GATE×オリ主&オリ国家   作:オシドリ

30 / 35
短いですが、楽しんで頂ければ幸いです。


第28話

 <帝国>帝都。

 

 空自の爆撃によって瓦礫の山になった元老院議事堂跡地にて、元老院議員達は日本に対する今後の対応で揉めていた。

 

「貴様らは腰抜けかッ! それでも栄えある帝国の貴族かッ!」

「戦争馬鹿は黙っておれッ! 見栄で国を滅ぼす事になったらどうするのだッ!」

 

 いや、もはや論戦ですら無かった。全く議論は進んでおらず、ただお互いに自分の感情とぶつけ合う意味の無い怒鳴り合いでしかない。

 強硬派は、日本と和平を結ぶにしても、このままでは<帝国>の威信を損ねるとして何かしらの勝利を得なければならないと主張。

 講和派は、日本との差は歴然。賠償内容も今後の協議の結果次第では軽くなる。今直ぐに講和交渉を行い、日本を刺激してはならないと主張していた。

 共通しているのは、どちらも日本とは最終的に講和をするべきと考えていた。だが、その過程が食い違っている為にいたずらに時間ばかりを費やしていた。

 

「貴様らそれでも男か! 股間にある逸物は飾りかッ!」

「もはや使い物にならんものをぶら下げている禿ジジイに言われたくないわッ!」

「(下らない……)」

 

 今、やり合っている議員らは長い事元老院に勤めているだけあり、実に豊かな知性と教養の高さを感じられるな、とピニャは内心皮肉る。

 

 そもそも、なぜこの場に居なくてはいけないのだろうか?

 二ホンとフソウ国について詳しい説明を求められ、実際に見聞きした事を話し、二ホンから貰った捕虜の名簿だって見せたのだ。それで阿鼻叫喚し、また一喜一憂する議員らが続出したが、求められた事を果たしただけである。

 もう帰って良いだろう。帰らしてくれ。私だって色々と忙しいんだから。

 そう言いたいのだが、更にヒートアップした罵り合いにピニャは割り込める筈も無く、ただため息をついて無意味に時間を過ごすしかなかった。

 

 ピニャと同じ、凄まじく下品で無意味な罵り合いを見せられている議員らは、思わず視線を上座にいる皇帝モルトと、その両端に座るディアボとピニャの二人に見やった。

 モルトは玉座に深く座り、目を伏したまま微動だにしない。ディアボは何かまた深く考えこんでいるようだ。

 そして、ピニャ。

 以前までは、ピニャは<帝国>第三皇女という地位の所為か気位が高く、辛辣な台詞を吐く事から男性からは恐ろしく嫌われていた。

 だが、イタリカ防衛戦での初陣と、そこで見た日本の自衛隊と扶桑国の劔冑の精強さ、そして日本の発展ぶりを見てからはそれを改め、普段の振る舞いにも女性らしい柔らかさが出ていた。

 まあ、丸くなったピニャを侮って話しかけ、返り討ちに遭う者もいるが、その地位と比類なき芸術品と称えられた美貌から、やはり人気は出てくる。

 

 ピニャは常日頃から騎士団の者と訓練に励んでいるが、肢体は柳腰で女性らしい丸みが全く損なわれていない。燃える様な朱色の髪。日焼けしていない白磁の肌に、優美な顔立ち。今は憂鬱げに顔を傾け、伏し目がちの赤い瞳の上では長い睫毛が震えていた。

 その姿はまるで一個の芸術品のようだ。<帝国>の将来を憂いているようで、年甲斐も無く顔を赤らめ、魅入ってしまう者も出ていた。

 

 ……まあ、<帝国>云々の下りはおっさん共の妄想に過ぎないのだが。

 

「(ああ、早く帰りたい……。そしたら、リサ殿厳選の至高の芸術(BL同人誌)を見れるというのに……!)」

 

 ピニャは<帝国>を憂いているのではなく、単にお預け食らって不貞腐れているだけだった。

 今回の梨紗の作品は守人も協力したという力作であり、是非楽しんでほしい、とこちらの言葉で書かれた手紙まで送られていたのだ。ピニャはこれを非常に楽しみにしていたのだ。

 

 その筈だったのに。

 ピニャは上を見た。そこには精緻な模様が刻まれていた天井があったが、今ではぽっかりと青い空が写り込んでいた。

 この苦行から解放されるまで、まだまだ時間は掛かるようである。 

 

「早く終わらないかなぁ……」

 

 そうぼやく本人が知らぬ間に、ピニャは<帝国>内での人気が高まりつつあった。

 

 

   ***

  

 

 ここの個室に入院している患者の一人、ヴォ―リアバニーのテューレはベットの上でただぼぅ、と窓から見える外の景色を眺めていた。碌に食事も取らず、点滴を受けている為にしなやかな肢体はやせ細っており、その顔に生気は無かった。まるで人形の様だった。診察の時になっても、先の戦いで負傷者が多数発生し、施設内が俄かに騒がしくなっても彼女は変わらず、ずっと外の景色を眺めて続けている。

 

 彼女がずっと頭の中で考えているのは、正神である守人から知らされた内容と、同族の戦士だったデリラに会った時の事ばかりである。

 その時に言われた言葉が、グルグルとテューレの頭の中を駆け巡っていた。

 

『裏切者め! 殺してやる!!』

 

 ――なぜ、私を殺そうとする? デリラ、なぜそんなに私を憎んでいるの?

 

『先に言っておく。お主の一族と国は、もう無い。<帝国>によって奴隷として捕らえられるか、抵抗する者は討ち取られたそうじゃ。先の者は、その生き残りじゃ』

 

 ――あなたは、何を言っているの? そんな筈は無いわ。だって、あの時、皇子と契約した筈だもの。

 

 ヴォ―リアバニーは、ファルマート大陸の東北域にある平原に原始的で小さな部族国家を築いていた。

 彼女らは人の眼から見れば特殊な種族で、多産であるが男は滅多に生まれず女ばかり。男が稀少なため、他の種族で気に入った者と交わり子を成し、そして常に同族間で闘争に明け暮れていた。

 テューレは、その族長だった。絶対的な権力を持つ女王であり、同族の男女から生まれた純潔種である。

 彼女らはテューレの下、変わらない日常を送っていたのだ。

 

 しかし3年前、突如として<帝国>が奴隷狩りとしてヴォ―ニアバニーの王国へ攻めてきた。ゾルザルがヴォ―ニアバニーは淫乱で美女が多いと聞いたから、という理由だった。

 普段から同族同士で闘争に明け暮れている彼女らは精強で、最初は<帝国>の大軍を翻弄していた。だが、それが限界だった。<帝国>は物量差で押し始め、幾ら精強なヴォ―ニアバニーの戦士といえども疲労が溜まり、討ち取られ始めていった。

 日に日に討ち取られ、奴隷として捕らえられていく戦士達を見てテューレは悩み、そして決断した。

 我が身をゾルザルへ差し出す代わりに、王国と一族に手を出さない様にて申し出たのだ。

 ゾルザルは鷹揚にそれを受け入れた。以来、テューレはゾルザルの奴隷として屈辱に塗れながらも、一族の為にと耐えていたのだ。

 

 ――だから、故郷が、一族が滅んだ筈が無いの。

 

『嘘だ! アンタは、自分だけ助かる為に、アタイらを捨てて逃げ出したんだ!』

 

 違う! 私は、一族の為と思って――、

 

『アタイらは<帝国>のクソ野郎共相手に誇り高く戦った! あの時、アンタが死ぬまで戦えと言えばそうした! アンタが一族を守りたいと言えば、アンタと護衛や子供達を逃がすだけの時間は稼いだ! だけどアンタは何も言わずに勝手に居なくなった!

 アンタは、アタイらの誇りを踏みにじったのさッ!』

 

 違うッ!! 私は、そんな事は――、 

 

『<帝国>は約束を守る気は無かったんじゃろうな。お主は奴らの思惑通りに動いてしまった。結果、お主は同族から裏切者として追われる身になった』

 

 そんな、では、私は、何のために――、

 

『――たかったなら、一族を救いたかったなら、なんで、なんでアタイらをもっと信用してくれなかったのさぁ!?

 答えろ、テューレ!』

 

 泣き叫ぶデリラに、テューレは茫然とした表情で何も言えなかった。

 そして、違う場面に切り変わる。

 

『お主は、これからどうしたい?』

 

 ――どうしたい、とは?

 

『お主と一緒に救助された彼女らは、ここの分社で神官見習いとなる。そこで一からやり直すそうじゃ』

 

 ――やり直す?

 

『そう。ここに建てた分社も人手が足らんのでな。神殿に入っていれば<帝国>も手出しはせん。きっと穏やかな人生を送れるじゃろう。働いて、好いた男と一緒になり、子を設け、共に老いていく。そんな人生じゃな』

 

 これは、甘い誘惑だ。だけど、それはまだ選べない。

 気が付けば、首を横に振ってやりたい事がある、と言っていた。

 

『……成程の。では、もう一度聞こう。お主は、何がしたい?』

 

 ――そう言われた時、何て答えたんだっけ?

 

「復讐、そう、復讐……」

 

 呟いたと同時に、心の奥底から何かが込み上がってきた。

 そうだ、復讐だ。

 私の父母、弟を殺し、我が一族を滅ぼし、王国を滅ぼした<帝国>に、ゾルザルに復讐を!

 それが、ヴォ―ニアバニーの最後の女王、テューレのけじめだ。

 そして、全てが終わったら――、

 

 テューレは気が付けば、入院してから久しぶりに表情が動いた。

 その顔には、仄暗い笑みが浮かんでいた。

 

 

 ゾルザルは一人、居館の一室に籠っていた。豪華な造りの室内の窓は全て閉められ、黒いカーテンで日の光が入らず、暗闇となっていた。その中で唯一人、布団を被り、ベットの上で蹲っていた。鍛えられた身体はあの時より一回りは萎んでいて、ただ身体を震わせている。

 周りには誰もいない。

 何時もなら閨を共にする女奴隷共は居ない。あの日に全員連れ去られてしまった。

 共にバカ騒ぎして酒を飲み、共に訓練に励み、共に戦場を駆け回った取り巻き(戦友)はいない。皆、あの日に死んだ。

 居館内にいるのは老いた執事と侍女、それも館内を維持できる最低限の人数のみ。あとは皇帝の意向を受けて警備する近衛兵が巡回していた。

 明かりをつければ、己の惨めな姿を見てしまう。だから付けない。

 外に出れば、己の知らない兵や侍女から「種無し」「本当の無能」「価値無し」と嘲りを受ける。

 

 何故、こんな目に合わなければならんのだ。俺が何をしたというのだ。俺は何もしていないというのに。

 ただひたすら俺は悪くないと、ゾルザルは呟いていた。

 

 そんな時である。

 部屋の天井から、轟音が起きた。

 

<呵! 呵! 呵呵呵呵呵ッ!>

  

 瓦礫が落ち、粉塵が舞い上がる中、奇妙に粘っこい大笑いが暗闇の中に響いた。

 

「なッ、なんだ! いったい何なのだッ!?」

 

 ゾルザルは突如起きた出来事に怯えながらも誰何する。

 声の主は告げた。

 

<復讐、したくないか?>

「…………なに?」

<呵呵ッ、復讐よ。己を見下した者共に、復讐したくないか?>

 

 再び大笑いが響き、そしてニッカリ、と笑う顔がゾルザルの目の前に映った。

 

 暗転。そして、景色が変わる。

 

 皇城ウラ・ビアンカを背にして立つのは栄えある<帝国>皇帝ゾルザル・エル・カエサル。その屈強な身体に匠精が丹念に造り上げた豪奢な鎧を身に纏い、古代龍をも打ち倒せる長剣を佩く全世界の覇者である。

 開かれた門の先から見える広場には幾万もの黒い人だかり。周りには<帝国>旗を持つ近衛兵が整然と並んでいる。それは誰かの登場を待っているようだった。

 ゾルザルは、茫然とした表情のまま前に出る。雲一つない青空。陽光が降り注ぎ、ゾルザルを祝福するかのように照らす。姿を見せれば、屈強な兵士たちが、元老院議員たちが、属国の王たちが、絶世の美女らが、この世に存在する神々が、誰もが一斉に己を前にして首を垂れる。

 

「皇帝陛下。どうか我らにお言葉をお願い致します」

 

 ゾルザルの足元に傅いた白兎の様な美女が言った。テューレだ。あの時と違い、その滑らかな肢体に極薄の衣装を身に纏い、着飾った美しい姿。

 

「テューレ……?_いや、俺が、皇帝……?」

「はい。貴方様は偉大なる皇帝です。凡人には成し遂げられなかった世界を統一し、更には神々からの祝福を受けた偉大なる御方。<帝国>の繁栄を約束した貴方様は力強く凛々しく、その颯爽とした振る舞い、誰もが見惚れております……」

 

 見上げるテューレの陶酔した表情に、ゾルザルは一瞬、何も言えなかった。だが、直ぐに思い出した(・・・・・)

 ああ、そうだった。そうだ、俺は英雄。歴代の皇帝も、父上ですら成しえなかった<帝国>による世界統一をした偉大なる存在。神々からも認められた唯一無二の存在なのだ。

 

「ですが、貴方様を理解せず、未だ刃向かう存在がおります。これより、その征伐に向かうのです」

 

 そうだ、これより我らに歯向かう者共を処罰しなければならない。己に恥辱をかかせた奴らに、正義の鉄槌を下さなければならない。

 ゾルザルは長剣を抜き去り、空高く掲げる。陽光を反射し、眩い光を放つ。

 

「いざ、出陣なりッ!」

 

 剣が空を切り裂くと同時に、天を轟かせんとする歓声が沸き起こる。

 

「皇帝陛下、万歳!」

「偉大なる我らが王、万歳!」

「刃向かう愚か者に鉄槌を!」

 

 その姿に、ゾルザルは満足げに頷いていた……

 

 

<――こうも我が陰義に引っ掛かるとは。いやはや、確かに無能と言われるだけはある。

 だが、これで帯刀の儀は成った。よろしく頼むぞ、御堂よ。

 呵! 呵! 呵呵呵呵呵ッ!>

 

 声の主が再び奇妙な大笑いが響いた。

 だが、虚空に向かって壊れた笑みを浮かべ、既に自分の世界に入ってしまったゾルザルの耳にはもう聞こえなかった。

 

 そして、<帝国>皇帝モルトがディアボの立太子を決めたと公表したこの日、ゾルザルは館内の侍従と包囲していた近衛兵を全員惨殺し、行方を晦ました。

 




活動報告に今後について書きましたので、興味ある方は是非ご覧になってください。

 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。