本日、終戦記念日です。先ずは英霊に黙祷。
さて、年初めなのに10日経ってます。
また、作中の意見交換会で艦政(開発・設計)側からの出席者を(出来れば実在の方で)募集しています。
現場側は思い付くのですが、艦政の方がなかなか…。
なお、本日、新作を投稿予定。
昭和12(1937)年1月10日 舞鶴 松島宮邸
「あけましておめでとうございます、山本次官」
「あっはっはっは、正月三ヶ日どころか、10日も経過しているぞ」
「それは御容赦を」
「まったく、せっかく山本次官が来てくれたのにつまらん話をするな」
この日、山本次官が松島宮邸にやって来た。
新年の挨拶に来た…と言うのが理由である。
「やれやれ、幸か不幸か、新年の初めは何事も無く迎えられたよ」
「まあ、今年も今年で色々とありますからね、本来なら。ところで、国民党との交渉の方はどうですか?」
「うむ、イギリスが仲介を申し出た為かスムーズに進んでいるよ。どうやら、モーバラル公が負けを認めたようだな」
「滝崎から幾度も聞いたが、あの古大狸(ふるおおだぬき)公は読みと空気を掴むのは上手い。そうで無ければあの状態の英国を戦勝国に持っていくのはどだい無理な話だ」
西安事件後の国民党・日本との交渉について滝崎が訊くと山本次官が答え、松島宮が同調する。
「まったくだ。君の言う通り、日露戦役同様にイギリスがバックに就ているならヨーロッパからの圧力は減るし、心強い」
「現在のヨーロッパでアジアを含めた世界規模の情勢を拾えるのはイギリスだけです。そして、イギリス内でその情勢を冷静に分析出来る知識のある人物はモーバラル公のみ…と自分は考えます」
「うむ…おぉ、そうだ、話は変わるが、前に話してくれたミッドウェーの一件だが、堀と話して私なりに色々と考えてみたんだが、聞いてくれるかね?」
「小官でよければ」
そう言って滝崎は姿勢を正し、松島宮も正す。
「まずは君の言った通り慢心はあった。これは私も堀も認めるしかない事実だ。次に情報戦だ。アメリカの『飲料水が欠乏した』との電文でミッドウェーが見破られた。いや、そもそもそんな軍事機密事項が安易に入手出来た事を疑うべきだったし、更に言うなら珊瑚海で敵空母が2隻も出て来た時点で暗号が読まれている事に気付くべきだった…或いはその可能性を考えて対策すべきだった……いや、ドーリットル空襲の時点で何か気付くべきだったか」
「確かに…また、『後世・後知恵の高慢』と言われるかもしれませんが、ドーリットル空襲からミッドウェーまで負の一連の流れは不利な状況下のアメリカが僅かな優位を活かして自らの掌に日本を誘い出す為の方法だったと言っていいです」
「あぁ…そして、次は人事だ。確かに南雲君は人は悪くない…が、色んな背景があったにしろ、ジザや角田君を使うべきだった……その為に多聞丸を……」
「……山口少将の奥様、確か山本次官の御紹介でしたね」
山口多聞少将は同期・同輩・上司・部下の誰もが認める将官で、後に山本長官襲撃時にアメリカ側が『タモン・ヤマグチが戦死しているから、ヤマモトの後任に恐ろしい奴は出てこない』と言ったとの話が出てくる程だ。
「……皮肉な話ですが、人間は失敗しないと学べない生き物ですから」
「確かにな…ですが、未来からとは言え、我が方はその失敗の仕方と敵のやり口か解っているのは優位ではないのか?」
滝崎の言葉に松島宮が問うが、山本次官が首を横に振りながら否定した。
「殿下、それでもアメリカとは長期戦は戦えません。生産力や国力は向こうが遥かに上です。以前、正義君が話してくれましたが比喩とは言え、月一で軽空母、1日で駆逐艦、3時間で輸送船を作る国ですよ」
「よくネタに上がるけど、現代…こっちでは未来兵器になるけど、それらを持ってきて逆転する、って話を設定しても結局は補給や数の話で戻される、がオチになるんだよ」
「う、うぅ〜〜む……」
山本次官と滝崎の言葉に唸り声をあげる松島宮。
「兎にも角にも、人事を含めた問題は今から変えていくしかありません。開戦まで残り5年を切りましたからね」
「そうだな…おぉ、そうだ、今度、空母について艦政と艦隊…つまり、開発と現場で意見交換会をやろうと思う。ミッドウェーの件だけではないが、現場と開発の生の声を互いに聞いて活かして貰おうと思ってね」
「それはいいですね……で、実際ところは別の意図があるんでしょう?」
「まったく、君も読みが鋭いね。うむ、意見交換会は隠れ蓑で実際は君の話を現場と開発、双方に聞いてもらう。まあ、意見交換会である事には変わりない。君の話を聞いて、現場と開発がどう思い、どのような意見を持ち、ぶつけてくるか…私も堀も楽しみにしているよ」
「なるほど、双方が滝崎の話を知っていてもいいし、更にその場で生の意見をぶつけるのは悪くないな。下手に時間差が出来るとややこしくなってしまう可能性もあるしな」
「……松島宮、山本次官、なんか、私の事を無視して、上でヤイヤイやってませんか?」
「そうかね? だが、君としても現場・開発、共に言いたい事もあるだろうし、互いの現状を知るのは君にとっても有難いだろう? まあ、いつか、航空機やその他分野でも『意見交換会』をやるがね」
「……まあ、別に構いませんが…」
「…なあ、いま思ったがそれを陸軍でもやって、更に陸海軍の意見交換会になって、更に省庁の話に引っ張られるんでないのか?」
「………………あっ……」
「……あっはっは、頑張りたまえ。あ、あと、これは先の話だが、卒業直後の遠洋航海の司令と艦長の1人は古賀峯一少将と宇垣纏大佐だった。どうかね、偶然とは言え面白いだろう?」
「……確かに面白いですね」
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