GATE×オリ主&オリ国家   作:オシドリ

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第22話

「で、どういう事だ?」

 

 アルヌスの、自衛隊本部にある会議室。

 そこは重苦しい空気に包まれていた。

 帝都で問題を起こした伊丹、そして大鳥とさよ、綾弥、正宗。

 

 着席した面々を前に、上座に座る守人は明らかな怒気を滲ませて訊ねた。

 傍から見れば、守人はいつも通りに微笑を浮かべている。だが目はハイライトが消えていて、笑っていない。それが恐ろしかった。

 

「えーと、その、陸将は……」

 

 恐る恐る、といった声で伊丹が訊ねる。背中から脂汗が止まらなかった。

 

「くっくっく。狭間陸将と菊池大使は今後の対策で手一杯でな。拉致被害者の事、帝都元老院への爆撃、そして皇子への暴行という大暴れで忙しくてなァ」

 

 答えるのは柳田二尉。ただ、非常に平坦な声で、顔には虚ろな笑みが浮かんでいた。このクソ忙しい中で、超ド級の問題が発生したら誰だってこうなる。

 

「えー、何処から何処まで話せばよろしいでしょうか?」

 

 大鳥が訊ねた。流石に少し顔色が悪かった。近くには憮然とした表情の綾弥がいた。

 事の発端の原因であり、また奴隷全員を連れて帰って来た張本人であった為に既に周りから小言を散々言われていたのだ。

 

「一から十まで全部だ。馬鹿者」

 

 さて、大鳥から詳しい内容を聞いたのだが。

 聞き終えた守人は苦虫を噛みつぶしたような顔に変わった。柳田は頭痛がするのか、蟀谷を抑えていた。

 

 明らかに暴れ過ぎである。

 皇帝の面前で皇子を殴り飛ばし、取り巻きを虐殺。そして皇子を不能にして皇子の財産である奴隷を全員連れて帰って来た。

 ここまで進めて来た講和交渉が、全部お釈迦になるかもしれない。しかもその原因が扶桑国の武者である。

 

「まあ、やっちまったもんは仕方ないの」

「そうですね」

 

 二人はあっさりと切り替える。重苦しい雰囲気が一気に消え去った。

 思わず拍子抜けする面々。自分達がやらかした事なのだが、「それでいいのか?」と思ってしまう。

 

「良いも悪いも何も、時間は巻き戻せん。今回の騒動は自国民の救助のため戦闘になった。それだけじゃな」

 

 そう言うしかないのだ。こちらが謝罪して相手に外交的有利を与えても駄目である。

 <帝国>の出方次第になるが、両国ともにうやむやの内に話を終わらせる気であった。

 

「いやァ、<帝国>が消えれば今の面倒な仕事も無くなるんですがねぇ」

 

 あっはっは、と嗤う柳田。イイ感じに壊れていた。

 これはいかんな、と守人が全員分の薬草茶を淹れてやり、差し出した。

 

「ああ、どうも。最近、この茶を飲んでいると妙に気分が良くなるんですよ。あっはっは」

「お主はとりあえず落ち着け」

 

 

 暫しの休憩。

 

 

「さて、冗談は置いといて」回復した柳田が言う。

「確かに、<帝国>の皇子と戦闘になったのは拙い。だが拉致被害者の救助の為となればある程度仕方なしという部分も出てくる。こちらの体面もあるしな。ま、上の方々からのお叱りの言葉ぐらいは甘んじて受けるんだな」

 

 陰気な面であったが、どこか楽しげな声音であった。

 そもそも、講和交渉は内閣、および外務省の主導だ。責任を被るとしてもあちらか、自衛隊の上層部である。

 体面を気にする上の人達が馬鹿正直に今回の一件を公表する筈も無く、「拉致被害者を救助する際に<帝国>の兵と戦闘となった」とだけ公表されるだろう。

 それに、先に動いたのは扶桑国であり、日本と<帝国>は未だ休戦をしていない。自国の民が不当に囚われている以上、敵国の兵と戦闘になっても仕方がない。そう言い張れる。

 

 要するに、自分に全く責任が無いのが分かったから「別にいいや」になった訳である。ついでに上の連中の席が空けば自分の出世もそれだけ早くなる。柳田的には万々歳な訳だ。

 

 そういった事情も露骨に出されて伊丹は嫌な顔になるが、まあ自分もお叱り程度で済むのだ。なら別に良いか、と早速だらけていた。

 

「扶桑国も同様じゃな。お主らは菊池から正式な沙汰が出るまで謹慎な」

 

 仕方ありませんわね、と頷く大鳥とさよ。綾弥はしぶしぶといった表情で頷く。

 

「で、連れ帰って来た彼女らの事だが」

 

 瞬間、部屋の雰囲気が引き締まり、誰もが真剣な表情へと変わる。

 

「かなり手荒に扱われていたようじゃの。衰弱している者もおるが、まあ安静にしておれば身体は治るとの事だ」

「そうか。じゃあ、退院したら彼女らの故郷に帰してやらないとな」

 

 輸送ヘリの中で彼女らの境遇などは聞いており、多くは無理やり拉致されたらしく、故郷に帰りたいと願っていた。

 

「それは無理じゃな」守人が言った。「あの者らの故郷が既に無い」

「……どういう事ですか?」

「言葉通りじゃよ。彼女らの故郷は帝国に攻められて滅んでおる。親族の生死は不明。またヴォ―リアバニーの女子はどうも事情が込み入っているようでな」

「あん? どういう事だ?」

 

 綾弥が訊ねる。テュ―レと名乗った白いヴォ―リアバニーの女性は「殿下の元に帰らないと」や「部族の未来が」と叫び、ヘリの中でも暴れたのだ。そのため、さよが侍従の嗜みとして持っていた鎮静剤を打たれて眠らされたので伊丹らは詳しい事は知らないのだ。

 

「街にいた同族の者に確認させたんじゃが、いきなり飛びかかって殺そうとするからちと大変でな。曰く、あの女子はヴォ―リアバニーの族長で、同胞を帝国に売り、国を滅ぼした裏切者。じゃが、本人に確認すれば自らを捧げる代わりに国と一族に手を出さないという契約を皇子と交わしたそうじゃ。で、その族長らしい女子は嘘をついていない。

 つまり、皇子が契約を破ってヴォ―リアバニーの一族を滅ぼした挙句、族長に全ての罪をおっ被せた、という事じゃな」

 

 そこまで聞いて、綾弥は舌打ちした。見れば大鳥もやや眉を顰め、伊丹も絶句した表情になっていた。

 

「……そういう事かよ。やっぱりあの糞野郎、殺しておけばよかったぜ」吐き捨てる様に綾弥が言った。

「もう既に死んでいるようなもんじゃがの。あとは岡部家の遺児と日本人の女子じゃが、彼女らも、な」

 

 その言葉に伊丹は引っ掛かりを覚えた。守人に代わり、さよが詳しい説明を行う。

 

「伊丹様、僭越ながらこの老婆が説明しましょう。まず、岡部家でございますが、彼の家は武家の中でも名門の血筋でした。ですが先年、当主の岡部頼綱様を含め、暗殺されているのです」

「暗殺?」

「はい。岡部家の屋敷は火災によって焼失しており、焼け跡から頼綱様が首無しの遺体となって発見されました。そして頼綱様には子が三人おりました。そのうち、嫡男は当主と共に遺体で見つかっております。ですが残る二人、桜子様と妾の子の行方が分からずにいたのです」

 

 だが、今回の一件でその内の一人が、ここ、ファルマート大陸で見つかった。それが問題だった。

 守人が話を引き継ぐ。

 

「岡部家は名門であった為、複数の劔冑を所持していたのじゃが、その内の一領、黒瀬童子が紛失している。焼け跡には残っていなかったから、恐らくは二人のどちらかが持ち去ったと考えられておる。劔冑は稀少で、強力な兵器だ。じゃから、国内では二人の捜索が続いていたんじゃが……」

 

 桜子がファルマート大陸に居たとなれば、妾の子もこの大陸にいる可能性がある。これについて桜子に問い合わせたが、一人船に監禁されて運ばれた為に所在は事は知らないという。

 

 未だその妾の子が生きており、劔冑を所持していれば良い。だが、既に死亡しており、劔冑が誰かの手に渡っているとなれば最悪である。

 劔冑は強力な兵器である。例え一領でも軍勢を滅ぼせるだけの戦力がある。しかも操作自体はそこまで難しくは無いのだ。

 唯でさえ<帝国>の権威の源だった軍勢は壊滅しており、連合諸王国軍も損害を出している状況だ。ここで国家なり、盗賊なりの手に渡り、調子に乗って戦乱でも起こされたら堪らない。

 今までの<帝国>の所業もあって戦争に歯止めが効かなくなるのだ。

 

「……暗殺を行った犯人は、判明しているので?」

 

 顔色が悪くなった伊丹が訊ねると、守人は小さく頷いた。

 

「なら、その犯人に詳しい事は聞けたりは出来ないのですか?」

「それは無理じゃな」守人が言った。「暗殺を行った奴は既に粛清されておる」

 

 沈黙が下りる。つまり、恐らくは黒瀬童子を所持しているだろう者が何処にいるのか、誰にも分からないのだ。

 

「ともかく、探索を増やし、詳しい事は扶桑国で調べんと分からん、という事じゃな」

 

 そこで守人は柳田の方を見やった。柳田は小さく頷き、喋り始めた。

 

「望月紀子については調べがついた。銀座で彼氏と共に行方不明になって捜索願が出されていた。そして彼女の家族だが、あの事件の際、銀座で情報提供を呼び掛けるビラを配っていたそうだ」

 

 その言葉に伊丹はまた呻く。

 

「医官とカウンセラーが時期を見計らって詳細を告げようとしている。だから、今は何も言うなよ?」

 

 一通り話が終わったところで、気落ちした表情のまま伊丹と綾弥、大鳥らは退席していった。 

 

「……問題が次から次と起きますねぇ。ま、今回の一件である程度は譲歩させられても、このまま講和できるのが救いでしょうか」

 

 最も皇太子に近いとされたゾルザルの評判は壊滅的な程に低い。風魔から寄越されたゾルザルについての報告書にも「無能」とこき下ろされており、皇帝の長子で軽い神輿としての価値があるから何とかなっている状況だった。

 

 そして今回の一件で、ゾルザルは完全に価値が無くなり、見捨てられることになった。

 

 何せ、<帝国>の権威の象徴だった元老院議事堂は航空自衛隊によって爆撃され、瓦礫の山に変わった。

 ゾルザルは取り巻き全員が死亡し、不能になる所を皇帝だけでなく、大臣や将軍らにも見られてしまった。

 

 何より、ピニャが報告した日本国、そして扶桑国の存在が不味かった。

 にわかに信じられないが、日本は<帝国>よりも遥かに強大な国家であり、自衛隊と呼ばれる軍の兵一人一人が銃と呼ばれる遥か遠くから打ち倒せる威力を持つ兵器を所持している。

 事実、<帝国>は総兵力の六割が消え、連合諸王国軍も壊滅している。そして銃を扱った講和派の議員の証言もあって、真実であると裏付けられた。

 

 そして、扶桑国。彼の国の輸出品は品質が良く、<帝国>富裕層に垂涎の的であった。最近では出回る品数が多くなったが、それは日本国と扶桑国が協力するようになったため。更に、アルヌスの丘には扶桑国の正神が逗留していると聞かされ、議員達は地震の事もあって「神の怒りを買ったんだ!」と戦々恐々としてしまった。

 

 その発端となったと思われるのが、ゾルザルの奴隷として両国の女性がいたから。しかも、一人は貴族であったという。そうと分かれば、誰だって近付きたくもないのだ。

 

 結果オーライではあるが、これで強硬派は担ぎ上げる御旗が無くなった。

 残っている有力な皇位継承者は元老院派のディアボと、講和派のピニャ。元老院の面々は講和に前向きであるため、このまま講和派に同調していくと考えられた。

 

(ああ、でも皇子が何かしでかす可能性があるが……)

 

 いや、考え過ぎか。幾ら騒ぎ立てても皇子にはもう求心力が無い。 

 既に廃嫡の方向で進んでいるとの噂もあった。皇子自身は居館にて治療を受けているため面会謝絶となっているが、周辺に皇帝の意向を受けた近衛兵が配置されるなど事実上の謹慎であった。

 また<帝国>は総兵力の六割が消え、連合諸王国軍も壊滅している。戦力が無い。大陸の覇者である<帝国>が日本国に大敗したまま講和すれば面子が大いに傷付くが、現状ではどうしようもないのだ。

 

 急に黙り込んだ守人に対し、柳田は怪訝な表情を浮かべた。だが、「いや、何でもない」という守人の言葉を聞き、そのまま話を続ける。

 

「一応、監視だけは続けておきましょう。あとは、最近アルヌスの丘にやって来たダークエルフの女性の事ですが」

「ああ、彼女か」

 

 最近、アルヌスの街へヤオ・ハー・デュッシと名乗るダークエルフがやって来たのだが、現在、アルヌス内でも有名人になっていた。 

 確かに、エルフが森を離れて、しかも遠くの街に来ることは滅多に無いので珍しい事なのだが、アルヌスにはそれ以上に濃い面子が揃っている為、これだけでは有名人にはなれない。

 ヤオの名が知れ渡っているのは、彼女の望みにあった。

 曰く、故郷、エルベ藩王国のシュワルツの森に現れた二頭の新生龍を討伐して欲しい。既に何人ものの同胞が龍に食われてしまっており、このアルヌスの丘に異国の正神と炎龍を討伐した者がいる噂を聞きつけてやって来たのだという。

 勿論タダでは無く、望みを叶えてくれるのなら一族の宝物である頭大はある金剛石(ダイヤモンド)の原石と己の身を捧げる、と宣言したからだ。

 

「一応聞くが、自衛隊は出せるかの?」

「難しいですね。確か、ヤオと言いましたか? 彼女の出した金剛石(ダイヤモンド)の塊は惜しいですが、<帝国>の外で軍事行動となれば色々と批判は免れませんので」

 

 エルベ藩王国は地下資源が豊富な国である。扶桑国が提出した資源分布図でもエルベ藩王国には集中して資源が存在しており、国と交渉して採掘権を入手しようとしていた。

 だがエルベ藩王国は連合諸王国軍に参加していた為、日本とは敵対関係にある。そして軍の再編やら国王の交代やらで混乱しており、とても交渉できるような状況では無かった。

 かといって、無断で軍が越境する事は即ち宣戦布告である。

 また、日本政府内でもアメリカ、中国の工作で犬猿の仲である親米派と親中派の対立が深刻化しており、ここで資源を得る為に自衛隊を動かせば両派からの攻撃材料となってしまう。

 まあ、エルベ藩王国から直々の要請があれば話は別だが、そんな都合の良い話はないものだ。

 

「……まあ、どうにかしてやるかの」

 

 どうせ綾弥や大鳥あたりが聞けば、人助けなり暇潰しなりの理由で嬉々として新生龍の討伐に行くだろう。

 

「おや、優しいのですね」どこか皮肉交じりに柳田が言った。「その優しさを我々にも恵んでくれませんかね?」

「あん?」

 

 守人が怪訝な表情を浮かべると、柳田は厭らしい笑みを浮かべて言った。

 

「飛空船、くれません?」

「無理に決まっておるじゃろうが。それに、あれはお主らの世界じゃ不要じゃろ」

「いえいえ。素材の方は幾らか購入させていただきましたが、飛空船に使われている技術は我が国には無いのですよ」

「成程な。じゃが、無理なものは無理じゃな」

 

 あれは国の持ち物だし、儂に言われても困ると守人は告げる。

 流石に無理か、と柳田は内心ごちる。だが、本命はちょっと違うものである。

 

「では、扶桑国の持つ熱量変換型の推進器や再生医療技術。これらを技術交流の一環で見る事は出来ませんか?」

 

 これに守人は一瞬、片眉を痙攣させた。

 推進器は劔冑や飛空船の動力を見れば分かるだろうが、再生医療をどこで聞いたのか。あれは扶桑国内でも一般にはあまり知られていない技術である。

 聞いてみれば、どうやら扶桑国の武者から酒の席などで地道に聞き出したらしい。

 バラしたの伊達(アイツ)か、と守人の脳裏に口の軽い眼帯を付けた坊主頭の青年が浮かんだ。後で〆る。

 

「そちらも無理じゃな。推進器の構造は迂闊には見せられんし、再生医療技術はお主らの言う人道的見地に引っ掛かるからの。お主らの防諜体制が完璧で、かつ信頼できる者しかいないというなら話は別だが」

 

 そう言われると、柳田も反論しづらい。だが、国益と自身の栄達にも関わるのだ。ここで引き下がる訳にもいかなかった。

 

 ですが、と柳田が言葉にしようとした瞬間。

 突如、警報が喧しく鳴り響く。敵襲だ、という声があった。即座に廊下からは軍靴と声が聞こえてきた。

 柳田も失礼します、と一言置いて足早に退室していった。

 

 守人も、窓際まで歩いて外を見やった。

 そこから見えたのは、未だ遠くの空にある、こちらにやって来る黒点のような群れ。

 

「……わざわざ討伐しに行く手間が省けたの」

 

 先頭を飛ぶのは、赤と黒の二頭の新生龍。そして、空を覆いつくさんばかりの、大量の竜種による襲撃であった。




2017/1/25 文章の加筆・修正を行いました。

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