GATE×オリ主&オリ国家   作:オシドリ

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遅くなりました。
楽しんで頂ければ幸いです。


第20話

 仄暗い地の底に、一人の絶世の美女がいた。

 

 腰まで伸びた銀髪は艶やかで、ガラス細工の様に精細で整った顔立ち。今は緑瞳をわずかに細め、微笑を浮かべていた。細くたおやかな肢体は滑らかな曲線を描いており、その人外の美しさは見る人を魅了する。

 

 冥府の神・ハーディ。

 

 今回の騒動の発端は、元を辿れば彼女が起こしたものであった。

 

 <門>を開ける前まで、ファルマート大陸の世情はガチガチに凝り固まっていた。ヒト種の、ヒト種による国家である<帝国>によってファルマート大陸全域をほぼ支配下に置き、歴代の皇帝と元老院によって安定した世情を造り出していた。

 

 それは変化が無く、起伏も無い単調な物語でしかない。故に見ていてもつまらない。

 だから<門>を開いた。物語が少しでも面白くなるようにと願いを込めて。

 

 そして、世界はハーディの期待以上に揺れ動いた。

 

 <門>が繋がった先は、<帝国>なぞを遥かに超える国家、日本。

 そして日本のある世界は、人間達が示した可能性があった。

 

 天を衝かんばかりの摩天楼群に、ハーディすら全く知りえない未知の機巧。

 世界の仕組みを飽くなき探求心で追求していくその姿勢。先人達が積み重ねていった知識と機巧で持って更に突き進む。

 その過程で膨れ上がった欲望で戦争も起きた。だが、一つの王国の継承権を巡って百年もの間争い続けたり、たった数年間、世界規模で起きた戦争で数千万人もの人間が死んでいったという壮絶さにはさしものハーディも絶句した。

 

 だが、戦争によって更に知識が蓄えられ、遂には人間が神にも頼らず、幻想にも頼らずに一部の原理を解明したのだ。闇夜を照らすようにと、地上に人工の星を創り出した。人工の翼で持って空を飛び、人工の身体を纏って海の底にも辿り着いた。

 更には、空のその先。宇宙と呼ばれる極限の世界までに人間は辿り着いた。そして、夜に輝く月や星にまでその足跡を記した。

 果ては、世界を滅ぼす事が出来る、人工の太陽まで人間は作り出してしまった。

 

 何という強欲さか。何という傲慢さか。

 神が人の営みに殆ど関わらず、人に任せた結果この様な世界が生まれるのかとハーディは感心した。その歴史は起伏に富んでいて、かつ予想もつかない様な物語になっている。非常に面白い。

 

 だが、この世界には日本、そして彼の世界は劇薬だ。流石に世界を滅ぼせる機巧は危険過ぎる。人にとっても、そして正神であっても。また<門>による弊害も出始めていた。

 

 暫くぶりに楽しめたし、<門>の弊害も出ているようだから閉めましょうか。

 ハーディはそう判断し、手持ちの中でも適当なもの――炎龍を叩き起こし、<門>を破壊させようとしたのだが、ここで予想外の事が起きた。

 

 扶桑国の連中が動いたのである。結果、龍神によって炎龍は倒されてしまった。

 彼らが動くのはいつも唐突であり、そう珍しくもない。そして自国内だけでなく、定期的に世界を回っては各地で様々な出来事を起こす。

 

 人々に手を貸す彼ら。時には寒村からの一大都市化。時には人に手を貸して共に邪悪なる古代龍と戦う。時には神とヒロインによる恋愛模様。

 これらは新しい神話であり、また神の加護を受けた英雄の物語でもある。悠久の時を過ごすハーディには一番の娯楽であった。

 かつて、試しに自分もと良さそうな人間を選び出し加護を与え、試練をこなす様に仕向けたが、今一面白く無かった。選ばれた英雄が試練をこなしていく物語も中々悪くないのだが、彼らと彼らが選んだ名役者による笑いあり涙あり、そして複雑に変化する物語には到底及ばない。

 

 ハーディから見て破天荒な物語を紡いできた世界と、この世界の名役者達。

 この二つが合わさるとどうなるのか、見てみたくなってしまった。既に<門>の弊害や、やられた炎龍の事なんてどうでも良くなったのだ。

 

「でも、このままだと少し物語の変化の幅が小さいわねぇ」

 

 日常回も嫌いではない。だが、それが続くとだらけてしまうし、何よりハーディが好きなのは英雄が活躍する物語だ。

 幾多の困難を乗り越え、最後に悪を倒し、そして世に平和が訪れるハッピーエンド。そんな話が好きなのである。

 

 このまま二ホンとフソウの関係が進めば<帝国>は簡単に倒れてしまうだろう。鎧袖一触、赤子の手をひねるように。それに、今では講和を結ぼうとしている。これは物語として面白く無い。

 

「うふふ、それなら――」

 

 これは名案だ、とばかりにハーディは忍び笑いを漏らす。

 そして子供の様に無邪気な笑みを浮かべながら、自身の可愛い使徒に呼びかけるのであった。

 

 

   ***

 

 

 <帝国>、帝都。

 その南東門一帯に広がる貧民街。通称「悪所」。

 

 この悪所は裏の人間、ようするに悪党共の巣窟となっている。出所先の怪しい代物や禁制物、奴隷、果ては無頼者の貸し出しなど何でもござれなヤバい場所であった。

 だがそれ故に人の出入りが激しく、風体の怪しい者がいても誰も気には留めない。それが日常であり、下手な詮索をすれば死ぬだけだからだ。

 

 この悪所に、日本・扶桑の両国が少数かつ精鋭を送り込んでいた。

 日本国は既に帝都に菅原を始めとする文民達を送り込んでおり、その活動の支援をする為の活動拠点を確保しようとしていた。そのうちの一つとして、隠蔽率が高く金さえあれば大概の事が出来る悪所に拠点を置こうとしたのだ。

 

 扶桑国も同様である。日本へ協力しておけば協調関係も強まる。それに、日本でも最高戦力と謳われる特殊作戦群の能力を見ておきたかった。後は<帝国>は隣国(と言っても、日本国―アメリカのように遠く海を隔てているのだが)である。情報を集めておいて損は無いと考えていた。

 

 それ自体は別に問題無かった。だが日本側の予想を超え、扶桑国は過激だった。

 

 この時、悪所には四人の顔役、ゴンゾーリ、メデュサ、パラマウンテ、ベッサーラといった連中が鎬を削っていた。

 これらは今後の活動には邪魔である。悪は断つべし。故に、扶桑国は悪所で自由に動き回れるようにこの四人の顔役の排除を始めた。

 

 その一つ、ゴンゾーリの屋敷。

 悪所において権勢を誇り、毎日のように金、酒、女と人が思いつく限りの享楽を行い、贅を凝らした屋敷の中は一変していた。

 何時もの、楽師たちによる音楽や笑い声、矯声は無く。代わりに何かが割れるような音、にちゃりと粘りつく様な足音、そして呻き声に満ちていた。

 屋敷の中はどす黒い血に塗れ、辺りに両断された人の塊が散乱していた。

 

「こッ、降参する! だから、命だけは――」

 

 鉄臭い部屋の。人の身体と武器が散乱する血だまりの中で一人の男が青褪めた顔で命乞いをしていた。悪所の顔役の一人、ゴンゾーリであった。禿頭から脂汗をだらだらと流し、長年の享楽で肥した贅肉をプルプルと震わせている。豪奢な服は血を吸ってぐちゃぐちゃになっているが、気にも留めずただひたすら頭を下げ続ける。

 

 ゴンゾーリの前には、この屋敷を襲撃した濃紺の武者が佇んでいた。

 相州正宗であった。

 その仕手である綾弥は、蔑んだ目で目の前の男を見ていた。

 醜い。この街でも一等の悪党と聞いたが、これは違う。ただの畜生でしかない。だが、悪ならば断つべし。

 武者は、そのまま片手に持った太刀を横に払う。そして、土下座したままの顔役だった男の頭がぽとりと落ちた。残った胴体から壊れた水道管のように血を撒き散らし、濃紺の装甲にも飛び掛った。

 

<ふん、醜いものよ。それに、畜生の血で汚れてしまったではないか>

「……ああ」

 

 綾弥は太刀を血払いし、納刀。装甲を解除した。荘厳な武者は蒼髪の少女と天牛虫にと変わる。

 

「ほっほ、随分とまあ、暴れたものよぉ」

 

 そこに、しゃがれた老爺の声がかかった。現れたのは、忍び装束を纏い、笑みを浮かべた妙齢の女性。風魔であった。

 

「何しに来やがったんだ、てめぇは」

「ほっ、大鳥殿も排除を終え、自衛隊も成功させたのでな。各所の様子を見て回っているのだよ」

 

 ころころと笑いながら説明する風魔。

 

「しかしまあ、凄まじいものよ」

 

 風魔は部屋の中を見渡しながら、変わらない口調で言った。

 散乱した家具に武器。部屋中に転がるゴンゾーリらの死体。むせかえるような血と排泄物の臭い。 

 中々に地獄であると、風魔は笑う。

 

「だが、惜しいなァ」風魔は言った。「儂は悪所(ここ)を纏める頭領になる事が決まっておるのでのぅ。この屋敷は特に豪勢であったからここを拠点としようと思ったのだが。いやはや、これでは無理か?」

「……別に掃除すりゃいいだろ。それに他の屋敷かそこらのボロ屋でも良いじゃねぇか」

「ほっ。他の屋敷も此処と負けず劣らずな惨状なのでなァ。ベッサーラの所に関しては自衛隊に爆破されて瓦礫しか残っておらんわ。あと、ボロ屋では詰所代わりにもならん。となると、まず情報収集の前に屋敷の掃除からしなくてはならないとは。いやいや、雇われの悲しいところじゃのぅ」

 

 よく言う、と綾弥は悪態をついた。

 風魔が悪所の頭領になるのも、こういった裏に慣れているからである。それに定期的に報告さえすれば、悪所での売上は好きにして良いとなっている。

 貧民街とはいえ、此処はファルマート大陸を支配する<帝国>の帝都にある。当然、金の流れも大きい。その街を支配出来るとなれば、莫大な資金を手に入れられる事になる。

 それを考えれば、屋敷の掃除なんぞ大した手間では無いだろう。  

 

「だが、分かっているんだろうな。もし『悪』を為せば――」

「おお、怖い怖い。儂も不必要に締め上げる事はせんよ」

 

 再び剣呑な雰囲気となった綾弥と正宗に対し、おどけた口調で返す風魔。

 その姿に「チッ、相変わらずふざけた野郎だぜ」と綾弥は舌打ちする。そして踵を返し、正宗と共に屋敷を後にした。

 残った風魔は再び部屋を見渡す。

 

「さて、取り敢えずは掃除じゃの……」

 

 だが、と風魔は窓から外を見やった。

 

「相変わらずの方向音痴じゃな。今回は何日で戻ってこれるかのぉ……」

 

 既に仮拠点と真逆の方向へ向かっている綾弥と正宗。

「この道は違うぞ御堂!」と必死に叫ぶ正宗。

「うるせー! こっちであってんだよー!」と言い返してどんどん見当違いの方向へ進む綾弥。

 

 その様子を見て、風魔は呆れたようにため息をついた。

 

 

   ***

 

 

 街の外れにある、守人の工房。

 

「なぁんだかぁ、少し退屈ねぇ」

 

 守人が用意した焼菓子や茶を飲みながらロゥリィは呟いた。何時もならテュカやレレイの姿もあるのだが、テュカはユノら同郷のエルフ達と共に森の巡回。レレイは老賢者カトーと魔術の鍛錬に出ているためいなかった。

 そういう時は伊丹にちょっかい出す事もあるのだが、いま現在、伊丹ら第三偵察隊が第一偵察隊との交代で外務省の役人と共に帝都へ向かっていた。

 

「そう思うなら、儂の工房でだべっていないで巡回でもしてきたらどうだ?」

 

 作業台に乗せたハルバードの調整を行っていた守人が言う。時折、琥珀色の瞳をすぅっと細め、爪先で刃の具合を確かめていた。

 ロゥリィのハルバードは、「匠精」モーター・マブチスという特地では高名なドワーフが鍛えた逸品である。素材も神鉄と呼ばれる、これで鍛えたものは絶対に壊れないと言われている。

 そんなハルバードの調子がここ最近悪いと聞き、守人も今では鍛冶神ダンカンの使徒になった者の作を兼ねてより見たいと思っていたので、調整を引き受けたのだ。

 

「休憩中よぉ。それにぃ、ジエイタイやフソウ国の警備もいるしぃ、ミューティやウォルフ達も働いているからわたしぃが巡回しなくても大丈夫だものぉ」

 

 小物ばっかでつまらないしぃ、とロゥリィは呟く。

 

「仕方なかろう。金儲けの噂を聞いてやってきたら兵だけでなく、剣歯虎(サーベルタイガー)や翼竜までいる。そこにお主の事を聞いたら普通の奴ならばまず逃げるわ。残るのは馬鹿しかおらんよ」

 

 アルヌスの街は自衛隊に扶桑国の兵、それに雇われた傭兵が巡回しており、過剰なほどの戦力がある。

 最も、扶桑国行きの飛空船の護衛、帝都での活動、日本での外交と分散している為、当初より戦力は減っているが、盗賊共には何の慰めにもならなかった。

 

「おい、なんだこりゃ、何に使った? 最後に調整したのは何時だ?」

「炎龍にぶん投げた所為かしらぁ。調整はぁ、そうねぇ、モタに作ってもらってからわたしぃが手入れしているだけよぉ」

「馬鹿者、定期的にモタに頼んで調整はしろ。疲労が蓄積して刃と重心が僅かに歪んでおるわ。ほんに、馬鹿力で使いおって……」

 

 もちっと大事に使え、と守人はぶつくさと文句を呟きながら炉を開け、ふいごを踏み、骸炭(コークス)を大量に投入して鍛冶炉の火を強くする。炎龍素材を使用した炉は直ぐに高温となり、部屋の中の温度が急激に上がる。

 炉から離れている筈のロゥリィも、炉から漏れ出す熱気を受けて額に薄っすらと汗を浮かばせた。

 

「他人の作に手は入れたくないのじゃが、仕方ない。一度軽く火を入れて叩き直す」

 

 ハルバードに付けられた装飾を全て外し終えると、平然とした表情で守人は鍛冶炉を前に座りこみ、ハルバードを炉の中に突っ込む。

 赤熱し、ハルバードの刃が白く輝くようになると引っ張り出し、歪んだ箇所を鎚で叩き、修正していく。そして特殊な湧き水を貯めた水槽へと投入すると、中で刃身が暴れ、白い水蒸気が沸き上がる。そして直ぐにまた叩き、直していく。

 そして水砥でハルバードの刃先を研ぎ直すと装飾を付け直し、終了である。

 

「ほれ、これでいいじゃろ」

 

 ロゥリィはほのかに温かいハルバードを持ち、軽く素振りをしてみる。歪みが無くなった為か、前よりも軽く感じられる。弧を描く軌跡は思い通りに動かせられる。

 動作を行い終えると、満足げな表情で頷いた。 

 

「いいわぁ、すっごく良いわぁ。まるで新品みたいよぉ」

「そりゃ、元の造りが良かったからの。流石「匠精」の作というべきか、調整も楽だったよ」

 

 言いながら炉を閉めて火を小さくし、換気を始める。使った道具を丁寧に磨き、片付けに入っていた。

 

「そういえばぁ、ちょっと聞きたいんだけどぉ」ロゥリィが訊ねる。

「どうしてぇ、ハーディは<門>を開いたのかしらぁ?」

「退屈になったからじゃろ」

 

 ロゥリィの疑問に対し、あっさりと答える守人。それ以外何があるんだ、という様な口調だった。

 最後に<門>が開いたのは千年近く前の事。ロゥリィが生まれる前の事である。

 

「あの時の一件でハーディも懲りたらしいがの。まあ飽きっぽいハーディにしてはもった方じゃな」

「へぇ。その時は何処に繋いだのぉ?」

 

 何となく気になったロゥリィが訊ねると、守人は作業の手を止め、その顔をじっと見つめる。

 

「…………どうしても、聞きたいか?」

 

 片付け作業をピタリと止め、何時になく真剣な表情で守人が言った。その雰囲気に何か嫌な予感がしたが、ロゥリィは小さく頷いた。

 守人は目を瞑った。眉を揉む。暫くして軽く息を吐くと、口を開いた。

 

「昔、ハーディが<門>を開いた先が、何というか、昆虫の世界でな……」

「えっ?」

「人並みの大きさをした様々な虫が、<門>からウジャウジャと……」

 

 蜘蛛やら蜈蚣やら御器噛など。それが人並みの大きさで次々に出てくるのだ。その光景に流石のハーディも顔を青くし、速攻で<門>を閉めたのだがかなりの数が此方の世界へ入ってきてしまった。

 守人が<門>を開いて異形の生物を引き込んだ時の記憶がある為、人間だけでなく、あの時の様な被害を出さない様にと正神や亜神らが集まって駆除に当たったのだ。

 虫はさほど強くは無かったが、見た目が気持ち悪いうえに繁殖力は強いわ、潰した際の感触に背筋が寒くなるわ、体液が飛び散るわで精神的にやられる者が多かった。その為、当時を知る者達の間では二度と思い出さないよう禁句扱いになっている。

 

 そこまで聞いて、ロゥリィの顔はすっかり青褪めていた。カサカサと動き回る巨大なGを想像して気持ち悪くなったらしい。

 

「まあ、そのお陰でハーディが<門>をやたらめったら繋ぐ事もしなくなったし、今回は良い所に繋いでくれたよ」

「でもぉ、わたしたちぃの仕事はこの世界の調和を守るぅことよぉ? わたしたちぃは世界という樹の庭師。好ましからざるぅ枝や木の芽は刈り取らなければならないわぁ」

 

 ロゥリィの言う枝や木の芽とは知識や技術の事だ。この世界では調和が崩れないようにと(一部を除き)正神や亜神らが動き回っている。ロゥリィからすれば、今までの常識を覆す日本の知識や技術は好ましくはないのだ。

 

「ふむ」と、守人は顎を擦りながら、

「アイスクリーム」

「うっ」

「クレープ」

「ううっ」

「果物と生クリームがたっぷり乗った生ケーキ」

「うううッ!」

 

 日本から持ち込まれた甘味を思い浮かべ、葛藤する庭師。

 守人は棒読みで言い続ける。

 

「ああ、世界の調和を取るならこの甘味も食べられなくなるなー。あー、でもしょうがないよなー。世界の調和の為だもんなー」

「うううッ」と、ロゥリィは恨みがましそうな表情で守人を睨む。

「カカッ、悪い悪い」笑いながら守人は言う。 

「まあ、そこまで調和、調和と考えなくてもよいぞ、ロゥリィ。どの道、技術や知識がこの世界に馴染むには時間がかかるからの」

 

 自衛隊が使用している装備は、この世界の技術では生産は不可能である。

 例えば、ネジの大きさ、重さ、品質、精度。どれも同一の規格で作らなければならず、大量生産する為の機材が必要になる。そして工員の教育や知識も必要になる。

 それ程まで技術と知識が隔絶しており、真似も出来ない。作れても銃器としては初期となる燧石銃(フリントロック・ライフル)が良い所だ。これでも揃えるのに相当な金と時間がかかってしまう。

 ファルマート大陸から見れば扶桑国の知識や技術も好ましくはないが、これはある目的のために例外的に見られている。

 

「ま、調和だけでは意味が無いんじゃよ。調和が過ぎればそれは停滞となり、腐敗へと繋がる。世界という樹も腐ってしまう。<門>が繋がったのを枝を伸ばす時と考えるべきなんじゃよ」

 

 それに、と守人は少しばかり品の無い笑みを浮かべる。

 

「<門>が開かなければお主の良い人にも会えなかったじゃろ」

 

 それはまた違う話よぉ、とロゥリィは顔に朱を差して言い返す。

 反応が良いからなんかちょっと楽しい。

 

「もぅ、そろそろ仕事に戻るわぁ」とロゥリィは拗ねた口調で告げる。「ハルバード、有難うねぇ。お代はこれでいいかしらぁ?」

「ふむ、確かに」

 

 ロゥリィから代金を受け取り、退出した後、守人は一人思案する。

 

「しかしまあ、あの死神ロゥリィが此処まで変わるとはのぅ……」

 

 これが若さなのか、と守人はちょっとズレた感想を持った。 

 守人が出会ったのはまだロゥリィが亜神になったばかりの頃だ。しかも、盗賊共からエムロイへの〝喜捨〟を頂いている最中だった。まあ、そこからなんやかんやで暫く旅を一緒にしていたのだが、その時から物騒な噂や逸話が多くあった。

 その所為なのか、今まで誰かに執着せず、眷属も持とうとはしなかった。それが、此処にきて一人の人間に執着するようになった。

 良い事だ。これで眷属も持ったら安心できる。これから永い時を過ごすには、後にそういった思い出が必要となって来るのだ。

 

 まあ、それはさておき。

 

「日本、帝国、扶桑、そしてハーディ。色々とあるが、どうなることやら……」

 

 この発言でフラグが立ったのか、これより守人の予想を超えた出来事が起きることとなる。

 


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