ダンジョンに救世主っぽい何かがいるのは間違っているだろうか   作:泥人形

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主に書いてる方が全然思いつかないので息抜きな感じで投稿。もう一つ息抜き用あったんだけどそっちすら思いつかなかったのよね…
ダンまちは大好きだから書いてて楽しかったです


救世主っぽい何か

迷宮都市オラリオ

 それは神々が降臨する以前から存続する世界有数の都市であり、同時に世界で唯一の迷宮都市である。

 

 そこにはたくさんの商人やほかの都市から移ってきた民衆、一攫千金を狙った冒険者、果てには一国の王女までいる。

 

 そんな都市ではあることないこと、根も葉もない噂があちらこちらに散らばっている。

 やれ剣姫がレベル6になった、やれレベルアップ最速更新者が出た、やれ売り出されてる神酒(ソーマ)は失敗作だ。

 

 …全く、真実味のない噂ばっかりである…(震え声

 

 しかし、そんな噂の中でも一際目立ち、特に新人冒険者たちの間で大きく噂されているものがある。

 

 ―ダンジョンには救世主っぽい何かがいる―

 

 そんな噂が出始めたのはもう随分と前からだ。

 時には魔物たちを押し付けられたパーティーを救い、時には縦穴から落ちて行きそうな冒険者を助け、時には死に伏した冒険者を癒す。

 圧倒的強者でありながらも弱者を助ける。そこだけ聞けば救世主で良いではないか、そう思うが実際に助けられた者たちはしっかりとした口調で口を揃えて「あくまで救世主っぽい何か」だと言うのだ。

 そんな良く分からないような話なのだから噂の域を出なかった。

 更に、基本的に冒険者とは一攫千金やハーレム、地位や名声を欲しいものがなるものだ。

 誰がどれだけ語ろうと、そんなことをする人物が存在していると言われても誰も信じない、それどころか一笑にふされてしまう。

 故に、これは噂でしかないとされている――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――自分も馬鹿馬鹿しいと、そう思っていた。

 

 そんなものは圧倒的に弱いものたちや、戦えない者たちが抱いた幻想だと思っていた。

 だけれども、今の自分はその幻想に必死に願っていた、どうか自分を助けてくださいと身体を震わせながらそう祈っていた。

 

 次第に大きくなる足音

 

 追ってくるミノタウロス

 

 振り上げられる天然武器(ネイチャーウェポン)の斧

 

 それを目視して全てを諦めた

 

 ああ、一人でこんなところに来なければ良かった

 

 冒険者になんて、なろうとしなければ良かった

 

 やけにゆっくりと振り下ろされる斧に恐怖し目を閉じ、彼は全てを失った――

 

 

 

 はずだった。

 

 

 何時までもやってこない衝撃と鋭く響いた音に不信感を持ち目を開ける

 

 そこには、黒髪の長身の青年が背中を見せていた。

 その手には白く光を反射する美しい刀が握られていた。

 怪物の攻撃はそれによって受け止められていた。

 

 怪物が苛立ったのか、大きく咆哮した

 

 次の瞬間、怪物の武器は押しこまれ、その体は四つの肉片へと姿を変えた。

 傷口から激しく血を吹き出し、核である魔石もまた四つに割られそれは霞へと消えていった。

 そして刀を持つ青年はこちらを見てニヤリと笑いながら口を開く。

 

「大丈夫か? 怪我は今から治してやるよ」

 

 彼は、この時全てを悟った。

 この青年こそが自分が死ぬ直前に助けを求めたものか。

 なるほど、これは確かに救世主っぽい、何かだな…

 

 

 

 青年はかっこいい言葉に似合わない、働き疲れて死んでるような眼をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か? 怪我は今から治してやるよ」

 

 そう言いながら目の前の男を見る。

 身体には無数の傷が走り、片腕は折れているようだった。

 さっさと治さなきゃなあ、と思うと同時に眼を滅茶苦茶見られてるのに気付き思わず心の中で叫ぶ。好きで眼を死なせてる訳じゃねーんだよ! 生まれつきなんだよ察しろ!?

 

 しかし表には出さず、三つ使える魔法の内一つ、回復魔法を発動させる。詠唱? そんな中二臭いことはテンション上がりまくってる時くらいしかできません。

 エリクサー? 他人にそんなお高いもん使ってられるかっての。それに折角珍しい回復魔法持ってるんだから使いたいじゃん?

 

 手からほわわ~んと暖かそうな緑の光が生まれ、それが男を包み込む。

 十数秒程で光は霧散し、包まれていた男の身体からは傷は消えていた。

 

「良し、元気になったっぽいな。もう無理して下まで降りるんじゃないぞ、そんじゃな、おにーさん」

 

 相変わらず素晴らしい手際であるな…自画自賛しながらその場から立ち去る。

 後ろでおにーさんが待ってくれ!? とか言ってるが面倒なのでパスパス。

 …別に数か月前に同じように助けた女性についていって晒し者にされたのを恐れてるわけではない、絶対にそういう訳じゃないんだからねっ……もう、たくさんの知らない人に、私を助けてくれた人です! とか紹介されるのは嫌だ...…コミュ障舐めんな…

 

 内心ガクブルしていたら周りの雰囲気が違うことに気付いた。

 立ち止まり周りを観察する。

 ……どうやら無意識に、おにーさんを助けた13階層から17階層まで来てしまっていたようだ。

 

 目の前に広がる凹凸のない滑らかな壁を視界に収め、面倒ごとになる前にさっさと帰ろ、そう思い踵を返したところで

 

 バキリ

 

 嫌な音が背後から聞こえてきた。

 その音は徐々に大きくなり、やがて轟音となった。

 大きくひび割れたところからゆったりと、壁を破るかのように禍々しい巨人が姿を現した。

 

『オオオ、ォオオオオオオオオオオ!!!!!』

 

 17階層階層主。

 迷宮の孤王≪ゴライアス≫

 それは雄々しく産声を上げた。

 

 

 

「オッフ…」

 

 口から声が漏れる。あまりのタイミングの悪さに涙が出てきた。

 なぜだ…運悪すぎだろ…俺、結構人助けとかしまくってるのに何でこんな目に合わなきゃならないんですかねぇ…

 何? この不審者感満載な眼がいけないの? 初対面の人に「ちょ、眼死にすぎだろもっと生き生きとしろ」と真顔で言われたこの眼がいけないの?

 ハァアアアアとため息をついて巨人を見据える。

 

 70Mは超えてるであろう巨人はこちらを認識した瞬間大きく腕を後ろに引き、そして撃ち放った。

 風を穿ち轟音をたて放たれたそれを大きく跳ねて回避。

地面を抉り飛ばした腕に着地すると同時に一気に駆け上がる。

 音すら置いていくような速さで駆けのぼり途中でジャンプ、巨人の目の前に飛び出て腰から引き抜いた刀を一閃、二閃と十字のように放つ。

 それ以外のアクションは起こさず地面に着地し背を向けつつ納刀。

 

 ズルリ、と何かがずれる音がした。

 

 ゴトン、と何かが落ちる音がした。

 

 ドサリ、と何かが倒れる音がした。

 

 刀が鞘にしまわれる音と同時にゴライアスは盛大に血しぶきをあげ、呆気なく霞へと姿を変えた。

 

 

 

 

 

 

 

 あれ…ゴライアスってこんなに弱かったっけか? 前に戦った時はもう少し硬かったような気がするんだが…そう考えたところであることを思い出す。

 

「ああ、そういやこの前レベル上がったんだったな」

 

 無意識に考えたことを呟くが周りには誰もいないから無問題無問題。

 さて、ちょっとしたトラブルはあったけどさっさとダンジョン出ますかね。

 そう思ってゆっくりと歩き始めた。

 

 15階層、基本的にレベル1~2の者が狩りをする階層をゆったりと歩を進めていく。

 かつてはここで何度も何度も死にかけたものだ…追いかけてくるヘルハウンド、鼻息を荒げながら追ってくるミノタウロス、三位一体でかかってくるアルミラージ、大群で命を貪りにくるバットバット、魔法の扱いをミスってフレンドリーファイアを繰り返す味方…

 当時よりずっと強くなったはずの身体を震わせる。身体のあちこち負った傷跡がうずいたような気がした。

 当時は何が怖かったって、しっかりと合図や作戦決めてるのに最初からそれを無視して大技ぶっぱする味方(多分)が一番怖かった。

 

 ―俺がひきつける!隙を作った所にぶち込め!―

 ―分かった!テンペスト!―

 ―馬鹿かてめぇぇぇぇ!!?―

 

 うっ…嫌なことを思い出した。外に出たら豊穣の女主人で酒でも飲もう…未だ未成年の身ではあるがオラリオは基本無法地帯みたいなもんだから気にしない気にしない。

 

 軽く青ざめながらも何とかダンジョンから脱出、外の空気は美味しいね…!

 さっさと酒飲んで酔っ払ってしまおう、そう思って陽気な足取りで酒場へと向かった。

 

 

 

 

 既に帳は降り真っ暗な闇の中月が明るく光っていた。

 そんな月を眺めながら大通りをのんきに歩いていく。

 周りからは店からもれた明るいオレンジ灯りが見え、仕事を終えたもの、ダンジョンから無事戻って来た者たちが一日を締めくくるかのように酒盛りにふけ、大騒ぎをしているのが聞こえてくる。

 そんな怒声や笑い声に耳を傾けながらも行きつけの酒場へと向かう。

 そうして歩くこと十数分、こじゃれていながらも酒場の雰囲気を強く放つ店を見つけ自然と口角を上げ歩を速める。

 遠慮なしにドアを開けると来客を知らせるベルが綺麗に鳴り、同時に店員たちのいらっしゃいませーと言う声が耳に届く。

 その声に更に頬を緩ませながらもカウンター席に着いて少し悩んだ後に注文する。

 

「取り敢えず醸造酒(エール)と…そうだなーパスタひとっつー」

 

「おお坊や、久しぶりだねぇ、少し待ってな」

 

 ここの女将であるミア・グランド―通称ミア母さん―にそう頼むと漢らしい声がかえってくる。

 漢らしい、と言ってもミア母さんは女性である。男と間違えそうになる時はたまーにあるが女性である。その巨体と振るわれる鉄槌は恐怖しか感じないが冒険者でもない。まぁ元冒険者なのだが。

 周りの喧騒を聞きながらゆったりと待っていたら隣の席に誰かが静かに腰を掛けた。

 金に近い薄緑色の髪を持ち、凛としながらも暖かさを持つ蒼の瞳、エルフ特有の尖った耳。

 

「ん…? ああ、リューさんか、おひさ」

 

「ええ、お久しぶりです。相変わらずお元気のようで」

 

「ん、そっちも元気そうで何より」

 

 何で俺のところに来たんですかねぇ…一人でまったり飲もうと思ってたのに…ほら、リューさんのファンと思わしき冒険者さんたちが俺のことを滅茶苦茶睨んでるじゃないですかーお願いだからそっち行ってあげて! 会話があまり上手でない俺と話しても楽しくないでしょ!

 美人が隣に座ったことでドギマギしながらも高速でしていた思考は彼女によって遮られる。

 

「そういえば、レベルが6になったと聞きました、おめでとうございます」

「あ、ああ、ありがとうござます」

 

 どもった、めっちゃどもった。いや、だって仕方ないじゃん…美人への免疫があまり無い俺だぞ? あんなふわりと微笑みながら言われたらどもるにきまってるじゃーん…

 自己嫌悪していたら急に頬に暖かさが伝わってくる。って何で頬に触れてるんですかあああ。

 そうしてテンパっていたらリューさんは至極真面目な顔をして言った。

 

「レベルが上がってもその眼は治らないんですね、相変わらず死んでいるようだ…」

 

「いやそれ割と心抉ってるの分かって言ってます?」

 

 あまりにもナチュラルに罵倒してくるのでこちらも自然と言葉を返していた。

 何この美人一か月見ない間にSにでも目覚めた? いや元からこんなんだったけな…

 リューさんは何がおかしいのか頬を緩ませながら言葉を続ける。

 

「いえ、大丈夫。あなたのその眼も慣れれば中々良いものですよ」

 

「これ以上なく分かりやすいお世辞ですねー…」

 

 死んでる眼が良いとかなんつー趣味してんだと俺ですら言いたくなるわ。

 それがまた何がおかしいのかリューさんはにこにこと笑っている。

 この人さっきから笑ってんな、まあ楽しそうで何より。そう思っていたら

 

「はいお待ち!」

 

 ドンドォン! と勢いよく目の前にパスタと醸造酒が置かれる。

 

「お、来た来た。それじゃいただきます」

 

 身体の前で手を合わせてそう言う。

 このオラリオではそんな慣習はないが俺の場合はもう癖なのだから仕方ない。食材には感謝を! ってね。

 

「以前から気になっていたのですが、その挨拶はなんなのです?」

 

「んーと、これは俺の故郷における食事前の挨拶だよ。食材となった動物や植物への感謝を表している…みたいな」

 

「ふむ…それでは最後のごちそうさまでした、というのは」

 

「それは食事後の挨拶で、これも似たような、というかほとんど同じ意味」

 

「なるほど…あなたの故郷は不思議な慣習があるのですね」

 

「不思議ってほどでもないと俺は思うけどね」

 

 実際、このオラリオでは生死への観念が他の国に比べて薄いと思う。いや、観念というよりも死への恐怖、だろうか? このオラリオにはダンジョン何てものがあって、そこでは毎日たくさんの冒険者が死に、また魔物もたくさん殺す。ダンジョン内ではなくとも外にいる魔物はいるので当然それも殺し、殺される。

 更にはモンスターフィリアなんていう魔物との戦いをショーとするものすらあるのだ。

 冒険者以外の民衆含め死と言うものに慣れすぎて、特に人以外の命へのありがたみというものが薄れている気がする。

 まあだからといって滅茶苦茶平和な国はそういうのに敏感かと言えばそうではないのだが。

 まぁそんなことよりパスタうまし、酒うまし。やはりここは最高だな。

 

「本当に、食べてる間は眼が生き返っているような感じがしますね」

 

「むぐぐっ!!?」

 

 食べてる最中にそう言われ思わずむせ、すっと差し出してくれた水を片手で一気にあおる。

 しかしそんなことどうでもいい、今なんて言った? 食べてる間は眼が生き返ってるだって!? つまりそれはあれか! 常に物を食べ続けていれば俺は毎度毎度誰にも怪訝な眼で見られないんだな!? もうギルドに通報もされないんだな!?

 

「落ち着いてください、感じがするだけで相変わらず死んでいます」

 

「あっ、さいですか…」

 

 この天まで上げられてから地面に思いっきり叩きつけられた感凄いなおい。

 

「それよりも、あれはまだ続けているのですか? 救世主様?」

 

「んなっ、その名で呼ばんでください!?」

 

 悪戯っぽく微笑むリューさんに思わず声を大きくしてしまう。仕方ないだろう、あんな中二ネームで呼ばれるとか…それも神様のお墨付き中二ネームで呼ばれるとか…

 

「ていうか、あれってわざわざぼかさんでも…人助けならまだ続けてますよ。多分ダンジョンに潜る内はずっと」

 

「そう、ですか…難義なスキルですよね」

 

「ホント、困ったスキルですよ…」

 

 そう、俺がどっかのヒーローたちのように人を助けるのには理由がある。

 それは俺がレベル4になった時に得たスキル、それも恐らくレアスキルのせいである。

 その名も救難信号。

 これだけなら自分のピンチに助けを求めるスキルかも、とも思うが実際は逆。

 ダンジョン内にいると俺はこのスキルによってあちらこちらから人々の助けを願う声が聞こえてくるのだ。無視しようとも無視しきれないほど強く頭に響くそれはほぼ強制的に俺を解決に乗り出させる。

 お陰で俺は救世主、なんて二つ名を神々につけられ冒険者には救世主っぽい何か、と呼ばれている訳だ。っぽい何かってなんだよこんちくしょう…

 そう思いながらもパスタを食べつくし酒をあおる。こうなったら限界まで酔い倒して嫌なこと全部忘れてやんぜ!

 

「ぷはぁっ、ミア母さんもう一杯―」

 

「あいよっ!」

 

「あなたが強いのは知っていますが、あまり無茶をしないでくださいね」

 

「ん? それは酒のこと?」

 

「あなたの身のことです! ...…いえ、お酒の方もあまり飲まないようにしてほしいですが」

 

 あ、さいですか…察せなくてさーせん…

 そう返しながらもどぉん! と置かれた酒で喉を潤す。ふぅ、ウマい…!

 清々しい顔で飲んでいたらリューさんに呆れられたような顔をされた。すまない、しかしここの酒がウマいのだから仕方ない…

 というかお酒のお陰かあまり緊張せずに話せるようになってきたな。まあこれで相手が知り合い以外だったら緊張のあまり逃げ出しているレベルなのだが。

 リューさんがふと何かを思いついたように少しだけ目を見開き言った。

 

「時間もあることですし、ここ一か月何をしていたのか教えていただけませんか?」

 

「いや時間てリューさん仕事中じゃ…」

 

「これも仕事です」

 

「あ、はい。それじゃあまず約一月前に受けたクエストが中々大変でして――」

 

 ニッコリと笑いながら言うリューさんに逆らうことは出来ずに俺はここ一月の間にあったことを面白おかしく、時には愚痴を吐きながら語り始めた。

 

 

 

 

 


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