【完結】僕はドラコ・マルフォイ   作:冬月之雪猫

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第二話「クルセイダーズ・Ⅱ」

 世界は変わった。

 真実を知らない者達はヴォルデモートに憎しみと恐怖を抱きながら大きな波のうねりに身を任せている。

 真実を知る者は自らを特別な存在だと錯覚し、その地位に酔い痴れている。

 だが、いつの時代も運命に抗う者が現れる。

 

 嘗て、ドラコ・マルフォイは言った。

『万人が美しいと称する芸術を貶す者、万人が偉大だと褒め称える者を糾弾する者、万人が美味だと感じる食事を唾棄するもの。アンチテーゼを掲げる人間はどんな世界にも少なからず居る』

 それは時代や運命であっても同じ事。

 集合意識に依らず、個人の意識によって違和感を見出す者。

 時にそうした者は既成概念を打ち崩す『革命家』となる。

 時にそうした者は邪悪を討ち倒す『英雄』となる。

 

 ◆

 

 吐き気がする。どうして、こいつらは笑っていられるのかしら。

 ついさっきまで、地下で何をしていたか私が知らないとでも思っているの?

「あら、そうなの! 凄いわね!」

 なんで、私はこいつらに愛想を振り撒いているの?

 友達が辱められて、傷つけられて、殺されていく。目の前の化け物共の手で……。

 どうして、彼等の手を振り払えないの?

 どうして?

「……ごめんなさい。気分が悪くなっちゃった」

 間違っている事を間違っていると言えない。こんな世界でいいわけない。

 分かっている癖に、どうして私は流されるままでいるの?

「吐き気がするわ……」

 私自身に……。

 

「おい、大丈夫か?」

 昨夜は早い時間に寝てしまったから、夜も明けきらない時間に起きてしまった。

 談話室でのんびりしていると、不意に男の人の声がした。

 振り向くと、一つ上の兄が立っていた。

「大丈夫よ」

 ロンは今の状況をどう思っているのかな?

 彼が地下に向かったという話は聞かない。だけど、それは私が彼の妹だから、みんなが気を使った可能性もある。

 実の兄が欲望を満たす為に無抵抗の人間を虐げている話など誰も聞きたくない。

「ねえ、ロン」

 この兄は他の兄よりもずっと流されやすい性格をしている。

 確固たるものがない。だから、地下に行っていると言われても驚けない。

「地下の様子はどうだった?」

「地下? ……僕、行ってない」

 ムッとした表情でロンは言った。

 私は思わず彼の顔をまじまじと見てしまった。

 嘘を吐いていない事はすぐに分かる。伊達に長年、彼の妹をしていない。

「ロン!」

 気付けば抱きついていた。

「ジ、ジニー!? どうしたの!?」

「ロン! ああ、あなたを疑った私を許してちょうだい!」

 彼は地下と聞いて嫌悪感を露わにした。彼は地下の事に怒りを覚えている。

 その事が嬉しくてたまらない。

「……ジニー?」

 この世界は狂ってる。

 悪事が罷り通って当たり前なんて、間違ってる。

「泣いてるの? ……えっと、よしよし。大丈夫だぞ! 兄ちゃんがついてるからな!」

 いつもなら恥ずかしいから止めてって怒鳴りつけるところだけど、今日だけは甘えよう。

「……お兄ちゃん」

「ジニー。本当にどうしたんだい?」

「狂ってるわ……。みんな、狂ってる……」

「……うん」

 私はお兄ちゃんの胸の中で幼い頃に戻ったみたいにわんわんと泣いた。

 太陽が昇り、みんなが目を覚ますまで、そのぬくもりに包まれて、久しぶりに安心した。

 

 ◆

 

 全てが後手に回った。魔法省が完全に死喰い人の手に渡り、闇祓い局や不死鳥の騎士団も壊滅状態だ。

 もはや、誰が敵で誰が味方かも分からない。

 ドラコ・マルフォイの言葉が脳裏に浮かぶ。

「盤面の上に立つ資格の持ち主はアルバス・ダンブルドアのみ……、か」

 その通りだ。もし、ダンブルドアが生きていたら、彼の事だけは信じられた。

 彼の下に集う者も信じる事が出来た。

 何があっても失ってはいけない人だった。

「……俺達の敗北だな」

 あの小僧にまんまと嵌められた。気付いた時には遅過ぎた……。

 奴はヴォルデモートと組んでいる。恐らく、ハリー・ポッターも。

 信じてはいけない相手だと分かっていたのに、気付けばヤツの言うとおりに行動していた。

「笑うしかねぇな……」

 魔法界は徐々に追い詰められている。

 マグルが魔女狩りを始めた。俺は止めたのに、ガウェインのヤツがスクイブやマグル生まれの連中の住処の情報を流しちまったせいで、被害は甚大だ。

 あの頃、既にガウェインは操られていたのかもしれないな……。

「ッハハ、疑心暗鬼ってヤツか」

 何も信じられない。このダリウス・プラウドフットともあろう者が、思春期のガキがほざきそうな言葉をほざきたくなってやがる。

「……ダンブルドアか」

 確か、彼には弟がいた筈だ。名前は確か……、

 

 ◆◇

 

「ドラコ……。これがあなたの本当の望みなの?」

 少女は一人呟く。

「戦争を引き起こして、本当にみんながあなたを愛してくれると思っているの?」

 少女は涙を零す。

「ねぇ、ドラコ……。そんなに顔も知らない人からの愛が大切なの?」

 少女は嗚咽をもらす。

「ドラコ……。私はこんなにあなたを愛しているのに……」

 少女は嗤った。

 

 ◇

 

 一人の哀れな少年がいた。彼は本に囲まれながら育ち、本を通して世界を見続けた。

 誰からも愛される事のなかった子供。心を与えられなかった子供。

 この世界の誰も、彼に悪意を向けなかった。

 父と母は惜しみない愛情を注ぎ、友は友情を示し続けてきた。

 誰も彼を裏切ってなどいない。

 その事に彼は気づかない。気付けないまま、悪魔になった。

 

 後に『とある男』が彼をこう評する。

『彼は良心を持たない。

 彼は他者と共感しない。

 彼は平然と真実を隠す。

 彼は自らの行動に責任を持たない。

 彼は罪悪感を持たない。

 彼は自尊心が高く、どこまでも自己中心的だ。

 

 だけど、彼は魅力的に見えてしまう。それが何よりも恐ろしい』


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