オリ主が再びIS世界でいろいろと頑張る話だけど…side:ASTRAY《本編完結》 作:XENON
悠那・クロスハート執務室
「……………コレが新たなプランだ」
「坊や、本気でいってるの?ノリと勢いだけでソレを行うのならばハッキリいわせてもらうわよ。無謀の極みでしてよ」
「……計画はもう動き出している…止める術がない、だがコレならば……」
淡々とした口調が室内に響く…少しさめたコーヒーを飲み静かに置き軽く息を吐いた。目の前の少年と話すようになってから数日。悠那はアレスと対話を繰り返していた
彼の考案した《軍神の矢計画》…ソレがもたらすメリットとデメリットを指摘し、他愛もない冗談と遣り取りも交えながらアレスも少しずつだが信頼を寄せていたのを感じていた
しかし、つい先ほど語られたのを耳にし、正気なのかと疑った…アレスがやろうとしていることは
「計画をわざと失敗させ、単身で地球圏に宣戦布告、坊や自身に目を向けさせてる間に火星のテラフォーミングを実行……そもそも地球環境化にどれだけかかるか知ってるの?」
「問題ない、二年で火星環境は地球と変わらぬ大地へ生まれ変わる……すでにシュミレートで100%の成功律をはじき出した…」
「……もちろんその前に復讐も果たすのかしら?」
「………この計画遂行に必要なファクターだ。奴らの目をオレに向けるためにな」
確固たる意志を秘めた瞳に悠那は深くため息をついた…もう覚悟を決めていると。最初、悠那はアレスを復讐者気取りの子どもだとみていた
だが、こうして対話をしてソレは違うとわかった…わざとらしくあくびをした、アレスが時計をみると日付が変わっている
「悠那・クロスハート……」
「なあに? 私と寝たいの?」
「………あなたと話が出来てよかった……また、付き合ってくれるか?」
「あら、つれないわね。ええ、よろしくてよ……私もあなたの話を聞きたいし……じゃおやすみなさい」
「ああ、では失礼する」
軽く頭を下げ退室したのを見計らい、椅子に身を預けた悠那…ぼうっと天井を見つめる
「………そう簡単には変わらないか。 坊や、あなたは優しすぎる……その優しさが、破滅を呼ばなければいいのだけど」
微かに漏れた声とともに室内灯が消えた…
「諸君、聞いて欲しい」
初老の男性の力強い声が木霊する…その眼下には急進派派閥の幹部、各セクション代表、選抜されたMSパイロットがひしめき合いながら壇上に注視している
「半世紀近くにわたり、我々火星開拓団を送り込み産出されるレアメタル、ハーフメタルを要求し圧政を敷き物質支援を聞き入れず、死なず生かさずを繰り返してきた旧地球国家、現地球圏統一連合政府…過酷な環境だと一切知らせることなく、こちらからの報告を黙殺し結果初期の開拓団の半数はコロニーが欠陥を抱えていたことを偽り新品と譲渡したこと、これは我々に死ねと言ってるのと変わらない!だが、それでも耐え続けたのは、本来の目的を完遂するために……」
さらに熱が入る彼にかわり、一人の老女にライトが当たる…旨には小さなロケット。中には仲良く映る親子のホロスクリーンがでた
「私の夫はハーフメタル採掘場での落盤で無くなりました…働き手の無くなり貧困にあえぐ中、日々の糧を得るために息子は酸素と水の生産プラントで働いて…そこで死にました……まだ、まだ10歳だったのに……なんで…地球から売却された生産プラントは旧式で事故を起こしやすく、ソレを高額で買わされて…あそこで働いていた人たちも息子と歳が変わらなかったと聞いてます……なぜ火星にすむ私たちはこんなにも苦しまなければならないんですか!死体すらも無いんです!抱きしめることも出来ないんです………安定した大地さえあれば…」
泣き崩れた老女を後ろに控えていた青年…タスクが肩を抱いて下がらせる…老女のような境遇は火星開拓団が火星へ来てから幾度も無く繰り返された。爪の先に火をともすような生活
水を、空気を、食糧も、住む場所もギリギリ、ソレに追い打ちをかけるよう旧地球国家の内紛勃発…そして老女とは違う人物が壇上にあがる…真っ白な髪に赤いメッシュ、赤金に輝く瞳を皆へ向けながら語り出した
「皆も知ってるように地球圏の内紛は地球蒼生軍を生み出した。度々資源を要請しなにも渡さなかった…そして彼等は敗れ、しばらくして新たな連邦政府が生まれたのはココにいる方々の記憶には新しいと思う………そう、地球圏統一連合政府の樹立だ。しかしその実体は旧地球国家の有力者のみを配し、以前と変わらぬままにハーフメタル、レアメタルを送れ要求してきた。名前だけが変わっただけだと誰の目から見ても明らかだろう。そして彼等は愚かなことに我々火星開拓団の最大の理解者《スティル・カデンツァヴナ》卿に無実の罪を着せを謀殺…おのが権益。地位を守るためだけにだ……これは許されることか?答えは否だ!!水と空気、そして安定した大地にすむ彼らは自らが豊かに過ごすためだけに地球は我々にとって血と涙ど同等のレアメタル、ハーフメタルを求め続けるのは明白だ…しかし、我々は地球に対し圧倒的な力を手にした……コレだ!!」
手を振りかざし向けた先…眩い光と共にソレは姿を見せた…巨大な腕、悪魔を思わせる尻尾と体躯を超える長身の槍を手にした漆黒の機体《ガンダム・エクシェス》MAドッキングモード…異様な姿にその場に居合わせた急進派派閥の幹部、人員が声を失い見ている
「このガンダムエクシェスは火星開拓団全ての思い、地球圏統一連合政府への怒りが形になったモノだ…我々は半世紀、苦しめ続けてきた彼等に同じ痛みを与え二度と立ち直れぬように政府機能が集中した都市、軍需工場、彼等に属するコロニーへの攻撃を目的として生み出した…我々の中にためらいの吐息をつくモノはいない、地球圏を軍神の矢にて焼き尽くす!!全ては火星圏の未来と栄光の為に………ルーディ・イ・マーズ!!」
「地球圏に裁きを………ルーディ・イ・マーズ!!」
「私たちから奪うだけ奪った地球に……ルーディ・イ・マーズ!!」
ルーディ・イ・マーズ…火星に栄光をの意味する声が木霊する…火星開拓団から半世紀近くにわたり資源を搾取、生きる上で必要な水、空気等製造するプラントを欠陥があることを知りつつ渡し多くの命が失われ、人としての当たり前の生き方すらもも奪われ続けた火星圏の人々の哀しみ、怒り、そして希望に満ちた声。ソレに答えるよう手をあげる
「今から6時間後、08:30に作戦を決行する…各員配置につけ!!」
高らかに作戦決行宣言し羽織った黒の外套を翻した、少年…アレス・ルセディス…その瞳には怒りと憎悪、哀しみと決意にいろどられていた事に幹部メンバーは誰も知らなかった
MarsDays:FINAL 復讐者は漆黒の宇宙に消える
ー作戦開始まで残り2時間ー
ヘルヘイムコロニー急進派派閥本拠地
同艦船繋留エリア、ここでは超長距離航行戦艦《レクス》、対Gspirits隊用MS隊サーカス運用特務艦ミストルティンが出航の時を待つなか、MA《ルシファー》、《ガンダムエクシェス》が肌を寄せ合うよう隣接しており、エアポケットからミストルティン艦内MSデッキにアレス、タスクがキャットウォークにおりた。少し離れたハンガーにはVS/GSシリーズ《ガングニール》《イガリマ》《シュルシャガナ》が固定されハッチから慌ててマリア、切歌、調が二人の前に並び立つ
「マリア、切歌、調…機体整備は順調か?」
「いえ、ソレがリアクター廻りの同調が上手くいかなくて……各部電磁推進バーニアも」
「ソレに武装のモーションプログラムも微妙に遅いデス…」
「阿頼耶識システム・オリジンもなんかおかしい。アップデートしたばかりなのに……不具合が…」
顔を俯かせ加減に状況報告をする三人、ほんの一瞬だけアレスの瞳に安堵の色が見えるも消えた…そしてゆっくりと機体を見上げた
「お前達は最後発にタスクと共に出航する、ソレまでにそれぞれの機体を調整しておけ…1分でも遅れる事は作戦の成否に左右する……」
「でもアレスにぃ………隊長が手伝ってくれたら」
「切歌、そしてマリア、調も聞け…MSパイロットは自身の機体を躰の延長線として捉えている。つまりお前達にとって分身そのものだ…」
「つ、つまり…どう言うことですか?」
「この機体の整備はパイロットである私たちにしか出来ない、そうですよね」
「そうだ。この機体はお前達にしか使えない。ならば整備と調整はパイロットであるマリア、調、切歌に任せた方が尚更いい…」
「うう~わかったデス……やってみるですよ!!調、いくです」
納得しかねながらも。プクッと頬を膨らませイガリマが
あるハンガーへと跳ぶ
「待って切ちゃん……ごめんなさい隊長。忙しいのに…」
「では、隊長。整備に戻ります……アナタの期待に必ず応えてみせます」
「気にするな調。あとマリア、あまり気負うな落ち着いてやれば問題ない。お前達に任せたぞ」
「「はい!」」
力強く凛とし応えて、地をけり無重力の海を泳ぎハンガーへ向かうマリア、切歌を見送りミストルティン中央管制室へとグリップを掴み進み分厚い扉を抜け乾いた音と共にしまると灯りがつき、シートへ腰掛けたアレス、タスク
「………これで概ね計画通りかな」
「ああ…」
「コレが実行されたら君は…火星圏の皆から………」
「覚悟は出来ている…この火星に…」
軽く額に手をあて漏れ出す決意にタスクは黙る…数ヶ月前に数時間消息を絶ってからアレスが変わったと。今まで触れようとしなかった内政、先の農業コロニー群建造事業、就労年齢の引き上げからはじまる就学規定と援助、火星圏のハーフメタルとレアメタルを用いた新基軸の工業製品《フォトン・バッテリー》開発プラントの極秘建造、政治、軍事、民間でも通用する有能な人材発掘登用と法整備を短期間で精力的にこなしていた
軍事にしか興味を持たなかったハズのアレスが変わった理由を知りたくなり、ダメもとで…殺されるかも知れない覚悟と共に尋ねた。だが返ってきた答えはタスクの躰を奮わせた
タスクはこの世界の人間ではない。ファンタジア世界でエンブリヲとの戦いで死ぬも転生、この火星で生まれ育った。前世の記憶を保持したまま火星圏の現状を目の当たりにし若くしてコロニー建造技術者として頭角を現していった頃、アレスにスカウトされた。異世界人であることを隠して…
そのアレスがファンタジア世界に転移し、レジスタンスとして空賊アナスタシアと共に行動し戦いを終結させた事を知り驚くタスクは軍神の矢計画が成功した場合のリスク
ー成功したとしても作戦に参加した多くの有能な人材と資源が喪失される…ー
ーじゃあ、もし彼らが再編成して火星に軍を派遣したら…今まで以上に監視される…勝っても変わらないじゃ無いかー
ー計画はもう止められない……だが人材と資源を失わずに火星圏を強い国にするプランを考えた…軍神の矢計画を行いつつなー
空賊アナスタシアの首魁である悠那・クロスハートとの対話を繰り返しファンタジア世界の歪な社会構造を目にした彼が考案した極秘計画《プロジェクト・エデン》
「コレが成功した方が良いってわかるよ……でも君は家族を……雪音さんを一人残していくんだ。彼女は君を」
「………クリスはもう一人じゃない。友達もたくさんいる、生まれ変わった火星と共に生きてくれた方がいい…」
「……バカだよ……これが行われたら、この世界全ての悪意を背負う事になるんだ…」
「それも織り込み済みだ…タスク、オマエに話したのはファンタジア世界にいたからじゃない。オレがもっとも信頼が置ける仲間だからだ……キアラ、エッちゃんを含めてな」
もっとも信頼している…今までの空虚な瞳と違い明らかな覚悟を秘めたモノ、確固たる信念と覚悟を
「わかった……マリア達に関しては手はず通りにやる……でも、最後に…雪音さんに別れを告げてやってくれ」
「………………わかった」
ソレだけは譲れない。強い眼差しを向けるタスクに負け頷いた
ーーーーーーーーー
ーーーーーーー
作戦開始まで残り30分…
ガンダムエクシェス発進ゲート。同減圧チャンバー
「……………」
無重力状態の減圧チャンバーに浮かぶアレス…その手には多機能型ツールデバイス《ディーン》がくるくると回り止まる…通信画面を開こうとするも躊躇うを繰り返している
「………」
意を決して通信画面を開きコールする…三度目がなる前に画面が開いた。白銀の髪をダブルウルフカットにした女の子…アレスの義妹《雪音クリス》が浮かぶ
『兄貴、どうしたんだ?』
「………元気か」
『元気に決まってらあ。そ、ソレより兄貴、いつ帰って来るんだ?アイツらがせかしくてさぁ。アレ食べたいって聞かねえんだ。あの見た目が不味そうな混ぜご飯兄貴の得意料理をさ…出向いつ終わるんだ?』
いつ終わるんだ…クリスの言葉が突き刺さる。こうして会話するのが最後だと言えるだろうか?言葉が出ないのは当然だった
『どうしたんだ兄貴?……まだ出向続くのか?』
「……ああ……クリス、オレの混ぜご飯、皆は好きなのか?」
『ったりめぇだろが!兄貴のあの混ぜご飯は躰が強くなるし。風邪ひとつひきゃしなくなるんだ……あたしも兄貴のめし好きだし……いつかは作って……』
「そうか……クリス、もしつくりたいならばオレの書斎にある1段目の引き出しにレシピがある……オレが帰ってくるまでに作れるようになれ。ソレまでには戻る」
『まじで!じ、じゃ兄貴が帰ってきたら驚かせてやるからな!口磨いて待ってろよ!!』
「ああ」
やや顔を赤らめ宣言したクリスに頷くと通信は消えた…手にしたディーンをおもむろに握りつぶした
「……さようならクリス、みんな………」
開いた手から砕けたディーンが舞うなか呟いたのは、別れの言葉…クリスに教えたレシピを記したタブレットにはある仕掛けが施されていた。クリスが手にすれば生体認証が発動。自身の資産配分に伴いアレスの個人IDを全ての行政機関に使われているサーバからの動画、画像ファイルの全抹消が行われる
アレス・ルセディスなる人間がいた証が全ての消去がされる事を意味し、そして《あるデータ》がオーストレルコロニーへ送信される細工もほどこしていたのだ
(………これでいい………あとはエデン遂行と《オレの復讐》を果たすだけだ。キアラ、エッちゃん。聞こえてるな)
ーうふふ、どうしましたマスター?ワタシと最後の交合し悟りへ参りますか?ー
ー…………………なに、甘いお菓子、欲しいですー
自らのサーヴァント殺生院キアラ、謎のヒロインXオルタと思念通話を繋ぎ、いつものやりとりに軽く頭を押さえながら右手、左手にある赤い刻印《令呪》…二画が耀いた
(キアラ、エッちゃん、令呪を二画重ねて命じる………オレから命があるまで待機、そしてーーーーーーーーーーーーしろ)
ー………わかりましたわー
ーうんー
令呪二画の命令に頷いたのを認識した時。チャンバーにコールが響く
ールセディス同志、作戦開始まで15分。エクシェスへ搭乗をー
「………了解した」
減圧チャンバーの扉が開くと、ヘルメットをかぶりロック、グリップを掴むと薄暗い通路を滑るように進んでいく。やがて最期のハッチが開き見えたのは非活性状態のVPS装甲、特異な体躯、ブレードアンテナとツインアイを持つMS………ガンダムエクシェスが浮かぶ。近づくと静かにコックピットが解放、アレスは迷わず躰を潜り込ませイグニッションキーを押し、アームシリンダーに腕をいれる。モニター起動画面から赤外線スキャナが虹彩を読み取っていく
ー虹彩および脳量子パターン認証。マイスター《アレス・ルセディス》搭乗確認、各種プロテクト解除しますー
ーエクシェス、発進スタンバイ。リニアボルテージ上昇……ー
アナウンスが響く中、最終チェックを終えるとVPS装甲が活性化、一瞬だけ白になるも濃紺と血のような赤に染まっていき、ツインアイに意志が宿ったかのように光が走る
「………アレス・ルセディス、ガンダム・エクシェス…でる!」
電磁放電と共にリニアカタパルトから勢いよく撃ち出され、ケーブルがパージされる…
(…………オーストレルコロニー議会へ軍神の矢計画遂行主要メンバー及び、該当施設、艦隊航路図、転送を確認……コレよりミッドチルダに向けてジェネシス級ガンマ線レーザー砲試射及びドッキングシークエンスに移る…ガイドレーザー、相対速度…クリア…)
漆黒のMA《ルシファー》も続けて発進したのを確認し、ドッキングシークエンスに移そうとした時…Vedaからの緊急量子波通信が流れ込んできた
「……このタイミングで………まさか…」
ドッキングシークエンスを中断し、自動曳航モードに切り替えエクシェスは反転、ヴォワチュール・リュミエールで一気に加速した…中断した理由、それはオーストレルコロニーの中央議会、地球親派派閥が地球圏に向けて特使をコチラに気づかれぬように特務艦をも用意し送るとのVedaから齎されたのだ
(…リークした情報を逆手に取られた!………いまの火星圏の現状を地球圏に知られたらプロジェクトエデン遂行が困難に…オーストレルコロニーの奴等め!)
ギリッと歯を噛み締め、Vedaから特務艦の航路を閲覧し宙域へと機体を向かわせた頃……
「な、なんだ!これは」
「動くなジェダ・パパスィ、あなた方の計画はすでに中央議会が掴んでいる。コロニー公社に潜む構成員もすでに当局が抑えた…大人しくついてきて貰おう」
「く、なぜだ……我々は火星のために……くそ!」
ヘルヘイムコロニーにある急進派派閥の本拠地へオーストレルコロニー中央議会統制局からの一斉摘発は間を置かずして超長距離航行戦艦レクスに搭乗していたジェダをはじめとした幹部会メンバーを筆頭にイモヅル式で検挙されていく。しかしミストルティンの情報だけは削除され
「なぜ、ドック移動が急に…」
「ルセディスがビルダーを追加搭載したいっていきなり言うからさ…ま、まだ時間はあるから問題ないよ。ソレまでは英気を養おう…さあ、喫茶タスク特製パスタ、モッツァレラチーズとトマトにバジルサラダだ」
「モッツァレラチーズとトマトですか!たべるです!!タスクのご飯は美味しいから毎日でも食べたいですよ」
「切ちゃん、私もだよ…タスク…あとで…その久しぶりに」
「あ、いや……」
「ト、トマト………食べなきゃダメかしら」
外の状況を知らない三人を見て複雑な笑みを浮かべたタスク。作戦開始まえにした手はずとは「ビルダーを追加搭載するために秘密工廠に緊急移送せよ」を名目にしたもの。もとから軍神の矢計画の実働部隊に参加させる気はなかった。そして気づかれぬ事無くミストルティンはやがて小惑星群に紛れ姿を消した
ただ彼女たちがアレスがわざと機体調整を困難にしたはずなのにかかわらずに仕上げ、PTの手で自身を探しに来るなど、この時は予想もしていなかった
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「目標確認……オーストレルコロニー政府特務艦アキダリア………アレス・リアクター、最大稼働……ドラゴン・ファング展開」
エクシェスの両肩に装備されたドラゴン・ファング…その血のような赤い爪が開く。さらに中心部分にパルスレーザが照射、太陽黒点にも似たエネルギー球を形成、放電現象が機体の周囲に発生、やがて結晶化寸前までに高められる
「いま火星圏の状況を知られるわけにはいかない!…塵に還れ……ラグナロク!!」
トリガーを引いたアレスの声に答えるように極限までに高められ、半ば結晶化した真紅のエネルギー弾が解放され迫ろうとした…しかし何かに防がれ、同時に二条のビームが両肩を直撃、振動がコックピットにいるアレスを揺らす
「なっ!?……高熱原体反応!?…ドラゴンファング使用不可……あれか!」
機体ダメージをチェックしたアレスが見たのは漆黒に金の装甲を持つ異形のガンダムタイプ…長く伸びたスタビライザーはビームバレルとしての機能を有している。ドラグファングを破壊したのはその機体だと確信、警戒する
「(…どの陣営のだ…連合、ザフト、DSSD、オーブのpシリーズとも違う。コイツは任務遂行の障害になる)………ならば破壊するまでだ」
両機のツインアイに光が走り、エクシェスはヴォワチュールリュミエールを起動し、ハルファスへ対艦刀を構え切りかかる。相手もビームサーベルを抜き、エクシェスの攻撃に対し灼熱ノ刃をぶつけ、距離をとり再び切り結んだ
「………貴様の所属を答えろ……オーストレルコロニー政府の手の者か!!」
「………」
「答える気はないか……ソコだ!ドラグ・ファング!噛み砕け!!」
左右腰部に残されたドラグ・ファングが乾いた音と共に離れ、エクシェスがハルファスに迫る…が意に介さないように左右に構えたビームサーベルで切り払った時、微かに隙が生まれる。
「ヴォワチュール・リュミエール!!」
金色の翼《ヴォワチュール・リュミエール》を展開、加速。懐に潜り込むと対艦刀をコックピット?めがけて突き刺した…パイロットの意識を感じながら対艦刀の分厚い刃がコックピットを貫き斬り装甲材、ケーブルが焼き切られ機体の反対側まで貫通、相手のMSの瞳から光が消え、ビームサーベルが手から離れ刃が消え、柄が虚空に泳いでいく
「はあ、はあ…………」
耐Gシステムと専用パイロットスーツでもヴォワチュール・リュミエールからくる強烈なGはアレスの躰へ負荷は激しく、肩で息をし再びアキダリアを追うために機体を反転した。しかし沈黙したはずのハルフォスの瞳に光が再び甦る、すでに半壊状態、しかし両肩にある脚の爪先まで伸びたユニットを真正面に展開、溢れ出す凄まじいエネルギーの奔流と共に胸に突き刺さった対艦刀をメリメリと抜き、大きく構えエクシェスめがけ投げつけた
「動体センサーに反応!?まさか!!」
機体を反転しアレスが捉えたのは先ほどの所属不明機に突き刺した対艦刀、とっさに振り払った。ソレはフェイント…高出力ビームがエクシェスの両腕、両脚に直撃、ビーム耐性が向上したVPS装甲といえど防ぎきれない。内蔵されたアレス・リアクターをも飲み込み爆発した
「リアクター…消失……ぐあっ!?」
コックピットの各種モニター、計器から火が吹きノーマルスーツを焼いていく。残された胴体から小規模の爆発が起き、四肢を失ったエクシェスはゆっくりとデブリ帯流れていく
「し、死んでたまるか……まだ大東に…Gspirits隊に……復讐……を………復讐するまで死ねるか………救難信号…発信……冷凍睡眠起動。生きてやる、絶対に生きて…復讐…復讐…復讐するまで……お、おれは………母さん、じいちゃん、ノイン姉さん、ハーティ……かな…ら……ず……………」
コックピット内には血が水しぶきのように溢れひび割れたヘルメットが浮かぶ中、アレスは頭から血を流しながらノーマルスーツに空いた穴を補修材でふさぎ内部温度を生命維持ギリギリまで下げ、骨折した右腕の痛みに耐えながら手のひらに新陳代謝を抑制、強制的に睡眠へといざなう効果をもつ注射をした…軽く息をはき予備のヘルメットをかぶった。
頭部からの大量出血、加えて鎖骨および右腕上腕骨骨折、内臓にダメージ…普通なら死んでもおかしくないケガ…機体の損傷も激しく任務遂行は困難と判断したアレスが取ったのは自らを仮死にし生き延び救難信号を急進派へ届くようにすること
回収に来る可能性は低い…しかし僅かな可能性と燃え盛る復讐の炎が死ぬ事を許さない
「……かならず……生きて……やる…」
激しい頭の痛みを最後にアレス・ルセディスの意識は深い深い闇へと落ちた。傷つきPSダウンしたエクシェスはゆっくりとデブリ帯へ流れていく…
同時刻、ヘルヘイムコロニー
アレス・ルセディス宅
「っ痛たた……また切った…えと次はエビの殻を」
指を加えタブレットとにらめっこしながら制服の上から可愛らしいピンクのフリルがあしらわれたエプロンを身につけクリスは口から指を離す
「「エビの殻をむいてワタを爪楊枝で抜き、塩をふり水気をとる」………うわ、殻むきどう止んだよ……ソレにわたって綿菓子かよ!?」
アレスの残したレシピ。見た目はアレな「バジルパセリエビもりもり混ぜご飯」のレシピに悪戦苦闘し毒づくも、慎重に殻むきをしていく…
「まってろよ兄貴、帰ってきたら圧倒的に言わせてやるからな…ぜってぇマスターしてやっからな。そしたら、アタシをお嫁さんに……い。いやいや!まだ早いし!!」
気合をいれ丁寧にむき終わると塩をふり水気をとる…大好きな義兄アレス・ルセディスの胃袋を掴むコトを誓いつつ、次の仕込みに夢中になりながら未来を思い巡らすクリスはしらない
義兄アレス・ルセディスが火星に居たことを示す情報も跡形もなく消されていたコトを…愛する人の為に料理にいそしんでいるクリスは気づくハズも無い
そして半年が過ぎ……オーストレルコロニー政府は一連の事件に関わった急進派派閥の幹部、末端に至る構成員全てを拘束、別々な収監施設へ入獄させた
唯一、彼らの成果である食料生産コロニー群と「何者かが出した行政試案書」に記載された法案を可決、緩やかだが確実に失業率は減り、就学率は上昇、経済も上向きへと向かいはじめた頃……
オーストレルコロニー付近
「ひさしぶりの火星だな~」
「ロウ~もうじきしたらオーストレルコロニーに入航準備しないとダメだよ」
「わかってるって……ん?なんだアレは…ジョージ、進路上に何か見えるか?」
『キャプテンだ!ふむ、どれどれ~あれはMSの残骸みたいだな……ちょっと待て!微弱な生体反応を確認した』
「……ジョージ、舵を任せるぜ。樹里、ちょっくらレッドででるわ」
「え?まってよロウったら~んもう……」
樹里の声を背に俺は愛機のレッドへ乗り込むとそのまま宇宙に出た…たしかここらへんだったなとセンサーを生体反応に切り替え探すと直ぐにヒット。モニターに映し出されたのは頭部と胴体だけ残されたMS…とにかく近づいて触れてみて息をのんだ
両脚、両腕を高出力ビームで跡形もなく吹き飛ばされてるのもなんだが俺が手伝ったΔ、アウトフレームと似てる。興味は沸くか今は生体反応を調べるためジョージに調べてもらっている
『まずいなロウ、接触回線経由でアクセスしたんだがかなり重傷だ…冷凍睡眠状態がかなり劣悪だ。コックピット内映像をまわすがかまわないか?』
「ああ、見せてくれ…その前に樹里にメディカルポットを使えるよう伝えてくれ」
『わかったよ』
ジョージの通信が消えるのと入れ替わりに映されたのは乾いた血に空になった注射器、うっすらと霜が降りてるパイロットはぐったりとしてる…やばいな。とにかく急いで《リ・ホーム》へバーニアをふかし向かった
★★★★★★★
「………ん」
「よう、気がついたか?」
「………」
「お前、危なかったんだぞコックピットハッチ開いたら血塗れで樹里が気絶しちまうし、ノーマルスーツ脱がしたらヒドいケガだし…まあ助かったからいいか。あ、俺の名はロウ・ギュール、宇宙最強のジャンク屋だ。名前なんて言うんだ?」
「……か…ない…」
ギプスに固められた右腕に頭に巻かれた包帯が目立つ少年の唇が微かに震えゆっくりと顔を上げた。前髪に赤いメッシュに黒い髪、瞳からは困惑の色が見える
「わからない……なにも……ボクは誰なんですか」
「ジョージ、コレはいったいどうなってんだ?」
『キャプテンだ。ん~いまあらためて詳しく診てみたんだが……どうやら不完全な冷凍睡眠状態が原因で記憶喪失状態になっているようだ』
「だれなんだ……ボクは……思い出せない……」
…復讐鬼アレス・ルセディスとしての記憶は彼岸の彼方へ消えた。ロウから《マルス・レディーレ》と名付けられ、傭兵部隊サーペントテール《六人目》の傭兵となった少年は《王道でないーASTRAYー》と共に喪われた過去を知るため、《力無きものの剣となる》傭兵として戦いを始める
……………そして復讐者は再び、歴史の表舞台へ舞い降りる
自身の運命を弄んだ者が演出した復讐の舞台へ…演者は揃った…
全ての真実への道筋もこの舞台にある
「さて、紳士と淑女の皆様方…かの人物が描いた舞台へ演者は集いました…果たして彼は自らを繰る運命という糸を断ち切り真実を知るか、演じ切り自らの命をもって閉幕へ至るか………この《キゲキ》はどのような幕引きをするか…全ては皆々様方が最後まで見届けることを期待しますよ」
MarsDays:FINAL
了
青龍騎士さんとのコラボレーションMarsDays編は双方のを合わせ見ると一つの物語として完成します
過去編はこれで終わりとなります