ダンジョンに救世主っぽい何かがいるのは間違っているだろうか   作:泥人形

5 / 8
凄い、凄い難産でした…
その内修正いれるかも。


最強と不幸っぽい何か

迷宮都市オラリオ

 この都市には最強と名高い二つのファミリアが存在する。

一つはレベル6が四人もいる上にレベル4~5も多く所属し深層探索も抜群の成果を挙げている探索系ファミリア。北欧神話にて語られる悪戯好きの神、ロキを主神と据えたロキファミリア。

 

 もう一つはオラリオ唯一のレベル7が所属しレベル6も複数所属する同じ探索系ファミリア。こちらも同じ北欧神話にて語られる女性の美徳と悪徳を兼ね備えると言われている神、フレイヤを主神と据えたフレイヤファミリア。

 

 数年前までオラリオ最強の名をほしいままにしていたのはゼウスファミリアとヘラファミリアなのだが三大冒険者依頼(クエスト)が一つ。黒龍の討伐にて失敗、壊滅まで追い込まれ、そこをこの二つのファミリアに蹴落とされたらしい。

 

 全く、我が主神ながら下種さ極まりないぜ…。

 ま、この二つのファミリアが何もしなくても勝手に衰退していったとは思うがな。栄枯盛衰とは良く言ったものだ。

 

 しかしこの二つのファミリアが蹴落とした、と言っても何も手を取り合って仲良しごっこをしているわけではない。むしろロキはフレイヤを全力で警戒しているまであるし、俺自身はと言ったらあそこの団員に甚く恨まれているようで出会うとすげぇ睨まれることから苦手意識を持っている。

 ま、睨まれてなくてもオッタル―例のレベル7-の見た目と放つオーラが怖すぎて近寄りたくないのだが。それに俺は駆け出しのころにオッタルに何度も半殺しにされたというトラウマを背負ってるから…フレイヤ? あの神は別に嫌いでもないけど特段好きでもありませんね。

 

 だがしかし、現実とは非情で、そして残酷なものなのである…。

 

 どうも俺はオッタルとフレイヤに気に入られているようなのだ。

 これは決して自惚れではない。そう、こればっかりは本当の本当のことなのである。

 

 目が死んでるお前を好くやつなんていねーよばーか

 

 そう思われた方もいるかもしれない、しかし事実なのだ。少なくともフレイヤに関しては正真正銘の真実である。

 何故ならあいつ面きって「私のものになりなさい」とか言ってきたんだぜ? ぶっちゃけ震えたね。何でかって? 後ろで嫉妬からなのか全力でメンチ切ってくる団員ABCDがいたからだよ。

 だからこそ、人に好かれたい俺にとってこればっかりは嫌われた方が俺にとっては幸福だったと言えるだろう。

 

 何故唐突にこんな話をしたのかって? そりゃあ、その噂のオッタルさんと全力鬼ごっこしてるからに他ならない。

 

 

「ちょ、真面目にこっち来るな追いかけてくるんじゃないぃいいいいい!」

 

「……待て」

 

 オラリオは人の話を聞かないやつが多すぎると確信した瞬間である。

 

 しかし何故俺たちが鬼ごっこ(捕まったら死亡確定)をしているのか、それは数時間前に遡る必要があるだろう…

 

 

 

 

 

 黄昏の館、数え切れないほどある部屋の一つ。今日も今日とてそこで目を覚ましたら窓から差し込んでくる日差しがやけに暑かった。

 朝なのにこんなにサンサンと輝いているなんて太陽は社畜根性丸出しだなぁ、そんなことを思いながら時計を見たら短針が指し示していたのは3の数字。

 瞬間、俺の時が止まった。

 や、やべぇえ、朝はとっくに過ぎてお昼もいいとこだってばよ……昨日ロキと酒盛りしなきゃ良かった……許すまじロキ……!

 

 別に学校があるわけでも会社があるわけでもない、冒険者という自由な職業の俺がこの時間に起きて何を焦ることがあるのか、そう思うかもしれない。

 しかしここ、ロキファミリアには生活バランスに鬼のようにうるさい、ハイエルフがいるのである。

 その名もリヴェリア・リヨス・アールヴ。オラリオでも数少ないレベル6にして二つ名である九魔姫(ナイン・ヘル)の名を轟かせる凄腕魔導士、通称母親(ママ)、俺はお母さんと呼んでいる。

 

 そしてただでさえ小うるさいお母さん、もといリヴェリアは俺のことに関しては人一倍うるさいのだ。言い方を変えれば良く気にかけてくれている、といったところか。

 その理由には恐らく俺のこの世界での出自や育ちも関係しているが何より大きな理由は俺の基本的な生活だろう。

 俺の生活スタイルはほぼ毎日夜更かし! ほぼ毎日ダンジョン! ほぼ毎日浴びるように酒を飲む! そして街に出れば毎日トラブル引き起こす! なのだ。

 そりゃ目もつけられますわ……。

 しかしそれだけでそんなに怯える必要あるのか? それもそうだ、教えを破ったのが一回二回なら多少の小言で済むだろう。

 だが、今回ばかりは違う。入団当初から全力でリヴェリアの言うことを無視してきた自分なのだ。当然今まで数え切れないくらい寝坊しているし、他にも色々と教えを破ってきている。

 そして前回寝坊した時に言われたのだ。

 

「次また私の言うことが聞けなかったらその日から一か月間お前に酒はおろかダンジョンすら制限するからな」

 

 まあ、そんなことがあってこんな時間に起きてきたのを見つかったら俺の人生の終わりが見えているため現在すごく広間に行きたくない俺である。

 ダンジョンに行ってなけりゃ大抵あそこにいるからな…

 しかし広間を通らなければ外には出られるないというジレンマ。さてどうしたもんかね。

 窓からの脱出…は窓が小さすぎて不可能だし…仕方ねぇ、広間にいないことを願って行く……前にシャワー浴びてこよ。

 

 

 

 ザァアアアア、という音を奏でながら寝すぎた俺の体に溜まった倦怠感を洗い流していくシャワー。

 これほどのものはないのでは、と思うほど気持ち良いものだ。

 

 それにしても、鏡に今の自分が映るたびにやはり不思議だよなぁ、と思わざるを得ない。

 転生したことは勿論一番の謎でもあるのだが、それ以外にもこうして傷だらけになりながらもダンジョンに潜って死にかけたり、馬鹿みたいに強い人たちと遊んだり、一緒に暮らしたり、毎度の如くギルドに通報されたり、美人さんたちと仲良くなったりと、全てが不思議でたまらない。まるで自分が自分でないみたいだ。きっと転生前の俺に現状を伝えても絶対に信用しない一方で凄い羨望を抱くんだろうなぁ、と苦笑い。

 

 しかし、今でこそこんな幸福に浸っていられるが当時、もしロキに出会わなかったら、自分はどうなっていたのだろう。

 もしかしたらあのまま野たれ死んでいたかもしれない、もしかしたら他の神に拾われていたかもしれない。

 もしアポロンかソーマにでも拾われていたら最悪だったな、と考えたら笑みがこぼれた。

 そんなあり得たかもしれないIFを考えながら俺は浴場を後にした。

 

 

 

 今日は着物な気分だった俺は黒と赤の着物を多少手間取りながらも着用し、若干…どころか全力でビビりながらも広間に向かう。

 段々と広間に近づくにつれ団員たちの談笑の声とバクバクと高鳴る自分の心臓の音が聞こえてくる。

 自然と俺の足は速やかに、しかし音を立てることなく進むようになっていく。

 そして曲がり角の所で一旦止まりゆっくりと広間を見る。

 そこに――お母さんはいない

 

「よっしゃキタコレ! 珍しく超ラッキー!」

 

 思わず小声で叫んだ俺は意気揚々と広間を横切っていく。

 周りからおはよーやこれからダンジョンっすかー? なんて声をかけられるので俺はおはよーやらどうだろなーと適当に返していく。

 そうして幸福に包まれた俺は笑みをたたえながら扉を押し開け街に繰り出した――。

 

 

 しかし幸運とは続かないものである。

 

 出会ってしまったのは、街に繰り出し遅めの昼飯を取ろうと良さげな飯屋を探していた時であった。

 そう、出会ってしまったのだ。二大最強ファミリアが一角、フレイヤファミリアが主神その(ひと)に。

 そしてオラリオ最強の男、猛者(おうじゃ) オッタルに。

 

「あら、久しぶりね甘楽」

 

 脳髄に染みわたり頭も体も溶かしてしまいそうな甘美な声が鼓膜を揺らす。

 

「今日も異質な、それでいて美しい輝きを放っているわね、貴方の魂は」

 

 やっぱり欲しいわ、と言葉を続ける女神フレイヤ。

 ともすれば一瞬で惚れてしまうかもしれない、そんなことを思わせられるほど魅力的で、蠱惑的な女神。

 しかし俺の心は一ミリも揺らぐことがない。何故なら後ろの大男への恐怖の方が勝っているからである。

 敵意はないのだろう、しかし無言で放つ雰囲気がフレイヤのそれを完全に相殺しきっていた。

 

「いや魂て……そこらの人と変わりませんよ」

 

「いいえ、そんなことないわ。言ったでしょう? 貴方の魂は異質だって」

 

「異質とかそんなん気のせいですから」

 

 異質とな……中々鋭いところを突いてきやがるな、流石神。

 確かに俺は異質だろう。少なくと俺はこの世界にとっては異物であろうことは想像に難くない。

 何てたって俺は転生者なのだから、本来ならばこの世界に生まれることはなかったはずの命なのだから。

 ロキには他の神に言うと面倒なことになるから黙っとけ、と言われているが隠し通せるだろうか。

 …いや、無理だな。神に嘘は通用しない、そんなん常識である。

 ならどうするか、答えは一つ!

 

「そんなことはあり得ないわ、甘楽。私は神よ?」

 

 だからね、とフレイヤは続けて口を開いた。

 

「そんな神が分からないあなたは一体何者なの? 話だけでも聞かせてくれないかしら」

 

 瞬間、抗いがたい程の神威が俺の体を縛り上げた。

 人間としての本能が今すぐ跪き全てを語れと警報を鳴らしまくる。

 しかし考えてみても欲しい。

 ただでさえ注目してきている神に自分が転生者なんです、何て言ったらそれこそ勧誘が酷くなるのが目に見えているではないか。

 そんなのは御免なので俺は全力でそれに抵抗し返答を叫びながらその場から勢いよく飛びのき走り出した。

 

「教える訳ねーっだろーがよーっ!!」

 

 呆けたような顔をさらすフレイヤを尻目にレベル6のステータスを遺憾なく発揮し屋根に飛び乗りそのまま駆けだす。

 これで安心だなーと思っていたら背後に強烈な気配。

 振り向くとそこには獣人のおっさん、つまりオッタルがいた。

 

 何事かを言うオッタル、トラウマが想起し悲鳴を上げる俺。

 鬼ごっこが始まった瞬間である。

 そして物語は冒頭へ…

 

 

 

 この広いオラリオを全て走り回ったのではないか、そう錯覚してしまうほどの疲れが身を包む。

 時刻は既に夕暮れに差し掛かっており、太陽は半分ほど沈んでいた。

 

 道を踏みしめれば道が砕けるほど、屋根の上を疾駆すれば屋根がふっとびかねないほどの速さで走り回る。

 ふと後ろを見てみれば俺が通った後をオッタルも通る訳でもう目も当てられないほどの惨状が出来上がっていた。具体的に言うなら道が砕けるどころかはがれてしまっており、屋根は半分以上が吹っ飛んでいた。

 救いがあるとすればここはほとんど人が住んでいない廃屋だらけだということだが、それでもある程度の被害は出ているわけで……うん、全てあのおっさんに押し付けよう。どうせたんまりお金持ってるやろ。

 主神が下種であれば団員も下種なのだ。そんなことを思いながらも更に足に力を込めて駆けていく。

 レベル6の俺がレベル7のやつに未だに追いつかれていないのは恐らく俺の敏捷ステータスがやつの敏捷と比べて高いからなのだろう。

 ま、戦いでもしたら負ける自信しかないけどな。

 

 しかしいつまでもこうしていては埒があかない。

 俺は朝飯昼飯食べていないのだ。そろそろ思いっきりご飯を胃に詰め込みたい。

 仕方ない、ここは一つ対話というものにチャレンジしてみるか…

 

「何で、追いかけてくるんだよ!?」

 

 そう聞くと、予想外の返答が返ってきた。

 

「お前の今の力を、試したい」

 

「……は? 何だ、それはつまり戦いたいってことか…?」

 

「簡単に言えばそうなるな」

 

「無理だ、つーか嫌だわ!?」

 

「そう言うな。昔はそっちから挑んできていただろう」

 

「それ俺が駆け出しだった時のことじゃねーか!?」

 

「そうだ、しかしあの時駆け出しのお前に俺は負けた。だからこそ俺は今日まで研鑽積んできた。この力を今お前に試したいし、お前の今の力も知りたい」

 

「もうそんな昔のこと忘れろよぉおおお! あん時のはたまたまに偶然が重なって奇跡が起こっただけだからぁああああ!」

 

 何お前そんな昔のこと今まで根に持ち続けてたのかよ器ちっせぇええええ! おま、それでもオラリオ最強様かよ……つーかあんたあの一戦の後散々俺をフルボッコにしたじゃねーか……それで満足してなかったとか驚きここに極まれりだよ本当に。

 しっかしそうなってくると、このまま逃げ続けていてもあの戦闘狂は絶対に戦うまで追いかけてくる……くそっ、何で俺はいつもいつもガチムチのおっさんかギルド職員に追いかけられるはめになるんだ……たまには美女に追いかけられたいんだけど……。

 だがまぁ、仕方がない。これ以上付きまとわれるのは俺の精神衛生上とてもよろしくない、非常に面倒臭いがここらで観念するか……。

 

 その場で急ブレーキ、レベル6のステータスで限界まで突っ走っていたせいか靴底と道が擦れて火花が舞う。

 そして当然俺に合わせるようにオッタルもその場に轟音を立てて立ち止まる。

 そんなオッタルに振り向きながら柄に手をかけ口を開く。

 

「しゃあない、お前の挑戦受けて立つよ…」

 

 するとオッタルは隠すこともせず荒々しく口角を上げ背から大剣を引き抜く。

 

「そうこなくてはな」

 

  そう言うと同時に重々しい、重圧な殺気が俺に圧し掛かる。

 あまりに強大なそれに思わず臆しそうになるが自分の足を力強く叩き、気合を入れる。

 小さく深呼吸、気持ちを落ち着かせて刀とオッタルにだけ集中する。

 

 それからほんの数秒ほどの後、どちらかが合図した訳でもない、しかし両者は同時に飛び出した。

 

  轟音と共に振られた大剣、目にも映らぬ程の速さで振られた刀。

 それは両者の丁度真ん中で強烈な火花を散らせた。

 

「ぐ、うぉ…」

 

  手を通して腕へ、そして全身にまでぶつかり合った衝撃が伝わってくる。

 想像以上の破壊力に後ずさりささった。

 

  そしてそれを逃すほどオッタルは優しくない。

 畳み掛けるように大剣は唸りを上げた。

 

 大上段から振り下ろされる大剣をギリギリのところで受け流し、一歩大きく前に出る。

 そして、渾身の突き。稲妻を彷彿とさせるような神速の突きは、しかし苦も無く避けられた。

 

 後退し避けたオッタルが勢いよく剣を地面に突き刺したかと思うと力強く振り上げ岩盤を剥がす。

 宙に舞った岩々が彼によって散弾のように迫ってくる。

 

 それをその場から動くこともせず、目にも止まらぬ速さで刀を閃かせ、細切れ…どころか塵へと還す。

 そして直後に縮地で眼前に迫り一閃、極至近距離で明るく火花が舞った。

 

 より一層力を腕にこめ大きく薙ぎ払い。

 空けられた距離を詰めるようにオッタルは斬撃を撃ち放った。

 

 甲高い金属音を耳に残しながら大きく後退、瞬間―解き放て(バースト)

 霧のような形状をした紫紺色の魔力は刀を包み込み、そして刀を振るうと同時に確りと形を作ったそれは斬撃となり相手のそれをぶち抜き命を刈り取りに行く。

 

 自分を切り裂かんと勢いよく迫ってくるそれを薙ぎ払い、大地を踏みしめ急接近。

 風を穿ちながら大剣を撃ち放つ。

 

 急に目の前に現れたオッタルに驚きながらも魔力を操作、盾状に広げ一瞬だけ受け止めた後に砕かれる。

 その間に回転するように後ろに回り込みそのまま刀を水平に払う。

 

  振り向きながらも背後から迫りくる刀を血が出るのも厭わず腹で受け止め、筋肉で絞める。

 それと同時に腕を掴み勢いよく大剣を振り下ろした。

 

 全く動かない刀からすぐさま手を離すと同時に前方に魔力放出。

 一瞬拮抗した隙に魔力放出を伴いながら全力で掌底。

 

 凄まじい衝撃が体に走ったと思った時には宙を舞っていた。

 地をへこませながら着地するや否や込み上げてきた血液を横に吐き捨て内臓が軽くやられているのを確認、問題ないと断じ刀を引き抜き二刀を構え、飛び込んだ。

 

 魔力を体の周りを流れるように纏い、勢いよく飛び込んできたオッタルが振るう刀を受け流す。

 そのまま大剣も流し切ろうとするが想像を絶するほどの力が全ての障害を断ち切り、そして俺の体に深い切り傷を刻んだ。

 

「が、っはぁ……!?」

 

 返り血が体を濡らし、肉を断ち切り骨を砕く感覚が直に伝わってくる。

 しかしこの程度でくたばるようならこの男はとうの昔に死んでいる、そう考え先ほど流された刀を勢いよく突き出した。

 

 受けた衝撃に悲鳴を上げる体を無理に動かし突き出された刀を紙一重で回避。

 放出している魔力を全て右手に集め手首を攻撃、叩き落した刀を拾いそのまま大きく振り上げる。

 

 手首から広がる痺れに顔を顰めつつもやってくる刀を片手に持った大剣で抑えつける様にガードする。

 その威力に姿勢を崩した甘楽の体を斜め下から断ち切るように一閃。

 

 魔力放出でその場から転がるように離脱。

 鼻先を掠めるように過ぎ去った剣に恐れを抱き一気に後退した。

 

 距離を取ったのを確認し、呼吸を整え大剣を正中線に構える。

 

 ど真ん中に剣を構えるのを視認しこちらは刀を鞘に納め、相手を睨めつける。

 

 数瞬の後に彼らは大地を抉りながら踏み込み己の武器を全力で振るった。

 

 瞬間、爆裂音がその場に響き渡り、その直後に

 

 ―バキリ

 

 不快な音が続いて彼らの鼓膜を揺らし、そして彼―甘楽の刀が小さく断末魔を上げその場に落ちた。

 

「なっ……」

 

「オッフ……いや、え、ちょマジで?」

 

 まさかの折れたぁああああ!? いや本当マジで待って、やばいやばいやばい、こいつはやっべぇ…

 何がやべぇってこんな無惨な終わりを迎えさせちまったことを専属鍛冶師に報告したら死ぬまでボッコボコにされるのが目に見えてるからやべぇ……

 あまりの俺の絶望が表に出ているのかオッタルまで何か申し訳なさそうな顔してる辺り凄いこっちまで申し訳なくなってくるんだが……

 するとそのオッタルが重々しそうに口を開く。

 

「その、何だ、すまなかったな、まさか折れるとは想像だにしなかった」

 

「い、いや、大丈夫だ、気にすんな。きっともう寿命だったってことだろ……」

 

 うんうん、そうだそうだ、と自分に言い聞かせるように呟く俺。傍から見たら不気味な光景である。

 

「つーことで何だ、今回はノーカンってことで、もうお開きってことでどうっすかね……」

 

「あ、ああ、そうだな、ではまた会おう」

 

 あまりに居た堪れなかったのかオッタルはすぐさまこの場を離れていった。

 しかし俺にそんなことを気にしている余裕がある訳もなく、万能薬(エリクサー)を傷に掛けた後に軽く涙目になりながら破片を拾い集めるのであった。

 

 

 

 

 

―その日、オラリオではゾンビが出たと噂になったらしい…。

 

 

 

 

 




この作品での時系列はあまり気にしてはいけない、いいね?

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