くっ。焦るな、修学旅行が終わったら存分に~~がカワイイって感想がどんどん来るような話を書くんや……!(高速タイピング)
「ほお、貸衣装か。どれ、この私直々にどれほどの物を扱っているのか品評してやろうではないか」
「お、エヴァちゃんの着物姿inシネマ村かー。こりゃカメラ係として是非とも撮っとかなきゃねん」
京都は大秦シネマ村。
様々な地から来たであろう観光客が溢れるその場所では今、それはもう嬉しそうにあちらこちらを見て回る一級品のビスクドールと見紛うかのような1人の外人の少女と、その少女に付き合い同じようにあちらこちらと見て回り楽しむ少女たちの集団、麻帆良中女子3班が楽しげに往来を闊歩していた。
「ふふふ、エヴァンジェリンさんとっても楽しそうね」
「そうですね。普段の彼女の様子からはとても想像できない微笑ましさです」
「いや、そもそもアイツって神楽坂んとこの班だっただろ。ここまで来といて今更だけど、いいのかコレ」
「ま、まあまあ長谷川さん。いいじゃない、みんな楽しんでるんだし」
「……まあいいけどよ。確かにあんな嬉しそーにはしゃいでるところを見ると、そこまでうるさく言うのも不憫って気がしないでもないしな」
自分たちの先頭を楽しげに歩く少女、エヴァンジェリンの常には見せないその姿を見て、微笑ましげに談笑を交わす那波千鶴、ザジ・レイニーデイの2人。
そんな2人を見て、同じく3班である長谷川千雨が思わずと言った様子で台詞通りに今更な疑問を発するも、それを宥めようと村上夏美が言葉を発する。
「(私も同じこと思ってたけど、班長のいいんちょがOK出しちゃったし。それにエヴァンジェリンさん、久しぶりの外だってあんなに嬉しそうにしてたもんね)」
千雨の言った通り、元々エヴァンジェリンは自分達とは違い、5班のメンバーである。
それがなぜ3班にいるのかといえば、
『せっかく久しぶりに麻帆良の外に出たっていうのに、私まであんな面倒事に構ってられるか。それより貴様ら、シネマ村に行くと言っていたな。私も連れてけ』
とエヴァンジェリンが(何が面倒なのかは話さなかったが)言い、自分達3班の班長が許可した、という出来事があったからである。
実際、彼女は1、2年時の学外活動の時も何らかの事情があったらしく自分たちに同行はできていなかった。
それが何故か、今回の修学旅行では麻帆良の外に出ることが許されたというのだ。
その時のはしゃぎようは先ほどザジが言っていた通り普段の彼女からはまるで考えられなかったものだったこともあり、夏美自身は「あんなに嬉しそうにしてるんだから」と今回の彼女の同行は特に隔意も無く、受け入れることができた。
千雨もそのことは知っているからだろう。結局、まあいいかと受け入れることにしたようである。
「で、あやかはまだ世界君のことが気になってるの? いくら唸ってても肝心の2人が一緒にいるわけじゃないんだし、貴女もいい加減気持ちを切り替えてシネマ村を楽しんだらどう?」
「そう悋気を撒き散らしていては、真実を明らかにするどころか世界さんも神楽坂さんも貴女を目にしたとたんにまた逃げ出してしまいますよ。委員長さん」
などと千雨と話している内に、自分達の前方を歩いていたお嬢様コンビのターゲットは、同じくお嬢様である自分たちの班長へと移ったらしい。
夏美も2人の声を聴いて、あえて視界から外していた我らが班長、雪広あやかの様子を窺う。
「……私が誰にヤキモチを焼いているというのです、ザジさん?」
超不機嫌だった。というかこの班長、旅館を出発してこっち、ずっとこの調子であった。
理由はハッキリしている。朝のちょっとした騒動の原因となった彼女の幼馴染たち、火星世界と神楽坂明日菜が証言以上の何かをまだ隠しているのではないかと、彼女は気になって仕方ないのだ。
かといって、このままいつまでもこの調子を引きずられては自分たちも楽しめないし、何より彼女の為にならないだろう。
そう考えた千鶴とザジの2人は、素早く視線を交わすと、一緒になって彼女をおちょくり始めた。
「フフ。言うまでもないことだと思いますが、声に出してカタチにして欲しいというならばそうさせていただきましょうか。それはもちろん、世界さんと神楽坂さん、双方へと」
「見当違いもいいところですわよっ!? それではまるで私が節操無し過ぎる変態のようではありませんかっ!!」
「まぁ、普段のショタコンぶりを見る限り、あやかの倒錯ぶりがそこまで進行していてもあながち間違いじゃないかもね♪」
「ち、千鶴さんまでそのようなっ! わ、私は断じて、そのような度し難い性癖を持つ女などではありませんわー!!」
いくらなんでもショタコンにバイの二重苦を背負わされるのは我慢ならないのか、声を大にして千鶴とザジの言を否定するあやか。一時的なものかもしれないが、どうやら、とりあえずは千鶴とザジは、あやかの気を逸らすことができたらしい。
「(まぁ、いいんちょの気持ちもわかるけど。みんな、世界君とアスナのことで大騒ぎだったしね)」
そんなあやか達の様子を見ながら、夏美も彼女を悩ませている原因へと思考を飛ばす。
朝、なにやら誰が見ても意味深な態度で顔を向かい合わせている2人。
その時間がごく短いものだったが、周りからその様子を見ていた自分らからすれば、決定的なナニカがその2人の間に起こったのではと考えるのに十分すぎるもので。
「あーあー、いいんちょも難儀なヤツだな。いくら考えても本人たちから聞き出さなきゃホントのところなんてわかりゃしねーのによ。それも神楽坂が朝騒いでいた以上の何かがあったらの話だってのに」
夏美と同じく千鶴とザジに強い声で抗弁するあやかを呆れた顔で見ながら言う千雨。
だが、夏美は知っている。こんなことを言っている千雨だが、その実、朝、同じ班として食事を共にしていた彼女が、明日菜とあやかを中心とした大騒ぎを展開しているクラスメイト達に呆れ気味な様子を見せつつも、耳をそばだてその内容を聞き取ろうとしていたことを。
そしてそれは千雨に限った話ではなく、同じように落ち着いて食事をとっているように見えたメンバーも、きっと差はあれど千雨のようにその関心を明日菜へと向けていたに違いない。
自分もそうだった夏美は、各々浮かべる表情は違えど同じように朝のことを思い出しているだろう面々を見て、そう苦笑いを零した。
「なんだお前たち、まだそんなところでくっちゃべっていたのか。見ろ、あそこの更衣所で扱っている衣装はレンタル物として見れば中々の出来だぞ。お前たちも着替えてきたらどうだ」
「そーそー。エヴァちゃんの言うとおり、ここに来たならこれは絶対にやっとかなきゃ♪ いいんちょもさ、そんなに気になるっていうなら後で私がちゃーんと取材しといてあげるから。ね♡」
などと自分たちが盛り上がっている内に、更衣所で衣装を借りてきたのだろう、舞妓の格好をしたエヴァンジェリンと、それに付き添い浪人風の着流しを纏った和美が戻ってきた。
エヴァンジェリンはこのようにコスプレをするだけでも嬉しさが抑えきれないのか、豪そうな口調とは裏腹にその場でくるりと一回転してみせるなど上機嫌な様子を隠そうともしない。
そして和美はそんな非常に珍しいエヴァンジェリンの様子に報道部としての血が騒いででもいるのか、ニヤニヤとした笑みを浮かべながらパシャパシャと連続してシャッターをエヴァンジェリンへと向けて切っていた。
「あら、とってもお似合いねエヴァンジェリンさん、和美。ほら、あやか?私達もせっかくのシネマ村を思う存分楽しみましょう?」
「……確かに千鶴さんの言うとおり、いつまでもウダウダと考え込んでいてはせっかくの修学旅行を楽しめませんわね。ご迷惑をおかけしましたわ、千鶴さん、ザジさん」
「そんなお礼など水臭い。私はもう少し、委員長さんの隠された性癖を詳らかにするべくお話をしていても良いと考え始めていましたから」
「で・す・か・ら! アスナさんのことを好きなどと、私、雪広あやかはそのような世間の皆様に顔向けできないような深い業は背負っておりませんわー!!」
そうして、あやか弄りはそのままにしてエヴァンジェリンと和美以外のメンバーたちも、シネマ村を更に楽しむべく変装を済ませこの地の観光を続けてようとした。
――が、気持ちを切り替えて、みんなと同じようにシネマ村観光を始めようとしたあやかの前にその悩みの元凶が現れてしまい、場はますます混沌と化してしまった。
「ハッ……あれは……アスナさん!?」
「げっ、いいんちょ!? もう、こんな時にーッ!!」
○ △ □ ☆
「ここは私が。神楽坂さんはお嬢様を安全な場所へ!」
「うん、任せといて! このか、こっちよ!!」
「こっちってアスナ。あっ、せっちゃ……」
「アスナさん!? まだお話は済んでおりませんわよー!?」
白昼堂々このかを狙い街中で敵が襲ってきたために全力でダッシュし、結果としてこのシネマ村に逃げ込んでからしばらく。
明日菜は、月詠と名乗る神鳴流剣士とその式神たちを刹那、ついでに自分に絡んできていた為にその場に居合わせていたあやか、そして自分たちが所属している5班の皆に任せ、木乃香の手を引いて再び駆け出していた。
「(たくぅ、いいんちょと朝倉がまた世界とのことでうるさくしなけりゃ、まだやりようもあったかもしれないのにー!)」
心の底からの叫びであった。ただでさえ木乃香を守るために過敏になっていたというのに、事態を好転させるべく逃げ込んだ先ではまさかのあやかとの遭遇。
そうして、少しは落ち着いたのか朝よりかはおとなしいものの、それでもしつこく話を聞き出そうとするあやかに困っている内に、月詠が劇の撮影という体で自分たちの逃げ場を失くされ、何を勘違いしたのかあやか達が自分たちの助太刀をすると言い出して更にややこしいことになり。
そういったことや朝からの諸々の苛立ちも全て合わせて、チマチマと襲い掛かってくる式神たちを世界との『
「よしこのか、ここに隠れるわよ!」
「おけ♡」
何が何だかわかってはいないだろうに、それでも自分を、自分たちを信頼してくれているのか、混乱を隠せないながらも笑顔を浮かべ、いつも通りに返事をしてくれる木乃香。
「安心しててね。何があってもこのかには傷一つ付けさせないから!」
そんな親友を守らなければと、あんなわけの分からない猿女なんかに渡してやるもんですか、と明日菜は改めて強く思う。
そうして隠れ場所に決めた建物、妙に長い上り階段からおそらくお城のセットだろうその中を、上へ上へと敵に追いつかれないよう、見つからないように急いで進んで行った。
だが、それは悪手だった。
「――ようこそ、このかお嬢様。月詠はん、上手く追い込んでくれはったみたいやな」
「!? アンタは!」
進んで行った先の部屋、ちょうどいい隠れ場所になりそうだと飛び込んだ先から響いてくる、この場では決して聞きたくなかった、聞き覚えのあるその声。
「おや? そっちのガキはこの前邪魔してくれはった小娘やないか。なるほど、相も変わらず
「……」
「くぅ……ッ、しつっこいのよ、アンタ達!」
そう、以前木乃香を攫おうとした呪符使いの女、そして隣に立っていることから間違いなく女の仲間だろう白髪の少年が、準備万端と自分たちを待ち構えていたのだから。
咄嗟にアーティファクトを彼女らに向けるも、所詮自分は素人に毛が生えた程度の普通の女子中学生。そして後ろには木乃香もいる。
そんな自分たちの様子を見て、先日と同じサルとクマの着ぐるみ、そして何やら恐ろしげな容貌の鬼を呼び出した女を見て、明日菜は気丈に声を張り上げるもその心の内は声と同じく気丈とは言い難い様相だった。
「(どうする? 私1人でコイツ等と……!?)」
○ △ □ ☆
一方その頃、関西呪術協会に続く参道の最中にて。
『――出てきましたよ、世界さん』
『私のステルス偵察機の映像からも確認したヨ。調査資料と完全一致。間違いないネ』
「了解。サンキュな、ザジ、超。
――やっと出てきやがったか。待ちくたびれたぜ、まったく」
関東魔法教会からの親書を渡す任を背負ったネギと共に参道を歩いていた少年、火星世界の元へ、彼の協力者たちから、少年がこの修学旅行が始まってからずっと待ち望んでいたことを知らせる、ある連絡が入っていた。
「? どうしたんですか、世界さん?」
「悪いネギ、どうしても外せない急用が出来た。ここで待っててくれ」
「えっ、待っててくれって、何が……って世界さん? 世界さーん!?」
――修学旅行3日目、少年少女たちを取り巻く騒動は、ここに来て、大きく動き出す――
・エヴァちゃん、相も変わらず大はしゃぎ
たぶん、偉そうに言いながらもはしゃぎながらクラスメイト達の衣装を見立ててたりする。
・2人のことが気になって気になってしょうがないあやかさん
自分の知らないところで大切な幼馴染たちが急速進展してしまったのではないか、という焦りが止まらないご様子。
・「~~私、雪広あやかはそのような世間の皆様に顔向けできないような深い業は背負っておりませんわー!!」
え? なんだって?(猜疑)
・夏美さん、妙に冷静にクラスメイト達を観察していますね
ちづ姉に引きずられて勇気を振り絞った為か、一周回って冷静になった模様。
・明日菜アーティファクト『ensis exorcizans』
原作通りの魔を祓う太刀、「破魔の剣」ですね。
たぶん最初からこれ使えてたら、原作通りに「あいつら全然大したことなかったし」とか言えてた。
・お、世界君どうしたどうした
次回を待て!
ようやくここまで来た、という感じの第39話です。
そろそろ、そう、ようやくこの修学旅行編が動き出す気配を感じる……!(超速タイピングしつつ)
では今回はここまで。感想、評価もどんどんお願いします!