、十八禁の同人誌といったものまでも大人買い。

 視察に行った先の工場では構造解析をする為に日本では骨董品と呼ばれるような古い工作機械や設計図の買い取り。

 合成繊維で出来た布と服、カップラーメンにレトルトカレー、カロリーメイトといった食料品、更にはウイスキー、ウォッカ、テキーラなどの蒸留酒に煙草などの嗜好品も大量買いしていた。

 

 一部、本当に必要なのかどうか分からないものもあるが、購入者曰く「絶対に必要なもの」らしい。まあ、こういうのを削った所で根本的な解決にはならないので、設けた範囲内で購入するならば好きにして良い事になった。

 

「まあ、お主の事だから、対策は考えておるんじゃろ?」

「はい、物々交換などを考えたのですが……」

 

 菊池がまず考えたのは所謂、バーター貿易である。これなら通貨を使用しなくても済む、のだが。

 

「問題は、その対価です。<門>の関係上、鉱物や石油などの資源の輸送は難しく、かといって我々が出せるのは他に技術ぐらいですが……」

 

 資源の輸送は遠いし、<門>の関係上で無理。

 特地では優れた技術も、地球世界では既に通って来た道で枯れた技術でしかないのだ。現状では、持ち運びに便利で価値のある物が貴金属しかないのだという。

 売れるとしたら劔冑の製造技術だが、これを渡す訳にはいかない。それに、劔冑は素材が重要となるので技術だけあっても造ることは不可能だ。

 

 他の面々とも何度か協議したのだが、何も良い案が思いつかず、こうして守人に相談した訳である。

 

「なんじゃ、そんな事か」守人が言った。「価値のあるものを売れば良いんじゃろ? そんなもの、一杯あるではないか」

「はあ」

 

 カラカラと笑う守人に菊池は生返事で答えた。そんな都合の良いものがあるのか? と言いたげな表情であった。

 

「まあ、任せておけ。丁度良い名目があるからの。まだ時間はある。ああ、今から言う材料を直ぐに用意してくれ。扶桑国から少しばかり取り寄せないといかんな。まあ、それぐらいの金は残っておるだろう? 道具は儂の手持ちで十分じゃな。うふ、ぬふふ……」

 

 守人の表情は何処か楽しげな、満面の笑みを浮かべていた。 

 

 

   ***

 

 

 数週間後。

 

 東京、有明。

 

 この日、伊丹達第三偵察隊の面々は任された役割をこなすべく、忙しく動き回っていた。それはまるで戦場のようで、誰もが真剣な表情に汗を浮かべている。

 

「マ・ヌガ肉をドンドン焼いてくれッ! まだお客さんが大量にいるぞ!」

「二尉、あともう少しでここの奴が焼き上がります」

「たいちょー! もう肉の在庫が無いっすよぉ!?」

「今、富田とクリボーが取りに行っている! もう少し待ってくれ!」

「隊長、追加の肉を持って来ましたッ!」

「クリボー! それはこっちに持ってきてくれ!」

「二尉、お客様がまた増えましたわ。早く焼けた肉をください」

「だぁー!」

 

 野戦服にエプロン姿の伊丹は絶叫しながらも、ひたすら肉を回し、焼いていた。

 何をしているかと言えば、屋台である。

 

 今日は祭日。

 

 『日扶国交樹立記念祭』と名付けられた、一日限りのお祭りであった。

 

 東京臨海広域防災公園と、東京ビックサイトを使用した会場には埋め尽くす様な人だかり。来ているのは各国の来賓と、日本国と扶桑国の関係者。あとマスコミ。そして一般枠に日本全国に住む国民から無作為に抽選で当選した者とその家族に招待状を送り、入場できるようになっていた。

 

 始まりは、官僚の一人が日扶の交流祭でもやろうじゃないか、という提言がされたのである。ただ、それは一周年記念に、と言う様な内容であったが、守人や太郎が「早めにやりたい」との一言があり、国内向けのパフォーマンスもあってこの日になってしまったのだ。

 

 その所為で急遽決まった祭りに関係者全員が官庁で缶詰してデスマーチを繰り広げる羽目になり、どうにか開催にこぎつけたのだ。

 

 しかし、役人達の尊い犠牲もあって祭りの内容はとても良い。

 

 扶桑国側は剣歯虎(サーベルタイガー)の餌やり体験やふれあい、てばさきの騎乗体験。

 そして、龍神・太郎との記念撮影である。

 

 また有志の者が郷土料理を屋台で出したり、守人や太郎の神官らも居るので簡素な朱塗りの鳥居を建て、ステージの上で巫女による神楽舞を見せたり、借りたテントに制作した御朱印やお守り、御札などを所狭しと並べて売っていた。

 

 これらはアルヌスの丘で自衛官達からかなりの人気になっていたからやってみた、と言う様なものだったが、此処でも人気が出ていた。

 彼らからすればファンタジーな存在と触れ合える機会であるし、異世界の珍しい料理や記念品を買えるのだから人気がでない筈がなかった。

 

 また日本側も負けていない。

 ただ期限が短かく公募で出店団体の調査をする時間も無かった為、参加出来たのは陸海空の自衛隊に警察と消防のみであった。

 彼らは特地の問題で深刻な人手不足に陥っており、優秀な人材が今直ぐに欲しいのだ。その為なのか、準備期間が短かったのにも関わらずかなり力の入った展示訓練などを行っていた。

 此方は扶桑国の使節団員や各国の来賓から好評であった。

 

 他にも、自衛隊の音楽隊による演奏、参加した陸海空の中からナンバーワンのカレーを決めるやら、祭りらしく賑やかな雰囲気になっていた。

 

 その中の一つ。特別地域派遣部隊のブース。

 

 此処では伊丹達がやっていたマ・ヌガ肉の肉巻きのような、特地の料理を出していた。

 また自衛官が撮影した特地の風景写真や動画なども差し当たって問題が無いと判断されたものを紹介していた。

 これらを食い入るように見る各国の来賓達。幾ら日本をせっついて儲けるのが一番楽だとはいえ、彼らもファンタジー世界には興味があるのだ。

 

 女性からは遥かに年上でありながら十代の若さを保っているエルフを見て、嫉妬しつつもどんな方法で肌のケアをしているんだろうか、と心の中で思ったり。

 経歴が学者だった者はエルフやドワーフ、ワーウルフやキャットピープルなどの多種多様な人種の画像を見てかつての熱意を取り戻し、細かい違いを書き留めたり。

 幼少期にはよくファンタジー小説を読んでいた者はただただ感心し、是非とも生で見たいと漏らしたり。

 

 次に思うのは、特地に軍、もしくは調査団を派遣させてくれないか、というものであった。

 日本側もこう言われるのは分かっていた為、常と同じく軍の派遣は国家の主権に関わるから認めない。また特地の治安や情報が揃っていない為、調査団を受け入れることは出来ないと告げる。

 

 何時もなら、「いやいやそこをどうにか」と食い下がり、同じやり取りを繰り返すのだが、この日は何処の国も大人しかった。

 というのも、デスマーチの影響で案内役の官僚の顔は青白く、目の下には濃い隈をべったりとつけており、その異様な雰囲気と「お前、これ以上俺に働けって言ってんの?」といった無言の圧力に少しばかりビビっていた為なのだが……。

 

 まあ、こんな感じでお偉方は腹の探り合いやらなんやらをやりつつ視察を続け、さほど問題が起きないまま祭りは進む。

 

 昼過ぎになると、伊丹らは後片付けを始めていた。材料を切らした為、続けられなくなったのだ。

 来客が多いことを見越して大量に用意した筈なのだが、他の店とは違い、元板前の古田が日本風にアレンジして他の店よりも数段味が良かったし、また先の国会で人気を博したロゥリィやテュカ、レレイの三人娘が売り子をしているのだから、人が来ない筈が無かった。

 

「伊丹二尉」桑田が声を掛ける。「そろそろ休憩に入られたらどうでしょうか?」

「え、おやっさん何で? 俺は後で良いよ」

「既に他の連中も交代で休憩を取っていますし、二尉はずっと働きづめでしょう。休んだ方がよろしいかと」そこまで言って、桑田は小さく笑みを浮かべた。「それに、彼女達も折角の祭りなのに此処にずっと居るのは退屈でしょう。一緒に回ってきては如何ですか?」

「……悪いね、おやっさん。ちょっと回って来るよ」

「いえ、お気になさらず」

 

 お互い、砕けた形で敬礼。

 伊丹はエプロンを脱ぎ、材料を置いていた奥のテントへと向かう。

 

「あら、ヨウジィどうしたのぉ?」

 

 テントの奥に引っ込んでいたロゥリィが伊丹を見るや、声を掛けた。テュカやレレイも顔を向ける。表に出ていると声を掛けられたリ、写真撮られたりとずっと続くので逃げ込んでいたのだ。

 

「折角のお祭りなんだから、休憩がてら少し見回ってこいって言われてね」

「え、本当!」退屈していたテュカが喜びの声を上げる。

「でも、外に出ても問題ない?」

 

 レレイが訊ねる。以前、扶桑国の使節団を襲撃した工作員もいたので「何かあるかもしれない」と事前に説明を受けていたのだ。

 

「まあ、大丈夫っしょ。駒門さん達が頑張っているみたいだし、なんか守人様が手を回したらしいし……」

 

 三人とも特地で活動する自衛隊の手伝いをして貰っている為、重要人物扱いとなっていた。特にロゥリィは守人や太郎らと同じ存在である。しかも、イタリカ防衛戦の時の姿を見た自衛官や守人から「一度暴れられると手が付けられん」と言われていたので、万が一が無い様にと公安と、守人の命を受けた隠密がそれとなく警備に当たっていたのだ。

 その為、三人にしつこく言い寄った者は会場を巡回しているおっかない警官や公安までも飛んで来て「お話」を受ける羽目になったので、それを見ていた群衆も間違いは起こさないだろう、と伊丹は言った。 

 

「なら、安心して見て回れるわねぇ」

「ユノ達にもお土産を買ってあげないと……」

「楽しみ」

 

 そんな訳で、伊丹達(そして周囲を警戒する公安と隠密)はお祭りを見て回ることになった。

 

 

 




次もお祭りの話となります。

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