「最終課題?」
「ハイ。学園長先生から、ってさっきしずな先生から……」
「ああ、そういやお前に課題出すってじっちゃん言ってたな。どれどれ、どんなもんなんだ?」
「それが、『期末試験期間終了までに、図書館島の深部にある“魔法の本”を取ってきて』、としか……」
「あー……」
恐らく、というか間違いなく試験期間になると必ずと言っていいほど麻帆良生たちの間に出回る噂の本だろう。
なるほど、この期末試験期間ならタイムリーで情報も得やすく、図書館島ならネギ君の魔法使いとしての実力も量り易い。目的もシンプルで分かり易く、今のネギの実力に見合った課題だ。
「それで世界さん、“魔法の本”っていったいどういうものなんでしょう?」
「ん、俺はお前のサポートって言ってもなんでもかんでも手を貸すわけにはいかんからそれには答えられん。それにその情報を集めるところから試験だろうしな」
「う、すみません。そうですよね、僕の課題なんだし、いつもみたいに世界さんの力を借りるのは……」
そう言って落ち込むネギ坊主。俺はなんでもかんでも、とは言ったが一切助けないとは言ってない。流石にサポートを請け負っている以上、何もせず放り出すなんて真似をするつもりないんだけども。
「でもまあ、とりあえずサポートとしてのヒントはやろう。
その“魔法の本”に関しての話なら今の時期なら麻帆良生誰にでも聞ける。とにかく色んなヤツに話を聞いてみな」
「あ、ありがとうございます! よーし、頑張って
なんとかなりそうだと思ったのか、明るい笑顔で両手を振り上げ気焔を上げるネギ。うんうん、そうやって夢に向かって邁進するのは大変結構なんだが、とりあえず。
「ネギ、わかってると思うが試験期間なんだからな。先生の仕事もしっかりやらんとまず麻帆良にいることすらできなくなること忘れんなよ?」
「……あっ」
おい。
「は? 次の期末で最下位とったクラスは解散?」
「おう、なんかここ最近になって『まほまほ』に出回り始めた噂なんだけどよ……」
「いやいや、普通に考えてそんな義務教育制度に全力でケンカ売ってる事態起きっこないだろ」
「んなこと私だってわかってる。
――だが、このクラスのバカどもはそうじゃねえんだよッ……!」
「ああ、だからこのいつにも増しての喧噪か……」
あの後、いったんネギと別れて小用を済ませてから2-Aに行ってみると、なぜか通常の3割増しほど喧しいクラスと、その中で机に突っ伏しやりきれないオーラを漂わせているちうたんが見受けられたので、どうしたのかと理由を聞いたところ得られた答えが『バカどもはクラス解散のうえ小学生からやりなおしてこい(ガチ)』という噂のせい、というものだった。そりゃ麻帆良一の常識ガールちうたんならこうもなるわ、納得。
ていうか、間違いなくじっちゃんが手を回してるよなこの噂、それもネギの為に。なんだかんだ言っておいてネギに甘いなあ。
「だけど、このクラスはとっくに万年最下位からは脱してるだろ。なんでまたこんなに騒いでるんだ」
「それはこのままでは再び最下位に転落しかねないからですわ」
俺と千雨の話を聞きつけたのか、会話に入ってきて不穏な発言をするあやか。その言葉には危機感が強く含まれているもので、聞いた人間をも不安にさせるような響きがあった。
え、こいつまさか信じてるんじゃないだろうな。
「とりあえず、どーいうことだよ」
「……前回私たちに抜かれたクラス、特に最下位であった2-Kとブービーの2-Pが私たちに勝利せんと猛勉強をしているようなのです」
「……なるほど、そりゃ万年最下位に負けっぱなしなんてことになりかねないとなったら、そうなる可能性もあるわな」
道中いくらかのクラスがほぼ全員揃って黙々と勉強していたのはそういうことだったのか。特に2-Kと2-Pはまさに鬼気迫るといった様子だったから、クラス総出で真面目に勉強なんて何事だと思ったものだがこれでハッキリした。汚名返上名誉挽回を狙っていたわけか。
「それで小学生転落の危機が迫ってると考えたこいつらはこの騒ぎってわけか」
そこかしこで小学生だのクラス解散だの、果てには幼稚園だのという単語が異様な熱気と共に聞こえてくる。こんな噂にここまで振り回されるとか、本当に中学生なのかこいつら。
というかネギが魔法の本の情報を集めやすいようにそこに繋がるような噂を広めたんだろうが、それが要らん弊害を生んでいるな。主にこのクラス、それも特にちうたんに多大なダメージがいっている。そこ、いつもダメージ受けてるとか言っちゃいけない。
「ええ、そういうことです。まったく、常識的に考えればそんなことはありえないとすぐにわかりそうなものですのに……」
「言ってもこれじゃあ、今は聞きゃあしないだろうな」
「そうなんだよ、だから私はこのクラスのこういうところがイヤなんだ……」
そう言ってとうとうあらぬ方向を見上げて人生に疲れ切ったサラリーマンのような雰囲気を発し始める千雨、心なしか白く煤けているようにすら見える。まだまだ花の14歳だというのに、その姿は思わず流れる涙を堪えなければいけないようなものだった。
・課題変更
単純な最下位脱出はもう課題にならないが故の“魔法使いとして”の課題にしてみた。
・あっ
夢を追いかける人間は周りが見えなくなるものなんだよ(目逸らし)
・『まほまほ』
オリジナル。麻帆良限定SNSであり、麻帆良における様々な情報や生徒たちの生の声が飛び交っている。
・これが2-Aクオリティ
長谷川千雨の胃は死ぬ!
年末は忙しくするものって決めたヤツ出てこい(怨嗟)
お久しぶりです読者の皆さん。そして非常に遺憾ながら、今年の更新は恐らくこれで最後となります。少しでも更新をお待ちになってくださっていたかもしれない読者さんたちには非常に申し訳なく思っておりますが、どうかご了承ください。