りっく・じあーすの方はウクライナ情勢の兼ね合いもありますので、暫くは更新を控えさせていただきます。
なお、次号から作品のタグに艦これが追加されます。
では、どうぞ。
11月2日 海軍省 海軍次官室
この日、滝崎と松島宮は前日1日に『海軍次官付き士官』の辞令を受け取り、翌日こうして海軍次官室に来ていた。
「これで君達も動き易いだろう?」
「『皇族付き侍従』よりかは……痛い、痛い、痛いからやめて」
ニコニコと言う山本次官にそう返答し、松島宮に脚を軽く蹴られる滝崎。
「ふん、動き難いからそうしたのに、そう言われたら、こうしても罰は当たるまい」
「あっはっは、ペアが板についたな。そうそう、先日の戦車開発の件で永田局長が礼を言っていたよ。それと『小型汎用装軌輸送車』購入の陸海軍共同購入の打診があったから、話を進めておくよ」
「あっ、はい。わかりました」
「まーた、私が知らないところで悪さをしていたのか?」
「悪さは…いや、だから、痛いから。地味に痛いからやめて」
自分が知らないところで事を動かしていたことに松島宮はぺちぺちと地味に痛い足蹴を再び滝崎にやる。
「いやいや、微笑ましいかぎりだ。さて、早速だが、君達には呉の戦艦『加賀』に行ってもらう。ジザ…小澤治三郎に機動艦隊を率いてもらう予定なんでな。いま、彼には編成やら艦隊行動やら…作戦行動の計画をさせているんだ」
「その計画立案の助言をしてこい、と? 山本次官、自分は…」
「『後知恵語りの素人』と言いたいのだろう? 確かにベテラン古参や玄人には『経験』では勝てんだろう。だが、『発想』に素人と玄人、新参と古参、新人とベテラン、なんてのは関係ない。要は多様な視点からの意見だ。まさか、急場の戦場でそんな議論をさせる事がどれだけ愚かしいか…君は戦場の怖さを素人なりに知ってると思うが?」
「…………」
山本五十六の言い様に滝崎は参る。
その言い様こそが『ベテラン』であるが故だと。
「まあ、戦場で急に出来るかどうか議論するより、平常時に議論していた方が大事にはならんだろう。平常時なら『失敗』の一言で済むが……まあ、これ以上は滝崎も知ってるから、言わんでおくが」
「松島宮、君、僕の退路を断ってないか?」
「ほお、退却も考えていたとは、さすが滝崎だ。なら、助言を出す事など容易いよな?」
最近、組んで自分の事を玩具に遊んでいるのないかと密かに思う滝崎。
「ジザには事前に話してある。と言っても、防諜の観点から、大雑把にしか話してないがね。と言う事で、こいつを持って行ってくれ」
そう言って山本次官は日本酒の一升瓶と手紙を取り出す。
「酒は彼奴への気付け薬だ。まあ、君には言わんでも解るだろう?」
「あはは……まあ、はい」
そう、小澤治三郎はアル中で、またヘビースモーカーなのである。
11月4日 1630 呉軍港 加賀艦内
鉄道移動により、呉へとやって来た2人。
移動と休息に1日置いた後、昼食を挟んで協議を行っていた。
「つまり、終戦間際のアメリカ機動艦隊も決して無敵ではなかった、と?」
「珊瑚海から南太平洋まで、血で血を洗う空母対決を繰り広げ、その集大成なマリアナで完勝したかにみたアメリカ機動艦隊でしたが、難攻であれど、隙を突かれては決して不落ではありませんでした。確かに特攻は戦術としては愚劣です。しかし、その中でも汲み取った戦訓を活かし、成功率を上げた。決して、無謀無策で突っ込ませた訳ではない……そこは評価すべきです」
質問に対して答える滝崎。
しかし、後半には苦渋に充ちた表情で、硬く握った右手拳を震わせながら答えた。
「……ふむ、アメリカの付け入る隙か…君は何処だと見る?」
「そうですね……これは誰しも言える事ですが、ハイテクを過信するあまり、アナログを疎かにする傾向がもっともかと」
「……ハイテク…アナログ…う、うむ、なんとなく解る」
「滝崎、お前の世界の横文字を出しても解らん。えーと、この場合は温故知新の故事が適切かと…最新技術を盲信し、既存技術を疎かにしている事が多い、との事かと」
小澤少将の言葉と表情と言葉に松島宮がフォローを入れる。
「なるほどな。まあ、我々も暗号の件で人の事は言えんが…うむ、やはり君は、山本さんが言った通り、優秀だな」
「小澤ちょ…じゃなかった、小澤少将、自分は…」
「はっはっは、誉め言葉に過剰反応し過ぎだよ。さて、昼を挟んで随分議論したな。夕食まで一息入れよう」
そう言って小澤少将はヤカンのお茶を注いで2人に渡す。
「にしても、君の話を聞けば聞く程、アメリカと言う国家にも十分付け入る隙があると思えてくるね。無論、山本さんの言う国力は強大だが…特に大戦後の戦争や紛争で見せるアメリカの失態ぶりは少し考える物があるがね」
「あくまでも私見ですが…第二次大戦で我々日本やドイツを倒すのに総力を傾注したが為の燃え尽き症候群…つまり、腑抜けたり、見下す様になり、更に技術的、国力的に自国が圧倒的な為、そう言った傲りから生まれる心理的な隙な積み重ねが、『無敵国家アメリカ』を無敵にならない要因になっているかと……すみません、この類いの話はなかなか言葉では説明しにくい事なので…」
「いやいや、武道をやっている人間が聞けば、君の言いたい事は解るよ。だが、ふむ……そこを上手く突けば、やれん事はないな」
「滝崎、そう言った事を助言するのはよいが、私への助言もしてくれるんだろうな? んー??」
「あはは、だから、つねらないで、地味…以上に痛いから」
ニコニコと微笑みながら、陰で滝崎をつねる松島宮。
「ところで、君の世界とこの世界の海軍戦力を見て、君はどう思っているのかね? 忌憚のない意見を聞かせてくれ」
「そう、ですね……空母の数は同じですが、40センチ搭載艦の加賀、土佐があるのは大きいですね。長門、陸奥と合わせて4隻、対して、41年12月時点でアメリカ側のロクに動ける40センチ艦はコロラド型の3隻、しかも、ネームシップのコロラドは西海岸。このまま艦隊決戦に持ち込めば、へまをしなければ空母、戦艦の主要戦力を無傷で撃滅する事が可能でしょう。まあ、夢物語にも等しい話ですがね」
「そう言うものか? お前の知ってる向こうの弱点を組み合わせて、その夢物語をやれそうだが?」
「『机上の空論』と言う言葉があるんだよ? いくら此方側の人間が上手くやったって、向こうは漫画の悪役でもなければ、芝居の斬られ役でもない。『窮鼠猫を噛む』の諺通り、生き残る為、或いは守る為に……神風特別攻撃隊員の様な気で来られたら、色んな事が事前の計画通りに行く訳ないし、下手をすれば、勝敗すらひっくり返される可能性だってあるんだからさ」
「そうだな。先程のアメリカが無敵に等しいにも関わらず、ゲリラ相手に苦戦するのも、結局は人が動く所以であるからな……現在建造中のノースカロライナ型、サウスダコタ型が動けるのはもう少し先になるかね?」
「ノースカロライナ・サウスダコタ型の完成が41年以降です。ですが、慣熟訓練がありますので、直ぐに投入とはいかないでしょう。サウスダコタ型3番艦マサチューセッツが42年後半に未完成のフランス戦艦と撃ち合いをしていますが…それ以外の戦艦は作戦参加はあっても、実戦経験無しに太平洋戦線へ参加する事になります。41年12月前後の開戦であれば、出せる新型はノースカロライナ型のみとなりますが……動けて射てれば合格、と言ったどころかと思います」
「君の予想は『出来たばかりで乗組員が慣れていない新鋭艦より、使い慣れた古参艦が有利』と言ったところかね?」
「『どんな良い物でも、扱う人間がダメならガラクタになる』。昔からある事は億の時間が経っても変わりません」
それを聞いて小澤少将はニヤリと笑う。
大戦後期、特に航空戦で被害が増大した理由はベテランパイロットが不足し、若手パイロットが彼らのフォローを受けれなかった事。
機体の古い・新しいは関係なく、その性能や特性、状況を把握・活用しなければ、どんな最強機体に乗せても、格下の機体に撃墜されるのだ。本来ならば。
「じゃあ、少し話は変わるが、君は物の怪の類いを信じるかね?」
「『物の怪の類い』ですか? 見たことはありませんが…ですが、『名匠の造りし物には命が宿る』は日本人には普通では? まあ、擬人化は何処の世界にもある様ですけども」
「ん? ギジンカ? 擬人化?」
「なるほど、なるほど……なら、今夜、また来たまえ。君や、殿下の為になるだろう。さて、飯の時間だ」
そう言って小澤少将は切り上げた。
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