Mobが心を持った時   作:泥人形

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SAO原作で味方じゃないモンスターが主役のってないよなぁって思い付きから生まれた。
ちょっとした息抜きです、はい。


コボルドの場合

吾輩はコボルドである。名前はまだない、というか固有名称持つ者などほとんどいない。

 

吾輩のレベルは2、俗に言う『迷宮』に住んでおり、やってくる戦士たちと戦い、殺され、そして数分後には復活する毎日である。

 

殺される度に経験値を持ってかれるのでレベルが上がらなくて泣きたい今日この頃である。

 

と、ここまで自己紹介をしてみたがやはり吾輩はおかしいようだ。

 

本来我々モンスターは心を持たず、自我を持たず、本能的に戦士たちに襲い掛かるのだが、何の因果か吾輩には自我が生まれた。

 

これは異常である。自分で自分のことをそういうのもおかしいが実際異常なのだから仕方がない。

 

どうしてこうなったのか、見当もつかない…という訳でもない。

 

それは、数十分前の出来事だ。

 

 

 

いつも通り何も考えずに迷宮を徘徊していたところ、キラキラとした装備を付けた戦士―戦士たちはプレイヤーと言っていたか―を見つけ、戦闘を開始した。

 

その戦いはいつものような圧倒的虐殺ではなく、それこそ泥臭い、ギリギリの戦いであった。

 

吾輩が刃こぼれしている剣を振るい、戦士はそれを手に握る剣で迎撃する。

 

何度も、何度も何度も我々の剣は交差し、その度に発する音がその場を響かせ、火花がその場を熱く照らす。

 

互いのHPも似たり寄ったりなもので、既にどちらも三割を切っていた。

 

戦士が白く輝く剣を真紅に光らせ剣を振るう。

 

それを運よく避けれた吾輩は剣を向け一気に飛び込む。

 

剣の切っ先が戦士の腹に直撃しHPを少しだけ減らす。

 

戦士は反動で体を後ろにやったと思うと、またもや振られた剣が吾輩の右肩に直撃する。

 

吾輩のHPも目に見えるように減った。

 

その後も一進一退と言ったような攻防が繰り広げられる。

 

いつしか戦士も吾輩も口を開き、顔を大きく歪ませていた。

 

どれだけの時間が経っただろう。

 

悠久のような時間が流れたとも思うし一瞬の出来事のようにも感じられた。

 

戦士の剣と吾輩の剣が同時に両者の肩を貫く。

 

戦士のHPは残り数ドットで止まり、吾輩のHPは全てが消し飛んだ。

 

戦士の顔に勝利の笑みが浮かび上がる。

 

戦士が大きく両腕を上げ、歓喜の声を叫ぶ。

 

それを見て吾輩は思った。

 

悔しい、と。

 

ただただ悔しかった、目の前で勝利の雄叫びをあげる戦士を心底羨ましく思った。

 

次は、次こそは必ず勝利してみせる、そう心に誓い、吾輩の身体は天の露となっていった。

 

 

 

そうして、復活したと思ったら多彩な思考ができるということに気が付いた。

 

吾輩に自我が生まれたことを自覚することが出来た。

 

負けたあの瞬間を思い出すと腸が煮えくり返るような熱さを覚えた。

 

あの戦士の顔を思い出すと剣を握る手に力がこもった。

 

戦士の顔をはしっかりと覚えた。

 

次会った時はその命を頂戴してみせる。

 

そのためには強くならなくては、戦士はきっと今も戦い、腕を上げているだろう。

 

自分も負けていられない、負けてなるものか。

 

しかしどう強くなれば良いのか。

 

戦士たちには基本勝つことは出来ない、あの多彩な剣技に対応しきれないのだ。

 

かと言って戦士たち以外に敵がいないのも事実。

 

ではどうするか――?

 

しばし悩んだ後に答えが出た。

 

簡単なことだった、経験値を得るには経験を持つものを倒せばよいのだから。

 

ならば、敵でなくとも構うまい?

 

そう、仲間を殺し、その経験を貪っても構わんのだろう――?

 

そう考えた吾輩は剣を握り直し、仲間(エモノ)を探しに歩き出した。

 

 

 

 

 

 

鋭い斬撃音が響き、自分と同じ姿をした者の首が高々と舞った。

 

瞬間光の粒子と消え、それは吾輩の経験値となりレベルが上がった。

 

思い立ったあの日から、恐らく一週間は経った。

 

吾輩以外のモンスターはやはり自我を持ってるものおらず、同じモンスターである吾輩を警戒することもないので楽々と殺すことが出来た。

 

吾輩たちモンスターは休むことを必要としないので戦士たちから逃げ隠れをしながら吾輩は黙々と仲間を狩り続けた。

 

お陰で吾輩のレベルは現在10。

 

姿はあの日と違い身体の所々が硬質な鎧に全身を包まれており、手には斧が握られていた。

 

数日前、レベルが6になった時に全身が淡い光に包まれ気付いたらこの姿になっていたのだ。

 

どうやらレベルが上がると自分の上位互換のモンスターに進化するらしい。

 

吾輩は普通のコボルドからちょっとエリートな≪ルインコボルド・トルーパー≫と呼ばれる存在に昇華していた。

 

そろそろ再戦したい頃だが、あの戦士は見つからない。

 

あの戦士を探してて気づいたが最近戦士たちの動きが活発だ。

 

どうも我らが親分、ボスともいわれる≪イルファング・ザ・コボルドロード≫を見つけ、それを討伐するらしい、身を隠し話は聞かせてもらった。

 

ここで吾輩は思いついた。

 

もしかしたらその討伐戦に加わればあの時の戦士と出会えるのではないか、と。

 

しかし当然戦士たちに交わることは不可能。

 

ならばすることはただ一つ。

 

レベルを上げ、ボスの取り巻きとなる。

 

それを達成するために吾輩は狩りをするために駆け出した。

 

あれから二日たった。

 

吾輩の身体は全身を厚い鎧で覆われおり、その手にはハルバードが握られていた。

 

ついにボスの取り巻き≪ルインコボルド・センチネル≫まで進化してみせたのだ。

 

早速我々コボルド独自のルートを通りボスの部屋へ行く。

 

ボスの部屋は馬鹿みたいに広かった。

 

中央にはボスが佇んでおり一応挨拶はしたが反応は無かった。

 

戦士たちはまだ来ていないようなので仕方なくボスの後ろでひと眠りすることにした。

 

あれから三日は経っただろうか、戦士たちはまだ来ない。

 

ちょいちょい部屋を抜け出しお仲間を狩っていたせいで吾輩のレベルは12に達していた。

 

最近では一日中狩ってもレベルが上がらない、かと言って見知らぬ戦士たちと戦うほど吾輩には勇気はなかった。

 

そうして今日もまた一日狩りに行こうかと、重い腰を上げたその時だった。

 

大きな扉が轟音と共に開かれた。

 

そしてそこには40は超えるであろう戦士たち。

 

ついに来た!吾輩は声をあげそうになるのを抑えつつあの日の戦士を探す。

 

そうして、遂に見つけた。

 

濃い茶髪にギラギラと光る黒い瞳。

 

その姿はあの日と違い強さが溢れ出ており、装備は洗練されていた。

 

手に力がこもり、口が弧を描く。

 

戦士たちが雄たけびをあげた。

 

それと同時にボスが大きく叫びをあげる。

 

同時に壁から生まれてくるお仲間たち。

 

吾輩も思わず吼え立てた。

 

戦士たちがこちらに向かって走り出してくる。

 

吾輩も地を蹴り一気に加速してあの戦士に襲い掛かる。

 

大きく跳びあがり武器に緑の光を灯し振り下ろす。

 

戦士はそれに気づき、黒い光沢を放つ長剣を黄色に光らせ迎撃をする。

 

ギャアアァァァァァァン!!!

 

鋭い音が響き渡る。

 

他の戦士たちはこちらを見て困惑したような顔をしている。

 

あの戦士は一瞬こちらから目を離し何事か他の戦士たちに叫び、またもやこちらに集中した。

 

姿は変われどあの日と同じように互いの武器が幾度も交差する。

 

鋭い音が辺りに響く。

 

戦士の振り上げられた剣が吾輩の兜を宙に飛ばすが吾輩の武器が戦士の胸を大きく弾いた。

 

よろける戦士に追い打ちをかけるべく右から左へ水平に武器を振り切る。

 

それを戦士は縦にした剣でしっかりとガードし、そのまま弾いた。

 

弾かれ無防備になった吾輩の身体に斜めに剣が振り下ろされる。

 

その一撃は鎧を切り裂き深々と身体に沈んだ。

 

一気に振りぬかれ、吾輩の身体はよろよろと後退する、HPは半分を切っていた。

 

戦士が笑い、剣を水平に振りぬいた。

 

吾輩も笑いながらそれをハルバードで受け止め、そのまま受け流す。

 

驚きに満ちた顔をする戦士の顔に勢いよく緑に光らせた武器をぶち込む。

 

強烈なノックバックが発生し、戦士は吹き飛びHPは残り四割程度となった。

 

更に追い打ちを与えるべく地を蹴り振り下ろすが態勢を立て直した戦士はそれを受け止める。

 

ギリギリと鍔ぜり合いが起こる。

 

全身全霊の力を籠め相手を押し切らんとした瞬間吾輩の身体は大きく前につんのめった。

 

やばい――――

 

そう思った時には既に遅く、戦士の剣は体を深々と切り裂いた。

 

HPがガクッと減り残り三割程度となる。

 

ニヤリと笑い、姿勢を低くし剣を構える戦士。

 

大きく口角を上げ、右手で持ち手の先辺りを持ち、穂先を左手で支えるようにする。

 

ボスの叫び声が大きく響き渡った瞬間、我々は同時に地を蹴った。

 

突き出されたハルバードは肩に深々刺さり戦士のHPを二割にまで減らす。

 

振り上げられた剣は吾輩の身体を切り裂き、同じようにHPを二割にまで減らした。

 

弾くようにどちらも後ろにジャンプする。

 

自然とどちらも声をあげ笑い声を上げていた。

 

笑い声の合間に鉄と鉄がぶつかり合う強烈な音が響く。

 

両者の命が一割を切ったとき、二人は同時に後ろに引き、最後の一撃だとも言わんばかりに自分の武器を強く構えた。

 

数秒程か、それとももっと長い間か、二人は睨み合った。

 

戦士と化け物が同時に地を蹴り飛び出す。

 

水色に光り輝く剣は深々と化け物の胸に突き刺さり、ハルバードは戦士の肩を掠めた。

 

剣は化け物の命を吸い尽くし、ついに枯らし切った。

 

ああ、くそ、吾輩はまた勝てなかったのか。

 

しかし、何故だろうか。

 

あの日はあれほど悔しかったのに、今はそんなことはなく、それどころか清々しいほどだ。

 

薄れゆく意識の中戦士を見る。

 

戦士は何事かを言い放った。

 

何を言ったかはよく聞き取れなかったがそれは悪口の類ではなく称賛の言葉なのは理解できた。

 

戦士は剣を高々と掲げ、大きく吼え立てる。

 

その姿を見てやはりいつかお前は殺して見せる、そう心に誓い、自分は光へと姿を変え。

 

そして天に舞い散っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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