砂隠れは繁栄しました   作:布団玉
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第3次忍界大戦
5. 島


 ついに第3次忍界大戦の幕が上がった。羅砂と加瑠羅が結婚というめでたい報告の次にこれだ。時は戦争、戦争、また戦争。めまぐるしく移り変わっては多くの命が消えていく。
 第3次忍界大戦開始の一因であるはずの風影は、未だ行方不明になどなっていない。風影の行方不明はあくまで原因の一部でしかなく、あがいたところで第3次忍界大戦は起こるべくして起こったということか。

 各里では消耗戦が繰り広げられているが、木ノ葉に至っては各国からの集中砲火であった。
 砂隠れも他里のことは言えず、子供が次々と戦地へ送られる有様。それを食い止めるべく、羅砂は人柱力の研究に身を入れているらしい。分福が亡くなり守鶴が茶釜へ封印され、しかし人柱力という器で制しているわけではなく、いつ守鶴の封印が解けてもおかしくない状態であるためだ。これが、後に生まれてくるであろう我愛羅へ悪影響にならなければいいのだが。

 さらにまだ悪い知らせがあった。砂隠れの傀儡使いが霧隠れへ捕まり、数名ほど捕虜になっているというのだ。砂隠れが霧を警戒しているのはその所以だ。
 なんでも、傀儡使いのみを執着的に狙っているらしい。砂隠れにとって傀儡使いは里のエースだと言っても過言ではない。

 霧がなぜ傀儡使いを捕らえているのかは、風影から聞いた話だが、霧隠れの『血継限界嫌い』にあるという。
 霧隠れは忍刀七人衆など独特の武器が多い。血継限界を忌み嫌っているため、血継限界を戦力として数えておらず、彼らに代わる戦力が必要であった。そのため霧隠れでは、刀に限らず忍具や武具類が発展した。この点では傀儡を発展させた砂隠れと似ている。だからこそ、砂隠れ独特の武器である傀儡使いを捕らえている、ということであろう。戦力にするのか、それとも傀儡の技術を奪う目的かは定かでないが。

 そんな流れに関係してか、はたまた別の案件であるのか、羅砂班4人が風影室へと呼び出された。

「お前たちに資源防衛の任務を命ずる」

 風影は机へ両肘を立て手を組み、俺たち4人を前にしてそう発言した。

「島の防衛隊から応援要請が入ったのでな。霧隠れの忍が島の占拠をはかっているとのことだ。緊急であったらしくこれ以上の詳細は不明だが、至急、島の防衛へ向かえ。一刻を争う」

 俺を含めた全員が「はっ!」と了解の声をあげ、準備へ散った。


 砂隠れから遠く離れた風の国の海岸沿い、船着き場。羅砂が船員へ目的地を告げると、俺たちは木製で視界へ収まる程度の大きさの船へと乗り込んだ。いかりが上げられ、船体が波を切り海を渡りはじめる。
 その間、向かう島について羅砂が説明を入れてくれた。

「今向かっている島は、かつて初代五影会談時に尾獣の代わりとして木ノ葉から購入した、豊かな土地のひとつだ。地図上には描かれてはいないが、木ノ葉と砂隠れの間、南方面へ位置している」

 羅砂が地図を取り出し、指先で目的地を指す。

「水の国は、その名の通り海に囲まれた国。防衛や鎖国には適しているが、反面、攻めるのには少々不便だ。故に拠点を増やそうという目論見に至ったのかもしれんな。いくつか存在したであろう拠点候補のうち、白羽の矢はこの島へと当たったようだが」

 資源の少ない砂隠れは、この島からも木材などの資源を得ている。もしこの島を奪われてしまえば、砂隠れ特有の武器である『傀儡』の生産量が少なからず低下してしまうだろう。さらに言えばこの島のおかげで砂隠れの海域が広がっているのだ。
 柱間のような木遁使いでもいれば話は変わるかもしれないが、個人で造形を受け持っていたとしても、傀儡を生産するのにはもちろん生産費がかかる。風の国にとっても傀儡使いにとっても、物価の高騰や、必要以上に土地を失うことは避けたいところである。
 このような心配をしなければならないのは、5つの大国のうち風の国が最も弱小であり最も資源が少ないからだ。悲しいことだが、未だその事実は覆されていない。なので資源地を簡単に切り捨てるわけにはいかなかった。

 ただし、砂ばかりの土地というのは、なにも欠点ばかりではない。
 砂ばかりで資源がないからこそ、土地を目的に他国が戦争をしかけてくることは滅多にないのだ。砂ばかりでひらけている土地である故傀儡も動かしやすく、より生かすことができる。砂自体を武器にすることもできる。(ホーム)の利点による恩恵は大きい。

 良好とは言えない関係の霧と、個人や部族単位ではなく、国単位で衝突してしまえば戦争は絶対に回避できない。砂は、血みどろの戦いを繰り返してきた木ノ葉と順調に進めば同盟を結ぶことになっているが、霧とまで全面戦争になってしまえばその時まで砂隠れがもつかどうか。
 風影はこの事実を重々把握しているため、土地を奪われかけているにも関わらず、霧への全面的な宣戦布告をかわしているようだった。

「この任務、絶対に失敗するわけにはいかない。お前たち、分かっているな」

 3人、こくりと首を縦に振れば、羅砂もうなずいた。


 長らく船旅を満喫していたが、船が目的の島に着いたので、俺たちは速やかに島へと上陸した。
 風の国とは違いうっそうと茂る木々を間をくぐり、島の奥へ奥へと足を踏み入れる。無人島ではないようで、ときどき小さな家屋が建てられていたが、半壊しているものや全壊しているものも少なくはなかった。

「ひどいな……」

 砂隠れの額当てをつけた死体や、この島の住民であろう質素な服の死体があちらこちらへ転がっているのを見て、誰に語りかけるでもなく羅砂がこぼす。

「全滅でしょうか」

 俺が問いかければ、羅砂は「いや」と否定の言葉を前に置く。

「連絡が届いたということは、1人でも生き残っているはずだ。先に生存者を見つけ、保護をするべきだろう。それにしても、砂の防衛部隊をこうも易々蹴散らすとは……油断するなよ」

 相当の手練れであることは確実だった。

「ぎゃああああぁぁぁぁァァァァ!!」

 ――突然の断末魔。
 全員、声のしたほうへ一斉に振り向き駆けだす。

 駆けつけた先で目にした景色は、男の頭が蓋をしてあったようにぱっくりと割れ、血の混じった脳みそがのぞき、びくびくと電気を浴びせられたように痙攣しながら倒れる瞬間であった。
 男を囲むようにして、異様な形をした刀を持った忍が3人。俺たちの姿へ気づき、3人同時にこちらへと首を回した。すべて見覚えのある顔だった。

「また砂隠れのゴミか増えやがったか。次から次へと、ゴミ掃除も楽じゃねェなァ」
 ――断刀・首切り包丁の所有者である枇杷十蔵。

「紙みてェな防御のヤツばっかだったから、少しは楽しませてほしいもんだぜ」
 ――鈍刀・兜割の所有者である通草野餌人。

「戯言を言わずさっさとやるぞ」
 ――そして大刀・鮫肌の所有者である西瓜山河豚鬼。

「忍刀七人衆か」

 羅砂も知っているようだった。

 ――砂の防衛を突破したのはこいつらだったのか。
 7人そろっていないとはいえ、3人でも一斉に攻撃されれば周辺への被害が大きくなる。俺たちの任務はあくまでも資源の防衛だ。向こうとは違い、むやみやたらに攻撃を仕掛けていい状況ではない。
 大技を使わず、さらに相手にも大技を使われないようにしなければならないというのは、ただ周りを破壊しつくすだけの戦闘とは違う方向で厳しいものである。

「……『ニーイチ』だな」

 羅砂が俺たちだけに聞こえるようにぼそりと言う。

「分かりました」

 それは、2人と1人へ分断させるという意味だった。
 ――ならば。

「羅砂先生。俺、あの巨体と戦ってみたいです。チビとマユ無しのほうは弱そうなんで」

 向こう側にも聞こえるよう、しかしわざとらしくないように、気持ち少し大きめの声で言った。

「ンだとォ!?」と十蔵。
「言ってくれるなァ……」と餌人。

 ――よし、うまくのってくれた。

「なんだよ、事実を言ったまでだろ? お前ら本当に手ごたえなさそうだしな。頭にちょんまげなんて生やしやがって、音符記号かよ。全身黒いしちょうどいいんじゃないか? そっちはマユ無しのうえクジラの腹みたいなもん口に描いて、ファッショナブルだとでも思ってんのか。時代遅れにもほどがある」

 本心ではなく、適当に思いつく限りの煽りを口走らせる。すると、十蔵と餌人の顔がみるみる赤へ染まっていった。やかんをのせれば湯でも沸かせるだろうか。

「調子こいてんじゃねェぞォクソがあ!!」
「頭かち割ってやろうかァ!?」

 十蔵と餌人がそれぞれ叫んでいるが、隣の西瓜山といえばその様子を無表情で眺めているだけだ。

「十蔵、餌人、やめておけ。のせられているだけだ」

 注意深い河豚鬼は思惑に気づいているようだったが、散々罵られた2人といえばすっかり頭に血が上っている。

「テメェ、ボロクソに言われてねェからって上から目線かよ!!」と、十蔵。
「あの緑頭は絶対にオレが殺してやる……!!」と、餌人。
「やれるもんならやってみろよ。無理だと思うけどな」と俺はさらに煽り、しかし相手へ向かうことなく逆方向へ煽り逃げした。

 去り際、羅砂が軽くうなずいた。


 十蔵と餌人を河豚鬼から引き離し、木々を蹴りながら森のさらに奥深くへと逃げ切った。ひらけた場所で足を止めれば、2人も地へ足を置く。

「さあてな、首切り包丁でどう料理してやろうか。クク……」
「この鈍刀・兜割の前じゃどんな防御も無意味なのさァ!」

 十蔵は首切り包丁を肩へのせ、餌人は兜割の斧で俺をさす。
 数十秒後、俺を追いかけてきたであろうバキと夜叉丸が、十蔵と餌人の後ろへ立ちはだかった。

「ああ? 1人じゃ怖くてオレたちと戦えないんでちゅかァ? さっきまでの威勢はどうしたんだァ?」

 十蔵がなにか言っているが、気にせずバキと夜叉丸に合図を送る。
 夜叉丸はこくりとうなずいてワイヤーを取り出した。

 夜叉丸の両手から2本の太いワイヤーが伸び、ワイヤーが一直線に刀へと向かい捕らえる。

 ――流遁・汞牢(こうろう)の術!

 夜叉丸のワイヤーが首切り包丁と兜割を捕らえたわずかな隙をつき、十蔵と餌人の体へと水銀を密着させ、首から下を銀の全身タイツで包むように拘束した。
 十蔵と餌人が「なっ!?」だの「はあ!?」だの声を上げている。
 水牢の術は溺死させることもできるが、あれは接近しなければならない。近距離特化の忍刀を持った連中へ接近したくはなかった。しかし2人の拘束ともなればチャクラの消費も尋常ではなく、そのうえ大刀を軽々しく振り回す馬鹿力も加わり、流遁で拘束するのがやっとであった。

 十蔵と餌人が拘束を解こうともがいている。
 拘束したばかりであったが、すでに術が解かれかけている。解くか解かれるかの力比べであった。だが力比べではこちらが不利だ。

「マズい!」
「バキ君!」

 俺と夜叉丸は、手を小刻みに震わせながら必死に十蔵と餌人を捕らえる。

 バキは2人へ接近し指を2本立て、アンダースローのように右腕を振った。
 ――見えざる風の刃。
 休むことなく左腕を振れば指先から風のチャクラが放出され、透明な刃となり空気を揺らがせながら十蔵と餌人の首へ目がけて飛んでいく。

 風の刃は確実に首へ投擲(とうてき)された。
 だが十蔵と餌人の口から水が間欠泉のように溢れ盾となり、初めから無いものかのように刃が打ち消され、生み出された水だけが地面へと染み込む。

 ――これ以上の拘束は限界だ。
 夜叉丸と俺が拘束を解いたと同時に、敵と距離を一定に保つためバキが後ろへと下がった。相手が1人ならば汞牢の術で窒息死させることもできたが、上忍クラス、さらに忍刀七人衆が2人も相手ではそうもいかない。

「骨はありそうだ」

 言いながら、十蔵が舌なめずりをした。
 霧隠れの忍相手に水遁で勝負すればこちらが押されてしまう。水遁の手練れを相手に起爆札すら使えぬこの戦い、とにかく動きや武器を封じるしかない。

「確かめてやらァ!!」

 左からは、餌人の楽しげな声。
 ――刃物が風を切る音。
 眉間にじわりと指を近づけられているような、ぞわぞわとした不快感が左へ寄る。一瞬にして体中の全神経が左へ集まっているような感覚だった。

 振り向くことなく水銀を左に集め、斧が自身の顔を断ち割るのを防いだ。

 水銀に塞がれ抜けなくなった斧の斧頭へ、鉄槌の追撃。
 槌を振るいたがねを打つ熟練の石工のように洗練された動きだった。
 ――寸前。
 持ち得るほぼすべての水銀を集め高密度に圧縮し、兜割の切断攻撃から自身の身を守る。打ちつけられた箇所からは火が散り、全身から嫌な汗が噴き出た。

「右があいてんぞォ!」

 水銀をすべて左へ集めたことで右の防御が失われたことを幸いとばかりに十蔵が俺の右へ接近し、風を唸らせながら横へ包丁を振りかざす。
 だが、夜叉丸が再度首切り包丁へワイヤーをかけ、バキが俺の右へ立ちふさがった。

「残念だが右は満席だ」

 バキはすぐに片手指を2本立て、風の刃を放つ。
 十蔵はワイヤーで止められた包丁を手放して避けた。行き場を失った風の刃が木々を切り裂いてゆき、輪廻眼のような年輪があらわになりながらバウムクーヘンの道をつくりあげる。
 十蔵が地へ着地をしたところを狙い、バキが両手からクナイを何本も打てば、それらすべてが軽やかにかわされた。

 ――奴らの刀をなんとか引きはがさなければならない。
 斧へ触れている水銀を一瞬緩め、兜割へと触手のように絡める。そのまま硬化させ、兜割を捕らえた。拘束部以外の水銀を鞭のごとく一気に振り上げ、兜割を空中へと放り投げれば後ろで土に刺さる音が聞こえた。

「チィッ……」

 餌人が舌打ちをする。
 刀を隔離することには成功したが、忍刀七人衆は刀がなくとも強敵だ。しかし刀を失った今、絶好のチャンスである。

 ――流遁・銀鏡の術!

 夜叉丸は手をチャクラ解剖刀へ変え、バキは再度片手指を2本立てる。
 俺は水銀を地へ這わせ、諦め悪く十蔵と餌人を捕らえた。
 ――瞬間、豆腐を切っているかのような、手ごたえのない感覚。

 2人の体が透明な液体になり、ばしゃ、と音を立てて地面へ消えた。
 ――水分身か!

「まずは1匹」

 気がつけば俺は十蔵と餌人に左右後ろを取られていた。
 煽った俺が執着的に狙われるのは仕方のないことではあるが、忍刀七人衆の2人から執着される戦いがこれほど苦しいとは。

「サボテン!」

 すぐに反応したバキが体上半身をひねり、2本指を立てたほうの腕をこちらへさした。続いて夜叉丸がチャクラをクナイにまとわせ、俺の左右後方に投げる。

 クナイの刺さる音と共に後ろの殺気が消えた。
 だが、十蔵と餌人はそれぞれ刀を取り戻したようだった。

「あれだけ言ったくせして、1人じゃなぁーんにもできないようだなァ」
「まだまだこれからだぜェ」

 俺は後ろへ振り向き、次に来るだろう攻撃へ構えた時――

「そこまでだ」

 ――頭上から声が降ってきた。
 筋斗雲のような砂金に乗った羅砂が、俺たちの元へ戻って来たのだ。

 砂金はゆっくりと降下し、飛び降りて羅砂が地に降り立つ。砂金の上には丸々とした河豚鬼が横たわり、さらにその上には遺品のように鮫肌がのせられていた。
 羅砂が「足止めを頼ませてしまって悪かったな」と言えば、俺は「いえ」と涼しげに返す。

「さあ……次はお前たちの番だ」

 4人そろって構えれば、十蔵と餌人が心底嫌そうに舌打ちをする。

「偉そうにしてやがったのに、自分が捕まりやがって……馬鹿が。一旦退くぞ」

 十蔵と餌人は、煙玉を取り出してそれぞれ「あばよ」だの「じゃあな」だの吐き捨てながら、爆発音と共に煙へ飲まれて消えた。
 俺とバキ、夜叉丸はクナイを投げたが、肉を切ることなくすべて木に刺さった。

「待てッ!」

 羅砂の声はむなしく辺りへ溶けていく。逃げられたか、と羅砂は悔しそうにひとりごちた。
 逃がしたということは、すなわち報復に来る可能性があるということ。

「……要救護者を探すぞ。まだ生き残りがいるかもしれん」

 しかしむやみに追うことはせず、まずは生存者の確認を行うことになった。

 先頭を羅砂が歩き、俺、夜叉丸、バキが続く。羅砂のすぐ後ろである俺は、砂金に乗せられたまま移動する河豚鬼を隣にして歩いた。

「……ペットみたいですね」

 すると羅砂が軽い笑い声を立てて、こう返した。

「まさか忍刀七人衆だとは思わなかったが、霧隠れだと聞いた時から捕らえるつもりでいたからな。手こずったが獲れたての新鮮な豚肉だ」

 捕虜解放の交渉のためだろう。

「……とても食べられたものじゃあないですね」
「観賞用だな。動物園(しゅうようじょ)で展示するための奴であるからくれぐれもつつくなよ」

 そうして俺たちは、数名生き残った忍と住民の手当をして、重傷者は船まで運び、この島を出た。
 枇杷十蔵と通草野餌人は逃してしまったが、資源防衛という任務自体は無事成功。砂隠れへの土産物も手に入れ上々の結果であった。


 里へ帰還後、任務の結果と忍刀七人衆について羅砂が報告すれば、風影は基盤へ向かい腕組みをした時のように眉間にしわをよせた。

「羅砂。お前はしばらく里にいろ。オレもできるだけ里に残る」

 やはり報復について懸念しているのだろう。
 羅砂は「承知しました」と目をつぶってうなずく。報告も終わり任務は今度こそ完了した。




 しばらく日が経った頃、ついにヤマトが忍者学校を卒業した。入学してからたった1年での卒業だった。
 俺と同様に1年早い入学のはずだが、まさか砂のあのカリキュラムを1年でこなすとは思わなかった。末恐ろしい子供である。
 もっとも、本人が勉強を楽しそうに行っていたのが幸いしたのだろう。
 忍者学校へ入る前、授業に置いて行かれることがないよう家で勉強をさせておいたのだが、明快に学んでくれるのでこちらも身が入ってしまった。教えれば教えた以上を吸収していく様を見れば、教え甲斐がある。結果、かなり量を詰めこんでしまったのも原因のひとつだ。

 引き取った身としては誇らしいが、反面、無理をしているのではないかと心配にもなる。子供の頃に勉強ばかりだと、後の反動が気になるところだ。適度な息抜きや、趣味を楽しむことも必要である。
 一応、無理は禁物だと言い聞かせてみた。だが「早く兄さんに追いつきたい」と言われてしまえば、あとは見守ることしかできなくなった。俺が研究や修行ばかりの姿を見せてしまっているので、それも一因だろう。

 さらにヤマトが卒業してからすぐのこと。
 相談があるんです、と思いつめた表情でヤマトが言った。

「なんだ? 藪から棒に」
「ボク、傀儡使いになりたいんです」
「ほう」

 木遁を使わない代わりに、傀儡使いか。確かに傀儡は木材を使用している。やはりヤマトは『木』からは離れられないさだめなのか。

「……そうか」
「一応、兄さんに相談したほうがいいと思って」
「自分できちんと決めたんだろ?」
「はい」
「なら、やってみろ。お前の道を拒みはしない」

 建築に興味を持つくらいなのだから、ヤマトが芸術方面へ興味があってもおかしくはない。
 ――メカ傀儡、サソリがダメだったらヤマトにつくってもらうか。いや、つくる側になるかはまだ分からないな。

「そうだな――傀儡使いになりたいならいい人がいるぞ。……2人ほど。どちらにしろ気難しい人らだけどな」


 というわけで、気難しいサソリ宅へやってきた。

「あら、サボテンじゃない! どうしたの?」

 気難しくないサソリの母が出迎えてくれた。

「こんにちは。チヨバア様はいらっしゃいますか。あとサソリも」
「お義母さんもサソリもいるわよ。どちらも自室にこもってるわ。どうぞあがって!」
「お邪魔します」

 俺はサソリの部屋へ向かい、ヤマトはチヨバアの部屋へ向かった。

「じゃあ、ボクはチヨバア様のところへ行ってきます」
「おう。多分一筋縄じゃいなかないから粘れよ。1回じゃまず無理だと思ったほうがいい」

 チヨバアはカンクロウの弟子入り志願を断っている。そう簡単に弟子をもつことはないだろう。
 だが授業では補いきれない傀儡の術を、徹底的にサソリへ叩きこんだのはチヨバアだ。傀儡使いになるため弟子入りするならチヨバアが最適だろう。

 そんなことを考えつつ、長く薄暗い廊下を進み部屋の扉をノックする。

「サソリ、いるか?」
「……いねェよ」
「いるじゃねーか。入るぞ」

 いつものことなので気にせず扉を開けて中へ入った。

「また変な発注しに来やがったのか?」

 傀儡の制作中らしく、後ろを振り向くことなくサソリが言う。

「いや、今回は違う」

 傀儡の発注は、とりあえず人傀儡をつくらせないということが目的だ。メカ傀儡の提案はそれに最適だと思ったのだが、やはりサソリの感性には合わないようだ。
 今日持ってきた案は、メカ傀儡ではない。メカ傀儡が通らなかったときのために温存しておいた案だ。

 サソリへ近づき、巻物を勢いよく広げる。すると、やっとのことでサソリが後ろを振り向いた。

「……『ヒルコ』?」

 ヒルコは人傀儡だ。だが、今のサソリは人傀儡に興味を持っていない。つくるとしたら劣化品になってしまう。恐らく鎧としての機能が低下し、壊れやすくなるだろう。
 だが劣化してでもヒルコは制作してほしい傀儡だ。なのでいったんメカ傀儡の発注をやめ、温存しておいたヒルコの提案に変えることにした。

「人間が中へ入る傀儡だ。傀儡使いは接近戦に弱いと聞く。中に入れば傀儡が鎧にもなるだろ?」

 サソリは巻物を眺め、ふ、と見下すように笑った。

「テメェにしてはいいもん考えるじゃねえか」

 サソリが快諾するのも当然だろう。ヒルコは元々サソリが考えついた傀儡である。故に、俺が使うわけにはいかないが。

「これは俺が考えたものではないから、俺の功績じゃないぞ。むしろお前の功績だ。それに、サソリ。これはお前用のだ」
「はあ? どういうことだ」
「そのままの意味だよ。どうだ、つくってくれるか?」
「…………。納期は」
「お前の気が済むまで造形すればいい」

 巻物を閉じ、サソリへ渡す。

「確かに渡したぞ」
「ああ」

 ――はじめて傀儡の案が通ったな。だが、これはサソリ自身が考えついたものである。これでは案が通ったとは言えない。次は俺自身の考えた案で通してやるからな。

 俺のほうは遂行したが、ヤマトはどうなっただろうか。
 ヤマトは俺より先に終わっていたようで、応接室でお茶を飲みながら待っていた。

「どうだったよ」
「ダメでした……」
「だよなあ……」

 それでこそチヨバアだよな。

「明日、また頼みこんでみます」
「おう。がんばれよ」

 そうして、俺たちは雑談しながら家へと帰って行った。