シリアルに生きたい   作:ゴーイングマイペース

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 今までで一番難産かつ微妙な出来である第9話


 9時間目 : リアルでも女子中学生ってこういうノリ? え、違う?

 鼻を擽る香ばしい匂い、滴り落ちる肉汁、金網から火の中へ飛び込んでいく脂が醸し出すジュッっというメロディー。

 そう、今俺の前には我が麻帆良学園が誇る超高級学食、JOJO苑特製の焼肉たちが金網の上で俺の胃袋に入るのを今か今かと待ち構えている。

 どれもこれもが食い盛りの男子学生の内なる食欲を否が応にも呼び覚ますものであり、つい先刻までの俺が頭の中で描いていた豪華ランチそのものである。これで文句を言おうものなら常日頃の俺自身の手で焼肉の如く地獄の業火で身を焼かれるだろう極楽である。ただし、それが

 

「――俺の金でドンチャン騒いで学祭の打ち上げやってるバカどもと一緒の昼飯じゃなければな……!」

 

「お前がこの私から隠れてコソコソあんなことをやっているから悪いのだ。それとも何か、日頃お世話になっているお姉様へとお礼をしようという気すらないというのか? ん~?」

 

「ちくしょう。この姉貴、横暴すぎるッ……」

 

「あ、マスターお口が。失礼いたします……それと世界さん、こちらメニューです。どうぞ」

 

 というわけであの後出張ってきた武道四天王と本気を出した姉ちゃんの連携にあえなく捕縛された俺はそのまま『凍てつく氷棺(ゲリドゥス・カプルス)』によって気絶。

 次に目を覚ました時にはJOJO苑内の宴会場。俺の膝の上に乗った姉ちゃんへと焼肉を茶々丸が甲斐甲斐しく給仕している光景が目の前に広がっていた。

 そして周りには飲めや食えやともう祭りは終わったというのに、まだまだアタシ達の学園祭は終わらないぜ! とそこかしこで大騒ぎをしている見知った女子の面々。と、俺の復活に気づいた幾らかの面々が声を揃えて「ゴチになってまーす!」と言ってきた。幸せ一杯そうでよかったすねコノヤロウ。

 

「ハァ……もういいや。姉ちゃんにバレた時点で俺の絶頂期が1日も続かないのは確定事項みたいなもんだし……」

 

「ククク、そうだ。所詮お前は私の足元で足掻き続ける運命なのだ。これに懲りたらあちこちフラフラしていないで私のご機嫌を取るのを疎かにしないようにするのだな」

 

 ワル全開、というかイジメっ子全開で機嫌良さそうに俺の胸元へと後頭部を押し付ける姉ちゃん。見てろ、絶対に仕返ししてやるからなコンチキショウ。

 

 ……まあ、今回は巨大すぎる利益に目が眩んで、その後、何に勝利しなければいけなかったのかを失念していた俺のミスである。ここは素直に敗北を認めて周りの連中同様に焼肉を楽しむことにしようと、茶々丸から受け取ったメニューを開く。んー、ネギ塩タンあたりから行ってみようかなー。

 

「にしても姉ちゃん、焼肉嫌いだった筈だろ。どうしてアイツ等の言うままに俺をここに引っ張って来たんだ?」

 

 そうだ、この姉は吸血鬼らしい弱点というか個人の嗜好としてニンニクやネギを激しく嫌っている。どれぐらい嫌いか確かめようと現物を目の前に用意すれば、その匂いにすら涙を浮かべるほどなのだ。だというのに焼肉パーティーにクラスメイトと共に出席している。焼肉の匂いが気にならないよう専用の魔法まで使用してだ。これはいったいどういうことだろうか。

 

「ん? なんだ、そんなことか。そんなもの理由は決まっている。

――お前が泣きわめいて私に許しを請うのを見たかったからに決まっているだろうが」

 

「ウワァアアアアン、姉ちゃんのイジメっ子ぉおおおおおおおお!!!!!!」

 

 畜生、絶対、ぜーったいに仕返ししてやるからこのロリババア今に見てやがれ!

 

「ああ、世界さん。こういった時はこう言うのでしたよね。……ぷぎゃー」

 

 戦略的撤退を選択し脱兎と駆け出した俺の背後から1歳半からの容赦の無い追撃がぶつけられた。余計なことしか覚えないボケロボめ、いったい誰がこんなこと教えたんだ誰が!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カルビ!」

「牛タン!」

「ホルモン!」

 

「「「イヤー、奢りで食べる高級肉って最高だねーッ!」」」

 

「楽しそうだなお気楽3人組め」

 

 姉ちゃんの魔の手から逃れ、とりあえず真っ先に目についた3人組、柿崎美砂、釘宮円、椎名桜子のチアガール3人娘の元へとやってきた。高級学食の味を堪能しているようで何よりですね(白目)。

 

「お、せかっちー! やーっと来たねー! ホラホラ今日はオールで無礼講なんだからそんな顔してないでもっと楽しまないと♪ ほらー、アーン♪」

 

「美砂、俺がそんなことでお前が今日の主犯格だってことを忘れると思ったら大間違いだからな」

 

 でもアーンされた肉は食べさせてもらう。これは男子の本能だからしてしょうがないことなのだ。でもこんなことで絶対今回の恨みを忘れたりしないッ!(キリッ

 

「アハハ、そう言いつつも結局奢ってくれるからねー。今回は私もいつも以上にサービスしちゃうよー♪ ハイ2回目のアーン♪」

 

「モグモグ……だからってお前ら同じ中防の財布に30人がかりでタカるとか躊躇ってモノがないのかムグムグ……」

 

「にゃはははは、そこはそれ、3日で億も稼いじゃう男の子なんだからいっそ100人ぐらいタカられたって大丈夫だよー♪ ほにゃらばそんな世界君にはとどめのアーン♪」

 

 次から次へと繰り出される我が口腔への3人娘からの攻撃! こうか は ばつぐん だ! せかい は こんらん した!

 

「おおー、流石超高級学食。良い肉使ってんなー」

 

 ……すまない、俺と同じ(おとこ)の同志諸君よ、俺はどうやらここまでのようだ。チアガールには勝てなかったょ……

 

「って騙されてたまるかぁーッ!」

 

「「「ちぇーっ」」」

 

 声を揃え可愛らしく舌打ちをする美砂、円、桜子。

コ、コイツ等今のアーンにまるで躊躇いがなかった。2-Aの中で1番女子中学生らしい女子中学生だとは思っていたが、まさかここまで躊躇なく男子の悲しい弱点を的確に攻めてくるとは末恐ろしい3人組である。とりあえず今度からこの3人のことはビッチって呼ぼう。

 

「で、ビッチども。人が汗水垂らして稼いだ金で食う焼肉は美味いか? あーん?」

 

 先ほど姉ちゃんに苛められたのも相まって心が非常にやさぐれているのがわかる。ほら俺を笑わせてみろよ媚びでもなんでも売ってよー?

 

「ちょ、ビッチって酷いわよせかっちー。こんなことせかっち以外にはしないって。ねぇ円、桜子ー?」

 

 そう言って円と桜子の方を見る美砂。そしてそれにウンウンと頷きを返す円と桜子。お前らそういったことを男に言うならその目に浮かぶ笑いを少しでも隠せよオラァン。

 

 

 とりあえずいつまでもグダグダ言っていても最早学祭の売上は戻って来ないのでいい加減刺々しい思考を収める。というか、売上の9割以上は自分で1日とかからずに散財してしまったのも事実なので、これ以上騒ぎ立てるとあやかあたりのお説教が始まり余計にアレなことになる。この上あの小姑のような幼馴染の説教なんかに付き合ってられないっす。

 

 と、いうわけで心を入れ替えパーティーを回り、主犯格たちの皿には不意打ちでタバスコを山盛りぶちまけて細やかな復讐を果たし再び3人娘の元へと帰還。テーブルに混ぜてもらい焼肉に舌鼓を打つことにした。お、このカルビ美味いな。

 

「そーそー。そいえば朝倉に聞いたよ世界君? 億の売り上げもうほとんど使っちゃったって。いったいどういった使い方したらそんな大金がスッカラカンになるのよ」

 

「ぐふっ」

 

 そういえばこの3人も明日菜たち程ではないとは言え小学校からの付き合いなので俺の悪癖についてよく知っているのだった。あ、あはははは、ナンデダロウネーマドカチャンボクニモワカンナーイ。

 

「ハイハーイ、そんにゃいつものことは気にしないでもっとお肉食べよーよ世界君。して欲しいならまたアーンしてあげるからさー♪」

 

「お前らそんなに俺を苛めて楽しいか」

 

 俺の弱点が友人たちの共通認識過ぎて全俺が泣いた。でも肉は貰う。くそうビッチめ、美味いじゃねえかこの肉、悔しいッ(ビクンビクン

 

 そんな風にくっちゃべっていると次第に本当に諸々どうでも良くなってきた。第一ここは世界にその名を轟かす魔境、麻帆良学園。再び荒稼ぎするチャンスなど確実に巡ってくるのだ。

 

「そうだ、俺にはまだこの体があるッ。女子学生にタカられたのがなんだっていうんだ、見てろ。すぐにまた億なんて霞むほど荒稼ぎしてやるからな……!」

 

「んふふふふ。そーゆうのもいいけど、今はゴチャゴチャしたことはもう忘れて楽しむってことで♪ まだまだ今日は終わらないんだからね、どんどんテンション上げていくよーッ♪」

 

「「おーッ♪」」

 

 一種の自己暗示めいた気合いの入れ方をしているとそれに便乗するかのごとく騒ぎ出す3人。そしてそれに連動してクラス全体が更なる混沌の坩堝と化した。俺も一緒に騒ぐ。 ヒャッハー、店員さん、ここからここまで全部持ってきてー!

 

 

 

 結局この後は本当に朝まで会場を変えて騒ぎまくり、正気に戻った時には2-Aの全員がそこら辺で雑魚寝していた。その上何故か俺が後始末として寮まで送る手伝いまでさせられることに。お前らそんな危機管理で大丈夫か。

 

 そしてあれだけ稼いだというのに、俺の通帳も財布も結局はいつも通りの寒風吹きすさぶ荒野に。本当に麻帆良祭はクレイジーだぜ……

 




・イジメっ子エヴァちゃん
 弟のモノは私のモノ。私のモノは(ry


・ぷぎゃー
 順調に愉快な成長を続けている模様。い、いったいはんにんはだれなんだー(棒)


・チアリーダーズ

高揚を誘う応援団員
 せかっちたらアーンくらいであんなに喜んじゃって。男ってホントに単純よねー♪

活力を齎す応援団員
 ……い、いざとなったらお世話とかしてあげちゃったり……?

幸運を呼ぶ応援団員
 にゃはは、もしもの時は私の幸運御裾分けーッ!

 こんな感じ。作者的に原作勢の中で一番女子中学生らしい女子中学生。ちなみに本文中でも述べたように、明日菜達程ではないが小学生時代から面識あり。なので主人公の武勇伝も悪癖もよーくご存じだったり。でもタカる。
 赤松さんって本当によくこういうおもしろい女キャラ生み出せるよな(褒め言葉)

 この3人は天才さんたちとは別ベクトルで難産に。と、特徴が今の俺には描写が難しい……ッ! 文章も変な感じにぃ……ッ!
 あとクギミーさんはダメンズ。硬派な男が好きっぽいけどダメンズ。異論は認める。

 あ、それぞれの呼称はパクティオーカードから。分かりにくいという方はググってくれると嬉しいです。


・アーンの嵐
 全ての漢共通の夢。え? 違う?
 と、いうわけでもしも2-Aでやってくれるなら誰が一番似合っているかを考え今回このお三方に実行していただきました。


・乙女的危機意識
 そりゃあ良くも悪くもそういうことよ。何が良くて何が悪いのかはご想像にお任せ。


・主人公の財布どうなったの?
 結局お嬢様に金遣いについてお説教を受けたあと、バイトを仲介してもらったらしいです。いいんちょマジ天使。
 というかパッと見てタカった方が悪いけどよく見たら9割以上自分で浪費しているという。誰ですか、こんな情けないキャラを主人公にしたのはッ


 色々と見返して反省しつつ今日は寝る。おやすみ!

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