ウルトラマンゼノン ウルトラの奇跡   作:ウルトラゼロNEO
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母の温もり part3

──あの時、私は確かに死を覚悟した。

 

宇宙飛行士の仕事に従事し、私も漸く宇宙へ旅立つ時が来たのだと期待に胸を膨らませていたのも、今でもただただ黒く濁ったような絶望しかない。メーターを見れば、探査船内の酸素も刻一刻となくなっていくのが分かる。しかしそれはただ残酷なだけだ。なんせこれはただのじわじわと首を絞める死の時計でしかないのだから。

 

外宇宙にまで飛び立ったまでは良かった。しかしまさかそこで探査船が不備を起こすとは思いもしなかった。地球への通信も出来ぬまま、探査船は事実上、宇宙を彷徨う棺桶になったのだ。

 

しかも私に降りかかる不幸はそれだけでは済まなかった。探査船が近くの惑星の引力に引かれて、落ちてしまったのだ。何とか無事だったが、不時着したこの惑星の環境を見て、それは決して幸ではないことを突きつけられた。

 

その惑星はまさに水が全くなく、ただ炎が荒らしのように吹き荒れる地獄を表したかのような灼熱の惑星だったのだ。探査船内の備蓄もどんどん無くなっていき、比例してクルー達も次々に命を落としていった。

 

惑星に降り立つのは危険な為、助けも来ない悠久のような時間を探査船内で過ごす日々で死が訪れるのを待つのは精神をすり減らし、もはや心など折れていた。

 

だがそれでも…。それでも…。

 

 

(ユウ…マ……)

 

 

地球で待っているであろうユウマに会いたかった。私はユウマにまだまともに母親らしいことをしていない。せめてもの母親としての務めを果たしたい。宇宙へ旅立つ日に持っていった夫と私と、そして生まれたばかりのユウマが写る写真は今ではボロボロだが、これが私が死を覚悟しても自殺を選択しない理由となった。

 

もしかして何か奇跡が起きて、助かるかもしれない。そんな夢のようなことを少しでもの気晴らしに考えながら、ずっと家族のことを考える。

 

しかし、それはあまりにも突発的だった。

 

 

「ぅ…ち…ゅ…ぅ……せ…ん……?」

 

 

水をいくら渇望しようとも、一滴も飲むことも出来ず、どんどん身体が枯れて、全てが無くなっていくような虚無感に襲われる。まともに喋ることも満足に身体も動かすことも出来ぬまま、私は偶然、探査船内から見えた円盤型の宇宙船を見つける。その宇宙船は不規則な動きをしながら、私達の探査船に近づいてくるのだ。もしかしたら助かるかもしれない。私は淡い希望を抱いた。

 

でも、これは更なる地獄の始まりだった。

 

・・・

 

 

「──っ!?」

 

 

深夜、日付も変わり、夜が更けるなか、飛び跳ねるように起きたのはウミカであった。結局、あの後、ウミカと鳳翔によってウミカ自慢のウミカレーが振舞われた後、鳳翔達を含め、この家に集まった全ての者が今日一日、ここで泊まることとなった。穏やかな夜を過ごしていたのだが、ウミカは悪夢を見ていたのだろう。動悸も激しく、何とか呼吸を整えようと意識を集中させる。

 

 

「…」

 

 

暫らくして何とか気分を落ち着けることが出来た。どこか気疲れしたような表情を浮かべたウミカは自分が眠っている居間のソファーから静かに立ち上がる。元々、泊まる予定のなかった者達は多くおり、マツミズは鳳翔やソーフィ達に布団を譲り、自身は床で雑魚寝をしている。近くで寝ている者を起こさないようにと足音を極力立てないように移動する。

 

彼女が移動したのはユウマの部屋だった。静かに戸を開けば、暗がりのなか布団に包まっているユウマの姿を確認できた。

 

先程、同様にユウマを起こさないように忍び足で彼の枕元に向かっていくと、ゆっくりと屈んで、彼の寝顔を覗き見る。そのままゆっくりと彼の額にかかる前髪を優しく掻き分けて、より露になったその顔に柔らかく微笑む。その表情はまさに慈愛に満ちた母親のようにたおやかなものであった。

 

 

『美味しいよ、この…ウミカレー…だっけ』

 

 

まだ距離を感じるものの、夕食の際に振舞った特製カレーを食べて、笑みを見せてくれたユウマ。それから二杯はおかわりをしていたのを見る限り、その感想は嘘ではなかったのだろう。夕食は仕事を分身に押し付けて、サボっていたミコをくどくどと説教するソーフィ(どちらかと言えば、怒るよりも羨ましがっていたようだが)の様子が何だか可笑しくてついつい笑ってしまったりと和やかな団欒の時間を過ごしていた。

 

何よりはユウマが絶えず誰かしらに話しかけられていたことだろう。彼らの視線からユウマを大切に思っていることは手に取るように感じ取れた。まさに彼は一人ではないのだと、彼には家族の代わりが、いや、家族がいるのだと感じることが出来た。それが何より嬉しかったのだ。

 

 

「…っ!」

 

 

暫らくユウマの寝顔を見ていたウミカだが、ふと軋むような鋭い頭痛を感じた両手で頭を抑えて蹲る。しかしそれでも悲鳴を上げないように耐えているのはユウマを起こさないようにする為なのか。ウミカはすぐに起き上がると、ユウマの頬に軽くキスをして、誰にも悟られないようにマツミズ宅を出て行く。

 

・・・

 

ウミカが移動した場所はこの町の静かな海が見れる港の近くだった。海を一望できる通りにあるベンチに腰掛けたウミカの瞳に海が写るも、そこに宿る感情は物悲しさを感じさせる。

 

 

「──こんな夜に出歩くなんて感心しないな」

 

 

今、水面を見つめるウミカは一体、なにを考えているのだろうか。夜風が寂しく吹くなか、ウミカに声をかけられる。彼女が静かに顔を向ければ、そこにはマツミズがおり、その後ろには鳳翔やソーフィ、ミコが控えていた。

 

 

「夜風にあたりたくて、なんて言っても仕方ないか。気付いてるんだよね?」

 

 

わざわざ鎮守府関係の者達がこぞって自分の前に現れた。最初こそおどけた様子で話すウミカだが、この状況に冗談を言うのを止め、どこか悲哀を感じさせるようにマツミズに問いかける。

 

 

「…同行してもらったソーフィ(彼女)にずっと調べてもらっていた」

 

 

ウミカの問いかけにマツミズは一度、視線を伏せると、それでも毅然と顔を上げ、傍らにいるソーフィに視線を送りながら答える。すると指されたソーフィはタブレット型の機械を持ったまま、一歩前に踏み出す。

 

 

「…アナタは確かに地球人だ。だが、それだけではない反応がある。…いや、それが大半を占めている」

 

 

ソーフィはタブレット型の機械に表示されるウミカの過去のデータと今のウミカのデータを照らし合わせながら、話を始める。彼女は確かに地球人の遺伝子構造はあるらしい。

 

 

「地球には決してない反応がある。それはまるでアナタの外見はそのままに中身を弄って常にアナタの身体を…いや精神構造さえもを変えているかのようだ」

 

「…うん。そうだね、その通りだよ」

 

 

ソーフィは言い辛そうに、だがしかしそれが自分の役目だと気丈にウミカの身体について話す。それはつまり、今の彼女は純粋な地球人とは言えないということだ。その言葉にウミカは悲しげな笑みを浮かべて、認める。

 

 

「──…」

 

 

だが、その話を物陰からユウマやミカヅキ達も聞いているとまでは思ってはいまい。ゼノンを一体となって強化された聴力から、少し離れた物陰から話を聞いていたユウマは息を呑む。実を言えば、ユウマはウミカが彼の寝室に訪れた時から起きていた。あの場でウミカが自分に何かしようものならすぐにでも対応しようと思っていたが、その実、優しく自分を撫でてくれた。

 

確かにそこに愛を感じたのだ。それはやはり彼女が 自分の実の母親であるアスノ・ウミカだったからだろう。それは嬉しかったが、ソーフィの話自体には動揺してしまう。

 

 

「私はね、宇宙飛行士として外宇宙に旅立った後、探査船のトラブルでとある惑星に不時着した。そこはね、決して矮小な人間では生きていけないような灼熱の地獄の星…。助けも呼べずにクルーが一人、また一人と息を引き取るなか、食料も水もなくなった私はただ奇跡か死かのどちらかを待つだけだった」

 

 

そんな中、ウミカは自身に起きたことを話し始める。それはまさに壮絶な話だろう。ただ地獄のような星で生きながらえることは出来ず、ただ死を待つだけ。宇宙開発には決して犠牲がなかったと言えない。だがそこに起きた犠牲は凄惨なものが多いことは想像に難くない。

 

 

「でもね、私に訪れたのはそのどちらかでもなく、更なる悪夢だった」

 

 

そして語られる今の彼女について。果たして、彼女に一体、何があったのか、この場にいる者たちは特にマツミズやユウマが覚悟してその言葉を待つ。

 

 

「あの灼熱の星で私達の探査船には、ある円盤型の宇宙船が近づいてきたの。最初は一体、何なのか分からなかった。でも、もしかしたら助かるかもしれない…。そう思った。でも、円盤から放たれた青白い発光体が私の運命は変えてしまった」

 

 

ウミカはあの時、自分達の探査船の前に現れた円盤船のことを振り返り始める。

 

 

・・・

 

 

円盤船から放たれた青白い発光体はたちまち私達の探査船を包み込んだ。その光は生命体であり、すぐに私を含む生き残ったクルー達の身体の中に強引に入り込んできた。

 

それはまさに得体の知れないものに飲み込まれ、内側から自分とは違う何者かが自分を蝕んで成り代わろうとするかのような感覚で、意識を失うその時まで私の耳には耳を劈くような仲間達の声が聞こえた。

 

 

『適合したのは、この女だけか?』

 

 

目を覚ました時、私がいたのは自分達の探査船とは違う薄暗い場所だった。首にふと違和感を感じて見て見れば、重い首輪のような装置をはめ込まれていた。

 

あの青い光に蝕まれた自分は一体、どうなったのか不安と恐怖に駆られるなか、私の頭上で声が響いた。決して地球の言語ではないのに、理解できたのは、もしかしたら私の内部に入り込んだ青い光の影響なのかもしれない。

 

 

「ひっ…」

 

 

見上げてみれば、そこには巨人達が自分を見下ろしていたのだ。短い手足と頭に三つの突起がある巨人、スマートンな人型の昆虫類を思わせるような巨人や白い身体に無数の赤い瘤のようなものが生えた巨人など、そこには多くのそれぞれ異なる宇宙人達がいた。

 

 

『今、こいつの身体の中に入り込んで、少しずつ変異をさせているところだ。だが、それではまだ足りない。ここから私がコイツを改造して強化しよう』

 

『やっと適合した固体だ。無駄にするなよ』

 

 

赤い瘤の巨人とリーダー格を思わせる突起の巨人はなにやら会話をしており、他の巨人達の中には私のことを興味深そうに見てくる奴もいた。でも、そんなことよりも私は自分の置かれている状況でパニックになりそうだった。

 

 

『さて、では始めるか』

 

「い、いや…っ!来ないでっ!!」

 

 

赤い瘤の巨人は等身大に身長を変えて、私に近づいてくる。私は逃げようとするも、勝手の分からぬ場所では成す術もなく、先程と話していたように生体改造を施されることとなった。

 

それはまさに地獄だった。様々な機器を取り付けられ、メスで切られ、薬物を投与され…私には到底、理解できないような、それ以上の半ば拷問に近い形で私は身体を弄られた。

 

何でこんな目に遭うのか、何でこんなことになるのかと自分と巨人…いや宇宙人達を呪い、ただ生きたいと言うただの純粋な願いは無慈悲に踏みつけられた。

 

 

・・・

 

 

『改造は終了した。これで戦闘能力の強化だけではなく、ウルトラ戦士達のようにいつでもその姿を変えることが出来る。しかしこの固体の自我が思ったよりも強く内部で一体化した生命体と拮抗はしないものの、乗っ取られるのを食い止めている状態だ』

 

『人間にはどうしようもないだろう。その内、乗っ取られるさ。だがそれよりも水に弱いとのことだが…』

 

『これはあの星での長年の生存環境が原因だ。これはどうしようもなかった。こいつが使っていた探査船も改造した。後はリーダーたる貴様の一存でいつでも使えるぞ』

 

 

私の身体精神は既に破綻しているのか、それとも辛うじて繋ぎ止めているのか、それすらも分からなかった。だが地獄のような時間が終わり、私は私とは違う何かになった後、また再びあの宇宙人達の見世物にされた。

 

・・・

 

 

『あのブレスレットのデータが欲しい。貴様を使う時が来たな』

 

 

そしてそれから暫らくが経って、私を改造した赤い瘤の宇宙人や昆虫類のような宇宙人がいなくなった後、私は…そう、宇宙人連盟のリーダーであるヒッポリト星人から地球を赴くように指示を出された。

 

 

『アスノ・ウミカ。いまだにアナタの自我を保っているその精神は美しい。それを讃えて、地球のアラビアという地の言語にあるこの言葉を生まれ変わったアナタの名前として送りましょう』

 

 

すっかり変わってしまった私達の探査船を前にして、宇宙人達の仲間であるババルウ星人はキザったらしい様子で私にコードネームを与えてきた。

 

 

『──ジャミラ、と』

 

 

 

──ユウマ。

 

 

私は地球に置いていったあの子のお母さん(ママ)になれぬまま化け物(ジャミラ)になってしまった。

 

 

 

・・・

 

 

「…ゼノンのブレスレットが目的か」

 

 

話を聞き終えたマツミズは実の妹が生体改造されたという事実にやはり同様はしているのだろう。言葉を失っているなか、静かにソーフィが口を開き、ウミカはコクリと頷く。

 

 

「でも、アナタはゼノンに会っても、戦う真似はしなかった!それよりも、アナタはユウマ君に…!!」

 

「…うん。私にとっては、そっちの方が重要だった。だって、私はいつ自分でなくなるか分からないから」

 

 

しかし実際、彼女はゼノンを対しても戦わず、それどころかユウマの前に現れた。ただゼノンが目的であれば、その後も破壊活動っをすれば、ゼノンをおびき出せるのみ。

 

鳳翔は涙ながらに叫ぶ。彼女は知っているのだ。ウミカが苦手である水に懸命に耐えながらでも、それでもユウマのために手料理を作ったことを。

 

 

「ごめんね…っ。必死に今まで抑えてきたけど、もう…っ…抑えられなくなっちゃったんだ…っ!」

 

 

どんどんとウミカの呼吸が荒くなっていく。今でも彼女はジャミラが成り代わろうとするのを耐えているのだろう。だがヒッポリト星人が過去に言っていたように、時間の問題でもう耐えられないのだろう。彼女の声にまるでノイズにように、違う声色が混じっていく。

 

 

「あっ…あぁっ…あああああああAAAAAAaaaaaaaaaaaaa─────────!!!!!!!」

 

 

頭を掻き毟り、もがき苦しむウミカは人間とは思えない狂ったような声を上げる。すると見る見るうちに彼女の皮膚は粘土状に変化して、その姿を変えて巨大化していく。それはまさしく昨夜、この町に現れたあの巨人ではないか。

 

 

「そんな…っ」

 

 

ウミカがその姿を変えた巨人・ジャミラにユウマは悲痛な表情を浮かべる。本来であれば、今すぐにでもゼノンになるべきなのだろうが、それがすぐには出来ないのは幼い彼が大きく動揺しているのに他ならなかった。

 

 

「──ッ」

 

 

しかしジャミラはウミカが言うように、彼女の自我は呑まれているのだろう。足元にいるマツミズ達に対して、今まさに火炎を吐き出そうとしている。それを見たユウマは反射的にギャラクシーブレスを構えて、強い光に包まれるのであった。

 

・・・

 

──自分達に降りかかろうとする炎を巨大な盾が防いでくれた。

 

 

「ゼノン…」

 

 

瞳から光を失ったジャミラからの炎にマツミズが死を意識した瞬間、彼らの前に光の盾が割り込んで、迫る炎を防いでくれた。反射的に目を瞑っていたマツミズ達が目を開き、正面を見れば、自分達を守護するギャラクシーディフェンダーの姿があり、役目を果たすと姿を現した主の下へ戻っていく。

 

 

「…A…Aa…」

 

「…」

 

 

ゼノンの姿を視認したジャミラに異変が起こる。それは明らかにゼノンを見て、動きを鈍らせているのだ。

 

 

(分かるんだね…。無意識でも…ユウ君のことが…)

 

 

それはやはり呑まれたと思われていたウミカの意志が働いてのことだろう。どこか苦しむ様子を見せるジャミラに危険のない場所まで全員をテレポートで運んだミコは切なそうに見つめる。

 

 

・・・

 

ジャミラと対峙するゼノンだが、そこに探査船を改造してAIによる援護の役割を担った支援機がゼノンにビームを放って、襲い掛かってくる。すかさずギャラクシーディフェンダーで防ぐゼノンだったが…。

 

 

「──ッ!」

 

 

自分の横を灼熱の炎が通り過ぎて、支援機を破壊する。振り返れば、そこには苦しんで両膝をつくジャミラの姿が。よく見れば、その瞳は光が灯っているではないか。

 

 

【やっパり…ゆウマ…なンダね…?】

 

【…分かるの?】

 

【ウン…。なんとナ…ク…。…自分の…子供だし…ネ】

 

 

テレパシーで歪に聞こえてくるウミカの声。ゼノンであるにも関わらず、ユウマであると見抜いた彼女に驚く。やはり異形の存在になっても、親として感じるものがあるのだろう。

 

 

【ユウマ…おねがイ…わた…シが…マダ…人間である…ウチに…殺しテ…】

 

 

その言葉はどれほど悲しい言葉だと言うのだろうか。だがそれは何れジャミラという怪獣として葬られるよりも、アスノ・ウミカとして死にたいという彼女の気持ちの表れだろう。

 

 

「…ッ」

 

 

だがそれが同時にゼノンの…いや、ユウマの肩に重くのしかかる。何か助かる術はないのか、それを模索したところで、目の前でまた再び意識を乗っ取られないようにと抗って苦しんでいるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

【──あァ…ダメだ…。こんナこと…押しツケるなンて…やっパりオヤしっかクだね…】

 

 

 

 

 

 

ユウマの中で葛藤が生まれる。それはゼノンも同様だろう。彼女を人間として殺すことが、唯一、彼女を楽にしてあげられることなのかと。そんな悲しい重りのような苦しみを味合わせていることに気付いたのだろう。

 

 

【ユウマ…悲しイ想いをサセチャッてゴめんネ…?こんナコと言える資格はないけど…】

 

 

ジャミラは…いや、ウミカはゆっくりとゼノンに近づいて、その人ではなくいなった腕で彼を抱きしめ、言葉を紡ぐ。その言葉は人間の心を取り戻したようにどんどん流暢になっていく。

 

 

【心が挫けそうになって…躓いても…。それでも過去を越えて前だけを向いて…明るい未来に…進んでね…。それが…私の願い…】

 

 

人ではなくとも、抱きしめられることで温かさが伝わってくる。それは人であらずともまさに子を慈しむ母親の姿そのものだろう。

 

 

【ゴメんね…。こンナ母親…デ…ッ】

 

 

だが、また再び意識がジャミラにも戻ろうとしているのだろう。ゆっくりとゼノンから身体を離す。

 

 

【サヨウ、ナ…ラ…。愛しテ…るヨ、ユウ、マ】

 

【待っ───!!】

 

 

最後までゼノンを通して、ユウマを見つめていたウミカは最後に母親として愛の言葉を残すと、一目散に振り向いて海がある方向に走り出す。嫌な予感を感じたユウマは静止しようとするが、その言葉は届かない。

 

 

そして彼女は海に身を落とした。

 

 

 

「あっ…あぁ…っ!!」

 

 

苦手である海に身を沈ませ、ジャミラとしての意識からか抜け出そうともがき苦しむが、やがて反応も鈍くなり、。最後にはその生命の火は消え去った。

 

その母親が死ぬその一部始終を見ていたユウマであるゼノンは崩れるように両膝をつくと、彼の心を表すかのように、その身体は光の粒子となって、消え去った。

 

・・・

 

 

「…」

 

 

その数分後、ユウマは一人、マツミズの自宅におぼつかない足取りで帰って来ていた。

 

 

「ユウマ…」

 

 

そんな彼を一足先に家に帰って来ていたミカヅキ達は出迎える。今の彼はまさに魂が抜け落ちたかのように生気を感じられず、その目も焦点があっていなかった。そんな彼に彼女達もかける言葉が出てこなかった。

 

 

「俺…一度も…母さんって…言ってあげることが出来なかった…」

 

 

するとユウマはポツリと消え去るような声で呟く。それはウミカへの呼称のことだ。突然、現れたウミカに戸惑い、距離があった為、結局、ユウマはウミカに一度として、母親として呼ぶことが出来なかったのだ。

 

 

『サヨウ、ナ…ラ…。愛しテ…るヨ、ユウ、マ』

 

 

彼の脳裏にウミカの最後が過ぎる。それほどまでにユウマの心に深く刻み込まれたのは言うまでもないだろう。

 

 

「あ、あぁっ…アアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!?」

 

 

ポタポタとユウマの瞳から涙が止め処なく流れ落ちる。幼い彼の心に刻み込まれた母親の悲しき最後にもう耐え切れず、両腕で頭を抱えるとその場に崩れ落ちて、狂ったように慟哭をあげるのであった。




<次回予告>

ウミカの一件以降、ユウマは廃人のようになってしまった。誰もがそんな彼に胸を痛めるなか、暴君怪獣タイラントが襲来し、更には宇宙人連盟の一員であるテンペラー星人までもが出現する。何とか立ち向かおうとするユウマだが、既に彼の心は打ちひしがれており、瞬く間に追い詰められてしまう。どうにもならない、そうと思われた時、運命の出会いが訪れる──。

次回…ケモノの影を纏って





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