「ユウさん達のところに先に行っとけって言ったじゃねぇか、俺じゃ行く先を辿れねぇんだぞ!」
「だったら残って正解でしょ?」
「お前を追いかけるつもりだったんだよ。 そうすりゃそのうち追いついてたからな」
瓦解した、かつてのヒュミテ第二の都市と呼ばれていた場所の中心から方向を見定める。 もう随分と遠くに行ってしまったのか、それともセフィックのせいで上手く気を掴むことができていないのか。
今の俺の探索範囲内にユウさん達は引っかからない。
「─それにしても、こいつらなんだったんだ?」
俺たちの周りには白い残骸、ディーレバッツの一員であるジードだったものの腕を拾う。
見事なまでの白い腕だ。 身体の各所に紫のラインが引かれていること以外には。
「ジード、じゃないんですか?」
「けど、そのジードってやつは既に死んでる。 俺はこの目で見たわけじゃないけど仲間が言うならそうだと信じてる」
明らかに人造のもの。
身体を組織する内部器官がデタラメである、まるで無理矢理くっつけて動いてるような感じだ。
リルナなら何か知って─
「そういや、リルナとステアゴルの姿がないな」
「言われてみれば...」
「.....ユウさん達のところに行ったか、それとも」
どちらにしても、これ以上モタモタしてる場合ではなさそうだ。
ユウさん達と合流しなければ、足止めが成功したか否かわからない状況なら合流を選ぶ。
「ルオンヒュミテを目指そう、どっちに行けばいい?」
「こっちよ」
マイナが残っててくれてよかったかもしれない。 一人だと合流どころか、辿り着ける自信もない。
マイナの案内でメーヴァを出る、辺りには再び何もない道が広がっている。
ユウさんやテオ達は地下を通ってルオンヒュミテへ向かっている、それもそうか。
こんな何もない場所で狙い撃ちにでもされたらひとたまりもない。 気のせいかもしれないが、大きな気を一瞬だけ感じたような。
「どうしたの?」
「いや、なんでもねぇ」
マイナを担いで移動しようとしたが、俺が飛ばすと途中で道を間違えてもわからないかもしれないということでメーヴァを出るときに見つけた車に乗って移動になった。
運転はもちろんマイナ、この世界では少し旧型の四輪車。 スピードは申し分ない。
「.....懐かしい」
「ホクヤさんって、別の世界から来たんだって?」
「あぁ、ユウさんもだな」
つい感傷に浸ってしまった、どうもこの世界は故郷に似ている。
ユウさんは一体どんな世界でどんな生活を送っていたのだろうか、フェバルになって色んな世界の文化を見てきたからこそ、興味もある。
─だから、プラトーの野郎にはどうしても聞き出さなきゃいけない。
奴が、あのことを知っている可能性もある、俺の世界の問題は俺が決着を着けないといけないんだ。
※
ディースナトゥラ。
リルナとステアゴルは急遽、メーヴァから戻される形になってしまった。
(─あと少しであの男の首を取れたかもしれないというところで!)
苛立つリルナ、だがディースナトゥラでは一人のヒュミテによる暴動が発生したようだ。 ヒュミテ王の方はブリンダに任せるしかないようだ。
(頼んだぞ、ブリンダ。 私もすぐに向かう!)
ディークラン達では相手にならない、プラトーが応戦しているようだが、救援を呼ぶほどだ。
優先事項としては後回しにしてもよかったのだが、あのプラトーが救援をするヒュミテで百機議会にも確認を取らないといけないこともある。
(.....ジード)
「リルナ! どうやらあそこみたいだぜ! 連絡によると市民達に危害を加えている様子はないそうだ!」
「! そうか、ならさっさと仕留めるぞ!」
「応ッ!」
ステアゴルが自分の身長の二倍ほどの跳躍で障害物を乗り越え、白いパワーアームを構える。
どうやらディークランが直接向かい、プラトーはどこからか指示を飛ばしているフォーメーションらしい。
─中心に立つ、金髪の男は戸惑いながらもステアゴルの拳を受け流した。
「─ったく、一体なんなんだよ! ここは!?」
※
ディーレバッツは最強である。
しかし、それはあくまでも個々の実力にあらず集団、もとい隊長であるリルナ一強にある部分にもある。
そのくらいリルナという存在はこの世界において群を抜いている実力者なのだ。
ステアゴルやジードのように前線で実力を発揮する者、ザックレイやブリンダ、トラニティのようにタイマン勝負に向かない個体だって存在する。
─そう、だからユウやテオ、ルナトープの全戦力が集結してるこの車両においてブリンダがどのくらい無力なのかは言うまでもあるまい。
できることは毒を撒きつつ、潜伏してジワジワと一網打尽にするための準備をネチネチと行うことくらいである。
(.....リルナぁ、早く来てよ! ステアゴルでもいいから、この際プラトーでもいい! お願いだから私を一人にしないで!)
車両倉庫に潜伏するブリンダの戦いは始まったばかりである。
─ユウ達はルオンヒュミテへと少しずつだが、順調に前進している。
※
─異変に気がついたのは、マイナの治療のために車を停めた時だった。
こいつは無理するから、どこかでストップを掛けないと病状が悪化していく。 まだ、潜伏してる強力な病体が彼女の身体を蝕んでいる。
それはここまで無理して走らせてきた、この機体にも言えることだった。
だから、気がつけた。
「誰か乗ってる」
その言葉にマイナは目の色を変える。
「敵?」
「多分な、敵意がないってのは気になるけど」
殺意や敵意があれば、もっと体温や血液の流れに異常があるはずだ。
熱感知の応用で対象を絞れば、そのへんまでは把握できる。
「出てこい、さもないと機体丸ごとぶっ壊すぞ」
「ちょーっと!?」
声を上げたのはマイナだった。
この先の移動はどうするんだとばかりの叫び声である。
まぁ、そん時は抱えてでも行けばいい。 ここで俺が停まるのを決めたのはユウさんの気を感じられたからである。 さいあく、車はここでサヨナラしてもいい、名残惜しいけど。
仕方ない、少しだけ気を上げてみるか。
「あのー、ホクヤさん? じょ、冗談、です、よね?」
「─本気だ」
「さよなら、ここまで頑張ってくれた名もなき車両さん」
俺はこの手で恩人、カーさんに恩を仇で返すことはなくなった。
なぜなら、拳を振るう意味がなくなったからである。
「─俺になんのようだ、ディーレバッツのトラニティ」
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