機動戦士ガンダムSEED 夢の果て <Re>   作:もう何も辛くない

7 / 7
ちょっと短くなりました。


PHASE7 傘からの脱出

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「管制室!この震動は何だ!?」

 

 

ひっきりなしに基地全体に響き渡る振動にパニックになっているのだろう。

少し考えれば、その理由はわかるだろうに。外にいるガルシアが通信をつなげ、歓声に怒鳴って問いかけている。

 

 

『ふ、不明です!周辺に敵影なし!』

 

 

外部からの声をシャットしていないため、歓声の返答はセラの耳にも届いていた。

 

敵影がいない、それなのに、基地が攻撃されているという事か?

 

 

「だがこれは爆発の震動だろうが!」

 

 

支離滅裂なガルシアは放って置き、セラは思考する。

敵影はないという話だが、間違いなく近くにザフトの機体があるはず。

 

 

「…ミラージュコロイド」

 

 

そこでセラは、ムウからザフトに奪われた四機の性能を教えてもらった時の事を思い出す。

確か、そう。ミラージュコロイドだ。

 

GAT-207ブリッツには、ミラージュコロイドという機能が埋め込まれており、視覚どころかレーダーすらもその反応を捉えることができなくなるという。

 

 

『防御エリア内にモビルスーツ!』

 

 

「な、なんだと!?」

 

 

セラが結論を出した直後、再び管制からの報告とガルシアの驚愕している声が聞こえてくる。

どうやら、ミラージュコロイドは長い間展開できないようだ。

 

しかし、これで相手と楽に戦えれる。

 

 

「早くハッチを開けろ!このまま基地を沈められたいか!?」

 

 

「くっ…、ええい!ハッチ開けろ!それと、モビルアーマー隊準備!」

 

 

セラが大声で言うと、さすがのガルシアもやむを得ないと思ったのか、管制にハッチを開けるように指示を出す。

 

ハッチが開いたのを見たセラは、機体を歩かせて基地から出撃しようとする。

 

 

「邪魔だ!つぶされたいか!?」

 

 

だが、いつまでも先程までセラと話していた士官がスピリットの前に立ち竦んでいたため一喝する。

途端、士官は逃げるようにスピリットから離れて格納庫から出て行った。

 

これで、邪魔者はいない。

 

 

「兄さんはアークエンジェルを守って!外の機体は俺がやる!」

 

 

『…うん』

 

 

ストライクと通信をつなげ、キラに言うが返ってくる声にいつもの元気がない。

 

 

(まさか、兄さんも同じことを言われたのか…?)

 

 

ガルシアの欲望に満ちた笑みを思い出し、怒りが煮えたぎるがすぐにそれを打ち消そうとする。

今は目の前の脅威を何とかしなければ。

 

機体の足が外へと踏み出した瞬間、セラはバーニアを吹かせて宇宙空間へと飛び出していく。

辺りにカメラを回すと、すぐに黒いモビルスーツ、ブリッツを見つけた。

 

セラはライフルを取り出し、照準をブリッツに合わせて引き金を引く。

 

 

「っ!?あれは!」

 

 

ブリッツはセラが撃ったビームをかわし、右腕に取り付けられている、功盾システムトリケロスをこちらに向けてくる。

 

 

「スピリット、ですか…。イザークには悪いですが、ここで落ちてもらいます!」

 

 

ブリッツがトリケロスに備わっている、レーザーライフルを撃ってくる。

セラはこちらに向かってくるレーザーを回避しながらブリッツにビームを撃ち返す。

 

 

「くっ、速い…!」

 

 

ブリッツを操るニコルは、こちらの攻撃を容易くかわすスピリットの動きを目にして歯噛みしていた。

 

出撃する前、ガモフの艦長であるゼルマンにも言われたがやはり自身の目で見なければその脅威はわからない。

 

 

「でも、これならどうです!?」

 

 

レーザーライフルに続き、三連装超高速運動体貫徹弾<ランサーダート>すらもかわして見せるスピリットを睨みながら、ニコルはミラージュコロイドを展開させるスイッチを押した。

 

 

「っ!?」

 

 

突然、セラの目の前でブリッツの姿が消えていく。

初めて見るが、これがミラージュコロイドの効果なのだろう。

 

 

(どこだ…。どこにいる…?)

 

 

カメラを回すが、見えるのは真っ黒な空間とブリッツの攻撃により辺りから広がる煙だけ。

 

 

「…っ!?」

 

 

直後、突然体頭の中で横切った予感に駆られたセラはバーニアを吹かせて機体を横にずらす。

 

先程までスピリットがいた場所を横切っていく光条を見ながらセラは息を吐く。

 

 

「なっ!どうして!?」

 

 

一方のニコルは、攻撃がかわされたことに衝撃を受けていた。

敵にこちらの姿は見えていないはず。それはイコール、どこから攻撃が来るか、いつ攻撃が来るかも相手には分からないという事なのだ。

 

さらに、たとえそれらがわかっていたとしてもこちらは相手の死角から攻撃を撃ったというのに。

 

 

「くそっ!」

 

 

ニコルが悪態をつきながら、さらなる攻撃の準備をする中、セラは先程の頭の中で流れた感覚を思い出していた。

 

あれは、そう。ヘリオポリスでザフトが攻め込んでくる前に感じたあの感覚、そしてこのアルテミスの中で感じたあの感覚と酷似している。

 

 

(正体はわからないけど…)

 

 

それに、今回は敵意の主が近くにいるせいなのだろうか。

 

 

(相手の居場所がわかる!)

 

 

セラは、機体を振り返らせ、その方向に向けてライフルを向けて引き金を引いた。

 

ビームが虚空へと消えようかというその瞬間、スピリットがライフルを向けている方向でブリッツが姿を現した。

その左肩には、何かに焼かれたような小さな傷が。

 

 

「やっぱりいたか!」

 

 

確信はなかったが、勘に任せて行動したセラは結果的に正解だった。

姿を見せたブリッツに向けて突っ込んでいき、セラはライフルをしまってビームサーベルを抜き放つ。

 

ブリッツはトリケロスでスピリットの斬撃をかろうじて防いでいる。

 

セラはそのままブリッツを押し込もうと力を込める。

 

 

「くそっ!」

 

 

堪らずブリッツがその場から離れ、再びミラージュコロイドで姿を消す。

だが、もうその機能はセラに通用することはない。

 

セラはまるで動く何かを追いかけるように目を動かし、そして目を向けている方向へと機体を向かわせ、サーベルを振り下ろす。

 

直後、姿を現したブリッツは再びトリケロスでスピリットの斬撃を防ぐ。

 

 

「ミラージュコロイドはもう通用しないぞ!」

 

 

「くっ…、何でかわからないけど、こちらの居場所がばれている!」

 

 

ミラージュコロイドが通用しないと実感させられた今、ニコルの選択肢は一つしかなかった。

 

ブリッツは後退し、トリケロスからビームサーベルを取り出す。

 

セラはそれを見てなお、ブリッツの方へと突っ込んでいく。

 

 

「はぁああああああああああ!!」

 

 

「くっ!」

 

 

スピリットの振るうサーベルをブリッツがトリケロスで防ぎ、ブリッツが振るうサーベルをスピリットがシールドで防ぐ。

 

結果的に互いが押し合う形となる。

 

だが、力比べではスピリットの方が分がある。

 

 

「くっ、押されてる…!」

 

 

ニコルが歯噛みする中、セラはバーニアを全開にさせてさらにブリッツを押し込んでいく。

 

 

(このまま地面に叩きつけ、動きが止まった所で止めを刺す!)

 

 

もう、セラの頭の中ではブリッツを落とす算段が付いていた。

このままいけば、確実にブリッツを落とすことができる。

 

本当はブリットを追いやり、アークエンジェルを守るというのが方針だったがこの状況ならば行く所まで行ってやる。

 

 

「っ!?」

 

 

瞬間、セラの頭の中で先程、姿を消したブリッツの攻撃をかわした時と同じ感覚が奔る。

 

ブリッツを蹴り飛ばし、地面に叩きつけてからその場から離れる。

 

セラの目の前で、光条が横切っていくというどこかで見たことのある光景が流れる。

 

 

『何やってんだよ、ニコル!俺が落としちまうぜ!?』

 

 

『スピリット…!貴様ら、邪魔だけはするなよ!』

 

 

「ディアッカ…。イザーク…」

 

 

自分の危機を助けに来た…という感じではない。

ただ、スピリットが現れたからここに来ただけなのだろう、彼らは。

 

しかしそれでも、仲間が来たという事でニコルの気が楽になる。

 

 

「気を付けてください!話は聞いているとは思いますが、相当速いです!」

 

 

『へっ、お前の動きがトロイだけなんじゃねーの?』

 

 

『ふん、そんな事はわかっている!』

 

 

ニコルが忠告するが、二人はそれを軽んじているように思える。

デュエルがスピリットへと突っ込んでいき、バスターは二丁の大型砲を連結させてスピリットへ向ける。

 

 

「バスターにデュエル…」

 

 

突然、現れた二機の機体を見据えるセラ。

 

ブリッツを援護しに来たのか…、どちらにしても、三機を相手にするのは少し面倒なことになりそうだ。

 

 

『セラ!』

 

 

「っ、兄さん!」

 

 

向かってくるデュエルと、巨大な砲口をこちらに向けてくるバスターを警戒しながら身構えた直後、スピーカーからキラの声が響き渡る。

 

補助カメラを向けると、そこにはこちらに向かってくるストライク、そしてアルテミスから出港するアークエンジェル。

 

 

「艦長たちも脱出したか…」

 

 

マリューたちはアルテミスの兵に連れてかれたが、どうやら艦橋に戻ったようだ。

ともかく、一応の数の上では互角になった。

 

デュエルがサーベルを手に、スピリットに向けて突っ込んでくる。

セラはサーベルでデュエルの斬撃を防ぐと、手に持っていたサーベルをしまってデュエルを殴り飛ばす。

 

 

「もうここから出るんでしょ!?なら、艦に戻ろう!」

 

 

『うん!』

 

 

セラとキラはライフルを相手の三機に向け、同時に連射する。

 

ビームの連射で動きが止まった三機を見て、さらにセラは地面へもライフルを連射した。

 

直後、ビームが着弾した場所から立ち上がる煙。

あっという間に、三機の姿が煙によって見えなくなった。

 

 

「今だ!」

 

 

こちらから相手の姿が見えないならば、それは相手にとっても同じこと。

その隙に、セラとキラは機体のバーニアを吹かせて一目散にアークエンジェルへと戻っていく。

 

 

『くそっ、小賢しい真似を!』

 

 

一方のニコルたち。

地面から立ち昇った煙を、イザークがサーベルを一閃することで振り払う。

 

だが、その時にはすでに遅し。スピリットとストライクは足つきの元へと辿り着いていた。

 

 

『なっ…、くそぉっ!』

 

 

『逃げられ…ちまったな』

 

 

イザークが悔しさを滲ませた声で叫び、ディアッカもどこか苦い声でごちる。

 

 

「…」

 

 

そしてニコルは、アークエンジェルに収容されるスピリットを見ながら先程までの戦いを思い返していた。

 

あの素早い動きに、接近戦で発揮されるすさまじいパワー・

そして何より、こちらの武器であるミラージュコロイドが通用しなかった。

 

あれはどういうことなのか。機体に備わっている機能?それとも─────

 

 

(パイロット自身が…、僕の存在を感知した…?)

 

 

その結論を思いついた瞬間、ニコルの背筋に強烈な寒気が奔る。

 

その結論だとすれば、それはつまり相手には死角からの攻撃も容易く反応できるということなのだ。

どこにいようとも、相手にはそれが手に取る様にわかるということなのだ。

 

もしそうだとすれば…、作戦で使われる待ち伏せなどは相手に全く使えないという事になる。

それがどれだけ恐ろしい事か…。

 

 

「…ともかく、今は戻りましょう。艦長に伝えたいこともありますし…」

 

 

『ん、何だよニコル。伝えたいことって』

 

 

『ふん。どうせ下らん事だろう』

 

 

ディアッカとイザークが食い付いてくるが、今のニコルには二人にリアクションする気力はない。

それほど、あのスピリットとの戦闘で消耗していた。

 

もし、あと少し二人が来るのが遅かったら…、自分は今頃死んでいただろう。

 

 

「…ふぅ」

 

 

大きく息を吐きながら、ニコルは一度多数の爆発の痕が残るアルテミスを見遣ってからガモフへと機体を向かわせる。

 

そして、今回スピリットと戦って感じたことをゼルマンに伝えなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、散々な目に遭ったな…」

 

 

スピリットを格納庫に収容してから、セラはコックピットから降りる。

 

補給が目的だったのに、結果はそれすらも受けられずもらったのは不愉快な気持ちだけ。

しばらくの間、ずっとため息がつけそうだ。

 

 

「…?」

 

 

すると、セラの目の前でキラがストライクのコックピットから降りてきた。

セラは話しかけようとしたのだが、俯いてとぼとぼと歩くキラに動きを止めてしまう。

 

もしかしたら…、いや、確実にキラも自分と同じことを言われたのだろう。

 

格納庫を出たキラを追いかけるセラ。

セラも格納庫を出ると、右、左と見回してキラの姿を見つける。

 

 

「兄さん!」

 

 

セラが呼ぶと、キラは立ち止まって振り返った。

立ち止まったキラの隣で立ち止まり、セラは口を開く。

 

 

「もしかしてさ、兄さんも言われた?裏切り者のなんちゃらって」

 

 

「セラ…?」

 

 

きょとんとした顔でこちらを見てくるキラ。

 

 

「いやぁ、俺も言われちゃってさ。参っちゃったよホントに…、俺はナチュラルだっての」

 

 

けらけらと笑っていたセラの顔が膨れっ面へ。

表情を豊かに変化させながら、キラに言葉をかけるセラ。

 

 

「君は裏切り者のコーディネーターだ。だからモビルスーツの改造とかできるだろう?って言われちゃってさ。専門的な勉強もしないでそんなことできる訳ない。こーでぃねーたーがそれをできるんならとっくにザフトの勝利で戦争終わってるーって言い返してやったわ」

 

 

「…ぷっ」

 

 

両手を後頭部に当てながら話すセラを見ながら、キラはその光景を思い浮かべる。

…うん、あの士官が顔真っ赤にして怒っていそうだ。

 

 

「…気にする事なんかないって。兄さんはただ友達を守りたいだけなんだからさ」

 

 

「…セラ」

 

 

セラがそう言い残して先に割り当てられた自室へと戻っていく。

 

 

「…ありがとう」

 

 

お礼の言葉を呟くと同時に、キラは兄として情けなく感じていた。

 

自分はいつも支えてもらってばかりではないか。

 

自分はこの艦に乗ってから、一度も弟を支えたことがないじゃないか──────

 

 

 

 

 

自室へと戻ったセラは、体をベッドへと投げ出して寝転がる。

 

正直、今回の出来事は心にかなりきた。大人の汚さを初めて目の当たりにした。

 

 

「…はぁ」

 

 

セラはまだ十四歳、キラもそうだが遊びたい盛りの年ごろである。

キラにはああ言ったものの、自分もへこたれたかった。

気丈に振る舞いたかったが、今すぐにでもしゃがみこんで泣きたかった。

 

もう疲れた。少しの間はザフトの追撃も止むだろうし、このまま眠ろうと目を閉じたその時、外から誰かの声が聞こえてきた。

 

 

「セラ?いる?」

 

 

「…いるよ、入って」

 

 

シエルの声だ。

セラはゆっくり体を起こしてから、中に入るように言う。

 

直後、扉が開いて中にシエルが入ってきた。

 

 

「どうした?何か用?」

 

 

「…用がなかったら来ちゃ駄目なの?」

 

 

「え?べ、別にそういうわけじゃ…」

 

 

しまった。この言い方はまずかっただろうか?

 

シエルの不満顔にセラは冷や汗をかく。

 

 

「ぷっ…くく…」

 

 

だがその心配は杞憂だった。直後、シエルは表情を崩してくすくすと笑みを零した。

それを見た瞬間、自分は騙されたのだと悟る。

 

 

「ひでぇ!からかったんだな!」

 

 

「ふふ…、はぁ…。ごめんね?」

 

 

笑い声を止め、笑顔で謝ってくるシエル。

それに対して、許さないと言える勇気をセラは持っていなかった。

 

 

「…いいよ、別に」

 

 

何か癪だが…、いやでもあんな笑顔を浮かべるシエルに許さないと言える男がいるだろうか。いや、いない!

 

と、自分で自分に意味の分からない反語をセラが披露している中、シエルは笑顔を消してどこか心配げな顔を浮かべていた。

 

 

「セラ、大丈夫?」

 

 

シエルはセラの隣に腰を下ろして、セラの顔を覗き込みながら問いかけてきた。

 

 

「…何が?」

 

 

聞き返したセラだったが、シエルが何について大丈夫かと問いかけてきたのか、わかっていた。

 

 

「とぼけないで」

 

 

「…」

 

 

そして、シエルもまたセラが自身に心配をかけない様に、とぼけようとしていることに気付いていた。

 

もう、ばれているのだ。セラが無理をしていることは。

 

 

「…正直、堪えた。人の汚い部分を…、初めて見た」

 

 

「…」

 

 

シエルは黙ってセラの話に耳を傾けている。

 

 

「皆、欲望で満ちた目で俺を見て来るんだ。…正直、怖かった」

 

 

「セラ…」

 

 

ガルシアと、自分の傍から離れなかったあの士官を思い出す。

あの二人の他にも、自分とキラを見つめてきた兵士たちを思い出す。

 

自分を利用してやろうと企むあの顔。二度とあんな顔は見たくない。

思い出すだけで身震いするほどだ。

 

 

「大丈夫」

 

 

すると、シエルは一言かけてからそっと、手をセラの頭の上に乗せた。

あの時と同じように…、優しくその手でセラの頭を撫でる。

 

 

「セラはもう、一人じゃないから…」

 

 

「っ…」

 

 

セラの鼻につんとしたものが来る。目から涙が流れないように我慢する。

 

嬉しかった。

誰かがこうして傍にいてくれることが。

自身の弱音を、受け止めてくれる人がいることが。

 

 

「…もう大丈夫」

 

 

「え…」

 

 

セラは、そっとシエルの手を頭からどける。

 

 

「もう大丈夫。シエルのおかげで元気出た」

 

 

「…そっか」

 

 

セラはシエルに笑顔を向けて、シエルもまたセラに笑顔を向ける。

 

 

「なら、もう行くね?」

 

 

「ん…。ありがとう」

 

 

シエルが部屋から出て行く。

 

少々恥ずかしく、声が小さくなってしまったが…、お礼の言葉はシエルに届いただろうか。

 

 

「…それにしても、喉渇いたな。水飲みに行くか」

 

 

ほっとして、一気に気が抜けたら何故か喉が渇いてきた。

セラは立ちあがり、コップを取ると水道で水を汲もうとする。

 

 

「…ん?」

 

 

蛇口をひねり、水が出てくるが何か様子がおかしい。

 

 

「水の勢いが…弱い?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「水が?」

 

 

「はい。セラ・ヤマトからそう報告が」

 

 

マリューがナタルから報告を聞く。

その詳細は、水道から出てくる水の勢いが弱くなっているという事だった。

 

 

「水…それは重大ね。アルテミスで補給を受けられなかったのが痛いわね…」

 

 

マリューが親指の爪を噛む。

 

あの状況では、あそこから出られただけでありがたかったのだが。

それでも補給を受けられなかった事がここで響いてきた。

 

特に、報告にあった水。これがかなり大きな問題となって襲ってきている。

水不足に寄って出てくる問題は、数え切れないほど多い。

 

 

「…ともかく、水は民間人の人達に優先的に使わせましょう」

 

 

とりあえずの応急措置を指示してから、マリューはこの問題をどうやって解決するかを考える。

 

補給を受けられれば一番だが…、ここから一番近いのはアルテミス基地。

だがそれは考えるまでも無く除外。ザフトの襲撃に寄りそれどころではない上に、まずもう二度とあの基地に足を踏み入れたくない。

 

後は、月基地だが…。そこにたどり着くまでに絶対ザフトの追撃が来る。

水だけでなく、弾薬も不足している今の状況で一度でもザフトは来れば…、あまり考えたくはないが、落ちることも頭に入れなければならない。

 

 

「…やっぱり、ここしかないだろうな」

 

 

その時、ムウが口を開いた。

クルー全員が視線を向ける中、ムウは画面に映し出された地図のとある地点をさした。

 

 

「っ!しかし、そこは…」

 

 

マリューがその意見に異を唱えようとする。

他のクルーたちもどこか苦い表情だ。

 

 

「けど、それしか方法はない。それとも、このまま死んでくか?」

 

 

しかし、ムウも真剣な表情で言い返す。

 

 

「気持ちはわかるけど…、仕方ないだろ」

 

 

マリューたちが視線を下げて、ムウがさした地点をもう一度目に入れる。

 

 

 

 

ムウが示した地点、そこは─────ユニウスセブン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。