前話より1年を経た今でもこの作品を覚えていてくれたという奇特な方のみお読みください。
「――うーん……あれ、ここ、どこ……?……ってそうだ、私達、あの石像に叩き落とされて……」
勢いよく周囲の池に注ぎ込む水の流れと地下のハズなのに目蓋に強く突き刺さる光によって明日菜は目を覚ました。
周りを見れば自身と同じように倒れていたのだろう面々が自分同様に起き上がる様子がその視界に映り、その様子を見ている内に自分達の身に何が起こったのかが脳裏に再生される。
「……って、ここはどこなの~!?」
仲間の無事が確認できたところで改めて自分が現在いる場所を眺め回せば、とても図書館の地下とは思えない光景が広がっていた。
小さい水上コテージとそこに続く桟橋。西洋風のこじんまりとした館に、その館より更に高い数え切れないほどの木々。それらの隙間を縫うように流水がドドドッと音を立てて自身らが寝ていた砂浜がある湖へと勢いよく流れ込んでいる。壁を見ればどうやら発光しているようで、地下だというのに暖かい光に満ちているのはどうやらこの壁の光らしい。
「こ、ここって本当に図書館の地下なの……?」
明日菜同様に意識を覚醒させた者たちも明日菜のように周囲を見渡して各々驚愕の表情を浮かべ、次いでここはいったいどこなのか、という疑問の表情を浮かべる。
「こ……ここは幻の『地底図書室』!?」
「『地底図書室』!?」
「何やそれ夕映?」
どうやら図書館探検部員である夕映が自分たちの現在地についていち早く心当たりを脳内から探り当てたらしく、改めて驚愕の声を上げる。
その夕映の声にいったい『地底図書室』とは何かと、同じく図書館探検部ではあるが心当たりがないらしい木乃香が尋ねた。
木乃香の声に応えた夕映の話によると、この場所は地底なのに暖かい光に満ち数々の貴重品によって溢れる、本好きにとってはまさに楽園という幻の図書館、らしい。
ただしこの図書室を見て生きて帰った者はいない、と夕映が続けたことによってまき絵が涙目で驚きの声をあげるが、じゃあ何で夕映が知ってるアルか? という古菲の発言により静まる。
が、依然として脱出困難であることには変わりない、と夕映が締めくくったことにより場が騒然となり始める。
「ど、どうするアルか? それでは明後日の期末テストまでに帰れないアルよ」
「それどころか私たちこのままおうちに帰れないんじゃ……?」
「あの石像みたいのもまた出るかもだし」
「……だめですね。やはりどこからも登れないようです」
「ふえーん!」
図書館島のことは日々の部活の為に造詣の深い夕映が簡単に周囲を見回してみるも、どうやらどこにも地上へ登っていけるような場所は無いことがわかっただけであった。その夕映の言葉にとうとう泣き出してしまうまき絵。
本来の正史ならこの世界とはまた違った課題を受けた子供先生、ネギ・スプリングフィールドによって勇気づけられただろう彼女たちも、そのネギが彼女たちのように地下に落とされず魔法の本の安置室に残ってしまっているので、この先の見えない状況に狼狽えるばかりである。
そうしているうちにそれぞれの腹の虫が泣き出した。夜7時に図書館島に潜入し、その後時間をかけてダンジョンを踏破した後にかなりの時間をこの場所で倒れていたことだろうから、きっと外ではもう朝なのだろう。
とりあえず腹ごしらえをしてから考えようという結論に一旦纏まり、バカレンジャーと木乃香は食料を探すべく周囲を探索してみることにした。
水上コテージへと続く桟橋を全員で渡り始めてすぐ、特別鍛えているわけではないが優れた身体能力を持つ明日菜が声を上げる。
「ねえ……何か聞こえない?」
「む。何か、とはなんでござるかアスナ殿?」
「ホラ、なんかこう、何かが焼ける音や、コトコト、って何かを煮込んでいるみたいな……」
「ヒッ!? や、やめてよ~アスナ~」
明日菜の説明に不安からか嫌な想像を膨らませてしまったのだろうか、またしてもまき絵が涙目で怯えた声をあげる。が、その横からまた別の声をあげる者がいた。木乃香である。
「いや、ウチなんかこの音聞き覚えがあるえ。これ……料理の音ちゃう?」
「おお、確かに! この音は何か食べ物を焼いたり煮たりしている音アル!」
普段から自分とルームメイトである明日菜の分も料理をしている木乃香が心当たりを言い、超包子でウェイトレスのバイトをすることもある古菲がそれに同意する。それはつまり食料が存在するということであり、思わず喜びの声を上げそうになる明日菜とまき絵。だが、
「……と、いうことはつまり、この図書室に私達以外の誰かがいる、ということになるですが」
続く夕映の声に口をつぐんだ。
顔を見合わせる面々。このようなそうそう人がいるはずがない場所に響く料理の気配に思わず気味の悪さを感じるが、確かに自分たちの進む方向から音は聴こえてきている。
「ど、ど、ど、どうしよー。こんな場所でお料理だなんて、もしかしてお化け……?」
「ふむ。この音の発生源の正体が化生の類であろうと、いま拙者たちが求める
「この場所から脱出できる手がかりを聞き出せるかもしれないです」
「せやけど、お化けやないにしろもし危ないモンやったら……」
「大丈夫アルよマキエ、コノカ。何がいてもこの中国武術研究会部長にお任せアル!」
「とにかく進むしかないってことね……よし! 行くわよみんな!」
結論、先へ進もう。
ということで先頭を歩いていた明日菜の号令一下、更に先へ先へと進む一行。次第に肉や野菜の香ばしい匂いが漂い始め再び腹の虫を鳴らすも、その発生源が正体不明であることもあり、流石に慎重に進んでいく。
そうこうしている内に発生源へと辿り着く。どうやらその場所はキッチンのようであり、何かを焼く音や煮込む音はそこからしているらしい。顔を見合わせコクリと頷き合う一同。赤信号、みんなで渡れば怖くないの精神の如く、一斉に突入することにしたようだ。
「それじゃ、みんな心の準備はいい? 行くわよ、1、2の……!」
「「「「「「3!」」」」」」
タイミングを合わせ、覚悟を決めて正体不明のキッチンに雪崩を打って突入する。
するとそこには
「お、やっと来たか。メシできてるぞー。ってもただの男飯だけどな」
「……って、え、ハァッ!? 世界!? ア、アンタなんでこんなとこにいんのよ!?」
彼女らの良く知る男子生徒、火星世界の姿があり、彼女たちはここにきて既に何度目かもわからない驚愕の声をあげた。
○ △ □ ☆
「ハァッ!? お仕置き部屋!? ここが!?」
「そうそう。お前らみたいに魔法の本目当てで図書館島に侵入する不届き者に真面目に勉強させるための特別お勉強スペース、なんだと」
「確かに私たちが不正を企んだ不届き者だということは確かですし反論する気も今更ないです。だからといって私達をあの高さから叩き落としてくれたのはどう説明するですか」
「それはホラ、麻帆良ならではの自由な校風ってヤツじゃねーの」
「本心からそう思ってるならこっちを見て言いやがれです世界さん」
本件に関する責任については私の関知するところでは(ry
そんなこんなで現在、俺の作った料理を摘まみつつ上層からこの地底図書室に叩き落とされてきた6人に現状説明中である。
じっちゃんやあの変態から聞いた話によると、さっきの俺の説明の通りこの地底図書室は定期テスト期間になると必ずと言っていいほど現れる『魔法の本』目当ての侵入者に真面目に勉強させて反省を促すための場所である、ということらしく、ネギの試験の為に意図的に噂が流布される前から『魔法の本』についての噂が絶えなかったのはどうやらこういう真相があったらしい。相変わらず自由過ぎないかこの学園。
「ふむ、まあ拙者たちが真面目に勉学に励む生徒たちを尻目に横紙破りをしようとしたのは紛れもない事実。この状況がそのことに対する仕置きだというなら拙者には異論はないでござるが……世界、期末試験に間に合うようにここから脱出できる術はあるでござるか?」
「そうです。私たちが言えることではないかもしれませんが、試験の為に学力を身に着けようとこんなところまで来るハメになったのにそもそもテストに間に合わない、では本末転倒にもほどがあるです」
「ホントにお前らが言えたことじゃないなソレ。反省する気あるのかこのバカブラック」
「わけのわからない石像に隠す気の一切見えないセクハラ込み込みのツイスターゲームをやらされた上に結局あんな高さから叩き落とされれば、元は反論の仕様もなく自分が悪いとわかっていても文句の1つも口に出したくなるです」
「へ、へー。おまえらそんなことやってたんだー」
便乗して見物させてもらっていた身としてはこれ以上の何かを言うことができなくなってしまった。まったく華の女子中学生5人にあんなことをやらせるなんて、ますますあのジジイを
「ま、まあこの際お前らがやらかしたこととかその他諸々は脇に置いとこう。で、脱出手段だったな楓。それならあっちの滝の裏側に地上へのエレベーターに通じてる非常口があるぞ。ただし――」
「え、ホントっ? やたーっ、ここから出られるー♪」
「あ、待つアルよマキエ! 自分1人だけ先に行こうなんてズルいアル!」
と、その非常口が存在する滝がある方を指差す。すると人の話を最後まで聞こうとしないでピンクとイエローの2人がその滝までダッシュしていった。まるで期待を裏切らない直情行動に友人として先行きが不安になるも、話を続けることを選択。
「――その非常口を開ける為には、扉に書かれている問題を解かなきゃいけないんだけどな」
「いやーん!? [read ]の過去分詞がどうこうとか書いてあるー!?」
「なんでこんな扉に英語の問題が書いてあるアルかー!?」
「ああ、なるほど。お仕置き部屋ってそういうことなのね……」
「そうそう、そういうこと」
そして予想通りにこの空間に響き渡るバカ2人の悲鳴。その悲鳴から勉強は苦手としても勘は鈍くない明日菜はそれで察したらしく、早々にこの状況に対する諦めをつけたらしい。その周りを見れば相変わらずころころ笑っている木乃香とニンニン言って何を考えているのか分からない楓。まあ木乃香はもともと成績良好だし、楓も自分の不正を認めて反省する気は見せていたからこの状況についても明日菜と同じように受け入れることができたのだろう。
っておい、そこのバカイエロー扉に向かって構えを取るな何をする気だ何を。
「世界君世界君ッ! 何アレどういうことなの何で英語の問題が扉に書いてあるのしかも問1って何ッ!?」
「間を置かずに詰め寄るほどのことだってのはわかったから落ち着けまき。あとだいたい予想ついてるだろうから諦め付けさせるためにいうけど、扉に問題が書いてあるのはそれがお仕置きだからで、問1ってのはエレベーターまでの扉全てに同じように問題が書かれているからだ」
「イヤーッ!!?」
「『魔法の本』を取ってさっさと撤収するだけのはずが、なぜこんなことになったですか……」
「こうなったらこのワタシ渾身の一撃で扉全て打ち砕いていくアル!」
「はーいもうグチグチ言わんとおべんきょはじめよーなー♪」
そうしてトドメを刺し終わった後、木乃香の一声と共に明日菜がまだ何もしていないのに目を回して悲鳴をあげるまきを、楓が先ほどまでの自分を振り返り遠い目をし出した夕映を、俺が何やら氣を高め拳に集め出した古を引きずって勉強スペースへと連れて行った。
○ △ □ ☆
「ふーっ。苦労させられたけど、あれだけやらせればまあ脱出できるだろ。
――ん? 笑い声? まさかまだ遊んでるんじゃないだろうなアイツら」
この地底図書室から脱出するため兼お仕置きのための勉強会を開いて1日半が過ぎた。あれだけ騒いでいた面々も脱出するためには勉強するしかないと腹を括ったらしく、俺と木乃香の指導の元以外に黙々と勉強に励んだ。コイツらをその気にさせるには苦労するだろうと思っていたので、いったいどういうことかと聞いてみる。すると明日菜とまきは以前に俺がテスト勉強を見てやったことで実際に成績が上がったから今回も大丈夫だと思ったと言い、楓、古、夕映はそのことを知っていたから「私たちのこともどうにかしてくれるだろう」と考えたからだ、と言ってきた。
頼りにしてくれるのは嬉しいが、そんな風に考えることができるなら最初から『魔法の本』なんかじゃなく周囲の人間を頼れよ、と考えた俺は間違っていないと思う。
そんな風にこの地底図書室に来てからのことを振り返りつつ、少々の休憩の後まとめの課題をやっておくように言い渡しておいたのだが、すでに休憩時間を過ぎているというのに未だに笑い声が響いてきている。といってもそう超過しているというわけでもないのだが、期末テストまでそう余裕があるわけでもないので一応一言注意しておいた方がいいだろうと思い、俺以外の女子6人の笑い声が発されているだろう場所に向かうことにした。
「おーい、もう休憩時間過ぎてるぞ。次の課題解けばもう出発なんだからさっさ……と……」
「へ?」
「はれ?」
「えっ?」
「おろ」
「お?」
「……!?」
……まず弁解しておきたいのは2点。俺もこの6人同様この地底図書室にくるのは初めてで、構造を把握しきれていなかったということ。そしてこの6人が今いる場所がちょうど本棚で囲まれており、外側からではどのようになっているか確認できなかったことにより、顔をその向こうに出さなければ6人が何をしているのかわからなかったということだ。
ここで紳士諸兄は、なぜ急に弁解どうこうと俺が言い出しだか疑問が芽生えていることだろう。答えは至極簡単なことであり、今まさに俺は弁解をしなければいけない窮地に立たされてしまったからだ。
「せ、せかーいッ!? アンタ何そんな堂々と覗きに来てんのよーッ!!」
「やーん、せかい君大胆さんやなー」
「キャ、キャーッ!? せ、せ、せ、世界君のエッチー!」
「ニンニン、拙者己の肉体に恥じるところなど何一つ無いでござるが、こうも堂々と見られるとなると、ちと照れるでござるな」
「は、早く向こう向くアル、セカイ!」
「なぜ私のような貧相な肢体などを覗きになど実は世界さんは幼女体型に興奮する変態的嗜好の持ち主だったですかって誰が幼女ですかこれでも少女と言ってもいいぐらいにはあるですいやしかし以前パルに私ぐらい育ってないと男の子としては云々と聞かれていた時に何とも言えない返答をしてたですしでもこうして覗きに来ているということは私にもそういった方面からのアプローチチャンスの余地がしかし――」
「だああッ!? 違う、俺はお前らを覗くためにここに来たんじゃないていうかそもそもお前ら男が近くにいるっていうのに水浴びなんか始めてんじゃねえ!」
そう、まさに俺が今発した台詞の通り、女子中学生達が水浴びをしている現場に踏み入ってしまったからである。明日菜、木乃香、まき、楓、古、夕映とバリエーションに富んだ6人それぞれの肌色と若干の桃色が目に眩しかったってそんなこと言ってる場合じゃねえ!
咄嗟に弁解したものの、この状況でも何故か冷静さを保っている木乃香と楓以外、俺の台詞なんて一切耳に入らないといった様子でその肢体を隠すようにしゃがみ込んでしまった。俺もこのまさしくラッキースケベといった状況にどう対処した物かと困惑しきりである。っていうか俺の同年齢でこのような状況に対してスマートに対応できたらそれはそれで大問題が発生している気がする。
「んー、せかい君せかい君。ウチと楓がみんなを落ち着かせとくから、はやく向こうに行った方がいいえ」
「んむ。このか殿の言うとおり、意図してこのようなことをするはずがないと思うぐらいには拙者もお主を信頼しているでござる。さ、早くあちらに行くでよかろう」
「あ、ありがとうな2人とも! ホントよろしく頼む!」
日頃の行いって本当に大事だよな! と今ほど実感したことはなかった。とにかく2人の言葉を受けた俺は速攻で回れ右をして勉強スペースへと戻ることにした。
と、そこになぜか真っ先に戻れと言った木乃香が肩越しに声をかけてきた。
「あ、そうやせかい君。この際やし、ちょっと確かめときたいことがあるんやけど」
「えっ? なんだよ。そんなもの後で――」
「いやな、ここについての説明を受けた時からずっと気になってたんやけど――
――そもそもなんでこんなところに都合よくせかい君が居合わせておったん?」
「そういえば、石像にセクハラ満載のツイスターゲームをさせられた、という夕映殿の説明にもさほど驚きを見せなかったような気がするでござるな。ニンニン♪」
――ちくしょう、どう足掻いてもバッドエンドか……ッ!
・地底図書室=お仕置き部屋
もともと存在していたらしい『魔法の本』についての噂、英単語ツイスターゲームの石版に書いてあったVer10.5という文字、いくら主人公の為とはいえたった五人の生徒の為にあそこまで至れり尽くせりな環境を用意するか、脱出の為には問題を解かないとエレベーターに辿り着けない、その他いくつかの点から、元々“地底図書室”という場所は魔法の本を使い不正を働こうとした生徒に反省を促すための場所なのではないか、という推理。
まあ、こじつけと言われたらそれまでなんですがね!
・いやーん!?
やっぱりネギま二次創作としては赤松節はできるだけ尊重したいと思ったりするわけで
・ベッタベタなラッキースケベ
破壊するべきではない良い文明。少なくとも作者はこういう展開大好きです。正直この地底図書室編はこの展開の為だけに飛ばさなかったといっても過言ではないような気がしないでもない。
さて読者の皆様お久しぶりです。といっても覚えていてくれているような方は少数派でしょうけども。
ここまで遅れたのは就活とか卒論とか、まあ諸々のせいでただでさえ飽きっぽい作者が余計にやる気が出なかったというのが最大の原因です。たぶん艦これ引退を決意したというキッカケがなかったらもう……
え? 次回? ……ま、また1年後ぐらい?(目逸らし)
さ、さて、全体の誤字脱字確認でもひさびさにやろうかなーっ