休み明けのゴタゴタがようやく片付いたのでぼちぼち再開します。それにしても少し間が空いただけで筆が進まない進まない……。
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「そういえばシロウくん、強化種って知ってるかい?」
一日中厨房にこもり続けるという、休日と言って良いのかわからないような休日を過ごした翌日。
士郎はシンとダンジョンに潜っていた。
「見たことはないけど、確かモンスターが魔石を摂取し能力の変動を起こしたモンスターのことだよな」
「その通り。強化種なんてそうお目にかかることはないから、知らなくてもやってはいけるんだけど……」
長剣を鞘に収めながらそう返すと、シンは言葉を濁しながら続ける。
「実は最近強化種の目撃情報が増えてきてるんだ。上層だけの話で数もそんなに多くはないんだけど、コボルドやゴブリンでも強化種ともなればウォーシャドウ並に厄介な相手になるからね。LV.1冒険者の死亡が増えているらしい」
「ウォーシャドウか……それは厄介だな」
ウォーシャドウとは、士郎も何度か苦杯を舐めさせられた初心者殺しの名を冠するモンスターの事だ。
今では何とかなるようにはなったが、それでも二体以上を相手にするのは厳しい。
それほどのモンスターが第一層などに現れでもしたら被害が出るのは当然だろう。
「それにしても、何で急に? 上層のモンスターが強化種になるなんて聞いたことがない」
「だろうね、上層のモンスターの強化種なんてここ最近まで確認されてなかった。原因は冒険者の魔石の拾い忘れとは言われてるけど、それにしては不自然な発生件数だ。とにかくこの騒ぎが収まるまでは、上層でも単独で潜らないようにね」
「ああ、わかった」
ゴブリンやコボルド程度なら複数相手にしても余裕を持てるくらいにはなったが、ウォーシャドウ並のモンスターが現れるとなると浅層あまり安全とはいえない。
言われた通り、ダンジョンに潜る際はしばらくシンやアイズを頼ったほうが良いだろう。
「っと、コボルトが……二体かな」
「そうみたいだな、距離もあるし矢で仕留める」
弓を構え矢をつがえると、間髪入れずにニ連射。
士郎の技量の前ではコボルト相手など必中必殺である。
放たれた矢は二体のコボルトの脳天を打ち抜き、一撃で爆散させた。
「相変わらず、恐ろしいまでの腕前だね。弓を使う団員はそれなりにいるけど、ここまでの技量ともなるとオラリオにもそういない。それでいて剣を使わせても問題なしだと言うんだから、アイズさんやリヴェリアさんが気にかけるのもわかるよ」
「流石にコボルト相手だからな。ウォーシャドウを相手にしてたら弓を構えている暇すら与えてもらえない」
「本来前衛を必要とするはずの弓でそこまでやれるのがすごいってことさ。ウォーシャドウ相手だって前衛がいれば問題なくやれるはずだ。今日はどこまで潜る?」
「いつもは第六層までだな」
「じゃあとりあえずそこまで潜って、今日は僕が前衛をするから弓でウォーシャドウを倒してみようか。余裕があれば第七層に潜ろう」
「了解だ」
そうして歩みを再開しようとした瞬間、
『――――シャアアアアアアアアッ!!』
醜悪な雄叫びが背後から響く。
シンと士郎が振り向いた先にいたのは、三体のゴブリン。
いや、正確にはゴブリンの
本来ダンジョン最弱と呼ばれるモンスターだが、眼前のゴブリンは肉体が一回り大きく目は赤く血走り、何より動きが何倍も俊敏で殺意にあふれていた。
「――――僕が右と真ん中を倒す、シロウくんは左を相手してくれっ! 凌ぐのに集中してくれれば僕がすぐに助ける、決して油断しないように!」
シンはそう告げると、LV.2冒険者らしい速度で駆け出す。
士郎もその後を追うように剣を抜いて駆け出し、左のゴブリンに斬りかかる。
「――――っ!」
だが、本来のゴブリン相手ならば容易く屠れるであろう一撃は、いとも簡単に弾き返された。
僅かに体勢が崩され、眼前のゴブリンは凶悪な両腕を振るって攻撃してくる。
長剣で受け、身体を反らして避けるがその攻撃のどれもが素早く、そして重い。
初撃で体勢を崩されたせいで、反撃の糸口をつかむことができないどころか凌ぐのすら難しい状況だ。
ウォーシャドウ並とは聞いていたが、これではウォーシャドウ以上に厄介な相手といえる。
会敵からまだ僅かだが、このままではいずれ攻撃を凌ぎきれなくなるだろう。
危機感が士郎の思考をチリチリと焦がす。
その危機感は数秒後に実り、振るわれた一撃を受け損ね、その一撃は胸に吸い込まれていく。
「――――がぁっ!!」
衝撃がライトアーマーを貫通し、胸部に叩き込まれた。
浅層ならば十分な防御力を発揮するはずのその鎧にはヒビが入り、一瞬ではあるが士郎の意識が朦朧となる。
強靭な意志で意識を繋ぎ止め眼前のモンスターを睨むが、身体が上手く言うことを聞かない。
そして再度振るわれた一撃で視界が覆われた瞬間――
「――――はあっ!」
その一撃は士郎に届くこと無く、シンの斬撃によってゴブリンは消滅した。
シンは手早く士郎の鎧を脱がすと、ポーションをふりかける。
「すまない、シロウくん。僕の判断ミスだ。まさかウォーシャドウ以上だとは……」
「……ぐっ、いや、シンのせいじゃない。不用意に攻撃を仕掛けた俺のミスだ」
シンは士郎に凌ぐように最初から伝えていた。
その指示に従っていれば、初撃を弾かれ体勢を崩すことはなかっただろう。
そして体勢を崩すことがなければ、シンが助けに来るまで無傷で耐えることはできたはずだ。
「鎧がダメージの大部分を殺していたし、ポーションも使ったから大事にはならないはずだけど……立てるかい?」
「まだ少し痛むが、何とかなりそうだ」
「ふぅ、それはよかった。……もし何かあったら、僕はアイズさんに殺されちゃうかも」
士郎の無事を確認できて安心したのか、雰囲気を変えるようにシンはそう言った。
まさかそんなことがあるわけ……と言いかけ、コロッケが食べられなくなったと怒るアイズを想像しその言葉を飲み込む。
あの一級冒険者は非常にコロッケを好み、度々要求してくるのだ。
奇妙な沈黙が二人の間に満ちたが、それを振り払うように士郎は立ち上がる。
「とりあえず今日はこれ以上は無理そうだね。予定を変更して今日はもう館に戻ろう。団長にこのことを話しておく必要もありそうだ」
「俺も賛成だ、流石に戦闘をするのは厳しい」
「帰りの道中の戦闘は僕に任せて、シロウくんは必ず後ろに下がっておくようにね」
そうして歩みだそうした瞬間、士郎は振り向き背後の空間を睨みつける。
「シロウくん、どうかしたのか?」
「……いや、なんでもない」
『誰かに見られている気がした』。
……などと言っても、冗談か気のせいだと思われるのが関の山だろう。
事実背後に広がる空間には誰もいないのだから。
微かな、それでいて確かな違和感を残しつつ、士郎はシンとともにその場を去った。
「『――貴方がその愛を裏切ったから』」
誰も居ないはずの空間でそんな言葉が響いた後、その場の一人の少女が立っていた。
「おう、ブラウニーとシンじゃねぇか。ダンジョンからの帰りか……ってどうしたんだ、ブラウニー」
帰ってきたシンと士郎を出迎えたのは、士郎も面識のあるシンと同じLV.2の男性冒険者だった。
「実は、今噂になってる強化種に遭遇してね……。ゴブリンの強化種が三体、おそらくウォーシャドウより厄介な相手だ。複数現れるとLV.1冒険者だけじゃ対処できない」
「……そりゃあ、ちょっとばかし面倒なことになってやがるな。ブラウニーが胸抑えてるのは、戦闘でやらかしたってとこか」
シンの言葉を聞いて事態の深刻さを把握したのか、男性冒険者はそう言った。
「ああ、胸に一撃、な。強化種とはいえゴブリン、なんて油断してた」
「鎧の上からだったし、ポーションで処置してあるからあまり問題はないはずだよ」
「災難だったな。上層には強化種が出てくるし、ダンジョンの外に出れば魔石の盗難とくる。新人冒険者はやりにくいだろ」
「……魔石の盗難?」
士郎は胸を抑えながら、そう問い返す。
「ああ、最近ギルドで魔石を換金しようとしたら、魔石を入れた袋やポーチがなくなってるってことが結構起きてるらしくてな。被害はどれもLV.1冒険者ばっかだし、紛失じゃ説明つかないくらい発生してる。原因は不明だし解決の目処も立ってねぇから、ブラウニーも気をつけときな」
「物騒なこともあるもんだな、気をつけとく」
「それじゃ僕は強化種のことを団長に報告してくるよ」
「そうしたほうがいいだろ。そしてブラウニーもまさか今日まで飯作るとは言わねぇよな? 飯の時間まで自室で寝てろ、料理長には俺が言っとくわ」
「いや、流石に料理くらいは問題ないぞ」
「そう言うなって、ただでさえずっと何かしてるんだ。あんまり無茶でもされて倒れられたら色んな意味で飯が不味くなっちまう」
そう言われ、士郎は背中を押され半ば無理矢理部屋に叩きこまれた。
今部屋を出て厨房に向かったところで、再度部屋に叩き込まれることはまず間違いない。
仕方が無いので、ベッドで横になる。
胸を抑えながら考えるのは、最後に感じたあの違和感。
「……あの感覚が間違いじゃないなら、確かに視線を感じた」
人の気配を感じた、と言っても過言ではない。
それほどの確信を持って、人に見られたということを感じていたのだ。
だが、当然あの場にはシンと士郎しかいなかったし、他にはモンスターはもちろん他の冒険者だっていなかった。
そうである以上、あの感覚は気のせいであり勘違いでしか無かったと考えるのが自然だ。
だがもし士郎の感覚が正解だったのなら、あの場にもう一人誰かがいたということになる。
「『魔法』、か」
正解だと仮定した上で、もしシンや士郎に気づかれずにその場にいることを可能にするものがあるとすれば、それは『魔法』以外にありえないだろう。
つまり、人の視界に写らなくなる、透明になるだなんて魔法がないとは言い切れないのだ。
「……まさか、そんなことがあるわけないか」
だがもしそんな魔法があったところで、あの場にいたとは考えにくい。
そもそもそんなことをする理由がないからだ。
助けるなら姿を現せばいいし、そうでないなら立ち去ればいい。
あの場でただ傍観しておく、という必要性があるとは思えなかった。
だから、そんなことがあるわけない。
士郎は自分にそう言い聞かせたが、中々消えない胸の鈍痛がその考えを忘れさせてはくれなかった。
リメイクについて
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(ソードオラトリアを読んでから)書け
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(オリ設定のゴリ押しで)書け
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(いっそ全く関係ない新作を)書け
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書かなくていい