【完結】僕はドラコ・マルフォイ   作:冬月之雪猫

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第九話「オクラホマミキサー」

 歓声が響き渡る。『三大魔法学校対抗試合』の第一試合の内容はドラゴンから卵を奪取する事。クラムは結膜炎の呪いで見事にドラゴンを打ち破った。フラーは魅惑の呪文でドラゴンを眠らせたが、炎で服の一部を焼かれてしまった。セドリックは少し変わった手段を取り、岩を変身させた犬でドラゴンを撹乱して卵を奪った。

 そして、いよいよ最後の代表選手が登場する。全員が固唾をのむ。闇祓い達は最悪の事態に備えて臨戦態勢を整えている。

 生き残った男の子。箒乗りの名手。スリザリンの名シーカー。既に多くの二つ名で呼ばれている彼に今年、新たな名が追加された。

『選ばれる筈のない第四の代表選手』

 彼にとっての敵はドラゴンだけではない。何者かが彼を代表選手の座に押し上げた。その目的が善意のものであるとは誰も考えていない。

 明らかに罠だ。数ヶ月前、クィディッチ・ワールドカップで猟奇殺人を行った死喰い人。その仲間かあるいは……。

 闇祓い局局長補佐官という長い肩書きを持つ男、ガウェイン・ロバーズは険しい表情を浮かべながら敵の存在を探し続けていた。

「ああ、ハリー。なんと勇敢な姿だ……」

 隣で感動の涙を流しているハリーの名付け親を小突く。

「おい、ブラック! 試合に集中するな!」

「そ、そうは言うが……っと、おお! あ、危なかった!! ハリー!! 頑張れー!!」

「……親馬鹿め」

 義子の活躍に一喜一憂するシリウス・ブラックにガウェインは溜息を零す。

 十年以上も冤罪でアズカバンに入れられていた男。半年程前に晴れて無罪が証明され、親友の息子と養子縁組を結び、漸く輝かしい未来へ歩き始めたばかり。

 はしゃぐなと言うのはあまりにも酷だ。

 だが、今だけは心を鬼にしなくてはいけない。

 闇祓い局は陣営を二つに分けた。一方がハリーを守り、もう一方がイギリスを守る。

 その為にシリウス以外にも引退した者や信頼のおける協力者を総動員してメンバーを配分した。

 おかげで人数が大幅に拡充出来たが、やはりイギリスの国土全体を監視するには人手が掛かる。

 ハリーの守護に動員出来た者はわずか六名。ダンブルドアを始めとしたホグワーツの教師陣を含めれば少しはマシになるが一人足りとも遊ばせておく余裕など無い。

「お前の息子の命が掛かっているのだぞ!」

 その言葉にシリウスはハッとした表情を浮かべ、名残惜しそうにハリーを一瞥した後、敵の捜索を再開した。

「……すまん」

「いや、こちらこそすまなかった。どうかしていた……。ハリーの命が掛かっているのだ」

 獰猛な目つきで観客席を見回すシリウス。彼を監獄送りにしてしまった責任は闇祓い局にもある。

 彼の為にもハリーを絶対に守り切らねばならない。ガウェインは決意を新たにした。

 

 

 結局、クラウチは第一の試練で何もちょっかいを掛けて来なかった。

 ハリーは誕生日にシリウスが大枚を叩いて購入したファイア・ボルトを使い、見事ドラゴンを出し抜いてみせた。

 流れは物語と同じ。だからこそ、不安になる。第二、第三の試練の内容も分かっているから、アドバイスは簡単だ。

 だけど、クラウチの目論見が物語通りだとしたら、第三……つまり、最後の試練でハリーに勝利されると非常に不味い。 

「……いや、第二の試練も油断は出来ないか」

 何しろ、水中を舞台にした試合になる。ハリーを殺そうと思えば幾らでも方法が浮かぶ。

 どうしたものか……。

 悩んでいると、肩をポンと叩かれた。振り向くとハリーがダンと腕を組んでブイサインをして来た。

「その様子だと、オーケーをもらえたみたいだね」

 二人は迫るクリスマスのダンスパーティーに向けてパートナー探しに出掛けていたのだ。

 相手はハーマイオニーとルーナ。

 アンにはノットの心を繋いでおく為に彼と踊るよう命じてあるし、アメリアはエドをパートナーにしている。

 他にもスリザリンには女性がたくさんいるけど、二人にとって、フリッカ達の次に親しい女性はハーマイオニー達という事になるらしい。

 恋愛感情があるのか聞いてみたけど、二人は真っ赤な顔をしながら否定した。

 あの反応から察するに友情以上のものを感じてはいるけど、恋愛感情には至らないという実に甘酸っぱいものなのだろう。

 要するに、そういう方面では二人ともまだまだ子供という事だ。

 意外だったのはハリーがルーナを誘い、ダンがハーマイオニーを誘った事だ。逆だと思い込んでいた。

 どうやら、ダンがハーマイオニーをいたく気に入ったらしい。

「ダン・スターク!!」

 三人で会話に花を咲かせていると、急に怒声が飛んで来た。

 何事かと振り向けば、そこにはビクトール・クラムの姿。怒り心頭といった様子でズカズカとこっちにやって来る。

「どうしたんだい?」

 僕達がいるのは大広間。当然、他の生徒達も大勢いる。皆もびっくりした顔をしてこっちを見ている。

「ヴォ、ヴぉくと勝負しろ!!」

 訛りの酷い英語を解読すると、要するにこうだ。

『ハーマイオニーをダンスパーティーに誘ったら、先に君から誘いを受けて了承したと言われた。納得出来ないから決闘しろ!!』

 との事だ。

 アホらしい。

「先に彼女を誘ったのは俺だ!! お前が遅かったのが悪いんだよ、ノロマ!!」

「な、なんだと!? ヴォくは彼女に贈り物を見繕っていたんだ!!」

「はん! そんな小細工をしないと女一人も口説けないようならやめとけ! 彼女のハートを射止めるのは俺に任せな、トロール野郎!」

 ちなみに、このおもしろおかしい事態を当の本人であるハーマイオニーも入り口でルーナと聞いていた。

 おお、顔がみるみる真っ赤になっていく。

 あ、倒れた。

「とりあえず、ストップ。君達のアイドルがあそこで気絶してるよ」

 僕が言うと、二人はこの世の終わりかのような顔でハーマイオニーに向かって駆け出していく。

 二人共巨体だ。二人共強面だ。足跡はタッタッタ、じゃなくて、ドスドスドスだ。

「ハーマイオニィィィィ!!!!」

「ヴォォクのハームォウンニニー!!!」

「誰がテメェのだぁぁぁぁ!!!」

 周囲から『猪に好かれるビーバー』とか、『トロールにチヤホヤされていい気なものね!』とか、散々な嫌味が聞こえる。

「……青春してるね」

 ハリーが変な事を言う。

「青春……、かなぁ?」

 マッスル二人に担がれて保健室に運ばれていく様はまるで……いや、止めておこう。

「とりあえず、僕達も見舞いに行こうか。心配は欠片も要らないと思うけど……」

「っていうか、行ったら邪魔にならない?」

「程々に邪魔しておかないとハーマイオニーの身が危ないと思う」

「……同感」

 僕はハリーと一緒に保健室に向かって歩き出した。途中、大広間の入り口で放心状態になっているルーナに声を掛けると、

「ハーミィがゴリラに誘拐された!!」

 言っちゃったよ、この娘。

「っていうか、ハーミィって?」

「ハーマイオニーの事だよ。可愛いでしょ?」

「……うん。これからは僕達もそう呼ぶよ」

 とりあえず、三人で保健室に向かった。

 

 保健室では実に醜い争いが巻き起こっていた。

 本人の目の前で如何に自分が彼女を愛しているか熱弁している。

 どうやら起きているらしいハーマイオニーが顔を真っ赤に染め上げ、涙を浮かべてこっちに応援を求めている。

「ハーミィは俺が分からない所を丁寧に教えてくれた!! こんなに根っから優しい女は初めて見た!!」

「図書館で見た彼女の可憐な姿!! まるで一枚の宗教画のようだった!! こんなにうづくしいヒトを他に見た事がない!!」

 どうしよう……、非常に面白い。

「と、止めるべきなのかな……」

「私、こんなに楽しい光景、止めたくないよ」

「ああ、同感だ」

 ハーマイオニーが涙目のまま怒り顔になるが、この光景は些か面白過ぎる。

「彼女の為に俺は歌を作るぞ!!」

「ならば、ヴォくは詩を謳おう!!」

「俺はロンドンの広場のど真ん中でだって歌えるぞ!!」

「ヴォくは魔法省のど真ん中で!!」

 ヒートアップしていくゴリラ達。

「なんだか楽しそうだね!!」

 ルーナがウキウキした顔をしている。

「な、何故か参加したくなるね」

 ハリーが世迷い言を言い出した。

「やーめーてー!! お願いだからやーめーてー!! 恥ずかしくて死ぬ!! 死んじゃうから!!」

 ハーマイオニーが羞恥心で死にそうになっている。

 断腸の思いだが……、そろそろ止めるか。

 二匹に声を掛けようとしたその時……、

「あなた達!!」

 マダム・ポンフリーが仁王のような顔で登場した。

 雷鳴が轟く。

「騒ぐのなら出て行きなさい!! ここはオペラの舞台ではなく、医務室です!!」

 追い出された。

「貴様のせいだぞ!!」

「お前のせいだ!!」

 二人はバトル再開。そこに部屋からヌッと顔を出す般若。

「どうやらホグワーツから追い出されたいようね」

「滅相も御座いません!!」

 僕達の声が一言一句違わず重なった。全員が走る。息が切れるまで走り続ける。

 そして、

「ハーミィはヴォくのものだぁぁぁ!!」

「俺のだぁぁぁぁ!!」

 見た目だけじゃない。彼等は頭もゴリラのようだ。

「やれやれ!!」

 ルーナは実に楽しそうだ。

「あはは。負けるなー、ダン!」

 ハリーは煽りだした。

「……よし、頑張れ二人共!」

 なんだか僕まで楽しくなってしまった。

 そこに、

「あなた達……」

 マクゴナガル教諭が阿修羅のような表情を浮かべて現れた。


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