帰り道の途中、母親から安否確認の電話が入った。
とりあえず無事であることを伝えた。
「そう、小町も無事だったみたいだし、とりあえず安心ね。」
ああ、いの一番は小町だったんですね…そういう順番なんですね…うん、いいんだよ?まぁ末っ子だし、心配だし可愛いし、異存はない。ないよ…?ホントだよ…??
母親も無事だったが、今日も帰りが深夜になるらしい。余震の心配などは帰る口実にはならないようだ。
世の中厳しいな…そんな帰りたくても帰れないアナタの代わりに家を守る自宅警備員はやっぱ必要な仕事だと思うんです今の日本。一家に一台くらい標準装備される時代がきっと間もなくやって来る。その点で俺は即戦力となる自信が
「あ、母さん。うち非常用の持出袋あったろ?念のため中身の確認しときたいんだけど、どこにしまってたっけ?」
電話のついでに聞いてみた。さすが未来の自宅警備員。
父親は確か、母親と小町に中身の説明とか使い方とか熱心に教えていたのを覚えている。
あれ…俺は教えてもらったことないよそういえば?
「あーあったねそういえば…どこだったっけ?小町といっしょに探しといてよ。」
今更だが、これって相当まずいだろ…非常時に使うものの
まぁいい、とりあえず帰ったらすぐに確認だ。
母親との通話を終えると、重いギアのままの自転車を再び漕ぎだした。
父親への連絡は、母子ともどもすっかり忘れていた。…ごめんね親父?
×××
帰宅後、小町と一緒に
とりあえず、そのうちの一つを開けてみた。
中身はこんな感じだった。
・軍手(滑り止め付き)×1組
・ロープ(5m)×1本
・スポーツタオル×1枚
・LEDライト(手回し充電器付き)×1本+携帯への充電用アダプター数種類
・多機能ナイフ(ナイフ、ハサミ、ノコギリ、爪やすり、etc)×1本
・プラスチック製ホイッスル×1本
・20リットル大のポリ袋×1組(10枚入り)
・包帯×1本
・絆創膏×1箱
・マスク×1組(6枚入り)
・簡易トイレセット×3組
・ポケットウェットティッシュ×1袋
・エマージェンシーブランケット(薄いアルミ箔みたいな保温シート)×1枚
・保存水500ml×2本(5年くらい常温保存できる水)
・アルファ米×3食分(パックに1食分ずつ入ったフリーズドライ米。長期保存可)
そして、同じ収納のすぐ近くには、両親が買い足していたのか、さんまの蒲焼きや牛肉の時雨煮、フルーツミックスやコンビーフなどの缶詰類がいくつかビニール袋に入って置かれていた。それと、水が6〜7リットルくらい入りそうな折りたたみ式の柔らかいポリタンク。
「へぇ、お父さんたち、結構ちゃんと用意してたんだね…。」
袋の中身を床に並べている俺の横で、小町がつぶやいた。
確かに、ぱっと見は充実してるように見えた。しかし…
「なぁ小町。うちって缶詰、そんな
缶詰を一個一個取り出して確認しながら俺が尋ねると、小町はややムッとした顔をした。
「失敬な!毎日できるだけ手作りしてますー!!…まぁ休みの日の朝とか、ちょっと手抜きしたいときは、さんま缶くらいは使うけど…。」
そうだよな。母親と小町、けっこうがんばってメシ作ってるもんな。ありがたや。
お兄ちゃんの身体は小町のがんばりで出来ています…!
「食い物系は、できるだけ普段食ってるものと近いものを蓄えてたほうがいいような気がするな…ほら、例えばこのコンビーフとか、俺達、普段の生活であんまり食ったことないだろ?いざって時に食い方わかんなかったり、口に合うかわかんないものを備えとくってのもなんか不安だし。」
実際、コンビーフってどうやって食うんだっけ…焼くの?煮るの?そのままイケるの?甘いの?辛いの?しょっぱいの?まぁ、火は通したほうがいいような気はする…。
「あと…電池だな。LEDライトなんか、電池が切れたら手回しで短時間しか使えない。袋の中で別にしとくより、家で普段ストックしてる電池と絶えずローテーションしてた方が、いざって時には万全な状態で使えるんじゃないかな。」
俺自身も後で知ったのだが、これは「ローリングストック法」という備蓄のやり方なんだそうだ。さすが俺様。ふふん。
「なるほどローテーションかぁ…。あ、それ、非常食にもあてはまりそう!新しい状態をキープしておくようにしとけば、缶詰だけじゃなくて、いつも使ってるレトルトのカレーとかお惣菜なんかも候補にできるね!」
おー、そうだな、そのとおりだ。さすが小町、賢い妹だ。いまのは小町的にもポイント高かったぞ。
って、…あれ、レトルトはいつも使ってる…のね…?小町のカレー、結構好きだったんだけど…?
お兄ちゃんの身体の結構な部分はハ○ス食品が作ってくれてたのね…?
…やっぱり小町ポイントはそっと元に戻しておく。俺の心の中で。