ダンジョンに救世主っぽい何かがいるのは間違っているだろうか 作:泥人形
お気に入りして下さった方、評価してくださった方、感想下さった方本当にありがとうございます!お陰で二話目をいつの間にか書いてました。
やっぱ戦闘描写は難しいですなぁ…
迷宮都市オラリオ、その北部には燃え上がる炎のような赤銅色の高層の塔が幾重にも重なり、中央の塔にはトリックスターのエンブレムが刻まれた旗がたなびいている館。
周りの建物と比べても群を抜いて高く圧倒的な雰囲気を放つそれは主神をロキが務めるオラリオ屈指の探索系ファミリア【ロキ・ファミリア】の本拠、黄昏の館。
その巨大な館のある一室、小さめの部屋に昼間っからベッドでごろごろと自堕落な生活をしている男がいた。
ていうか俺である。ちゃうねん、二日酔いで頭痛いしだっるいねん…もしこんな状態でダンジョンに行きでもしたら頭に響いてくる強烈なSOSで頭おかしくなる自信がある。
しかしいつまでもこうしている訳にもいかない、いやこうして一日潰すの良いかもしれないがそれでは一日無駄にした気がしてしまう。
「取り敢えずシャワーでも浴びるか…」
小さく呟きベッドから降りた俺は未だに痛みを訴える頭を片手で抑えながら浴場に向かった。
酔いを吹っ飛ばそうと勢いよく流れてくるあっついお湯を受け止める。
いくつもの水滴が程よく筋肉のついた身体を伝っていく。
ほぅっ、と息を吐き何とはなしに目の前の鏡に映る自分を見つめる。
シャワーで濡れた黒髪、完全に生気を失っている目、戦いに特化した肉体。
「これでも俺、なんだよなぁ…」
そうして長年感じ続けていることを吐き出す。
まさかこんなことになるとは転生前は思わなかった、人生とは不思議なものだなと思わざるを得ない。
そう、俺こと御神楽甘楽は俗に言う転生者である。
と言っても、別に神様が「ミスって殺しちゃったメンゴ☆お詫びに転生させてやんよ」みたいな感じではない。
まあ、似たようなものではあるのだが。
死因は覚えていないが、日本で高校生をやっていた俺は死んだ。
そうして死んだはずの俺の魂は真っ暗なところを流されるまま流されていたら天使のような男に動きを止められ
「おめでとうございます!あなたは抽選に当たりました!」
は?抽選てなんぞ、と聞くと天使みたいなやつはニコリと笑い
「あなたは私たちのボスがした抽選に当たったのです!その抽選に当たったものは新しい世界で人生をやり直すことができるのです!」
新しい世界とはなんぞや?
「新しい世界は新しい世界ですよ!ニューワールドですよ!」
なるほど…もしや貴様馬鹿だな?
「馬鹿とは失礼な!しかし、その無礼も許しましょう!哀れな子羊を導くのも私の仕事ですから!」
こいつ一々俺の苛立ちポイント刺激してくんな…
「さてさて!疑問を一杯お持ちでしょうからまずは抽選のシステムから説明しましょうか!」
そうして天使(ほぼ確定)は大きく手振り身振りを付けながら説明を始めた。
その話の要点をまとめると、こうなった。
1、この抽選とは分かりやすく言うと転生する魂を決めるシステムである
2、この抽選で選ばれるのは死んだ歳が20以下でありながら生前夢を持っていなかった魂に限られる
3、そうして選ばれた魂はランダムで新しい世界に転生させられる(特典?転生させてもらっておいてまだ望の?と真顔で言い放たれた)
4、転生される歳はランダムで9~15程度と幅は広い
5、そしてその世界で3年以内に夢を持つことが出来なければ強制送還、二度と転生はさせてくれない、ただ生まれ変わるのを待つことになる。
6、無事課題をクリアした場合はその世界で今度こそ人生を謳歌せよ
「と、いうことで迷える哀れな子羊さん、いってらっしゃい。できれば数十年は会いたくないですね」
天使がそう言った瞬間俺の意識は溶けるように消えた。
そうして俺はこの世界に生まれた。いや生まれたではなく転生させられた、というべきか。
取り敢えず意識が覚醒した俺は自分の身体を調べた、結果は10歳前後といった感じ。
さて三年以内に夢を作って見せるか、そう思い立ったが日本で悠々自適に過ごしていた俺はどうしていいかも分からず路頭に迷っていたところをロキファミリアに拾われて今に至るって訳である。
いやホント最初は大変だった。
なんてったってどんな世界か分からない、言葉は通じない、相手が何を言ってるか全然分からない、周りは耳が尖っている人やけも耳が生えているのがいたり、巨人と見紛う程の大男がそこら中を歩いている。電気はない、電子機器もない、代わりに魔法なんてものがある。そして何より自分の常識がほとんど何も通じなかったものだからもうパニックである。
そこで俺が狂ってしまわなかったのは偏に主神であるロキのお陰であると言えるだろう。
彼女には本当にお世話になった。神であるが故に唯一言葉の通じた彼女は俺がこれ以上パニックにならないように個人部屋を与えてくれて毎日一緒にいてくれて文字や言葉、この世界のことや常識、何から何まで教わった。
お陰で徐々に冷静さを取り戻した俺は死にもの狂いで勉強をし、「夢を探してる?それなら冒険者が一番やろ!」というロキの言葉で俺は眷属となり二年程の月日をかけてこの世界に馴染んで見せた。
そして運命の三年目、俺は彼女たちと知り合った――
まあその後課題はどうなったか、というのは今年で15の俺が存在していることから分かるだろう。
ぶっちゃけ当時は大男のガレスや大人の冒険者たちはおろか年の近いアイズやアマゾネス姉妹、粗暴な犬ッころまでもが畏怖や恐怖の対象だった。
だってあいつら身の丈もある斧や大剣を片手で軽々と振り回したり瞬間移動かと勘違いする程の超スピードで動いたりするんだぜ?最早完全にホラーだっつーの。
まぁ今では俺もそんなビックリホラー軍団の一員なんだけどな。
そうして苦笑しながら浴場を後にしぱっぱと身体を拭きさっさと着替える。
珍しく昔のことを思い出したせいか酔いはすっかりと抜けていた。
ダンジョンに行く気が起きないので行く当てもなく館内を歩き回る。
あちらこちらから話し声や笑い声が聞こえてくる。
俺も話に混ざってこようかなぁ、と思ったところで鋭い金属音が鼓膜を揺らした。
誰か模擬戦でもしているのだろうか、最近はずっと模擬戦をしていなかったこともあり俺は音の鳴る方に歩を向けた。
黄昏の館、一際大きい東の塔の訓練場にて模擬戦、と言う名の決闘が行われていた。
一人は金の髪をなびかせ子供のような小さな体躯でありながらもこのロキファミリアでも屈指の実力者であるフィン・ディムナ。
もう一人は白銀の髪の中に狼のような耳があるのが特徴的な男、ベート・ローガ。
端から見ればベートがフィンを圧倒しているように見えるような光景だが実際は逆。フィンの槍が閃く度にベートは傷を増やしていきベートの強力な足技を空を蹴るばかり。
しかしそれも当然といえよう、何故ならフィンはレベル6、ベートはレベル5なのだから。
たった一つしかないレベル差だがその間は果てしなく広く大きい。
レベルは一つ違うだけで文字通り強さの次元が違う。そう考えればベートは良く食らいついている方だ。
息が切れ徐々に動きが悪くなっていくベートを軽いフットワークで追い詰めていくフィン。
瞬間右の手に持たれた槍が神速が如し速さで閃きそれをベートは反射的にミスリルブーツが装備されている足で受け止める。
鋭い金属の悲鳴が響き、火花が熱く舞い散った。
弾き合いその反動でベートがよろめいた瞬間、その体に強い衝撃が伝わり大きく吹き飛ぶ。
歯を悔し気に食いしばり態勢を立て直そうとした時には既にベートの首元には槍が添えられていた。
「はい、これで僕の勝ちだね」
「っち…俺の負けだ」
ニコリと笑うフィンと悔し気に顔を歪めるベート。
これでベートは何敗目なんだろう、と思いながらぼおっと見ていたら声をかけられる。
「それより、どうしたんだい?カンラ」
「ん、暇してたところに模擬戦の音が聞こえたもんだから興味本位で来た感じ?」
「この暇人野郎が」
「うっせ、負け犬は黙ってろい」
「誰が負け犬だコラァアアア!!」
吼え散らす犬ッころを無視してフィンと話を続ける。
「てことで俺も模擬戦したいんだけど誰かいないかねー」
「んー…あ!丁度いい相手がいるよ、少し待っててくれ」
「お、せんきゅー」
「無視してんじゃねえぞクソカンラァアア!」
訓練所を出て行ったフィンを見送り叫びながら繰り出される蹴りをぬるぬるとかわす。ふははっ弱った貴様など相手にならんわぁ!
「くっそ腹立つ野郎だなおいいいい!」
「んははははっ貴様如きの蹴りなぞ当たらんよ!」
「上等っっ!」
ヒートアップしたように見えるが相変わらずひょろひょろキックなので問題ない。
そうして五分ほど戯れていたところでフィンが帰って来た、後ろには金髪に金の瞳を持つ少女が連れられていた。
ていうかアイズだった。え、ちょ、まさか…
「おまたせ、アイズが相手してくれるよ」
微笑むフィン、無表情のアイズ、アイズの登場で動きを止め顔を赤くするベート、そして死んだ眼どころか顔が死んだ俺。
ちょっと身体を動かすだけのつもりだったのに相手がアイズとか死ぬぞ、俺が。
「ん、カンラと戦うの、久しぶり…」
「そ、そうだな…」
ぶっちゃけて言おう、俺は彼女が苦手だ。いや苦手っていうかどう接したら良いか分からんのだ。無表情&無言のアイズとテンパる&どもる&話題ない俺。上手くいくわけがない。しかも彼女結構話聞かないから…余裕で数秒前に言った作戦無視するから…
しかしここまで来てもらっておいていやお前と戦うのとか嫌だわ、とか言える訳がないわけで。
無言で位置につき刀の柄に手をやる。
それを見たアイズもまた位置につきデスペレートと呼ばれるサーベルを抜き放つ。
辺りに沈黙が落ちた。
左の親指で唾を少しだけ押し上げ足を前に出す。
アイズが姿勢を低くし鋭く構える。
相手の動きを見逃さないように睨み合う。
心臓が高鳴り徐々に他の景色が消えアイズしか映らなくなっていく。
「それでは…試合始めっ!!」
フィンの怒声にも似た号令と共に甲高い金属音を響かせ両者の剣が激突した。
数瞬の間鍔ぜり合い、振りぬく。
すぐさま振り切った腕を引き寄せ両手で握り切り払う。
音を置き去るように放たれたそれをアイズはかがんで回避、同時に懐に入り込み愛剣を鋭く突き放つ。
右足を軸にし半回転で避け、並んだ瞬間全力で横腹を蹴り飛ばす。
かろうじて左腕でガードしたが彼女は呆気なく吹き飛んでいった。
追撃すべく≪縮地≫と呼ばれる歩法で一瞬で迫り高速の突き。
それは彼女をとらえることなく音もなく壁を貫いた。
同時に閃く剣を貫かれることもいとわず左の手のひらで受け止め軌道を強引に変える。
勢いよく放たれたそれは鍔まで突き刺さり、彼女はすぐに引き抜こうとするが俺は柄を握る彼女の手ごと強く掴み、それを阻止する。
刀から手を放し彼女の左手首を力強く握り全力で蹴りを叩き込む。
その衝撃は彼女を貫き空にまで伝えた。
ズルリ、と手のひらから剣が抜けると同時に左手も離し掌底。
それは蹴りの衝撃が抜けきらない彼女の胸を易々と打ち抜き弾き飛ばす。
それを追うことはせずに姿勢を整え刀を正中に構え睨む。
彼女は吹き飛ばされながらも壁を蹴り、凄まじい勢いで飛び込んできた。
軌道を読み切り受け流そうと斜めに構えた瞬間
―テンペスト―
幾条もの風が剣を、彼女を包み込み超加速。
身体に斜めの軌跡が残り、パァッと血が舞った。
しかしそれと同時に彼女の背中から鮮血が舞い散る。
背後に勢いよく着地した彼女に振り向きながら大きく後退、鞘に刀をしまう。
荒くなった息を少しずつ整え柄に手をかけ構える。
自分が切られたことに驚いたか、眼を見開き剣を少しだけ引き
―テンペスト―
幾重もの風が重なり彼女の全身を纏う。
その姿は正に小さな嵐。
そうして彼女は風に乗せるように呟く
「リル・ラファーガ」
次の瞬間彼女は全てを穿ち抜く風の螺旋矢を化し、轟音ともに放たれた。
しかしそれは標的を貫く寸前で風は霞と消え、彼女は身体に三つの深い刀傷を残し乱回転したまま奥の壁へ激突し、同時に刀が鞘にしまわれる音が軽やかに響いた