大逆転! 大東亜戦争を勝利せよ!!   作:休日ぐーたら暇人

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原作では軽くしか触れていなかった件をリメイクついでに書いてみました。
よって、原作とは日付け等を変更しました。

では、どうぞ。


30 大規模摘発

1939(昭和14)3月22日 午前10時 東京 朝日新聞社

 

 

この日、朝日新聞東京本社にトラックを含む複数台の車が止まり、乗用車から出たスーツの男達を先頭に、後ろから制服警官達を引き連れて本社ビルへと入る。

そして、そんな団体がズカズカと気にする事はなく歩き、ある人物のデスクの前で止まった。

 

 

「尾崎秀実(みつほ)だな? スパイ容疑で同行願おうか?」

 

最前列のスーツ姿の刑事が警察手帳と逮捕状を見せ、驚愕顔で固まる尾崎を制服警官が2人が両脇から挟んで身柄を確保する。

 

 

「これより、家宅捜索を行います。皆さん、念の為、壁際で待機して下さい。下手な事をなさると、公務執行妨害になりますので、あしからず」

 

先程の刑事がそう言うと、尾崎のデスクを含めた証拠押収が始まった。

また、数名かの私服刑事と制服警官は他の朝日新聞社に居る容疑者確保・家宅捜索の為、ここで分かれる。

残りの刑事達と尾崎らは一足先に車に乗り込むと、尾崎の自宅に車を走らせた。

 

 

 

同じ頃 都内 目黒

 

 

「離せ! 私はドイツ人で、新聞記者だ! これは日本官憲による横暴だ!」

 

家屋から憲兵によって両脇を拘束されて出てきたリヒャルト・ゾルゲと同じく拘束された無線技士マックス・クラウゼン、ジャーナリストのブランコ・ド・ヴーケリッチが出てくる。

ゾルゲは声で抗議し、クラウゼンは身体を動かして激しく抵抗、自宅に突入された為か、ヴーケリッチは大人しい。

 

 

「あぁ、わかっているよ。君がドイツ大使館と繋がりがある事も、ドイツ系ロシア人である事もね。だから、警察の特高ではなく、憲兵が出向いた訳だよ」

 

抗議に対して、そう答える(久々な登場)小畑敏四郎中将、その横に控える形で樋口少将が待ち構えていた。

 

 

「既に君らがソ連のスパイと言う事は我々軍や特高によってわかっている。今は『違法電波をロシアに向けて送っていた』と言う名目だが、その違法電波で情報を送っていた事を含めて、既に掴んでいるんだ。無駄な抵抗はよした方がいいぞ」

 

そう言われ、抵抗していたクラウゼンが絶望顔で抵抗を止めた。

 

 

「それにだ、ドイツ本国に送ったナチ党員登録手続きで書かれた経歴に怪しい部分があるのもわかっている。それを含めて答えてもらうからな」

 

樋口少将の言葉に絶句したゾルゲを先頭に3人は連行される車に乗り込む。

 

 

「……それにしても、何故だ? 何故、我々がヴーケリッチの自宅に集まると解った?」

 

 

「それはだ…それ自体が我々の工作だったからだよ」

 

樋口少将の答えと同時に後ろにいた外国人が出てくる。

その外国人を見たゾルゲは何か察した様に溜め息をつくと、そのまま連行された。

 

 

「少し形は違うが、張鼓峰での投降兵が早速お役に立ったね」

 

 

「はい。滝崎君の助言が役に立ちました」

 

樋口少将の後ろから出て来た外国人は張鼓峰事件で『準亡命』の形で投降してきたソ連兵の1人であった。

樋口少将が考えた一考(第26話出典)とは、投降してきたソ連兵達を予想される『対ソ連戦』に防諜・潜入工作等に活用しよう、と言うものであり、程度はあるとは言え、兵士として訓練を受けていた事もあり、様々な場面での活用法があると理解された。

これを『対ソ連戦考察部』(対ソ連戦の戦略・戦術・工作・防諜等の作戦計画作成・対応する部署)のトップ小畑中将が『ゾルゲ・スパイ網撲滅に使えないか?』と樋口少将に相談したのが、きっかけだった。

史実でも1935年からゾルゲ達の違法無線電波のやり取りは解っていたのだが、共産党員を含めたスパイ捜査対象が多かった事と、発信拠点が複数あり、その都度で変えていた為に特定に至っていなかった。(それらもあって、史実では1941年まで逮捕出来なかった)

しかし、滝崎がそのトップ格と言っていいゾルゲと尾崎の名前を出した為、特高や憲兵隊の捜査スピードが加速され、1939年時点でゾルゲや尾崎だけでなく、容疑者・被疑者・重要参考人をほぼ特定し、充分に逮捕・拘束するだけの証拠も揃えていた。

しかし、ここで『どう逮捕するか?』で問題となった。

いくら同時に逮捕するにしても、それぞれの職業上、居場所はバラバラであり、尾崎ら日本人メンバーを逮捕出来たとしても、ゾルゲ自身を逃がしたり、或いはゾルゲ以外のソ連メンバーを逃がせば、証拠隠滅を図られる事は間違いなかった。

故に『日本人メンバー・ソ連メンバー共に、特にトップ級は間を置かずに一網打尽にしたい』と言うのが逮捕にあたる特高・憲兵隊の考えだった。

この件で相談を受けた滝崎は捜査資料の中の交友関係資料にヴーケリッチが商家の娘と結婚を前提に交際している記述を見つけ、これを利用する事を提案した。

樋口少将が用意した元ソ連兵を『追加で派遣されたスパイ』としてゾルゲのもとに送り込み『ヴーケリッチが結婚の事で話がある』と伝え、ヴーケリッチには『ゾルゲが結婚の事で話したい』、クラウゼンには『ヴーケリッチの結婚の件を話し合いたいから、ゾルゲが来てほしいと言った』と伝達して、ヴーケリッチの自宅に集め、この一網打尽の舞台を整えたのであった。

 

 

「さあ、主要な外国人容疑者は捕らえたが、関係者や参考人の外国人も多い。特高もまだ多くの日本人メンバーを捕らえなければならんから、我々の仕事は終わっておらんぞ」

 

 

「はい。先ずはヴーケリッチ宅の家宅捜索ですな。滝崎君の話だと、ここも発信所の1つとの事でしたし」

 

そう会話している時、家宅捜索をしていた憲兵の1人が通信機を見付けた、と報告してきた。

 

 

 

後に『ゾルゲ事件』と名を残すスパイ摘発事件はこの『3.22大摘発』から世間にも出てきた為に激しく動き始めた。

尾崎をはじめとした朝日新聞社記者数名、尾崎・ゾルゲの家庭教師(尾崎の娘の絵の教師・ゾルゲの日本語教師)兼連絡役の洋画家、宮城与徳ら多数の日本人メンバー、並びにゾルゲら外国人メンバーも数多く逮捕・拘束され、重要参考人・関係者・事情聴取者を含めるとスパイ摘発としては日本史上最大規模の逮捕者・拘束連行者を出した。

更に日本人・外国人メンバー共に、特に尾崎やゾルゲは過去に共同で上海等でのスパイ活動もあり、また、逮捕・容疑者の中には満州など国外に居た者もいて、これまた日本史上最大の広域捜査案件となった。

だが、特高・憲兵共にこれ程の大規模捜査を行った事により、日本領域内でのソ連スパイ活動網をほぼ撲滅する事に成功した。

 

 

 

 

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