昨年中は読者の皆様、先生方々にお世話になりました。
新年と言う事で、早速更新いたします。
今回はワシントン軍縮条約の事も書いております。
今年もよろしくお願いいたします。
では、どうぞ。
8月3日 呉軍港沖
「うぉ!! 凄いな!!」
桟橋から沖合いの艦艇に行く内火艇で歓声を上げる滝崎。
滝崎の視線の先には改装が完了した全通甲板の空母『赤城』と改装前の三段甲板である空母『天城』の2隻が停泊していた。
そして、内火艇は旗艦である天城へと向かっていた。
「おいおい、そこまで興奮してどうする?」
「興奮しない方がおかしい! 全通の赤城と三段の天城だぜ? 写真を撮らないとな!」
そう言ってさっそく買ったばかりのカメラを構えて写真を撮る滝崎とその姿に呆れて溜息を吐く松島宮。
さて、2人が何故呉に居るかと言うと、山本本部長からの紹介で現在の第一航空戦隊司令に会いに来たのである。
甲板に上がった2人は士官の案内で司令室までやって来た。
「司令、お客様です。例の兵学校生です」
「うむ、入れてくれ」
その返答に士官がドアを開ける。
すると、部屋には1人の将官が待っていた。
「五十六から連絡は受けているよ。しかし、皇族の友達とは、随分いい立ち位置を得たね」
そう言ったのは部屋の主であり、現第一航空戦隊司令である、堀悌吉少将だった。
山本五十六の同期であり、親友でもある堀少将は史実であればワシントン軍縮条約時に主流派である艦隊派に喧嘩をうった事にされて退役・予備役に回されたのだが、こちらの世界ではワシントン軍縮条約の内容も変わった為か、堀少将は第一航空戦隊司令として現役であった。
「たまたまです。それに、 今は居候のタダ飯…痛っ!?」
いきなり後頭部に松島宮の拳骨が入ってきた。
「大馬鹿者め。堀少将、こいつは少し謙遜し過ぎる奴だからな、タダ飯とかの言葉は気にしなくてよいぞ」
「わかりました、松島宮殿下。では、滝崎君、君の話を聞こうか?
1時間後……
「ふむ、確かに状況が少し違うとは言え、このまま不味い事には変わり無いな」
「はい、戦艦は長門、陸奥、加賀、土佐と戦艦に関してはとりあえず対抗出来ます。また、空母も複数同時使用の機動部隊なら練度もあってこちらが有利です。ですが、いずれはアメリカの国力に押されます」
「五十六も同じ事を言っていたし、私もその考えを支持する。となると、短期決戦しか無いか」
「それは間違ってはいません。ですが、ただ、アメリカの戦力を潰しても意味はありません。ここはかつての明石元帥並みの事をアメリカに仕掛けないと」
「驚いたな。日露戦役の再現をアメリカでやろうと言うのか? しかし、アメリカに革命は…」
「いや、革命まではおこさないよ。ただ、アメリカ国民が対日戦に積極的にならない様にするだけさ」
「やれやれ、君は容姿に似合わず、案外大胆な事を考えてるね。まあ、あんな国に常識的に打ち勝とうなど不可能に近いが」
「ですが、これは自分の世界の英霊…国を思い、戦った方々の犠牲があったからこそ、考えついたやり方です。再びあの悲劇を繰り返すなど、私は黙って見ている事など出来ません」
「なっ、堀少将。こいつはこの類の話しになると目の色を変え、肝を据える。覚悟なら、とうに出来ているぞ」
「なるほど、高松宮殿下や五十六が気にいる訳だ。わかりました、私も協力しましょう」
「ありがとうございます!」
「おいおい、それは戦争に勝ってからだよ。さて、どうするべきかね?」
「今は…とりあえず、各々が出来る事をしか…第一航空戦隊は航空隊の練度向上に努めて下さい。今のウチに練度をあげておかないと、後進育成もすすみません。それと、機動部隊ならば輪形陣による艦隊行動を磨いて下さい。空母を守るのは自身の戦闘機と艦隊の対空砲火、正確な索敵です」
「ふむ、輪形陣の件は難しいが、君の言う事は筋が通っているし、事実だ。他の事も君の話を聞くと納得できるな」
「ありがとうございます。私も堀少将が在籍しているだけでも、少し希望が持てています」
「そうだな。お前から何度も聞いているからわかるが、歴史は紙一重の事で大きく変わるな」
そう言って松島宮が会話に入って来た。
さて、ここで何故、堀少将が史実の様に退役させられず、更に加賀・土佐などの戦艦が健在なのかを説明したい。
史実のワシントン軍縮条約では陸奥が承認され、天城、赤城が空母に改装、加賀、土佐が廃艦になる予定であったところを関東大震災で天城が破損したら為、加賀の空母に改装された。
しかし、こちらの世界では博打とも言える大立ち回りでワシントン軍縮条約の内容を変えてしまっていた。
陸奥の無理矢理な完成にあわせ、日本側は加賀、土佐も無理矢理に8割完成(後は武装載っけるだけの状態)と言い張り、加賀と土佐の保有を主張した。
対し、日露戦争後から日本を敵視し、今回の軍縮・外交条約会議で日本の弱体化を密かに狙っていたアメリカはこれを否定した。
これに対し、交渉団の1人が外交条約会議を絡めて、こう発言した。
「アメリカは軍縮会議で戦艦を破棄しろと言い、外交会議では日英同盟を排し、4カ国、並びに9カ国条約を結べと言う。我が国の国防に関する件であるにも関わらず、どちらも一方的に破棄しろと言うだけで、損ばかりでは無いか! 少しはこちらにも利がある様に妥協すべきだ!」。
この発言に対し、フランス代表の1人が「もし、このまま、その主張で押し通された場合はどうするのか?」と訊くと、「遺憾ながら、世界平和の為と言えども、自国が不利のままでは終われない。我が国は軍縮会議を降りる」と返された。
これを聞いたイギリス代表が慌てて休憩を提案、一時休憩となるとイギリス代表はアメリカ代表に「日本の主張も一理ある為、妥協すべきだ」と迫った。
イギリスとしては国家財政逼迫の事情から軍縮条約を締結させたい為、日本側の決断で流れるのは何としてでも阻止したかった。
故にイギリス代表からアメリカへ迫った。これに対し、アメリカ側も壮絶な内外との論争の挙句、『日英同盟を破棄する代わりに二戦艦保有を『特別信用枠』として認める』事で合意したした。
こうして、加賀・土佐の保有が何とか認められた為、条約反対の艦隊派も何とか納得し、堀少将も山本少将の奮闘で左遷の形で第一航空戦隊へと異動になった。
以上が戦艦加賀・土佐が保有に至った経緯である。
「しかし、海軍はそれで、納得出来るとして、陸軍はどうするのかね? 陸軍が簡単に信じてくれるとも思えんし、下手をすれば政治工作で君や我々を潰しにかかるよ?」
「それについては大丈夫だ、堀少将。もし、陸軍統制派の永田鉄山少将の身に何かある、となれば?」
「それは…あっ、なるほど、そこにも手を回しているのか」
「松島宮と高松宮殿下のお陰です。東久邇宮殿下にお話ししているので」
その後、滝崎と松島宮は堀少将と幾つか話をした後、帝都東京へと戻っていった。
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