やはり俺のソロキャンプはまちがっている。   作:Grooki

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その23:深夜の比企谷八幡にワイルドな夜食を。(コンビーフ缶)

 

 … … ハラ減った…。

 

 両親の帰りが遅いので、夕飯を適当に済ませてたのがいけなかったか。

 

 今日も今日とてネットの海でソロキャンプの記事や動画をチェックして、料理の画像ばっかり観てたら、深夜に急に空腹感を覚えた。

 

 つうかこんな時間にそんなの観てる俺が悪い。ソロキャンプ動画共通のヤマ場なんだよな、料理作って食ってる場面って。しかもどれも男子の空きっ腹を直撃するメニュー。

 

 …などと言ってると、まるで終日(ひねもす)のたりのたりやってるように感じるかも知れませんがね。これで最近マジ忙しかったんですよ。文化祭とか体育祭とかあったし。修学旅行も控えてるし。時間を割かれるイベントの連続のせいか、授業もなんか詰め詰めな感じだし。そりゃあもう大変なんですよ、えぇ。

 

 けれどもそれは別の物語。まぁ、そのうち適当に、別のときにはなすことにしよう。

 

 で、何が言いたいかって。

 

 まぁほら、アレですよ。日中(つら)くて忙しい仕事ばっかだと(かえ)って家ではラノベとかアニメ録画とか時間を忘れて読んだり観たりしちゃうでしょ?二次元行きたくなるでしょ?みゃーもり嫁にしたいでしょ?俺は絵麻たんと並んでエンジェル体操したい派だけど。

 

 まぁ、そういう感じになるでしょ?

 

 …その感じにかまけて遅くまで起きてるからこうなる…。

 

 こりゃ、なんか腹に入れとかないと眠れんな…。

 

 台所に行って、冷蔵庫を(あさ)るが、すぐに食えそうなものはなかった。

 

 袋ラーメンのストックもちょうど切れていた。おのれ…。

 

 食うものが見つからないと、加速度的に空腹感が高まる。

 

 いや厳密に言えば、すぐ食えるものは、あるにはある。アルファ米とか。

 

 でもなぁ…一応非常用だし、開けるのもったいないしなぁ…高いし。

 

 カロリーだけで言えばマッ缶もレーション(軍事糧食)推薦できるレベルだが…やはり固形物が食べたい。

 

 こないだ玄関脇に設けていた食料ストッカーも(のぞ)いてみた。

 

 まぁ、こっちは親が買いおきしてるものだ。一個くらいちょろまかしてもいいだろう。

 

 いくつかオカズになりそうな缶詰がある中、妙に目立つ奴がいた。

 

 コンビーフの缶だった。他の缶詰は2〜3個ずつ保管されている中、まるでお試しで買ってきたかのように、それは一個だけ、ストック箱の片隅に追いやられていたのだ。

 

 クラシックな牛の絵の上に、ノザ●、とローマ字筆記体で書いてある。聞いたことない名前だな。コンビーフ業界では有名なんだろうか。

 

 …そういや、これってどうやって食えばいいんだろうな…?

 

 なんかアメリカっぽい名前の響きで、牛肉の細かいのがみっちり詰まってる、くらいの知識しかなく、どんな味か、どんな食い方ができるのか、全然知らなかった。

 

 なんとなく手にとって、自室のPCで軽く調べてみた。

 

 画像検索で見てみると、まー出てくる出てくる。

 

 パンに挟んだりチャーハンの具にしたり、ハンバーグもどきにしてみたり、パスタに()えてみたり。

 

 なるほど、肉のツナ缶みたいなもんだな…。ツナよりももっと細かくほぐされてるようだが。

 

 塩辛い、という意見もあったので、あらかじめ味がついてるんだろう。

 

 中には、水中メガネとデカいヘッドフォンをつけて革ジャンを肩に羽織ったアヴァンギャルド(前衛芸術的)な出で立ちの男が、缶から出した生のままのコンビーフを、トマトと交互に豪快に丸かじりしてる画像もあった。えらく古いテレビ画像のようだ。なんかのドラマだろうか。

 

 おお、…生で食えるの?

 

 妙に印象深いその丸かじり画像は、ふしぎとワイルドでかっこいいな、と思った。

 

 … …ちょっと、真似してみるか。

 

 缶は、台形を立体化したような跳び箱型。上部には、カギ型で、その棒の部分に縫針(ぬいばり)のような穴が空いた、針金製の缶切り道具が貼り付けられていた。

 

 そいつをひっぺがして、缶の下の方の側面についている爪のような部分を穴にひっかけ、カギというよりはゼンマイを巻くように、ぐりぐりぐりと缶切り道具を回転させる。

 

 すると缶の間の一定の幅が、まるで帯を解かれるように針金に巻き取られていき、上下を分離させる。

 

 そして上方の缶をゆるゆると揺らしながらパコッと持ち上げて外す。底面部以外は、缶が引き剥がされて中身が丸見えな状態だ。

 

 細かい肉の繊維が、白い牛脂(ぎゅうし)によって寄せ集められて(かたまり)になっている感じ。

 

 匂いを嗅いでみる。かすかに、牛脂特有の甘い感じの匂いがした。

 

 勇気をだして、前歯だけでちょっとかじってみる。意外と柔らかく、ホロッとほぐれた。

 

 ポソポソして塩辛いかと思ったが、さにあらず。たっぷりねっとりの脂のせいか、マイルドになったわずかな塩味と牛肉の甘い旨味が舌に広がる。脂のしつこさや生臭さは感じなかった。

 

 アッ、うま…。これ、うまいぞ!

 

 ※個人の感想です。

 

 と、一応入れとこう。

 

 はっきり言って生で食うのはジャンクフード的な印象だ。おそらく賛否両論ある味だと思う。けれど、俺の舌には合った。

 

 なりたけの超ギタにも慣れてるしな、俺は。

 

 缶の底の部分が貼り付いたままだから、そこを片手で持てて、食べやすい。これはなかなかいいな。

 

 ちょっとマヨネーズを付けてもいける。

 

 深夜の自室でコンビーフを丸かじりしながらソロキャンプの動画を見ている俺。

 

 …これ、なかなか絵的にワイルドじゃね?ワイルドだろぉ?

 

 ゆっくり時間をかけて、旨味とかりそめのワイルド感を堪能した。ケミカルウォッシュの袖なしデニムジャケットなんて持ってないので寝間着のジャージ姿のままだが。

 

 これ、気に入った。キャンプ飯の一品に加えてもいいなと思った。火を通してもうまそうだし、料理の仕方を研究してみよう。

 

 近々スーパーかドラッグストアあたりで買いだめしとくかな。

 

 

 

 

 …だがこのとき、俺はまだ知らなかった…。

 

 このコンビーフ1個がアルファ米1パックと同じくらいに高いことを…。




 今回はちょっと一休み的なお話を入れてみましたが、これには訳があります。

 実は原作は、友人に借りて読んだのが最初でしたが、やっぱり自分でちゃんと買おうと、つい先日、既刊分の原作の文庫本を大人買いしました。

 その時に、まだ読んでいなかった10.5巻を読んだのですが、八幡が夜食にコンビーフで料理を作っている場面がありまして。

 このSSの「その3」での非常食チェックの場面が、10.5巻のその場面と食い違っている状態でした。

 ので、話としてはこちらのほうが時系列的に早いので、このあたりで八幡のコンビーフ夜食との出会いを書けばいいか、と思った次第です。

 書いてるうちに、実際にやってみようと思い、スーパーで一個買って、生まれて初めて丸かじりをやってみました。超うまかったです。私用での移動中の車の中でかじってました。やべぇ超ワイルドじゃね?

 食べごたえも結構あるので、私個人的には、オススメです。

 ちなみに、コンビーフを丸かじりしている古いテレビ画面、というのは、伝説のドラマ「傷だらけの天使」(1974-1975)のOPです。私も検索して初めて知りました。

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