リアル世界でちょっといろんなことが立て込んでて、更新する時間も気力もありませんでした……!! 特に気力。気力大事。
まだちょっと立て込んでて、相変わらず不定期更新ですが、時間の取れる限り書き進めています。
さて、だいぶ久しぶりの更新でかなり緊張してます。その上、内容は……、たぶん、このSSで一番ヒドいものになってます。
お、怒らないでね! 石投げないでね!
ではどうぞ。
「――彼、何度も言ったんだよ……『早く仕事を見つけて、これまで支えてくれたキミを安心させて、一刻も早く幸せにしたい』って……!
平塚先生はそこまでイッキに話し終えると、力なく笑いながらグラスをぐいーっとかたむけて、中のお酒を全部飲んだ。
……お、重い……っ! 笑えない……っ!!
ケータイの時計をそっと見ると、夜の11時をすぎていた。
晩ご飯のあとかたづけはもうすんで、テーブルにはあたしとゆきのんの、紅茶の入ったティーカップと、いくつかのお菓子が広げられてた。
それだけ見れば、あとは寝るだけのまったりトークタイム、なんだけど、ちがうのは、そのテーブルの上には他に、なんかすごく強そうな鳥の絵のラベルがついてる、平塚先生のお酒のビンが、ででんっ! と乗っていたことだった。
……なんかね、さっき先生、自分のソロキャンプ(失敗)の話してくれたあと、つぎつぎに自分の昔の話をしだして、止まらなくなっちゃったんだよね。
で、それが、ほとんど先生の恋愛(失敗)の話で。いま話してたのは社会人になってからのお話らしいけど。
あたし、彼氏いたこと、まだないから、あんまりエラそうなことは言えないんだけど、人の恋バナとかはやっぱり大好きで、盛り上がっちゃう方ではある。
でも……先生の恋バナは、なんか、レベルっていうか次元っていうかジャンルがちがったっていうか……すごいっていうか……ひと口でお腹いっぱいというか……ぶっちゃけ、引くっていうか……!
やばい……先生が「私も高校の頃は恋とかしたなぁ」ってつぶやいたのに乗っかって、「わー、どんな相手だったんですかー!? 」って、思わず聞いちゃったのがいけなかったか……!?
ゆきのんもドン引きしてた。
うーん、ゆきのん、なんか恋バナとか苦手そうだもんね。
さっきから困ったみたいに、あたしの方にチラチラ視線を送ってくる。「コレ、どうすればいいの!?」って。
ごめん、ゆきのん、あたしもどうすればいいかわかんない……!
「ほんっと、何であんな男を好きになっちゃったのかなぁ……」
平塚先生は、どろーんとした目で窓の外をながめながら、そうつぶやくと、グラスをまたくいっとかたむけた。
うーん。
その気持ちはまぁ、ちょっとわかる……、かな。
ヒトが恋愛で苦労した話を横で聞いてるだけだと、ホント、かんたんに、「そんなヤツ最初から好きにならなきゃいいのに」って思っちゃうんだけど。
こればっかりは……わかんないもん。ほんとにわかんないもんね。
どんなとき、どんな人を好きになるか、なんて。
あたし、彼氏はできたことないけど、好きな人ができたことは、……まぁ、あるから。
「私の人生……いっつもそんなかんじだ……ろくでもない男に振り回されて……根性なしの男に逃げられて……ほんとにイイ男はみんな他の女と結婚して……」
平塚先生はつぶやきながら、グラスをまたクイッと……あ、あのぅ……ちっちゃいグラスだからあんま考えなかったけど……もしかしてそのペース、すっごくやばいんじゃ……!?
ビンの中のお酒も、半分くらいなくなってるし……!
「……ってゆっか、考えてみれば今このときだって……、
平塚先生は空になったグラスを、ことん、とテーブルに置いて、うつむいてぶつぶつひとりごとを言い続けていた。息も、ふすーふすー言ってた。
これ、もうベロンベロンになっちゃってるなぁ……!
と、思ったら、いきなり顔を上げて、あたしたちを見た。
とろ〜んとした目で、ぽや〜んってしてて、顔もほんのり赤くなってて、なんかちょっと色っぽかった。
「いいこと考えた……!」
「「……?」」
あたしとゆきのんは顔を見合わせて、先生の様子をうかがっていた。
「……寝てる比企谷に、イタズラしに行こーぜ……! テントをがっしゃがしゃ
平塚先生は、ニヤぁっと笑いながら言った。
「は、はい!?」
ゆきのんがたじろぐ。何言ってるのこの人……! って感じで先生を見ていた。
「だ、ダメですダメダメダメ!! ヒッキーにバレちゃいますよ! そしたらヒッキー、ゼッタイ怒るかキズつくかしちゃうし!」
あたしは両手と首を思いっきり横に振って先生を止めた。
「あはは、冗談だよ冗談ー」
先生はアハハと笑いながら、ポケットからタバコを取り出した。
「ははは……ちょっと
そう言って、先生はヨタヨタ歩きながら車の外へ出た。外の寒い空気が、少しだけ車内に入ってきた。
「外、けっこう寒いみたいだね。昼間はあんなに晴れてたのに」
「晴れてたからこそよ。
ゆきのんが「ほうしゃれいきゃく」のことを、細かく教えてくれた。
☆★★☆
ちょっとの間、ゆきのんとふたりきりでおしゃべりしながら窓の外を見ていた。
車内の明かりは、少し落としてたので、外の景色がよく見えた。
夜の海はところどころ、ちいさな明かりが見えて、とても静かな風景だった。
いつまでもこうして、ぼーっと見ていたいなぁと思った。
「平塚先生、遅いわね」
紅茶のおかわりをカップに注いでいたゆきのんが、ふと思い出したように言った。
そういえばタバコって、吸い終わるのに何分かかるんだろ?
……はっ! ひょっとして、よっぱらいすぎて外で寝ちゃってるとか!?
ちょっと様子を見に行ってみようかな、と思った時、とつぜん、ゆきのんが立ち上がった。
「まずいわ!」
ゆきのんはテーブル横の大きな窓の外を見て青くなっていた。あわてて入口に走って、クツをはきはじめた。
あたしも窓の外を見た。
見えにくい角度だったけど、平塚先生がスキップしながら浜辺の方……ヒッキーのテントの方へと向かっていた。もうけっこう先まで行ってる!
ううううわ――っ!! 先生なにやってんの――っっっ!?
あたしもあわててゆきのんに続き、平塚先生を止めに走った。
もう夜おそいし、ヒッキーに見つかるとまずいので、先生を大声で呼べない!
ところが平塚先生はもう完全におかまいなしに、
「うっひゃっひゃっひゃ――! ひ↑――き↑――が↓――や――――↑↑↑♪♪♪」
なんて呼びながら楽しそうにスキップして行ってる。
先生――――!!(泣)
あともうちょっとでヒッキーの青いテント、ってところで、平塚先生は砂に足を取られたのか、コケッとこけた。
「うい――っ……ひきがやぁこのやろぉ……!」
先生はよっぱらってモニョモニョ言いながら立ち上がろうとしてたけど、ふらふらしてて動きがにぶかった。
「先生……! 戻りましょう……! はやく……!!」
なんとか追い付くと、あたしたちはふらふらしてる平塚先生の腕を取って引っ張った。
「やら――っ! 前からアイツにはひとっこと、言ってやろうと思ってたんら! おい起きろ
平塚先生はだだっ子みたいに腕と足をバタバタさせて騒ぎだした。
もおおぉ何のポイントですか――っ!?(泣)
……ん、うぅーん……?
目と鼻の先にあるヒッキーのテントから、眠たそうな声がかすかに聞こえた。
ヤバ――――い!! ヒッキー起きちゃう――――っ!!
「……先生、申し訳ありません……!」
と、横でゆきのんがポツリとそう言うと、暴れてる先生の背後にササッと回って、ふしゅーっ、と息を整えた。
「せいッ!」
ゆきのんのくりだしたチョップが、先生のうなじに直撃した。
「きゅう」
先生は急に静かになって、ぱたりと砂浜に倒れた。
……
えぇ――……!?
「ゆ……ゆきのん!?」
「はぁ、はぁ……っ、大丈夫……当て身を食らわせただけよ……はぁ、はぁ」
ゆきのんは全力で走ったのと今の攻撃で、ぜぇぜぇ言っていた。体力なさすぎだよ……!
っていうか当て身って……!
平塚先生はあお向けになって、くかーっと寝ていた。
「さ……持って帰りましょう」
持って帰るって……!
でも、完全に力が抜けて寝こけてる平塚先生をおんぶしたりするのは、めっちゃ重くてあたしたちには無理だったので、しょうがなく、ふたりで先生の足をかたっぽずつ持って、ずるずる引きずって、クルマに連れて帰った。
先生ごめんなさい……!!
☆★★☆
平塚先生の身体についた砂をていねいに落として、クルマに運び入れ、バンクベッド(運転席の上にあるベッド)に放りこんだ。
けっこう乱暴にやっちゃったかもだけど、先生は高いびきでグゥグゥ寝っぱなしだった。
なんていうか……すごいなこの人……。
ここまでの作業で、さすがにあたしも息が切れた。
いったん、ゆきのんといっしょにテーブル席に座りこんだ。
「も……もう遅い時間だし、そろそろ寝ましょうか……明日もあるし」
「そ……そうだね……なんかつかれて、眠くなってきちゃった……」
ゆきのんと意見が合って、あたしたちはそそくさと寝る準備を始めた。
と、
「っ、ダメら比企谷! そっち行ったらまた車が!!」
平塚先生が、ガバッっとはね起きてベッドから飛び降りて、あたりをキョロキョロした。
「比企谷! どこらっ!? 外かぁっ!!」
寝ぼけてるみたいだったけど、あまりの迫力に、あたしもゆきのんもびっくりして、いっしゅん反応できなかった。
そのスキに、平塚先生はまた外へ飛び出した!
ちょっ!?
「せ、先生――!!」
あたしとゆきのんもまた後を追いかけた。けど今度は、ゆきのんがバテて足が遅くなってて、追いつけない!
「あああぁもおぉ――っ!!」
あたしは力の限り走った。あんま足は早くないけど、毎日サブレのさんぽしてるおかげで、まだ少し体力残ってた。
うぎー! ムネがゆれまくって痛い! 片腕で押さえながらダッシュする。
平塚先生がふたたび砂浜で足を取られてコケたスキに追いつけた。
「うぅ……ど、どこら比企谷ぁ……! どこらぁ――っ!?」
立ち上がろうとしながら平塚先生はまだわめいていた。
……ん、何だぁ……?
ぎゃ――――――!!!!
目の前のヒッキーのテントから、眠そうなヒッキーの声が聞こえた。
ヤバ――――――い!!
「ひ、ヒャン! ヒャンヒャン!」
あたしはテンパっちゃって、とっさにサブレの鳴きマネでごまかそうとした。
……あぁ、なんだタヌキか……ぐぅ……
テントの中からヒッキーの寝ぼけた声と、モゾモゾいう音がして、また静かになった。
……たぬっ……!?
た、タヌキじゃないもん!!(泣)
あたしがなんか謎のショックを受けてる中、平塚先生はまだ、あたしの足もとでウギャウギャうなっていた。
あああもぉこうなったら……! 先生ごめんなさい!!
「ふしゅーっ、ふしゅーっ! せ、せいやッ!!」
あたしはもう夢中で、ゆきのんのまねっこで、息を整えて平塚先生のうなじにチョップを食らわせた!
「きゅっ、ぐはっ」
平塚先生はふたたび、ぱたりと倒れておとなしくなった。
あ、あれ、でもなんか……さっきとは……?
あれー……、なんか白目むいてビクンビクンしてる……? 口から泡が……!?
あ、あれ――!?
「ゆ、
ぜぇぜぇ言いながら追いついてきたゆきのんは、平塚先生を見ると、口元を手でおおって首を振った。
えっやっ、ちょっと待って! さっきゆきのんも……え――ッ!?
「当てどころが悪いのよ……シロウトがやってはいけないのよ、もう……! こうなったら……」
ゆきのんは、先生の上半身を起こして、背中をドンとついた。すぐに先生は意識を取り戻した。
「はっ……私は何を……ゆ、夢k」
「せいッ」
「きゅう」
と思ったらゆきのんはすかさず当て身をやり直した。平塚先生はみたび、キレイに気を失った。
鬼だ!!
「ベッドにしばり付けておこうかしらまったく……」
うんざりした顔でゆきのんはそう言うと、ヨロヨロと先生の片足を持った。
あたしたちはもう一回、平塚先生をズルズル引きずりながらクルマへ戻ったのだった。
あ――……おフロもっかい入りたいなぁ……!
☆★★☆
ふと目が覚めて、ケータイを見ると、夜中の三時。
車の中は真っ暗だった。
あたしはクルマの後ろの二段ベッドの、下の方で寝てた。
ベッドはちょっと固かったけど、毛布がすっごいふかふかですべすべであったかくて、くるまったとたんに眠ってしまってた。これすごいな……欲しい……!
平塚先生とゆきのんの寝息が聞こえてくる。や、平塚先生のはうなり声……?
思いついて、そ〜っと上のベッドをのぞいてみた。
ゆきのんがこっちを向いて、くぅくぅとかわいい寝息をたてて寝ていた。いつものキリッとした顔じゃなくて、安心しきった子供みたいな顔……っ!
くはぁ〜……、かわええのう……!! そういえばゆきのんの寝顔って初めて見るかも。お泊りの時や、夏のキャンプの時は、あたしのほうが早く寝ちゃってたからね。
ひとしきり、ゆきのんの寝顔を楽しんだあと、また毛布にくるまった。
はい、おやすみ。
☆★★☆
ずりっ、ずりっ、と、何かを引きずるような音と寒さで、あたしは目を覚ました。
クルマの窓に引かれたカーテンのスキマから、青いかすかな光が入ってきていた。
夜明けのほんの少し前くらいなのかな。
ずりっ、ずりっ。
引きずるような音は、だんだんこちらに近づいてきてる気がした。
……!? なに……?
あたしは寝返りして、音のする方を……クルマの運転席の方を見た。
ちっちゃなころに見たこわい映画に出てた女の人が目の前にいた。
黒くて長い髪で顔は全部
「――――っ!!!!」
あたしは思わずベッドの奥、クルマの後ろのカベに体当りするように後ずさったので、ドシン、とクルマがちょっとゆれた。
「ぁ゛・ぁ゛・ぁ゛・ぁ゛・ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛…………」
へんなイヤなこわい声まで聞こえてきた!! ていうかそれ別の映画じゃなかったっけ!?
ていうかよく見たら平塚先生だった。ふらふらしながらベッドから降りてきたんだね。
「な、なんだ、先生かぁ……! だ、だいじょぶですか……?」
あたしはまだドキドキしてる心臓をおさえながら、ゆきのんを起こさないようにそーっと平塚先生に声をかけた……んだけど。
「ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛……うぅっぷ……!」
平塚先生はとつぜん口もとをおさえて、空いてる方の腕で、ベッドの横のトビラの取っ手をさぐっていた。顔が真っ青になってて、背中がまるまっていた。
……はっ!!
「だ、ダメぇ――先生ゼッタイダメ――――!!」
うわ――っ、最悪だ――っ!
先生それだけはゼッタイダメ! このトイレに一番出しちゃいけないやつだ――っ!!
あたしは飛び起きると、タオルをにぎりしめて平塚先生をかかえて、クルマの外へ出た。
おねがいだからトイレまで持ちこたえてください先生――っ!!(泣)
【いちおう解説】
①冒頭の平塚先生とヒモ男との恋愛・破局については、原作第1巻初版第27刷の75ページを参考にしました。
②当て身は生命にかかわったり、のちに脳や脊髄に障害を生じさせる可能性のある、大変危険な行為です。素人は決して行わないでください。
なお、何度も当て身での失神と
本編での平塚先生のヒドい二日酔いは、もしかしたら今回の雪乃たちのしわざにも原因があるのかも知れません。
③ちなみにですが、本編の「その47」にて、雪乃は八幡のテントを「一、二度(最高二回)」、結衣は「二、三度(最高三回)」見たと言っていますが、今回のお話までで、それはウソではなかった、というのが書けたかな、と思います。カウント間違えてないよな……大丈夫だよな俺……?