紅魔の次女に転生しました   作:センゾー
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【い使法魔の星】話四第

 霊夢達が箱舟の前で会話している頃、箱舟の奥深く、巨大な魔力樹の下に少女はいた。件の魔法使い、エリーナ・スカーレットである。

 

「いやぁ、ワクワクとドキドキが止まらないわねこれ。パチュリー、霊夢、魔理沙、あと、うん、あの人。ちょっと一波乱ありそうだけど、戦うのが楽しみだわ」

 

 誰よりも早く来て、既におっ始めてる『彼女』に一瞬苦笑したものの、少女の表情は直ぐに不敵な笑みに変わる。その視線の先には石板に映る霊夢達の姿があった。小狡い魔法使いは当然のように彼女らを監視カメラ的な魔法で覗き見ていたのである。勿論、声も聞こえている。そこは抜かりないのがエリーナであった。実の所、エリーナのこういう行動が後世に、今からすると過去であるが、大きな影響を与えたせいで、魔法使いに対して若干の警戒を以て接する事が定石とかしたのだがそれはまた別の話。

 多聞に見られたら「そんなセコい真似しないで首領はどっしり座ってろよ。小物の手下なんてのは御免被る」とでも言われてゴミ虫を見るような目で見られるのだろう。そんな空想をして、多聞が持ち場を移るまではしないでおいたその魔法は、案の定エリーナとしては非常に楽しいものだった。「こういうのは背徳感が堪らないのよね」などと口にしながら、コーヒーを啜る。

 霊夢は前と変わらず、イメージとも変わらない。博麗の巫女、異変の解決者としての役割を果たしている。パチュリーも同じく、五大元素の魔法使いといった様子だ。その様に多少思うところはあるが、それは魔法使いエリーナ・スカーレットとして会った時に言うだけのこと。

 

「問題なのは、貴女よねぇ」

 

 紅い瞳が黒い帽子を捉える。無邪気に笑う少女の名は霧雨魔理沙、東方projectにて主人公を務めた魔法使い。その顔立ちにおかしいところはないが、服装に関してはエリーナの記憶と相違があった。明らかに星に関する意匠が多いのだ。服の黒というのも、魔理沙のイメージからそういう認識に近くなるだけで、実際には鉄紺色、或いは深藍のような、とても黒い青に近い。まるで、夜空の色みたいなその上に星のアクセサリーなどが飾られていて、奇妙に美しい。

 明らかに霧雨魔理沙はエリーナの知るそれとは違っていた。そして、その原因が己自身である事も分かりきっていた。エリーナ・スカーレットという魔法使いが魔法の道を拓いた事による、Ifの結果が今の霧雨魔理沙なのだ。パチュリーの魔術もそうだったが、魔理沙の魔法は間違いなく想定の数段上にある。そんな見立てはその姿を見て数秒のうちに得ていた。

 星の魔法。私も思いついて試みた方向だ。ただ、多分私の進んだ方向と魔理沙のそれは違うだろう。

 私が星に着想を得た在り方は「星の属性」の投影だ。月に狂気有り。太陽に繁栄有り、しかし、破滅も有り。金星に優美有れば、火星には勇猛有り。人類が、地球に立つ命が星に見た何かを、星というその象徴を介して発現させる。曖昧故に扱い難いものを星を使って一定の枠に収める魔法だ。これは単に知識に依存する。神話を知り、五行を知り、その星への祈りを知り。後は大した労力を必要とはしない。

 だから、きっとこれは違う。霧雨魔理沙の星はきっとそんな雑な枠組みのものではない。これは願望でなく、希望でもなく、しかし、いや、畢竟、直感という他ないものだ。その勘が吸血鬼としてのものならば信用なぞしないだろうが、今回は違う。今回のは魔法使いとしての勘だ。私の知識と経験と、そして、魔法教育者としての知見から来る予見だ。

 嗚呼、こんな事を言うのは良くないと分かっているけれど、だから、キャメロット魔法学校でも決して言わなかったのだけど、一人である今だから言ってしまおう。私の中に確としてある思考を口にしてしまおう。どうせ、聞くものなど誰もいない。聞かれたところで、私はもう教育者ではない。

 

「霧雨魔理沙こそは、きっと面白くて素晴らしい」

 

 嗚呼、言ってしまった。言ってしまったのだ。こんな事は言うべきではない。誰かを限定して期待してはいけない。教育者は平等に皆を育てなければいけないのだから。教育者でないとしても、私が私である限り、この言葉は意味を持つに違いないのだから。故に、今言葉にした。今どこかへ消えた音はもう誰にも届かない。ならば、きっとこの残酷な予言は消え、恐らくは残酷な現実が来る。

 パチュリー・ノーレッジ、私の教えの一つに忠実であった人よ。少し先で、私は貴方を否定する。否定しなければならない。魔法使いは魔法使いである内は、真実から逃れる事は叶わない。私は私の真実を肯定する。だから、どうか、強くあれ。絶望こそは新たな希望への糸口に他ならない。星の輝きを見上げるだけか、届かぬと知って手を伸ばすか、或いはシリウスをも超えてしまうのか。期待しているとも、パチュリー。信じているとも、ノーレッジ。なに、魔法使いにとっては、多少のブランクは問題ない。そうだろう?

 

 

✴︎

 

 

 馬鹿げた大きさの舟の横を一筋の閃光が駆けた。眩く、強く、逞しく。なのに無意味な流線は泡のように崩れ消え行く。その終着点にいる少女は、巨大な門を前にして不敵に笑った。そしてその手には、陰陽を表す小さな八角形の装置が握られている。即ち、音に聞こえし八卦炉、そのミニマムヴァージョンである。火を点す。炎を灯す。焔を燈す。孫悟空の目を燻った熱が光って見える。いくら小さくなろうとも、八卦炉は八卦炉。その威力は推して知るべし。

 

「さぁ、とっとと終わらせよう。アイツらの方にちょっかいかけに行ってやる」

 

 喧しい収束の音、圧縮の音。然して、一閃。その後には沈黙。あるのは空駆ける風の音と、石が融解する音。

 門だけただの石とは、逆に面倒だろうに、ご丁寧なこった。魔理沙は呆れたように揺れる帽子のツバを撫でた。そして、舟の中、視界の確保などできるはずもない、舞った土埃の前に降り立った。

 

「なぁ、エリーナってのは、面倒くさい奴なのかい?」

 

 返答などない。ただ魔理沙の声が響くのみ。土埃は熱線の威力の余りにおさまる事を知らず、観客のように魔理沙の前に広がる。空虚な行動に見える。土埃に対して話しかけて、案の定答えは返ってこない。多くの人は霧雨魔理沙を不思議ちゃんとでも見るのだろう。しかし、少女は続ける。

 

「沈黙は金、雄弁は銀って言うけど、どうなんだろうな。雄弁が沈黙に劣るだって? 私はそうは思わない」

 

 沈黙。

 

「紫とか見てみろよ。アイツ、舌先三寸で大抵解決してる。というか、幻想郷の強い奴は言葉か問答無用の暴力で解決してる」

 

 沈黙。

 

「強い奴は喋った方がいいんだよ、やっぱり。結局の所さ、」

 

 沈黙。

 

「沈黙が必要なのは、ビビリと弱い奴だって相場が決まってんだ」

 

 沈もk「強盗や空き巣相手に、わざわざ言の葉を紡ぐ奴なんていない」

 

「おっ、ようやく喋ったな」

「戸を叩くこともなく熱線浴びせてくる奴に呆れてりゃ声なんて出ないだろうさ」

 

 時を見計らったかのように失せる土埃の奥に魔理沙が語りかけていた誰かの影が見え、やがてそれは色を得た。煙たそうに手で仰ぐその表情は呆れたような冷めたような、だが、確かな戦意を持ったものだった。

 

「はじめまして、私は霧雨魔理沙。星の魔法使いだ」

「......なんだ、人間か。なら、帰れ。人の身をやめもしない半端な魔法使いが来る所じゃあない」

「嫌だね。ここの奥に、ずっと夢見た魔法が座ってんだ」

「魔法使いでアイツに憧れる、なら、こちらの味方になれ。被支配者の人間で、弱者から力を得て上を目指す魔法使いならばわかるだろう。今こそ下克上の時だ。弱者が強者を統べる時が来たのだ!」

「下克上だって? そいつは困るな。勘弁だ」

「より良い世になるのにか。支配されるままの状況に甘んじるとでも?」

「いやなに、私は支配なぞしないが、強者側なんでな。下克上というよりかは反逆でしかない」

 

 予想外の答えという風に、叛逆者の声は止まった。目の前にいる少女がそんな言葉を吐くという想定がなかった。人の身すらやめずに魔法使いであるようなこの人間が、己をそう定義するだなんて考えていなかったのである。

 

「ハッ、面白い! わからないと言うのならば教えてやるさ。お前達が気にも留めない弱者達の怨嗟の声を! そして味わうがいい、その傲慢を砕く挫折を!」

 

 臨戦態勢。魔理沙は直ぐに八卦炉を握り直し、熱を込めた。さぁ、伝説はもう目の前。取り敢えずは前哨戦を軽く終わらせて、余裕綽々で彼女の前に立ちたいもんだ。王の前に立つ以上、みっともない格好は御免被る。田舎者と勘違いされちゃたまらない!

 叛逆者は、少女の笑顔を見ると悪どい笑みを浮かべて、徐に浮遊すると、その身は逆さとなった。

 

「その顔が挫折に満ちるまであと僅か。さぁ、ひっくり返るぞ、ひっくり返すぞ! この鬼神正邪がお前に逆さの恐怖を教授しよう!」



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