【完結】僕はドラコ・マルフォイ   作:冬月之雪猫

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第八話「魔王」

 ダンブルドアとコーネリウス・ファッジを殺し、魔法省を支配下に置いた。順調だ……、極めて!

 だが、問題はここからだ。一先ず、ヤックスリーに命じて、洗脳済みの魔法法執行部部長パイアス・シックネスを魔法省大臣の座に据えた。

 革命とは、既存の権力を打ち倒して終わりではない。打ち倒した後に新しく、恒久的な『世界』を作る事こそが革命なのだ。

 だが、新世界の創造には幾つもの難題を乗り越える必要がある。その一つが過去の権力への信奉者だ。

 ファッジはどうでもいい。問題はアルバス・ダンブルドアだ。死して尚、人々の心のなかに根付く、その英名が私の覇道を阻害する。

 マグルをまるで親しい友人のように語る『嘘つき共』。奴等の心を折る事は容易ではない。やはり、決定的なものを見せる他あるまい。

「スネイプ」

 私はダンブルドアをその手に掛けた男に微笑みかけた。拷問では口を割らなかったが、薬の魔力には敵わなかった哀れな男。

 ダンブルドアもよほど焦っていたのだろう。

 あの場でわざわざ自らを殺す役目をスネイプに割り振った事、このヴォルデモート卿が不審に思わないとでも考えたのだろうか? 

 真実薬によって齎された情報は実に有益なものだった。

「まずは貴様の真実を人々に語ってやろう。嬉しいだろう? お前を罪人だと信じる者達を驚かせてやるのだ」

 虚ろな顔。体は生きていても、心は既に壊れ切っている。今頃、愛しい女との妄想の世界を楽しんでいる事だろう。

「哀れな男よ。お前ほどの道化を私は知らない。だからこそ、これは慈悲と思え」

 男から取り上げた『最強の杖』を持ち上げながら、私は言った。

「私を裏切り、討ち倒す為に偽善を振り翳す老獪に忠誠を誓った半生を……私は許そう」

 

◇◇

 

 1995年8月21日――――。

 その日の日刊預言者新聞が報じたニュースに魔法界は再び揺れた。

 二ヶ月ほど前、アルバス・ダンブルドアを殺害し、死喰い人である事を表明したセブルス・スネイプの処刑日が告知されたのだ。

 一面を飾る青白い肌の男。彼の半生が記事に載せられている。

 赤裸々にされたスネイプ氏のプロフィールには彼が如何に哀れで、純朴で、愚かで、一途な人物であったかが事細やかに記されていた。

 誰もがヴォルデモートの腹心だと信じていた男の真実。愛した女性の息子を守る為に、その身命をダンブルドアに捧げていた事を知った者達は等しく衝撃を受けた。

 

 翌日、アルバス・ダンブルドアの真実と銘打たれた記事が一面を飾る。

 そこには善の体現者として知られていた彼の隠された過去が記されていた。

 大罪人ゲラート・グリンデルバルドとの秘密の関係が明らかとなり、更に彼の妹に纏わる醜聞が知れ渡った。

 

 人の心とは移ろいやすいもの。

 如何に絶対と信じるものがあっても、そこに僅かな罅が入れば一気に崩壊していく。

 瞬く間にダンブルドアの名は力を失っていった。

 

 そして、一週間が過ぎ、ホグワーツの再開が報じられた。

 二ヶ月前の事件から、生徒達は誰一人、家に帰っていない。

 最悪の事態を予期していた保護者達は一面に掲載された子供達の写真の中から自分達の子供の顔を血眼になって探した。

 

 その頃、ホグワーツでは生徒達が軟禁状態で過ごしていた。

 反抗する教師達は軒並み服従の呪文を掛けられ、生徒達には死喰い人による授業の受講が義務付けられている。

 純血主義の歴史。闇の魔術。マグルの愚かさ。

 その教えに反抗する生徒は徹底的に痛めつけられた。

 何度か学園に乗り込んで来た保護者の内、マグルと交わった者やマグルを賛美する者の前にはその生徒の生首が返還され、その保護者の遺体も家族のもとに花を添えられて送られた。

 同じ寮の生徒がアッサリと殺され、反抗すれば苛烈な拷問を受ける日々。

 中には精神に異常をきたす者も現れ始めている。

 校内では純血主義が正義となり、マグル生まれやマグルを賛美する者は攻撃の対象となった。

 窮屈な日々、恐怖の日々に対するストレスの捌け口として暴行を受ける生徒は助けを求めた教師(死喰い人)によって処罰される。

 そのあまりにも捻れ狂った倫理の中で子供達は歪んでいく。

 

 そして、その状況の中で一つの群体が蠢く。

 

 9月1日――――。

 ハリー・ポッターとドラコ・マルフォイはキングス・クロス駅からホグワーツに向かった。

 他に誰も乗客の居ない空っぽの汽車の中で二人は呑気に笑い合う。

 二人が到着した時、空はすっかり暗くなっていた。

 湖にはダームストラング専門学校の船が変わらず停泊している。禁じられた森の方角にはボーバトン魔法アカデミーの馬車もある事だろう。

 両校の生徒も家に帰れぬ日々を過ごしている。

 二人を出迎えたのはドラコの父、ルシウスだった。二人の無事を確かめ、安堵した直後、帝王の機嫌を損ねた事について叱責した彼は二人を力強く抱き締めた。

 彼に付き添われ、ホグワーツの門を潜り、大広間に入ると、その中央に奇妙な舞台が用意されていた。

「……誰の趣味だ?」

 ドラコは思わずそう零した。

 その舞台には中世で活躍した処刑器具の一つ、『鉄の処女』が置かれていた。

「……おお、よく戻って来た。お前たちの無事な姿を見て、ホッとしているぞ」

 その舞台の先、壇上には一人の男が立っていた。

 蛇のようなのっぺりとした顔。二人はハッと表情を固くした。

「直接会うのはこれが初めてだな。私がヴォルデモート卿だ」


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