【完結】僕はドラコ・マルフォイ   作:冬月之雪猫

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第十話「魔帝」

 人は裏切る生き物だ。

 どんなに口で愛を語っていても、心が清らかでも、簡単に裏切る。

 それが僕の一度目の人生で得た結論。二度目の人生でも、結論は変わらない。

 秘密の部屋で何度も試した。

 愛とは装飾だ。利害の一致した者同士の関係を清らかなイメージで飾り立てる為の言葉。

 

 ヴォルデモートの作り上げた体制は完璧だ。彼自身が表舞台に出る事なく、全てが回るように出来ている。

 僕達は服従の呪文で従えた死喰い人達を使い、その体制を維持した。

 一方で、不死鳥の騎士団に死喰い人の情報を与えている。残忍なだけの者、下手に賢い者を彼等に始末させる為だ。

 役目を終えるまでは生かしておく。その後は……、態度次第かな。

「ドラコ! スクリムジョールを私のパパが捕まえたよ! どうする?」

 明るい笑顔でアメリアが言った。

 

 彼女の両親は不死鳥の騎士団に参加する程勇猛な性格ではないが、マグル生まれに対する差別の横行に難色を示すタイプだった。

 祖父の影響で純血主義に染まった彼女を両親は良く思わず、彼女も両親を軽蔑した。ある日、その溝が決定的な亀裂となり、彼女は家を飛び出した。

 当時、僕は彼女の家にいた。茶会の席で彼女に誘われたのだ。ところが、マルフォイ家の長男を連れ込んだ事に彼女の両親は激怒した。

『自分達はマグル生まれを差別するべきじゃないとか言っておいて、マルフォイ家だからって理由で差別するお前達は何なんだ!?』

 その言葉が致命的だった。どちらも苛烈な性格である事が禍し、決して言ってはいけない類の言葉を互いに何度も浴びせかけた。

 結果として、彼女を僕の家で匿う事になり、手駒が欲しかった僕は彼女にとても優しく接した。

 掲げる主張の違いから、両親と上手くいかず、愛情に飢えていた彼女の忠誠を手に入れる事は容易かった。

 

 幼い少女に金だけを握らせて放逐した人間が差別の反対を訴え、多くの支持を得る姿は見事というほかない。

 おかげでスクリムジョールの捕獲が容易だった。

「ありがとう、アメリア。彼と会わせてほしい」

「うん! あ、あとさ! もう、パパとママを殺していい?」

「いいよ。待たせて悪かったね。玩具は足りてる?」

「十分! ふっふっふ、この日の為に鍛え上げた治癒魔術の腕が鳴るわ!」

 楽しそうでなによりだ。

「ハサミで指を一本ずつ切り取って、それをママに食べさせるの! うーん、楽しみ!」

「眼球と耳は最後にしておきなよ? 楽しみが減る」

「わかってるって! ささ、スクリムジョールはコッチよ!」

 彼女に導かれて向かった先には裸で縛り上げられているスクリムジョールの姿があった。

 物語中でロックハートがハリーに施した治療もどきを真似て、彼の両腕と両足から骨を抜き取ってある。

 もはや、自分の力だけでは身動き一つ取れない無様な姿。

「久しぶりですね」

「……そうだな」

 この状況に驚いた素振りを見せない。鋭い眼光を向けながら、彼は言った。

「……殺せ」

「アッサリしてるね。命乞いでもすればいいのに」

「殺せ」

 取り付く島もない。

「お断りします。あなたには色々と――――」

「そうか、ならいい」

 そう言って、スクリムジョールは舌を噛み切った。

「無駄な事を……」

 治癒呪文を施す。

「自殺なんて、させると思いました?」

「……この人非人が」

「そう嫌わないで下さい」

 微笑みながら、彼の肌を撫でる。

「あなたは珍しい人だ。自他共厳格な態度を貫き、自らの信念を曲げない」

 その心を穢したい。

「アメリア。後で御褒美をあげるよ」

「ほんと!? やったー! じゃあ、私はパパとママで遊んでくるね!」

 陽気な笑顔で走り去る彼女を見て、スクリムジョールは苦い表情を浮かべた。

「狂っている……」

「そう思います?」

「あれで狂っていないとでも言うつもりか?」

「ええ、彼女は狂ってなんかいませんよ」

「……何故だ?」

 スクリムジョールは哀しそうに瞼を細める。

「何故、お前達は……」

「それをあなたが気にする必要はありません」

 僕は部屋の隅に置いてある箱を杖で呼び寄せた。

 蓋を開けると、そこには工具が並んでいる。

「……ルーファス」

 その中からハサミを取り出す。

 まずは親指からパッチン。

「グァァァッ!?」

 人差し指をパッチン。

「アァァァァァァァ!!」

 中指をパッチン。薬指をパッチン。小指をパッチン。

 両手両足の指が無くなる頃にはルーファスの喉が嗄れていた。

 痛みに喘ぐ姿は実に扇情的だ。だけど、まだまだ序の口。

 杖を傷口に向け、治癒呪文を掛ける。

 日記のヴォルデモートの魂を取り込んだ要領で、マダム・ポンフリーの魂を取り込み得た力だ。

 彼女の知識は素晴らしい。指を生やす事などお茶の子さいさいだ。

「な、なんだ、これは!?」

 その異様な光景にルーファスは悲鳴をあげる。

 ああ、素晴らしい。頑強な肉体と卓越した精神を持つ大人の男が幼子のように泣き喚く姿は最高だ。

 僕は何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も彼の指を生え変わらせた。

「やめ……やめてくださぃ。な、なんでもするから……もう、もぅ、やめてください」

「駄目だよ、ルーファス。そんなに簡単に折れたら、闇祓い局局長の肩書きが泣いてしまうよ? さあ、もっと続けよう」

 彼の眼球を潰す。マダム・ポンフリーの知識があれば眼球すら蘇る。

 だから、潰した目玉を食べさせても問題ない。

「ぃぁだ。もぅ、ぃあぁだぁぁあ」

「ああ、ルーファス。次は舌を切り取ろう。君の舌を何枚も重ねて首飾りを作ってあげる」

「ぁめて……。いあぁぁぁだぁぁぁぁぁ」

 僕は時間を忘れて楽しんだ。

 手足をもぎ、眼球を繰り抜き、その様を写真に撮ってから元に戻す。

 戻す時の絶叫は何度聞いても心地よい。

 ダルマ状態の自分の姿を写真で見た時の彼の顔は傑作だった。

「ころして……。おねがぃします、ころしてくらさぃ」

 呪文で正気を保たせていたけど、そろそろ頃合いかな。

「殺さないよ。ただ、君に刻印を刻むだけだ」

 エドがデザインした僕の印。腹を切り開き、その内側に刻む。

 今まで以上の悲鳴が轟いた。

「この刻印はいつでも君に痛みを思い出させる。試してみよう」

 僕は腕に刻んだ印をなでる。すると、ルーファスは悶え苦しみ始めた。

 今、彼の中で記憶のフラッシュバックが起きている。痛みすら再現する鮮明なものだ。

 これが刻印に込めた呪いの一つ。これを僕に従う者達や従わせた者達に刻んである。誰も僕を裏切る事が出来ないように……。

「君の痛みは刻印を通じて他の者の脳でも再現する事が出来る。ルーファス・スクリムジョールさえ屈服する痛みだ」

 いずれ、僕に従っている者達の心にも魔が差す時が来るだろう。その時こそ、ルーファスの記憶は役に立つ。

「君を死なせはしないよ。大切にしてあげる」

 涙を浮かべる彼に微笑みかけると、誰かが扉をノックした。

「どうぞ」

「入るよ」

 顔を見せたのはハリーだった。

「どうしたの?」

「とうとう、君の仕掛けた火種が本格的に燃え始めたみたいだよ」

 そう言って、彼は一枚の新聞を渡して来た。

 そこには杖を使って魔法を使う男の写真が掲載されている。魔法界の新聞ではなく、マグルの世界の新聞の一面に。

「いいねぇ。さて、それじゃあ……いよいよ、戦争を始めようか」


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