※ 後でまだちょいちょい手直しするかも。
「聞-とるか、お嬢様の護衛桜咲刹那! この鬼の矢が2人をピタリと狙っとるのが見えるやろ! お嬢様の身を案じるなら手は出さんとき!!」
シネマ村のお城のセット、その屋根の上にて呪符使いの女、天ヶ崎千草が今まさに木乃香、そして明日菜を追い詰めている時。
「……(おかしい、こんなに簡単に
千草の隣にて静かに事の推移を見守っている白髪無表情の少年、フェイト・アーウェルンクスにはある懸念があった。
それは何かというと、今回彼がこの旧世界の古都にて任務にあたる際、最も警戒していた人物が妙に大人しい、というものである。
――そう、大人し過ぎるのだ。自分の知る
眼前にて繰り広げられている、天ヶ崎千草、そして近衛木乃香と神楽坂明日菜のやり取りを他所に彼の思考は更に先に進んでいき、改めてここ数日の
「(そもそもだ。ここまで僕たち……というより、千草さんに今まで散々好き放題やられているというのに、なぜ、何かしらの対処をする様子すら見せない……?)」
まず脳裏に浮かぶのは、京都へと向かう際の新幹線での移動中の事件から始まる数々の騒動。天ヶ崎千草が件のお嬢様の所属クラスを狙って起こした拙いイヤがらせに、彼は何も対処しなかった。これがそもそもおかしい。自分の知る
一応彼も所属する関東魔法教会の長は、彼らが現在行っている旅行の際、「そこまで大それたことは起きないだろう」と見通しを立てているはずであるということであったし、彼もその言葉を信じ特に事前に過度な警戒をしなかった故だという可能性もあるにはあるかもしれないが、やはり、どうにも違和感が残る。
次に、天ヶ崎千草が近衛木乃香を攫いかけた時に起こった戦闘。彼は終始自分から前には出ず、友人である神楽坂明日菜のフォローに従事した。これもおかしい、そう考える。
何故なら、実は彼、フェイトは魔法世界に来ていた
その時のことは、あれから数年が経った今でも簡単に思い出すことができる。
天空から降り注ぎ続ける、まるで天そのものが堕ちてきていると見紛わんばかりの凄まじい魔法の嵐。どうにかそれを潜り抜けて近づいて近接戦闘を仕掛けても、まるで相手にならずに距離を離され、再び雨霰と魔法の嵐。
今でも思う。あの戦闘を切り抜けて彼の元から逃げおおせ、こうして生きているのは奇跡、それ以外の何物でもないと。
その経験が、そのたった一度の戦いの記憶がフェイトに言う。
“あの
と。
いや、もしかすれば攫われた友人を助けようとした彼女が、いざその場で役に立たなかったなどと考えた結果の行動、という彼女の心情を慮った故のことだという可能性もある。
いくら凄まじい実力を持つとはいえ
「(だからといって、その程度の理由では彼を押し留めるには足りない)」
そこまで考えてみるも、やはり、頭にこびりつくような違和感は拭えず、その思考を更に加速させていく。
何故なら、彼の実力ならそういった諸々を加味したうえでも、そう時間をかけず、なんなら比喩抜きで瞬きの合間に近衛木乃香を助け出すことができたはずなのである。それどころかその場で天ヶ崎千草を捕縛し、今回のこの騒動をあっけなく収束させることとて何ら難しいことではなかったはずだ。
「フフ……アスナ言うたか小娘? 一歩でも動いたら射たせてもらいますえ。さあ、おとなしくお嬢様を渡してもらおか」
「ふざけんじゃないわよッ! 誰がアンタみたいなバカ猿女にこのかを渡すもんですかッ!!」
だが、現に天ヶ崎千草はこうしてその目的を今にも達しようとしている。それも特に障害に悩まされることもなく。何故か? それは彼女の行動を阻めるだけの力を持つ者がいなかったからだ。
じゃあ、今の自分の推論は全てが的外れ? いや、そんなはずはない。
「(そうだ、そんなことありえない。何か、そう、何か狙いがあるはずなんだ。近衛木乃香やその他の友人達を多少の危険に晒してでも優先し、達するべきだと考えるほどの、“何か”が)」
ではその“何か”とはなんなのか。とフェイトは更なる推理を働かせようと、目の前の喧騒を他所に、更に自己を己が内へと埋没させていこうとした。
――もし、ここで彼、フェイトが周囲からしたら余りに無防備なほどに思考に埋没していなければ、彼のこの先の運命は変わっていたかもしれない。
だが、それは意味の無い想像である。何故なら、たとえ一見無防備に見えたとしても彼は始まりの魔法使い、【
しかし、やはり所詮想像は想像でしかなく、従ってこの想像にも意味は無い。
「―――――――グウウゥッ!!!!!?」
何故なら、その絶対の自信はあっけなく消滅し、結果として、彼はその身に尋常ならざる負傷を受けることになったのだから
「(なん、だ? いったい何が――ッ!?)」
余りにも何の前触れも無い、突然過ぎる激痛。フェイトはその発生源である自身の胸部を見た。
そしてその目に映ったのは、見ただけでその威力の程が推し量れるほど濃密な魔力で構成された、剣状の魔力塊。それが自身の胸を貫き、そして――自分の力の源たる核を、著しく、傷つけていた。
「(いったい、何が、起こった? この僕へ、こうも簡単にここまでの大ダメージを負わせることができる術者など、この場にはいなかったはず……。――――ッ!!?)」
そうだ、いくら不意打ちとは言え、自分にこうも容易に傷を付ける者などいなかったはずなのだ。そう、いくら自分が思考の海に沈みきっていたとしても、である。フェイトにはその隙をこの場にいる誰に突かれようとも、一切の危険なく余裕で対処できたはずなのだ。
そこまで考えて、フェイトはようやく、自分の背後に存在する、つい数瞬前までは確かに無かったはずの人物の気配に気づく。それは、自分がこの京都にやってくることになってから、常にその動向を注意深く観察し、障害にならないかと警戒していたはずだった者の気配。
「よぉ。久しぶりだな、フェイト・アーウェルンクス。――会いたかったぜ」
そう、かつて自分を窮地と言えるほどの危機に追い詰め、そしてこの京都に来るうえで最も注意深くその動向を観察していた人間――
○ △ □ ☆
などと叫びたいところではあったが、そこはなんとか堪えてグッと我慢をする。ここで調子に乗って手を緩め、たった今自分の手でその背中を串刺しにしたヤツに逃げられるなどということがあっては、悔やんでも悔やみきれない。
「なっ、新入り!? ――って、ヒィッ!?」
何やらフェイトを呼ぶ声が聞こえたのでそちらに視線を向けると、見覚えのある呪符使いの女、天ヶ崎千草がいた。
そしてその隣には木乃香と明日菜に向けてその手に持った弓に番えた矢を向けている悪魔がいたので、すぐさまフェイトの背中へと刺した魔力刃を生成しているのと反対の手から『魔法の射手(光)』を数発放ち札へと返してやった。その様子をすぐ横で見せられて、悲鳴を上げる天ヶ崎千草。
「そんな、あの召喚魔を一瞬で……!?」
「悪いなお姉さん、もうこの前までみたいに大人しくする必要が無くなったもんでね」
「世界!? アンタ急に出てきて何やってんのよーッ!?」
と、耳慣れた叫び声が聞こえてきたのでそちらに視線を向けなおすと、何が起きているのかまるでわからないのか混乱の様子を見せる明日菜と、その明日菜以上に場の状況を把握できていないのか目を白黒させている木乃香がいた。
「いきなりで悪いけど、話は全部後でだ。とりあえず、お前は木乃香を刹那のところに連れて行ってくれ」
「……後で絶対に説明しなさいよ!」
「ちょっ、待ちぃや「大人しくしてた方がいいぞ、お姉さん」――ッ!?」
そう言うと、木乃香の手を引きこの場を後にする明日菜。それを見た天ヶ崎千草がすぐにその行く手を阻もうとするものの、俺が変わらずその手を自分に向けていることに気付き、慌ててその動きを止める。
「なぜ、君が、今になってこんな……いや、そうか。君は最初から……」
そうしていると、フェイトが何かを察したような台詞を発したので、絶対に逃がさないように注意しつつもその言葉にこちらも言葉を返す。
「そういうこと。最初からお前にこうして一撃喰らわせることだけが狙いだったんだよ、アーウェルンクス。まったく、万が一にでもお前に逃げられたりしないようにってずっと大人しくしてたから、本当にもどかしかったぜ」
そう、俺はずっと、このフェイト・アーウェルンクスが姿を現すその瞬間を待っていたのである。全ては、こうして確実にフェイトの奇襲を成功させる為に。
より詳しく説明をすると、まず、事の発端は先学期の冬。明日菜への魔法バレを阻止しようとしたが結局それは叶わなかった、というところまで遡る。
俺は自分では完璧だと(少なくとも当時は)思っていた作戦が自分の想定していたものとまるで違う原因から破綻してしまい、もうどーすんだよコレ、と酷く頭を悩ませた。それは何故かなどと言うまでも無く、『明日菜への魔法バレ = 明日菜の身に間違いなく危険が及ぶ』だと知っていたからに他ならない。
だが、そう時間も経たない内に俺はあることに考えが及んだ。
それは、そもそも何故先ほどの図式は成り立ってしまうのか、ということ。
確かに魔法を知るということは裏の世界を知るという事ではあるが、裏の世界というものは、何も全てが全て危険なことだけで満ち溢れているわけではないのだ。実際に、何らかの拍子で魔法を知ってしまったとしても、そのまま魔法への興味だけで裏の世界に足を踏み入れ大成した人間などいくらでもいるだろう。
だが、こと神楽坂明日菜に関してはまず間違いなく最終的にその身の危険に繋がってしまう。それはいったいなぜなのか。
それは、神楽坂明日菜の正体が、完全魔法無効化能力保持者たる【黄昏の姫御子】、「アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア」という、そこら辺の一般人などとは一線を画す、替えのきかない存在であることに他ならない。
だからこそ明日菜は黄昏の姫御子としての記憶を封印され、魔法世界からの手が及びにくい
そこまで考えが至ったところで、俺はふと、あることに気付いてしまった。
それは、例え明日菜が魔法の世界に足を踏み入れてしまったとしても、その明日菜を狙う連中を、明日菜に気付く前に叩き潰す、ないし弱体化させてしまえばいいのでは、ということだ。
と、いうわけで、俺は次なる行動方針として、一言で表せば「『
が、そう決めたはいいとしても事は、普通はそう簡単に俺の考え通りには運んでくれない。
何せ、連中はただでさえ秘密結社という裏世界の更に奥にいるような生態の組織である。それに加えこの組織は一度壊滅しており、おまけに高畑先生とその旧友、クルト・ゲーデルによってその残党すら虱潰しに狩られてしまったことにより、普段は完全にその行方を晦ませてしまっているからだ。
だが、俺にはその辺りの問題も解決できる手段があった。それは一体何か。
「……なるほどね。つい先ほどまで感じていた違和感の原因は、僕自身だったということか。だけど、いったいどうやって僕がこの場に現れることを知ったというんだい? この奇襲、予め僕がこの京都にいるということを知らなければ、いくら君でも成し遂げられるものではない筈だ」
と、ここでフェイトが胸と口から人間で言う血液だろう液体を零し、激痛を堪える顔を見せながらも疑問をぶつけてきたので、俺はその質問に答えてやった。
「いくら
そう、つまりコイツは、わざわざ偽名を使ってまで潜入したにも関わらず、「アーウェルンクス」と名乗っていたのである。
この事実についてなんとなく覚えていた俺は、前回、明日菜に魔法がバレた時のような轍を踏まないよう超に調べて貰ったわけなのだが……コイツ、本当に自分の正体を隠す気あんのかとさえ思ってしまった。
だが、そのおかげで俺は比較的容易に、フェイトがこの修学旅行に現れるだろう、という確信を持つことができたのだ。
ちなみに、超に協力してもらったこととは、俺の原作知識の裏付け。つまり、「原作通り、フェイトがイスタンブールからの研修生として西に訪れているか」ということ。そして、この修学旅行でザジと共に天ヶ崎千草一派の動向を、この奇襲の為に大人しくしていなければならなかった俺に代わり監視してもらい、フェイトが現れた時に報告をしてもらう。この2つである。
「……そういうことか。いくら日本の大組織とはいえ、まさか関西呪術協会にまで網を張ってあったとは……君についての警戒は十分以上にしていたつもりだったのに、それでも足りなかったと思い知らされるとは、流石に、考えていなかったよ」
そうフェイトは常の無表情を、かなりの激痛を感じている為に崩しながら言う。
「そりゃどーも。んじゃ、そろそろ終わりにさせてもらうぞ。安心しろ、殺しやしない。ただし、絶対に逃げられないように封印させてはもらうけどな」
そう言って俺は、念のためにと魔力刃に更なる魔力を込め、ダメ押しとなる一撃を放つ準備を始める。
「……フ、フフフ…」
が、俺の言葉を聞いたフェイトは、何がおかしいのか静かに笑い始めた。
「……? 何笑ってる」
「……なんでもないよ。ただ、何も念には念を入れておくのは君だけの専売特許ではない、というだけさ」
「なに? ――ッ!? まさかッ」
この状況で何を笑っているのかと思い質問を飛ばすも、返ってくるのはまるで俺を揶揄するような言葉。
一瞬何を言われたのかわからなかったが、すぐさまそれがこの状況を脱する術があると言っているのだと気付き、まだ完全に魔力が充填されていない魔力刃を放とうとするも時既に遅し。
そうしてなんとフェイトは――その体を一瞬で砂に分解し、俺の魔力刃から逃れてしまった。
そしてその砂が天ヶ崎千草のすぐ横へと集い、一瞬にしてその肉体を再構成してしまう。
「――グ、流石に核をここまで傷つけられては、元の状態以上に修復とはいかないね。……いや、これは肉体修復を阻害する類いの呪いもさっきの攻撃に付加していたのか。まったく、イヤになるほどの念の入れようだね」
そう言い、依然胸に刻まれている刺し傷を手で抑え、苦悶の表情を浮かべるフェイト。
対して俺は、流石に予想外の手を用いて自分の手から逃れられたことによる驚きで、体を硬直させてしまった。いくらヤツが【地のアーウェルンクス】とはいっても、流石に肉体を砂の精霊と化すなどそうそう出来るとは思っていなかったからだ。間違いなく、今の俺の顔は驚愕一色に染められているだろう。
「し、新入りッ!? あんさん、いったい何がどうなって」
「説明してる暇は無いんだ千草さん。逃げるよ、掴まって」
「へ、ちょ、ま」
「ッ!? 待てこのッ!!!!」
仲間が刺されたと思ったら今度はその仲間が人間離れした力でその窮地を脱すると、あまりに刻一刻と動く状況の変化に付いていけていないのか目を白黒させつつもフェイトに詰め寄った天ヶ崎千草だが、聞く暇は無いとその手を掴み、その手から『魔法の射手(水)』を放つフェイト。
それに気づいた俺は、驚いている場合じゃないとすぐに追撃の魔法を放つも、ほぼ数瞬のこととはいえ驚愕に時間を取られたことが効いてしまい――
「……逃げられたか」
――まんまと、水を利用した
○ △ □ ☆
「まあ、とりあえず目標達成だな」
視界、そして気配を辿れるだけの範囲いっぱいの気配を探るも、フェイト、そしてついでに天ヶ崎千草の気配は完全にこの場から消えて無くなってしまっていることを確認し、俺は手に発生させていた魔力刃を消し去った。
「しかし、まさかあんな方法で逃げられるとは流石に思ってなかったな……」
つい先ほどまでフェイトがいた場所に視線をやりつつ、俺は奴の言っていたことを思い出していた。
奴は、『君についての警戒は十分以上にしていた』、そして『念には念を入れておくのは君だけの専売特許では』と言っていた。そして、これらの言葉が表すもの。それがあの肉体を砂に変化させる技法というわけだ。
その正体は、恐らく、肉体を砂の精霊と化すというもの。並の人間の身では成しえない、まさに人形の身体ゆえの離れ業である。
なるほど、まさに緊急事態用の切り札というわけだ。これには流石に敵ながら天晴と言うしかない。奴の言動から考えるとそう何度も使えるわけではない手段なのだろうけど、それでも、逃走の為だけのワザと考えれば、たった1回使えるだけで十分なワザであると言えるものだった。
実際、本当に驚いてしまったせいで隙ができてしまい、その結果フェイトを逃がしてしまったわけだし。
できればもう少しダメ押しに追撃を加えておきたかった、と口惜しくはあるものの、流石に最強クラスの相手にそれは高望みだと、俺は気持ちを切り替えることにした。
「ま、元々の目標分は達成できたし、それで良しとしとくか。……あ、超か? うん、成功成功。それでな――」
そうして俺は超、そしてザジに事の顛末を話すべく連絡しつつ、ネギの元へと戻る為、再び影の
・というわけで、これが主人公が妙に大人しいことの理由でした。
絶対にターゲットには逃げられないよう、念には念を入れとこう、という考えからのあの大人しさだったわけですねー。
・主人公が使った魔力刃ってどんな技?
ただ魔力を剣の形に変化、固定しただけの何の変哲もない魔力の塊です。
ただし、その刀身を形成する主人公の膨大な魔力が絶えず傷口で暴れ回るうえに、フェイト君が言った通り肉体修復阻害の呪いも付加してあるという、その見た目からは想像できない凶悪な性能を誇っています。
だからこそ、逃げられてしまったのにあの主人公の落ち着きよう、というわけです。
さあ、何とか逃げ出せたもののこんな技を喰らってしまったフェイト君はどうするのか!
・フェイト君、正直
多分、原作が進んで行くにつれほとんどの読者が思っただろうこと。そんなんだから色々投げっ放しとかなんとか(ry
・主人公とフェイト君、いつ戦ったの?
過去幾度か主人公が魔法世界に行った時に遭遇している、という過去設定。実はいつかの後書きに伏線があったり。
と、いうわけで作者にとっても待望のネタバレ回でした。結構前から頭を悩ませて展開を考えて、温めてきたネタだったのでやっぱり書いてる時は楽しかったです。
……ええ、楽しかったですよ。考えていたネタ通りの展開を書ききって、さあ推敲だと3時間パソコンに張り付いていたのに、それがたった1つのミスのせいで一瞬で吹っ飛んだことなんか気にしてませんよ。ウフフフフ……(白目)
では! 今回はここまでぇ!さあ! 感想よどんどん来ーい!!!(ヤケクソ)