シリアルに生きたい   作:ゴーイングマイペース

34 / 44
 22話以来久しぶりに三人称視点での執筆をしてみました。やっぱり慣れてない分上手く書けてないかな……


34時間目 : 修学旅行2日目:朝・昼 ~なんだコレ、背中が痒いんだけど~

 呪符使いの女が木乃香を攫おうとした夜が明け、翌朝。朝食を早めに終え、他に特にやることもない俺は今日の班別行動に備え、同班のメンバーより一足早くロビーにて時間を潰していた。

 

「世界」

 

「刹那か。どうした、少し疲れてるように見えるけど」

 

 そんな風に1人寂しく携帯端末を弄っていた俺の元へと近づいてくる1つの見知った気配に気づき顔を上げる。そうして目に映ったのは、感じた気配通りの人物。いつも通りに野太刀が入っているだろう竹刀袋を背負った刹那であった。

 その刹那だが、何やら顔に若干の気疲れらしき色が浮かんでいる。朝から何かが起きたのだろうか。…いや、まあ今の刹那がこんな顔色を浮かべる理由なんてそう多くは無いのだが。

 

「ああ、朝食の席でこのかお嬢様と少しな……」

 

「やっぱり木乃香か。まあお前が麻帆良に来てから今までの態度っていう化けの皮が剥がれた以上、あの木乃香が躊躇するわけもないってわかりきってたけど」

 

 昨日木乃香とほんの少し会話をしただけであの様だった刹那である。そんなヘタレには、「嫌われてしまったのでは」という懸念が無くなった事により急にグイグイと自身との距離を詰め始めたのだろう木乃香の行動は、良いか悪いかはともかくとして、なかなか堪えるものであったらしい。

 

「この際だ、いい加減観念して木乃香と話すようにすればどうだ」

 

「…いつも言っているだろう。私のような者がお嬢様と気安く接するなど許されることではないと」

 

「そのお嬢様はもう、お前との仲を元通りにする為に躊躇するようなことはきっと無いぞ」

 

「……」

 

 いい機会だと刹那へ向かって木乃香に自分から近づいてみるよう促してみるものの、相変わらず煮え切らない態度しか見せない我が友人。いくらコイツ自身が躊躇しようとも、最早木乃香の方に今の距離で満足する気が無い以上どうにもならないということに気付いていないのだろうか。

 まあ、コイツの悩みは自身の出生という如何ともしがたいものだし、俺や他の友人たちがいくら言葉を重ねようとも今更あまり意味は無いだろう。俺たちにできるのはあくまで今まで通りに背中を押すことだけ。最終的に必要になるのはどうしたって木乃香の言葉なのである。

 

「まあいいや、最終的にどう収めるかはお前と木乃香だしな。……で、それだけか?」

 

「すまない。……ん? それだけ、とは何のことだ?」

 

「いや、昨日のことで何か言う為に来たのかと思ったからよ。俺昨日は明日菜のフォローに終始して、自分で手は出さなかったし」

 

 そう、恐らく時間の問題だろう2人の行方はさておき、俺としてはそっちが気になっているのである。

 普段から俺と修行などをしていることもあり、俺の実力をある程度把握している刹那のこと。その実力をあてにして昨日俺へと協力を求めたところもあっただろうに、俺は一応は自身の都合もあったとはいえ、刹那が何より大事にしている木乃香救出に積極的では無いと言われては反論できないような行動しか取らなかったのだ。

 それ故、先ほど刹那の気配を感じた時は、昨日はコイツが逃げたことでうやむやになったその件について問い詰めにでも来たのだと思いこう問いかけたのだが。刹那はその言葉を聞いた途端キョトンとした表情を見せ、そのあと若干表情柔らかくし、口を開いた。

 

「何かと思えば……あのとき、神楽坂さんのフォローを買って出たのはお前自身ではないか」

 

「そりゃあそう言われればそうだけど」

 

「ならそれまでのことだと言うだけのことだ。私がこのかお嬢様を守るという使命の為に動いたのと同様、お前も神楽坂さんという友の為動いてみせた。そうだろう?」

 

「……さっきまでヘタレてたクセに、急にカッコよくなるなよお前」

 

「……うるさい、茶化すな」

 

 そう言って、照れ臭いと感じているだろう赤くなった頬を少しでも隠そうというかのようにそっぽを向く刹那。

 どうしよう、怒っているのかと思ってたら予想外の返答がきたせいで、こっちまで顔が赤くなってきそうなんだけど。

 

「まったく……いいか世界。私も、今まで良くも悪くもそれなりの付き合いしてきたお前のことは、多少なりとも知っているつもりだ。そして、重要な場面でお前が何も考えずに意味の無い事をしないということも分かっている。

 つまりだな、その……お前のことは、信頼、している。だから、私がお嬢様をお守りするべく剣を振るうように、お前もこの修学旅行で自身の考えのもと成すべきことを成せばいい。私が言いたいのは、それだけだ」

 

 そうして、妙な空気が漂い始める中、俺に言いたかったことを全て言い切ったのだろう刹那は、俺より早くこの場の空気に耐えられなくなったのか口を閉じた途端すぐさま踵を返し、この場を後にして行った。

 

 ……どうしよう、しばらく顔の熱さが引きそうにないんですけど。

 

 

 

 ○ △ □ ☆

 

 

 

 麻帆良中学修学旅行2日目、班別自由行動時。一組の少年少女の仄かに甘酸っぱい青春のほんのひと時からしばらく経った現在、1人の少女がある出来事により生まれた、ちょっとした悩みを抱えながら奈良公園を歩いていた。

 

「はぁ……」

 

「……? どしたのアスナ、溜息なんかついて珍しい」

 

「うっさいパル。良いじゃない、私が溜息ついたって」

 

「そりゃ悪いなんて言わないけどさ。なんかあるならちゃんと誰かに言いなよ?」

 

「ありがと。でもそんな大したことじゃないから平気」

 

 なんてやり取りを同じ班である早乙女ハルナと交わし心配無いと言いつつも、その少女、神楽坂明日菜は依然として悩み続けていた。

 こう言ってはなんだが、彼女は今まで、基本的になにか1つのことについて思い詰めたりはしてこなかった性質である。しかし今は、現にこうして悩みを抱えてしまっているのだ。

 

 では、何がきっかけでこの少女は悩みを抱えるようになったのだろうか。それは昨夜、自身の親友が攫われ、その救出の為に行動したことに端を発していた。

 

「(あの時、ネギや桜咲さん、それに世界がいなかったら、私はこのかの為に戦うこともできなかった)」

 

 そしてそれは、一言で表せばこれに尽きる。実際に戦ってみてわかったが、魔法の力とはとても凄いものであったからだ。

 単純に追いかけるだけでも幾度も魔法で道を阻まれる。そしていざ追いつき幼馴染に力を貸して貰い戦い始めてみるも、よくわからない着ぐるみに邪魔され、なかなか木乃香を助けることができず、危うくそのまま逃げられそうになってしまった。

 

 結局最後は、親友が危険に晒されるという危機感と、それに伴う激昂から湧き出た力によって敵の着ぐるみを倒すことができた。が、あれはあくまで一瞬の火事場の馬鹿力のようなものであって、自身の本来の実力というわけではない。

 

「(それでも朝までは、こんな風に悩んだりしていなかったんだけど)」

 

 そう、それでも朝まではこんなに気にするようなことではなかった。そもそも自分は本来普通の女子中学生なのだ。それがあそこまでやれたのだからと若干の自信すら生まれていた。

 朝、食事を終え、何気なく昨日ネギ達と集まったロビーの方に足を運んだ時に聞こえた幼馴染とその友人の話に、そんな自身の考えが甘かったのではないかと思わされてしまったのである。

 

「(そうよね、昨日だけじゃない。修学旅行はまだ続くんだもの。その間またこのかをアイツらが攫いにきっと来る)」

 

 当たり前の話である。いや、自分だってわかっていたつもりではあったが、やはりどこか浮かれていたのだろうか、その事実に実感の伴った認識ができていなかった。また木乃香が攫われようとも、きっと次も問題無く助け出せる。そうたった1回の勝利で考えてしまったのだ。

 

「(そうよ。良く考えたら私、世界に魔力っていうのを分けてもらえたからアイツらと戦えたんじゃない。でも、次にアイツらが来たときが、班どころかクラスも違うアイツがまたすぐ私に力を貸したりできる時だなんて限らないわ)」

 

 そう、自分があの時このかを助けるためにと敵の着ぐるみを倒すことができたのは、あくまでアイツらに対抗するための力を持っていた幼馴染が、同じようにと自分に力を貸してくれたからなのだ。だからこそあの場で曲がりなりにも戦力として活躍を見せることができた。

 だが、それも所詮は借り物の力。本来あの2人やネギが持っているような力は持っていない自分では、あの2人が言っていた成すべきことというのもなせそうにない。

 

 そしてその成すべきことを成す力を持っていたからこそ、刹那はあんな風に恥ずかしがりながらも幼馴染に信頼の言葉を口に出すことができたのだろうし、幼馴染もその言葉を受け取ることができたのだろう。

 

 そうして、その結果生まれた双方まんざらでもなさそうな妙な空気は、聞いているこっちまでどうにかなりそうだった。終いには何やら2人して顔を赤くし始めるし、もしあの場に刹那が残れば、そのまま一歩関係を前進させてしまうのでは、とも勘ぐってしまったほどだ。

 ――イヤイヤ違う。確かに幼馴染がそういったことをになりかけたことにも驚いたし、幼馴染として何かを感じなかったわけでもないが、本題はそこではない。

 

 そう、本題、自身の悩みとはあくまで彼等が言っていた、「自身の成すべきことを成す」ため、自分は何ができるのかということである。

 では自身の成すべきこととはなんだろうか。決まっている、親友である木乃香をよくわからないバカ猿女たちから守り通すことだ。

 

「(でも、私には世界やネギ、桜咲さんみたいな凄い力は無い)」

 

 昨日の夜は自分も確かに変なサルとクマの着ぐるみを倒すことが出来た。だが、それもあくまで幼馴染が貸してくれた魔力という力のおかげである。そして、その幼馴染はこの修学旅行中いつも昨日のように自分に力を貸すことができるというわけではない。昨日のようにあくまで既に修学旅行としてのその日の日程が終わっていたからこそすぐ駆けつけられた夜とは違い、彼にも今の自分と同じように班別での行動予定がある昼の時間は、すぐさま自分の元に駆けつけ再び魔力を貸す、というわけにはいかないだろう。

 

「(そりゃあアイツも私達にまた何かあればすぐ駆けつけようとするだろうけど、同じ班の男子を誤魔化したりとか、そういうことをしなきゃいけないだろうし)」

 

 なんて懸念も浮かんでくる。イヤ、それでも余程の緊急事態ならそういった雑事も押して来るであろうが、それでも極僅かの時間は必要となる。例え昨日のように魔法を使い一瞬で来ようとしても、だ。

 

『せっちゃん、お団子買ってきたえ。一緒に食べへんー?』

 

『えっ……。す、すいませんお嬢様。私、急用が…っ』

 

『あん、何でお嬢様って呼ぶんー』

 

 そんな風に悩み続けながらしばらく。自身でも本当に珍しいと思うほど頭を働かせたために熱でも出そうだ、と思いながらふと聞こえた耳慣れた声に顔を上げれば、そこには旧知の仲だったという少女と仲直りするべく、健気な笑顔を浮かべながらその少女を追いかけまわす、自分が守りたいと思っている親友の姿。

 

「(……そうよね、悩んだりしてる場合じゃない。まずはとにかく行動を起こさなくちゃ)」

 

 そんな風に積極的な行動をしている親友を見て、自身も悩んだりする前にまずは行動を起こそう、そう決意する明日菜。そもそもこんな風に悩んだりするなど自分の柄ではないのだ。そう、まずはとにもかくにも行動である。

 そう決めた途端、とりあえず、パルの言うとおりに身近にいる魔法関係者に相談しよう。と、さっきまでの自分がなんだったのだと思うほどすんなりと次に取る選択肢が頭に浮かんできた。やはり、うだうだと悩むのは自分には合っていないのだと苦笑が浮かんだ。

 

「ネギ、カモ。ちょっと良い――?」

 

 そうして彼女は、いまだに親友に追い掛け回されている少女を選択肢から外すと、自然残ることになる、自分たちの班に同行していた魔法使いとその従者へと声をかけるのだった。

 




・朝、少年と少女
 せっちゃんのヒロイン力が高まるぅ……!


・アスナさん悩んでます
 何か心に触れるものがあったのでしょう。



 というわけで34話でした。時間は進んでいるものの、展開としてはそう進まないというなんとも言えない回。どうも本格的にエンジンが入るのはまだまだ先になりそうです。

 それでは今回はここまで。感想、評価も随時お待ちしておりますのでガンガンお送りください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。