シリアルに生きたい   作:ゴーイングマイペース

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 とりあえずチマチマと再開しようかなっと。


42時間目 : 修学旅行3日目:夜 ~なんだかんだ言っても人形っぽくはないよねこの子~

「取りあえずこれでよし、っと。……ホントあの身代わり札用意したの誰だよ」

 

 関西呪術協会から戦略的撤退を見事成功させ1人京都での宿であるホテルに戻ってきた俺は、まず詠春さんが用意してくれたという明日菜達の身代わりを一応確認するべく、既にホテルへと帰って来ていた超に連絡を取ったのだが……。

 

『それなら丁度今、私達の目の前でストリップショーを始めたところだヨ。イヤ、こんなユーモアに溢れたサプライズを用意してくれるとハ、この麻帆良の最強頭脳を持ってしても予想しきれなかたヨ。流石はかの大戦の英雄の1人ネ。』

 

『すぐに代わり用意するから笑ってないで今すぐ止めろこの麻帆良の最強チャイナ!』

 

 と、激動の1日の疲れを癒すどころか更に一仕事待っているというふざけた残業を行うことになってしまっていた。というかあの式神札は本当に誰が用意したのだろうか。まさか詠春さん……イヤイヤ、まさかそんな……。

 

『で、これで後は君も修学旅行をただの学生らしく楽しむだけということになるカナ?』

 

「そうだな。できればもう少しフェイトを追い詰めておきたかったところだけど、流石にあそこまでされたらもう京都に残っていやしないだろうし、後は明日、ネギの親父さんが使っていたっていう家に行って……その後は、お前の言うとおりに普通に旅行を楽しむことにするよ。……まあ、どこまで自分の好きなように出歩けるかはわからんけども」

 

 そうして頭に浮かぶのは、そうそう俺の自由行動を許してはくれないだろう面々の顔、顔、顔。……この晩の内にスパッと解決しないかなぁ。無理かなぁ。無理だよなぁ……

 

『その面々の内の幾人かについてハ君の自業自得ではないのかネ、せかいサン?』

 

 心を読むんじゃねーよ。

 

 

 

 ○ △ □

 

 

 

「すまない、どうも彼の狙いは最初から僕1人だけだったようだ」

 

「つまり、あんさんがいたからあんなバケモンがウチらの邪魔してきおったいうことやないか!

ちっ、この前戦り合った時は男のくせして女の後ろに隠れてるだけの腰抜けのガキだと思っとったのに……!」

 

 関西呪術協会総本山、本部を眼下に見下ろせる木の樹上。今、その場では一見どこにも異常は見られないものの、その胸を手で抑え若干苦しそうにその表情を歪める白髪の少年と、周囲へ隠すことなくその怒気を振りまく妙齢の女――フェイト・アーウェルンクスと天ヶ崎千草が言い争いをしていた。

 いや、言い争いと言うには語弊があるだろう。なぜなら、フェイトへと向かって大声を張り上げる千草に対して、フェイトは表情を歪めつつも何やら考え事をしている様子で千草の罵声へと受け答えをしているだけという、言い争いと言うには余りに一方的なものであったからだ。

 

「こうなるともうどうしようもありまへん。東の西洋魔術師どもに一泡吹かせられんのはとんでもなく悔しいどすが、今回はここまで……」

 

 ある程度声を張り続けてひとまずその鬱憤が晴れ冷静になったのか、そう悔しそうに撤退の案を口に出す千草。極東一と言われる潜在魔力を誇る近衛木乃香が東から離れ京の地に居る上に、関西呪術協会の手練れがほぼ不在というまさに千載一遇、やっと巡ってきた両親の仇を討つこのチャンスを逃すのは本当に心の底から口惜しくてたまらない。が、一時の激情に流され仇討の道そのものが閉ざされるようなことがあっては、それこそ自分は後で死にたくなるほど後悔するだろう。

 そう考えを纏め、断腸の思いで残るメンバーの1人、月詠に連絡を取ろうとした千草だが、そこに、あの少年の奇襲から今までこちらから話を振らなければずっと黙りつづけていたフェイトが、初めて自分から千草へと声をかけた。

 

「――重ね重ねすまない、千草さん。僕もそうさせてあげたいのはやまやまだけど、そうも言ってられなくなってしまったんだ」

 

「は? 新入り、アンタいったい何を――」

 

 千草が声を出せたのはそこまで。そして、その意識を保っていられたのもその瞬間までだった。そんな千草の目に最後に映ったのは――何やら呪符のようなものを自身へと向ける、フェイトの姿であった。

 

 

 

 

火星(ひのほし)世界(せかい)、君はきっと、僕がもうこの地を離れたと思っているだろうね。そう、確かに普段の僕ならここまでの手傷を負わされれば迷いなくその選択肢を採る。――だけど、どうやら僕は今、普通じゃあなくなっているみたいでね」

 

 そうしてフェイトが視線をやるのは、今まさに火星世界がいるだろうホテルの方角。そして――彼が守ろうとし、天ヶ崎千草がその手中に収めんとしていた、西の姫君が現在いるであろう、関西呪術協会総本山『炫毘古社(かがびこのやしろ)』。

 確かに今の自分たちの分は劣勢も良い所だろう。だからこそ天ヶ崎千草はその激情を自覚しつつも撤退を選んだのであろうし、自分も何か不都合でも無かったら迷わず千草がその選択肢を選択した瞬間にこの京都から姿を消したことだろう。そう、自分になんの不都合も無かったら。

 イヤ、これは不都合などでは無い。これはただの意地。そう、人形の身には余りに不釣り合いな心情。フェイトは、きっと今自分は正常な状態からはかけ離れているのだろう、とどこか頭の片隅で他人事のように考えた。

 なぜなら、今自分は――天ヶ崎千草を洗脳し操る魔法を使ってまで、ただただ意地と執着に塗れた勝負を1人の少年へと挑もうとしているのだから。

 

「そう、こんな執着はきっと、ただ主の意を叶える為だけの人形にあるまじきものなんだろうけれど。それでも、今、僕は君に――一泡、吹かせてやりたくなったのさ」

 

 

 

 

 




・なぜストリップショーなんだ……
 AKAMATSUワールドだからじゃないかな。


・まだまだ騒動は終わらないのだ
 原作でもホント人間臭かったよね、このお人形さん。



 とりあえずちょっとずつ進めていこうと思います。
 次話の投稿もとりあえず来週末ぐらいを目途にしていますので、どうかお楽しみに。

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