はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(久々に読んだけど話の流れを忘れてしまった読者様用に、今回はリゼヴィム視点でこれまでの展開を纏めてみました。サブタイトルは我ながら悪趣味だと思う)


life.96 スイッチ姫

「うひゃひゃひゃひゃ♪︎ そうかそうか、どうやってこの冤罪を晴らすかって期待してたが、その手でくるのか!! まさか冤罪も引っ括めて全ての罪を背負うなんざ思わなかった!! 本当に最高だぜ、イッセーきゅんはよぉ!!」

 

 ルーマニアの心臓部、即ち首都中心の古めかしい城の最奥に、心底愉快そうな笑い声が響く。銀髪銀髭が特徴的な、貴族らしい豪華な装飾のなされた衣装に身を包む初老の男──リゼヴィム・リヴァン・ルシファーだ。

 言わずもがな、初代ルシファーの息子たる最上級悪魔でありながら吸血鬼勢力の事実上のトップに上り詰めた男である。その冠を頭上に頂くまでに裏側でどのような工作を行ったのかは、やはり言うに及ばないだろう。

 そんなリゼヴィムは瞳を幼子のように爛々と煌めかせて、ディスプレイに映し出されたある映像に一喜一憂していた。

 

 自身の財力やコネに物を言わせて導入したであろう、最新式と思しき壁一面の大型液晶ディスプレイ。それら全ての画面を占拠するのは、″赤い龍の帝王″兵藤一誠だ。

 一目でそれと分かる高級なソファにふんぞり返る主人を尻目に、傍らに控えたユーグリットが改めて一誠の来歴や桁外れの戦闘能力について解説を行う。

 

「兵藤一誠。年齢は十八歳、職業は元学生、両親や先祖の中で裏世界に関わった者はいません。それらから分かるように、四月にリアス・グレモリーに拾われるまではただの一般人でした。端的に言うと偶然にも″神器″を宿しただけのイレギュラーですね」

『グハハハハッ!! ただの元一般人が世界に喧嘩売るかよ!? 赤トカゲを抜きにしても、あの野郎はオツムのネジが外れてるぜ!!』

 

 ユーグリットの解説に、グレンデルが頷きながらも付け加える。最終的に敗北寸前にまで追い詰められたとはいえ、強者との戦いに満足したからか、はたまた現代の強者と出会えたからか、その横顔は嬉しそうだ。

 

『グレンデルの言う通り、質の悪い冗談です』

 

 そんな彼に、一体のドラゴンが話しかけた。樹木がドラゴンの形を成したような、或いは四肢を除いたドラゴンの全身が樹木に埋もれたような、そんな不思議な外見をしたドラゴンだ。

 彼の名は、″宝樹の護封龍(インソムニアック・ドラゴン)″ラードゥン。

 黄金の果実を守っていた元守護者にして、強大な結界と障壁の魔術を操る邪龍である。かつて初代ヘラクレスとの激戦の末に毒殺されたが、″幽世の聖杯″によって蘇生したのだ。

 

『ただの元一般人に邪龍が敗れるなど……同族として情けない限りですね』

 

 そして邪龍の一角らしく、穏やかな口調とは裏腹にその性格や趣味嗜好は陰険である。

 

『ああ!? 表に出ろ、ラードゥン!! 久しぶりにキレちまったぞ!!』

『私が回収しなければ無様に殺されていた恥晒しの分際で……良いでしょう、目覚めの運動も兼ねて再び冥土に送って差し上げます』

『上等だ、この腐れトカゲ!!』

「あーはいはい、君らが喧嘩すると俺ちゃんの城まで瓦礫になるからやめてね? ユーグリットきゅんも、ボケッとしてないで解説の続きをプリーズ?」

 

 一触即発の雰囲気となる二体を適当にあしらいながら、リゼヴィムは解説を続けるように求めた。

 本来なら邪龍同士の殺し合いを前にもっと慌てるなり必死に宥めてもいい筈なのだが、その間も彼の視線はディスプレイに釘付けのままだ。

 実際、例えるなら花畑を駆け回る少年のように、彼の脳内は歓喜で満ち溢れている。

 

 それ程までに、永劫に近い時間の退屈を味わってきたリゼヴィムにとって、兵藤一誠は待ちわびた存在だった。

 

「畏まりました。それでは、次に″SSS級はぐれ悪魔″として手配された経緯についてです。先ず手配を受けた時期は、リアス・グレモリーとライザー・フェニックスの間で行われた″レーティング・ゲーム″の直後ですね」

『ああ、あのくだらねぇ殺し合いごっこか。大会に参加でもしたのかよ。雑魚の中の最強を決める大会を開いてるって聞いたぜ?』

「いえ、前者は年齢的に大会参加資格を有していません。リアス・グレモリーが政略結婚を拒否したことが争った理由のようです。試合の結果で結婚或いは婚約破棄を決める約束だった、と」

 

 内戦以降、悪魔勢力は対外的に実力主義を喧伝し、例え他種族からの転生悪魔であっても功績を残せば上級悪魔に昇格させるとの謳い文句を掲げてきた。実際、リュディガー・ローゼンクロイツや今は亡き″魔龍聖″タンニーンも、新制度の下で実績を積み上げて昇格を果たした者達である。

 とはいえ、そういった事例は珍しく、悪魔勢力には今も捻じ曲がった貴族主義・純血主義思想が根強く蔓延ったままだ。その極致の一つが、家同士の思惑に基づいた政略結婚である。

 

 無論、政略結婚が一概に悪とは言えない。

 例えば中世ヨーロッパの時代に限っても、同盟締結による戦争回避や経済的支援の獲得など、経済的に傾いた家を救う為、引いては国民を救う為のケースは確かに存在していた。また現在も企業・家柄の存続目的で政略結婚を行う場合も少なくない。

 何れにせよ、個人の意思が尊重される世の中に逆らう形とはなるが、決してデメリットばかりではないのだ。

 

「尤も、それは人間界での話に限ります」

 

 歴史を紐解いてまで長々と説明しておいて、ユーグリットは冥界で行われる勢力結婚をバッサリと切り捨てた。その表情と口調は、腐れ切った現悪魔政府への侮蔑の色で満ちている。

 

「知っての通り、三大勢力──特に悪魔は立て続けの戦争で同胞を失い過ぎました。″悪魔の駒″無しでは勢力の維持すらままなくなる程に。ならば残すべきは家柄よりも種族そのものであることなど明白でした」

 

 ただでさえ悪魔という種族は出生率が低い上に、戦争で多くの純血悪魔を失ってしまった。

 その状況下で優先すべきは種族の存続であり、政府はそういった政策──例えば各種税率引き下げや補助金付与などの婚姻・出産推奨策を推進すべきだったのだ。家を守るより先に種族が滅んでは本末転倒なのだから。

 

「そうでなくとも、アジュカ・ベルゼブブが″悪魔の駒″の開発に成功したのです。ならば、政府はそれを活かすべく他種族が転生しやすくなるような土台を築くべきでした。そうすれば勢力の再建は他よりもスムーズに進んだことでしょう」

「でもでもぉ、上層部の連中はアホ揃いだからさぁ? 猫も杓子も利権争いと極めて短期的な建て直し政策で迷走しまくってさ☆ 巨大な捻れを内部に孕んでしまったって訳よ! つまんねー奴らだろ? うひゃひゃひゃひゃ♪」

『で、その結果が元一般人の″SSS級はぐれ悪魔″ですか。愚かしいにも程がありますね』

 

 ラードゥンが肩らしき部位を大袈裟に竦めると、「話が脱線しましたが」とユーグリットは咳払いした。だが、話が逸れたようで本質は変わらない。

 何故なら、一誠が″はぐれ悪魔″に堕ちた原因は、その愚かしい政府上層部にあるのだから。

 

「どうせ″赤龍帝″の力を危険視した誰かが追放を企んだのでしょう。腐敗した上層部と結託してね」

 

 ──life.96 スイッチ姫──

 

 婚姻を賭けたリアス・グレモリーとライザー・フェニックスの″レーティング・ゲーム″には、記録には残されなかった続きがある。

 それが、二人の婚姻発表パーティーに乗り込んだ兵藤一誠と、それを阻もうと立ち塞がったライザーの非公式の戦いだ。

 

「接戦の末に兵藤一誠は敗北し、両者の婚姻は確定しました。ですが、この非公式の戦場には、パーティー参加者という大勢の見物人がいました。無論、政府の役人連中も首を揃えていたことと思われます。″赤龍帝″の再臨を目撃した彼らは恐くて仕方なかったでしょうね」

 

 そして、上層部はライザーやサーゼクスと手を結び、一誠討伐作戦を秘密裏に承諾・決行したのである。

 その後の顛末は、これも言うに及ばない筈だ。

 

「で、辛くも逃走に成功したイッセーきゅんは″禍の団″と合流、そればかりか″無限の龍神″に婿入りしたってさ! こんな奇跡のラブロマンスって本当にあるんだなぁ! 冥界で映画化したらさぞかし大人気になるだろうぜ? うひゃひゃひゃひゃ♪」

「……オーフィスは誰にも与しないとばかり思っていたがな。そうか、噂は真実だったのか」

 

 遂に抱腹絶倒するリゼヴィムの言葉に反応したのは、これまで部屋の隅で沈黙を貫いていた黒いコートの男だった。金と黒の混ざり合った髪色、右目が金で左目が黒という特徴的な瞳の色をしたその男には、近寄りがたい威圧感と風格が漂っている。

 何せ、ラードゥンは勿論のこと、粗暴を塊にして煮詰めたような性格のグレンデルでさえ、男が口を開いた途端に大人しくなったのだ。狂える邪龍達すらも恐れさせる実力者であることが窺える。

 

 そんな彼の問いに、流石のリゼヴィムも姿勢の乱れを正してから、改めて真剣な声音で言う。

 

「知っての通り、オーフィスは永遠に等しい時間の中で誰にも興味を示さず、″次元の狭間″で静かに暮らすことだけを目的にしてきた。それが兵藤一誠だけは常に行動を共にし、彼の言葉だけは素直に受け入れている」

「オーフィスにとって、自分の目的を捨てる程に兵藤一誠が特別な存在になった、という訳か。だが、連合戦争以降の二人は別行動をしているな。何故だ?」

「手駒に迎えた″旧魔王派″構成員の証言では、彼らは既に一線を越えている。部屋に黒色の結界が展開されている間は近寄らない、ってのが組織内での暗黙の了解だったらしい」

『つまり……どういうことだってばよ?』

 

 即ち、と彼は敢えて区切り、強い口調で続けた。

 

「──オーフィスは兵藤一誠の子供を妊娠しているのではないか、と俺達は推測している」

 

 それは″無限の龍神″と″赤龍帝″を支配下に置くことを可能とする、全世界が喉から手が出る程に追い求めるであろう″制御装置(スイッチ)″の誕生を意味しており、

 

「さて、この場で邪龍の諸君に一つお訊ねしよう。全力の″赤龍帝″と戦える最高最大の機会──手に入れたくないか?」

 

 悪意の標的とされるのもまた必然なのである。

 




スイッチ(を孕んだ)姫

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