クリスマス。
恋人達の祭典の直ぐ傍では、御坂美琴の友人達(主に佐天)によってある企画が進められていた。
きっと、何かある。絶対裏がある。
と感じながらも楽しめれば良い、とか思いながらその企画は始まる

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どうでもいいですが、そいらいすは超電磁砲をアニメ位しか理解してません。
よって、物語に矛盾が生じている可能性があります。
申し訳ありません。


冬休みですね!!

「良いですか皆さん? 明日から冬休みなのです。クリスマスとかお正月とか色々あるのですが、宿題をサボったりしたらいけないのですよ!!」

 

 帰りのホームルームにて、担任の月詠小萌が生徒に言ったのは大方そんなことだった。折角の大型連休だというのに勉強の話とはこれ如何に。しかし、それらは全て先生の愛情によるものだということも忘れてはならない。

 学生の本文は勉強、と言うことなのだろうか。

 真面目だが勉強は嫌いな生徒達は安息を求めるのであった。

 

 

 

 要するに、本日は二学期の最終日。終業式の為だけに学校へと駆り出される一日。授業も無く午前で終業となる為に、放課後の街中は制服を着る学生で溢れかえることになるのだ。こうなることを予想出来なければ完全に出遅れてしまい、予約で一杯のカラオケボックス等の前で涙を飲むことになったりしてしまう。

 その一方で、万年貧乏で金を使った遊びとは完全無縁の高校生、上条当麻は帰路の途中、猫背で呟いていた。

 

「年末に向けて買い出ししとかないとな……下手したら味噌と塩と水だけの正月になっちまう」

 

 そう、彼は今の遊びよりも勉強よりも、明日の朝食を考えないと生きていけないのだった。

 

「……今更言うのも何やけどな、皆が浮かれとる時に、カミやんは何をドンヨリしとるん?こっちまでテンション下がってまうんやけど」

「カミやんが帰宅中にゲッソリしてるのはよくあることだぜい? つーか、カミやんは自炊派だから買い出しに悩まされるのは当たり前なんだにゃー」

 

 そんな彼の後ろから、青髪ピアスと土御門元春の悪友コンビが話かけてくる。

 

「他人事だなお前ら……」

「にゃー、だって俺には舞夏がいるからな。飯に困ったことはないもんで」

「僕も御飯には困らんからねぇ。残念やけど、カミやんに同情は出来んなぁ」

「……不幸だ」

「まぁ、そう落ち込むんじゃないにゃー。本気で困ったら家に来ると良い。舞夏の作ってくれた御飯を八分の一位分けてやっても良いぜい」

 

 実に中途半端な数値に上条の肩も下がる。だからと言って文句を言うと、結局その八分の一に泣く羽目になるであろうから、容易に反応を返すことも出来ない。

 板挟みとはまさにこのことか。多分違うけど。

 とにかく、年末年始に向けた買い出しはなるべく早い段階でしておきたい。正月は実家に帰ると言っても、それまでは確実に自炊なのだ。実家に帰らない自炊派や教師達の存在を考えると、混雑して目当ての物を買えない可能性も否めない。鉄は熱い内に何とやら、物は多い内に買うのだ。

 

「て言うか。今から買い出しなん?」

「まぁな。休日になって人が多くなってからじゃ、完全に出遅れたのと一緒だし」

「大変なんやねぇ。ほんじゃま、僕らはお先に失礼するで」

「あぁ。じゃあな青髪、土御門」

「にゃー。暇な時は呼んでやるぜい」

「分かった」

 

 そんな訳で、人の波に反して彼は一人になる。冬場の風は冷たく、頬を掠めていく。

 

「……行ってくるか」

 

 生きるために、上条は雑踏の中へと踏み出す。

 

 

 

 

 

 

「つまり、クリスマスをどうするかってことですよッ!!」

「さ、佐天さん落ち着いてくださいよ……」

「だってクリスマスだよ初春!? 何かしないと損なのに、落ち着いてる暇はないって!!」

「あの、佐天さん? 声量が多いというか……」

「もう少し静かになさらないと、店員さんに摘み出されてしまいますわ」

「え、あ、すいません……」

 

 いつものファミレスの店内の一角、もはや店員に覚えられるレベルで入り浸る四人の少女達は、やはり今日の放課後も集まっていた。と言うか、顔を覚えているのは店員だけに留まらず、常連の客は皆ハッキリと覚えている様だ。事実、先の一騒ぎを迷惑顔で見る者はおらず、むしろ微笑ましそうに眺める者の方が多い。

 慣れとは大変恐ろしいもので、本来なら注意せねばならぬことも、このように許容出来てしまう空間が構築されてしまうのだ。

 少しだけ小さくなった佐天涙子は、それでも話題を続ける。

 

「それで、クリスマスは本当にどうします? 他に用事があるなら仕方なしですが」

「パーティとかしたいですよねぇ。やっぱり、一年に一度のイベントですし……んー、美味しい……!」

 

 佐天の隣の少女、初春飾利も話に乗って来る。がしかし、彼女の前には巨大なパフェが聳え立っており、正直真剣に話をしているのか疑問になったりする。

 

「パフェをモリモリ食べながら言っても、本心には聞こえませんのよ」

「ひ、酷いです! 私だってちゃんと話に参加してますよ!?」

「……まぁ、わたくしは初春の案には賛成ですわ。お姉様は如何でして?」

 

 白井黒子がそう言うと、全員の注目が御坂美琴に移る。

 美琴の表情は何か考えているようないないような、そんな微妙な表情のまま外をぼんやりと眺めている。特に飲み物に手を付けた様子も無く、頬杖をついたまま、本当にぼんやりと外を眺めている。

 

「……お姉様」

「……ん? へ、な、皆どうしたの?」

「ひょっとして、ボーっとしてました?」

「え、し、してないわよ、うん」

「見栄は張らなくてよろしいですの」

「う……」

 

 天下無敵、才色兼備、ゲコ太好きな超能力者第三位でも図星を突かれると痛いのだ。照れた様に頬を染めながら、美琴も再び会話に混ざる。

 

「ごめんね。それで、クリスマスの話だったわよね?」

「そうですそうです! 御坂さんは何かしたいことってありますか?」

「したいこと、かぁ。いつかみたいに鍋パーティとか良いんじゃない?」

「いっそのこと、闇鍋とかどうですか?」

「それは……止めとこうよ初春……」

「何でですか?」

「察しなさいな。そう言うものは大体言い出しっぺが後悔しますわよ」

「冗談抜きでイチゴとか入れちゃいそうだし」

「な、何でバレて……!?」

「そりゃあね……え?」

 

 微妙な沈黙。一人キョトンとする初春と、そんな彼女と顔を引攣らせる白井と佐天の二人。何ベースの鍋かは知らないが、とにかく鍋の中にイチゴを突っ込むと言われると、よほどの新人類でない限り誰だってこうなる。単純に気持ち悪いのだからどうしようもない。

 話題を変えようと、白井は顔を引攣らせたまま美琴の方を向く。

 しかしながら、当の美琴の視線はまたしても窓の外へ向けられている。先程と同じ様に頬杖をついて、ぼんやりと窓の外を眺める。

 いや、眺めると言うのは間違いであるかもしれない。あるものを目で追っているかの様に瞳や首が少しだけ動いている。一体何を見ているのか、と白井が美琴の視線を追ってみると、

 欠伸をしながら街中を歩いていく上条が居た。改めて見てみると、美琴が少し乙女の表情をしている。

 白井、真顔になる。

 

「……お姉様」

「……はぁ……」

「お姉様ッ!!」

「わっ!?へ、え、何!?」

「意識が旅立っていましてよ?大体、お姉様が見つめるべき相手はわたくし、この白井黒子に決まってますの!!」

「あー、はいはい。ごめんね、ちょっとボーっとして……て……?」

 

 照れ笑いしながら白井をスルーし、佐天と初春に向き直った美琴の言葉が詰まった。二人が完全に獲物を見付けた目をしているのだ。自分の方が先輩(付き合いの長さ故、その辺が段々と曖昧になってきたが)であるはずなのに、完全に追い詰められている。

 現状維持は危ない。何が危ないか分からないが、とにかく危ない。そう判断した美琴は強行手段に打って出る。

 

「お、お腹空かない?何か注文す……」

「御坂さん!!」

 

 無理だった。

 

「さっき見惚れてた方、一体誰なんですか!?」

「えー……っと、その……」

「彼氏さんだったりするんですか!?」

「それは絶対にないって!!」

 

 全力で否定したものの、確実に自分の頬は紅くなっている。そして、そんな変化を見逃さないハンター達ではなかった。彼女等は獲物を仕留めにかかる。

 

「では……恋、してるんですか……?」

 

 普段は中々素直になれない相手の話だけれど、彼女はコクリと小さく頷いた。

 美琴の隣から小さな溜め息が聞こえた。

 

 

 

 

 

 必ず引っ掛かる信号機で止まって通行可になるまで待つ。何となくボーっと出来るこの時間を使って、上条は買うべき物を頭の中で整理していく。一年中何処に居たとしても冷蔵庫の中身を推測(つまみ食いの事象込で)出来る様になった上条は、もはやメモすら必要としていない。

 ざっと整理を終えたところで信号が青に変わる。入念に安全確認し不安因子が完全に消え去ったのを確信してから、最大限の注意を払って渡り始める。

 

「そういやそろそろクリスマスだよなぁ。鳥とかケーキのことを考えとかないと」

「しかし、その様な高価なものを購入して大いに失敗してきたのでは、とミサカは至極真っ当な疑問をぶつけてみます」

「うおぉう!? み、御坂妹!? 一体いつから居たんだ……?」

「たった今、貴方が鳥とケーキのことを考え始めた時です、とミサカは端的に答えます」

 

 その突然登場スキルには少々驚かされたものの、別に悪人でもなく魔術師でもないために上条は特にそれ以上のリアクションはせず、ごく普通に接する。

 

「いや、上条さんの貧乏スキルを舐めてはいけないぞ御坂妹。クリスマスの為のやりくりは既に頭の中に叩き込んであるからな」

「冷や汗を掻きながら言う言葉ではないでしょう、とミサカは少々冷酷に突き放します。そもそも普段の貴方の嘆きを聞いていると、その様な計画が上手くいったことは無いように思えるのですが、とミサカは更なる追撃を加えていきます」

「う……その通りなのが辛い……」

 

 高校生が年下に容赦の無い言葉を浴びせられるの巻。世の中と理不尽は必要十分条件で、上条にはどうしようもないのが現実なのだ。一々へそを曲げてたら生きていけるはずがない。

 

「そうだ、今から買い物に行くんだけどさ、手伝ってくれないか?」

「こ、これは千載一遇のチャンスです、とミサカは鼻息を荒らげ貴方に着いて行くことを宣言します!!」

「き、急にどうしたんだ……?」

 

 

 

 

 

「へぇ~、良いですぇ……青春ですねぇ」

「さ、佐天さん……? そ、そんな目で見ないでくれると嬉しいかなぁ、何て思ったり……」

「良いじゃないですかぁ。だって、ねぇ?」

「御坂さんが恋してるって知っちゃいましたからねぇ」

「初春さんまで……」

 

 こちらもこちらで、後輩に退路を断たれているの巻。隣の白井に助けを求めようとも

何故かさっきから不貞腐れていてどうにもならない。やはり、世の中と理不尽は不可分なのだった。

 

「それはそうと、クリスマスのことですけど、どうしますか?」

「どうしましょうか。やっぱり、ケーキは要ると思うんですよ」

 

 二人の会話がすごく怪しい。話を戻したのにどうして顔が変わらないのか。

 分かる。分かっているのだ。この先で提示されることに自分は異論を示すことが出来ないのも、ズルズルと二人の思うがままにことが進むことも。

 分かっているのに、どうしようもないのだ。

 

「ところで、御坂さん!!」

「その、『ところで』にあまり良い雰囲気を感じなかったんだけど」

「それは置いときまして、御坂さん!!」

「……な、何かしりゃ?」

「噛みましたの」

「う、うるさい!!」

「御坂さん、呼びましょうよ!! あの方をクリスマスパーティに!!」

「良いぞよく言った初春!!」

 

 悲しいかな、幾らレベルが高かろうと、色んな人に慕われていようと彼女には何の解決手段も無かったのだ。

 今の気持ちを何と表そうか。そんなことは決まり切っていた。

 

「不幸だわ……」

 

 この二人にお酒は飲ませない。

 美琴は心に深く誓った。

 

 

 

 

 

「何だか人が少ないですね、とミサカは素直な感想を述べます」

「まぁ、まだピークの時間帯じゃないからな。他の学生は遊んでる時間だし」

「なるほど。貴方は混雑を回避するためにわざわざ買い物に来たのですね、とミサカは納得します」

「そうなるな。ま、上条さんには十分に遊ぶお金もないからな……はぁ」

「一人で言って一人で暗くなるのもどうかと思うのですが、とミサカはストレートにツッコミを入れてみます」

 

 昼過ぎて直ぐのスーパーには客がほとんど居なかった。弁当を買う社会人は昼前に殺到するために、自然と客層は学生に限られてくるものの、肝心の学生達は今頃ドヤ顔で遊んでいるのだろう。

 しかし、上条にはすべきことがある。そう、遊び等と言う愚かな行為に現を抜かし、生活の全てをささげる無様な行為を上条は絶対にしないのだ。

 そんな感じのことを御坂妹に伝えると、いつもの真顔で言われた。

 

「でも、強がりですよね、とミサカは確認を入れてみます」

「……はい、そうです」

 

 悲しいかな、事実を言われると辛いのだ。幾多の敵を説教と握り拳で切り抜けてきた上条だが、自分のことを言われると何も反論出来ない。

 

「そうだよ。上条さんだって遊ぶお金が欲しいようん……でも仕方ないんです、遊ぶと生きていけないから」

「たまには良いじゃないですか、とミサカは悪魔の囁きを仕掛けてみます」

「ぐ……上条さんは騙されないぞ」

 

 等と穏やかに会話を交わしたり、御坂妹が謎のお菓子類を籠に入れてくるのを阻止したりし、試食に異様に反応する御坂妹を食い止めたりしながら店内を一周したら目当ての物は一通り揃っていた。

 スーパーを出てもまだ昼下がり、折角なので上条は御坂妹に荷物持ちを手伝ってもらった。男として一瞬恥ずかしくなったのは別の話である。

 

「悪いな、こんなことにまで手伝わしちまって」

「いえ、構いませんよ、とミサカは大人の対応をしてみます。それに、もう少し話したいこともありましたから」

「話したいこと? 何だ?」

「……やっぱり止めます、とミサカは漫画で読んだ感じに焦らしていきます。貴方に伝える必要は特にありませんし」

「地味に上条さんは傷ついたからな」

「すみません。でも、やはり貴方には伝える必要はありません。だって、今は雪の季節の本番ですからね、とミサカは詩的に締め括ります」

 

 御坂妹は普段から無表情で、感情の変化を掴み辛い。けれど、今この瞬間のその瞳には明確に意思を感じ取られた。

 何か訴えかける様な視線の真意は理解出来ないものの、そこには強い意志があった。

 

 話は飛んでその夜のことである。寝る直前に美琴からメールでクリスマスの予定を聞かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃー、カミやんにクリスマスの予定を聞かれるとか思ってなかったぜい」

「ホントやねぇ。年から年中『出会いが欲しい』とか言ってる人とは思えんで」

「うるっせぇ。『そっちも友達を呼んで欲しい』って言われたからだって」

「しかし良かったのかー? 上条当麻に呼ばれたからとは言え、愚兄の付き添いで私まで付いて来てー」

「愚兄とは酷いにゃー!」

「あぁ、むしろ舞夏を一番歓迎したい位だぞ。御坂の方は女子しか居ないらしいからな。確か、舞夏って御坂の知り合いなんだろ?」

「まぁなー。じゃ、こっちのバカのセーフティとして活躍してやろー」

「ば、バカとは酷いにゃー……」

「ドンマイやで」

「青髪も含まれるだろ、バカの中に」

 

 ホワイトクリスマスとはよく言ったもので、確かに雪の降るクリスマスは気分を高揚させるものがある。そんな雪の舞う中でいつもの三バカに土御門元春の義妹、土御門舞夏を加えた一行は第七学区にある個室サロンへと足を運んでいた。ちなみに、インデックスは小萌先生やら姫神やらとお食事ツアーである。

 理由は先の会話で察したかもしれないが、上条が美琴に呼ばれたパーティに行く為である。美琴の配慮か、友達を呼んで良いとのことでバカ二人に伝えたら、飛び上がって喜んでいたり。

 普通に考えて美琴側の人達は女子が中心なんだから、この二人を連れて行くのは間違いだったかもしれないが、吹寄とかその辺を連れて来たらそれはそれで後悔するだろうとの苦渋の決断があったことは記憶に新しい。

 それを考えると、舞夏の存在がどれだけ神々しいか理解いただけるだろうか。

 そんな舞夏は今日、いつもの清掃ロボット搭乗と違い徒歩である。曰く、「雪道じゃアレは使えないからなー」とのことだ。

 

「ま、こいつらが何かしたら御坂にビリビリでも頼むか」

「電気プレイ!? マニアックやけどかまへんで!!」

「前言撤回、やっぱり俺が殴る」

 

 

 

 

 

「いやぁ、頑張って色々作っちゃいましたよ。なんてったって、御坂さんの一世一代の大勝負の舞台ですからね!! 胃袋を掴むための料理はこの佐天涙子にお任せ、みたいな?」

「佐天さんの料理で胃袋を掴むのは不味いんじゃないですか?」

「私の料理が不味いって!? こ、この初春め……スカート捲ってやる!!」

「そういう意味じゃ……ちょ、止めてくださいよ佐天さん!!」

「私より盛り上がってるわね……」

「お姉様は逆にテンション低くありませんの? どんな形であれ、本日は年に一度の記念日でしてよ? この白井黒子、お相手が誰であれ、お姉様で楽しむ気いっぱいですのに」

「何がお姉様『で』よ。せめて『と』にしなさいよね」

「あら、間違っていまして? 何にせよ、今日はあのお二人がお姉様の為を思ってこのような形にしましてよ? お姉様が楽しめなければ本日に意味は無い。せめて、テンションは高くしていただくべきですの」

 

 こちらは上条達が向かっている個室サロンの中。彼らが到着するまでの時間で、特に意味の無い談笑を交わしていた。

 一応、上条は上条で呼ばれた側として手料理やらは作って行くとは聞いていたのだが、張り切ってしまった佐天やら初春やらも色々作って来たこの現状、体重計と相談する未来が見えそうで少し不安な美琴であった。

 窓の外に降る雪をぼんやりと眺めながら、美琴はつい思考に耽る。

 そう、今日このパーティはクリスマスという名目のほかに目的がある。言うまでも無く、それは美琴とあのバカの間に何かしらの進展を生じさせるためだ。

 そのことを考えると、どうしても責任感と言うかそんな漠然とした何かが背中に張り付いているようで、少々気が重い。

 迷惑とは言わないが、これは一種の試練なのだろうか。

 ほんの少しメソメソする美琴であった。

 

「御坂さんがまた乙女の表情に……!?」

「へ、え!? な、ってないわよ!?」

「動揺してますわよ」

「隠さなくてもいいですよ。恥じることではないんですから」

「くぅ、優しさが心に刺さる……」

 

 

 

 

 

 約束の時間、指定された個室サロンに辿り着き、受付で事情を話すとすんなり部屋を教えてくれた。

 個室サロンとは便利な施設で、簡単に行ってしまえば『常識の範囲内で何でも出来る場所』である。常識の範囲内と言ったのはその通りで、犯罪的行為は行えないということである。それさえ守れば、基本的に借りた者の自由とされる。遊びの面で言うならば、据え置きのゲーム機を借りることも出来る上にカラオケも完備されていたりする。物資の持ち込みも基本的には自由であるためにトランプ等のカードゲームは当然として、上条達の様に飲食物の持ち込みも許容されている。ただし、ゴミは持ち帰らなければならないが。

 部屋の前に到着した上条一行は、マナーとしてノックをする。すると、中からはしゃいだ様な慌てた様な声が漏れたかと思うと、ガチャッとドアが開いた。

 

「あ、アンタ遅かったのね」

「遅いって……遅刻はしてないと思うが」

「おー、テンパってるな御坂ー」

「て、テンパってにゃいわよ!!」

「思いっきり噛んだぜよ」

「……とにかく、入りなさい。準備は終わってるから」

「あいよ。んじゃ、失礼するぞ」

 

 上条達が中に入ってみると、既にテーブルの上には美味しそうな手料理が並んでいた。余計だったかな、と少々申し訳なくなる上条だったが、

 

「あ、上条さんも手料理持って来ちゃいました?」

「あ、あぁ。一応、御坂には持って行くって伝えといたんだが」

「いやぁ、私も張り切って作って来ちゃいまして。あ、私は佐天涙子って言います。こっちは友達の初春です。初めまして、ですね!」

「初めまして、初春飾利と言います」

「あぁ、初めましてだな。ま、好きな呼び方で呼んでくれ。こっちの二人は変態だから近寄らない方がいいとして、この料理どうしたらいい?」

「とりあえずこっちに持ってきてください。何とかするので」

「あいよ。ま、余るならそれで大丈夫だからな」

「しかしカミやん。僕等を変態呼ばわりは許容出来んで?」

「青髪は事実だからにゃー。仕方ないぜい」

 

 佐天と会話している時の美琴の妙な視線には気付かずに、上条は自分の手料理を運んでいった。

 

 

 

 

 

 お互いの親睦を深めるための自己紹介。青髪が本格的に白井に尋問されかけるアクシデントはあったもの、無事に終了した。自己紹介なんだから、無事に終わらないと仕方ない。

 その後、佐天と初春が土御門と青髪を連れて据え置きのゲーム機を借りに行ったが、平等に楽しめそうなゲームソフトが無かったらしい。部屋にあるカラオケで楽しもうという運びになった。

 

「それじゃ、僕のアニソンフォルダが火を噴くで!!」

「やめろ青髪。お前のそれは悲しい未来しか待っていないぞ」

「大体、青髪ピアスの歌うアニソンは特殊過ぎるぜい。俺達身内で盛り上がるには構わんが、ネタが分からんとしらけるだけだぜい」

「じゃあ、私先に行っても良いですか?」

 

 割と積極的な佐天が立候補した。影で初春が小さく『変なのは止めてくださいよ』と言うのをスカートを襲うことで沈静化した佐天はノリノリで選曲した。

 

 普通に感動出来るラブソングだった。

 

 割とノリノリで歌い切った佐天は上条と美琴の様子をバレない様に確認しながら言った。

 

「どうでした、私の歌は?」

「やっぱり、佐天さん歌上手よね。聞き入っちゃったわ」

「そうだな。知らない曲だったけど、とても良かったよ」

「青髪の選曲とは月とスッポン位の差だにゃー。素晴らしかったぜい」

「何やって!? 良いで、僕だって歌えることを証明してやるわ!」

 

 青髪もヤケクソ気味に曲を選ぶ。上条と土御門が『絶対地雷だって』みたいな雰囲気を醸し出しているのを女子が流したりしていると、曲が流れ始めた。

 

 やはり、感動出来るラブソングだった。

 

「どうや!」

「上手くてムカつく」

「せめて下手ならフォロー出来るのににゃー」

「何でや……」

「でもまぁ、本当に歌は上手でしたよ!」

「確かに、これが五十回以上も職質されている人の歌とは思えない位上手でしたの」

「優しさが身に染みるで……」

 

 初春と白井のフォロー(無駄情報有り)により、涙を流す漢青髪ピアス。流石の女子達も少し引いていたのは青髪の心の健康の為に誰も伝えなかった。

 

「じゃあ、カミやん何か歌ってや」

「無茶ぶりすんなよ! 言われたからにはやるけど」

 

 さて、どうしたものかと上条は考える。

 

(ここは空気を読んでラブソング……だよなぁ。ただ、今のノリにあってるのはデュエットだし)

 

 別にデュエットは一人で歌っても問題は無い。ただ、息継ぎ的に無理があったり、虚しくなったりするので遠慮しておきたい。

 ならば、曲を知っていると確信の持てる青髪か土御門にデュエットを頼むか。

 

(ダメだ。気持ち悪い)

 

 女子の前で野郎のラブソングデュエットとかダメだろ。

 幸いなことに、その曲の知名度は低くない。上条は思い切って頼んでみる。

 

「なぁ御坂」

「なによ」

「この曲なんだけど、デュエット頼んでも良いか?」

「へぇ、何の曲なのかし……へ、え、ラブソングじゃないこれ!?」

「マズかったか?」

「い、いや、そんな訳じゃないわよ!? そんな訳じゃないけど、その……」

「なら私が歌うぞ御坂ー?」

「それはダメ!!」

 

 その美琴の反応に上条は単に疑問を浮かべるだけだった。他はと言えば単に二人を見詰めるだけで何もしない。

 不自然と言えば不自然なのだが、そんなことを気にする上条ではなかった。

 

「どうしたんだ御坂? 嫌なら別に止めるけど」

「う、歌ってやるわよ!! いくらでも、アンタが満足するまで歌ってやるわよ!!」

「お、おう」

 

 顔を紅くして噛み付く様に叫んできた美琴に更なる疑問を浮かべながら、上条は曲を入れた。

 その曲は、すれ違う二人の少年少女を描いた曲で、歌での物語の進展は何も無い。互いの心の中を不完全に描いた曲なのだ。何故かそれが中高生に人気なのだ。その中の一節を歌いながら、美琴はふと思う。

 

(『伝えたい思いも吐き出せずに消えていく』ねぇ……だったらさっさと吐き出せっつの。私に言えたことじゃないけど)

 

 自分も、この歌の中の少女の様に臆病で弱い存在なんだろう。

 そう思っても、飲み込み切れない自分が居る。幼い殻の中の、弱い自分を認めたくない自分。

 

(歌に学ばなくても、理解しているつもりなのになぁ)

 

 一生懸命歌うバカの横顔を、少しの間見詰めてみた。

 きっと、吐き出してしまえば伝えることは簡単なのだ。

 

 

 

 

 

 御飯食べて、カラオケで乾く喉にものを言わせて飲み物をがぶ飲みする。そうしたら、あるものに襲われる。女子の前で言ってはならないことに襲われる。

 女子の前で言えば、デリカシーの無い変態扱いされかねないので、上条は無言で部屋を出て行く。それはそれで怪しいが。

 つまり、用を足しに行くのだ。

 

「小便なら付き合うぜい」

「意味分かんねぇよ」

 

 部屋を出て、廊下の角を曲がったところで声を掛けられた。悪友の土御門はへらへら笑いながら上条の隣に並んで歩き、唐突に話を切り出してくる。

 

「なぁカミやん、恋って何だと思う?」

「何だよ唐突に」

「まぁ何だ。そんな気分になっちゃってにゃー」

 

 何かを悟った様な表情を浮かべる土御門は話を続ける。

 

「今までカミやんは色んな奴に出会ってきた。別に、良い奴ばかりではなかっただろうけどな」

「そうだけどさ。けど、それが急にどうしたんだ?」

「いつかはカミやんも一人を選ぶ。きっと、それは中途半端なもんじゃない」

「そりゃ、出会いがあればの話だぜ?」

「ま、そうだな。でも、傍から見たら分かるぜい?」

「何がだよ」

「後はあんまり言わないけどにゃー。一つ言うなら」

 

 もうすっかり土御門の仕事の声も聞かなくなった。それは、良いことであるのだろう。

 同級生の悪友は、いつもと変わらぬ声で言った。

 

「案外、その辺に転がってるもんだ。もしかしたら、既にカミやんの内側にあるかもしれないぜい」

 

 最後に、らしくないことを語っちまったにゃーと付け加えた土御門はさっさとトイレに入っていった。

 一人残された上条は、ぼんやりと考える。

 

(その辺、そして俺の中、か)

 

 一人だけで答えの出る問ではない。

 相手が居てこその問なのだから。

 

(何だかんだ、思うところがあるって言うのが……見抜かれてんのかなぁ)

 

 

 

 

 

 パーティは楽しい。だからって、現実は厳しい。

 

「白井さん、風紀委員から招集の連絡が来ました!!」

「本当ですの!?」

「嘘じゃないですよ!!」

「え、今日風紀委員の仕事あったの?」

「残念ながら、すっかり忘れてましたの。仕方ありませんわ。わたくしと初春はここにて早退ですの」

 

 青髪が心底残念そうな顔をしているのを女子達はスルーした。流石に仕事をサボるのはよろしくない。下手したら明日明後日が潰れてしまうからだ。

 いそいそと別れの仕度をする二人を、少し切なく見詰めながら、しかし諦めるしかないのが現実であった。

 

「そうだ、御坂さん」

「どうしたの、初春さん?」

「脈絡なく言いますが、挑戦無しに成功は有り得ませんよ」

「黒子からも一言。お姉様の幸せは、わたくしの幸せですのよ」

 

 突拍子も無い発言で、何の為に伝えてきたのか、普段の美琴ならうまく呑み込めずに忘れて行ったかもしれない。

 けれど、今なら理解出来た。

 分かっている。親友達が自分の何を望み、そしてどうあって欲しいか。

 その為に、このパーティは開かれたのだから。

 

「うん。私なりに、精一杯やってみる」

 

 ただそれだけ伝えると、二人は微笑みながらドアの向こうへと消えて行った。

 

 しばらくして謎の用事から帰って来た上条は白井と初春が居なくなったことに疑問を浮かべたが、事情を話すとすんなり理解した様だ。風紀委員も大変だなとか適当に思ってそうな上条であった。

 

「しかし、二人減っただけでも一気に静かになったもんだにゃー」

「皆キャラが濃いからなー。上下の差が激しいのだろー」

 

 改めて見回してみると、持ってきた飲食物は良い感じに減っている。時間もいつの間にか夕刻になっており、美琴はそろそろ寮の門限が気になって来る頃かもしれない。

 

「そろそ撤収の頃合いかもしれんねぇ」

「そうですね。それじゃあ、撤収の準備にしますか。あ、残り物どうします?」

「自分で作ってきたのは持って帰るよ。他のはどうする?」

「なら、私も自分のは持って帰ります」

「ゴミなら私が持って帰ってやろー」

「だったら、ゴミ私も手伝うわよ。舞夏だけに任せるのは気が引けるし」

「おー、助かるぞー」

 

 上条を除いた野郎二人が何もしていない気もするが、そんなことはどうでもいい。

 撤収の準備と言っても荷物を纏めるだけなので大した時間はかからない。大きめのビニール袋を手にした一行は部屋の電気を消して外へ出て行った。

 

「あー、部屋代って一人何円だっけ?」

「千円位だったぜい。集団割引入れると八百円前後だったかにゃー」

「思ったより安いんだな」

「まぁ確かに意外よね。カラオケよりも高くなりそうなのに」

 

 会計を終えて店を出る頃には、空は紅く染まりかけていた。今日の陽はもう少しで沈む。特別な一日も、また遠い未来へと変わっていく。

 そう考えると、少しばかり切ない。

 

 

 

 

 

 街灯も点き始める時間帯、上条と美琴は二人きりで歩いていた。

 何でも、『荷物は運んどいてやるから、カミやんはミコっちゃんを送って来ると良いぜい』とか何とか言われて、半ば強引に二人きりにされたのである。

 ポツリポツリと人影はあるものの、特に多い訳ではない。光を反射する雪の真ん中、二人しかそこに居ない様な、儚くも神秘的な帰り道。

 

「なぁ」

「何よ」

「今日、楽しかったな」

「そうね。すっごく楽しかった」

「そうか」

「うん」

 

 しかし会話が続かない。続けようと思っても、新しい言葉は意識の奥に飲まれていく。

 もどかしいから会話を続けたい訳ではない。寂しいから口を開きたい訳ではない。

 

(分かってるんだけどなぁ……)

 

 そんな単調で奥行きの無い理由ではないことは、二人とも分かっていた。

 

(行動するとなれば、話は別なのよね)

 

 このままだったら何も変わらない。

 でも、この微妙な関係をずっと続けていくのも、それはそれで良いことかもしれない。

 本当に、それで良いのだろうか?

 

「なぁ」

「ねぇ」

 

 思い切って吐き出した声は綺麗に重なった。思わず顔を紅くする二人。

 

「み、御坂先に言えよ」

「何よ、アンタが先に言えば良いじゃない」

「いや、御坂が……」

「アンタが先に言えば良いの!!」

「……はい」

 

 くだらない言い争いですら、どこか心地良いものに感じられた。

 でも、この安らぎに浸っていてはいけないのだろう。

 何も変わらないこと。それが、良いことと決めつける自分を破らなければならないのだろう。

 

「その、何だ。少し言い辛いんだけどよ」

「……勢いで言わなくても良いわよ。アンタのタイミングでお願い」

「いや、ハッキリ言うよ。言わないのはきっと俺らしくないからな」

「じゃあ、お願い」

「えっと、な……俺ってその、恋とか経験したことが無いんだよ。俺の記憶の範囲内では」

「アンタが記憶を失くしたって時から?」

「あぁ。だから、今の俺は少なくとも誰かの隣に立ち続けたいとか、そんなことを思ったことはない」

「……まぁ、必要以上に私情に首を突っ込んだりしてたけど」

「……ともかくだ。俺は、恋ってヤツがどんなのかを知らない」

「うん。つまり、何が言いたいのよ」

「えっと、あれだ。俺は御坂のことをどう思っているのかを自分でも理解出来ていない。と言うより、理解してこなかった」

「うぅん……もどかしいからハッキリ言いなさいよ!!」

「だから、今よりも少しだけでも良いから親しくなりたいって、そういうことだ」

 

 上条はぼんやりと空を見上げて言った。降る雪は少しだけ、街灯を反射して煌めく。

 それは何も変わっていない冬空の下、一歩踏み出そうとした彼なりの一言だ。

 

「……はぁ」

「な、何の溜め息だよ」

「別に、マイナスの意味じゃないわよ」

「……じゃあ、どういう」

「アンタがハッキリ言ってくれたから私も言わせてもらうわよ。アンタが好きだって」

「え、えぇ!?」

 

 そして、少し吹っ切れたように美琴も言う。それを口にするのに思ったほどの抵抗はなく、そして後悔するようなことも無かった。ただ、言葉にすることができた、という僅かな達成感だけ。

 相変わらず、吐く息は白くなる。

 

「……何よ、言ってしまえばこれだけなのね。それよりも、よ。アンタの中で私がどんな位置に立っているのか分からない。けれど、もし私の存在が大きいのならば、答えを考えて」

「答え……御坂が、俺が好きだっていうことの?」

「そそ。どれだけ未来でも、イエスでもノーでも構わない。だから、いつか答えてほしい」

「……分かった。約束しよう」

「ありがと。だから、それまでの間、今よりずっと近くに居てあげる」

「ありがとな、御坂」

「えぇ。どういたしまして」

 

 それは、ささやかな冬の会話だった。

 雪はまだ、辺りで光っている。

 

 

 

 

 

「で、どうでした御坂さん達は!?」

「ええ雰囲気だったで。爆発推奨やな」

「しっかし、あの二人も鈍感だにゃー」

「実は、佐天さんが最初に歌ったりしてたあの時から色々仕組んでましたからね」

「言い方は悪いですけど、事実ですものね」

「ま、思惑通り、進歩があって良かったじゃないかー」

 

 

 

 

 

 誰の思い通りになったのか、そんなことは分からない。

 でも、それで良い。

 小さな幸せが光を見せたのは、確かな真実なのだから。




読んでくださいありがとうございました!!

時系列の話ですが、この話と前作『ハッピーバースデー』では上条さんは高校二年生。つまり原作の一年後となります。







後半グダってるとか言っちゃダメ。


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