剣の世界で何を得る   作:泥人形

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始めたばっかりのゲームだと何を売って良いのか何を売っちゃダメなのか分からないよね。


二話 準備時間

 

 

「俺の名前はキリト、よろしくな」

 

 朗らかな笑みを浮かべながら全身を黒に染めた少年は手を差し出してくる。

 

「あ、ああ、俺はユクトだ。よろしく」

 

 差し出された手を数瞬眺めた後に握手を求められていることに気づきすぐにその手を取る。もちろんこちらも笑み―ぎこちないものではあったが―作ってだ。

 VRの世界だってのにこういった温もりまで再現出来ているんだな、と握った手から伝わってくる感触に感心する。

 

「それじゃ、パーティー組もうか」

 

ついに俺もパーティー組むときが来たか…!と内心興奮しながらも表に出さないように努める

そうして少し落ち着いたのちに俺は恥ずかしさを堪えながらある事を伝えた。

 

「…すまんがパーティーの組み方知らんのだ」

 

 そんな俺の告白を聞き呆然とするキリト。そりゃーびっくりしますよねー…前線で戦えるだけのレベルでありながらもパーティー組んだこともないなんてな。

 これは馬鹿にされてしまうのか…!とガクブルしていたら予想外に優しい言葉が返ってきた。

 

「マジか、それじゃあ俺が申請するから目の前に出てくる表示のyesをタップしてくれ」

 

 おお、やはりあなたが神か…!見た目年下っぽいキリトを神に見たてていたら不意に目の前に【パーティーに参加しますか?】という文字とその下にyesとnoの文字が現われる。

 なるほどこれのyesを押せば良いのな。そう思い震える指で恐る恐る押してみるとポンッと軽いポップ音が聞こえ俺の視界左上、つまり自分のHPバーの隣に≪kirito≫という名前とHPバーが小さく表示される。

 おお、これがパーティー…!上手く組めたことに感動していたのも束の間、嬉しさに浸るのを遮るようにキリトに声をかけられる。

 

「そ、それでだな、流石に二人なのもアレだからあそこにいる子を誘おうと思うんだけど…」

 

 そう言い指を指すのは真っ赤なローブを纏い、性別を判別出来ないくらいにまでフードを深く被り座っている一人の人物。

 

「おう、行って来い」

 

「やっぱ俺が行かなくちゃダメか?」

 

「申請の仕方を知らん俺が行っても仕方ないだろう?」

 

 漫画かアニメならばドヤァ、といったような音声が付きそうな顔でそういってのけるとキリトはそうだよなぁ…、それじゃ付いてくるだけでもしてくれよ!というので仕方がねぇなぁ…と言いながらついていく。

 ま、別に言われなくても付いて行ってたけどなーとは言わないでおこう。

 

「あ、あんたもあぶれたのか?」

 

 キリトが緊張した面持ちで話しかける。

 

「あぶれたわけじゃないわ。他の人がお仲間同士みたいだったから遠慮しただけ」

 

 いやそれをあぶれたって言うんやで、反射的にそう思うと同時に声の高さからして女性なのだと理解する。

 身長で考えたらこの子は中学生後半から高校生と言ったところだろうか。

 

「なら、俺たちと組まないか。レイドはパーティー組んでないと参加できないし…」

 

 キリトも俺と同じことを考えたのか口の端を引きつらせながらも勧誘をつづける。

 すると少女はふんっ、と鼻を鳴らしてこういった。

 

「そっちから申請するなら組んであげないこともないわ」

 

 少しばかり高慢な態度ではあるがまあそういうお年頃なんだろう、きっと周りの人の好意を素直に受け止めるのが恥ずかしいみたいな。

 それかもしくは俺と同じように組み方を知らなかったとかあ…あれほどまでのぼっちオーラを醸し出していたのだ、むしろこっちが正解かもしれんな。

 そんなことを考えていたら何よ、と睨まれた。最近の少女は怖いですね…

 

 と、そんなこんなでポンッと先ほども聞いた軽い音と共に≪asuna≫という名のプレイヤーだということが判明したところで周りを見渡す。

 しかし期待通りとはいかずに他の人は皆既にパーティーを組み終わっているようだ。

 …アブレ組三人衆に未来はあるのか…!!

 

 そう思いながらもディアベルに報告しに行くキリトについていったら苦笑いとともに他のグループが狩りこぼしたコボルドを狩ってくれとのお達し。

 なるほど雑用係ですね、分かります。まあそれも仕方ないのだろう、多分。

 だって他のパーティー六人なのに俺たち三人しかいないのよ? そりゃ雑用に回されちゃうでしょうよ。

 だからアスナさん。そんな睨み殺さんばかりの勢いで睨む止めよ、な? 不満なのは分かるから、俺もめっちゃ不満だから。でも世の中には仕方がないという言葉があってだな…

 

「了解した、重要な役目だな」

 

 しかしそんなアスナなど華麗にスルーしてそう言い放つキリト。さっすがぁ! と思い顔を覗き込むとすげぇ引きつった笑顔だった。

 あ、やっぱお前もアスナの怒気は察してたのね、そりゃそうよな、あれだけ苛立ちは伝わってきちゃうよな。

 

 そんなアスナの気持ちも露知らず。ディアベルはああ、任せたよ。と白い歯をキラッと光らせてその場を立ち去って行った。

 すげぇ、本物のイケメンは本当にあんな風に笑えるんだな…と戦慄していたらアスナが声を漏らす。

 

「何が重要な役目よ…ボスに一回も攻撃できないで終わっちゃうじゃない…」

 

「し、仕方ないだろ、三人しかいないんだからスイッチでPOTローテするにも時間が足りない」

 

 スイッチ? ローテ? なにそれ美味しいの? そう思っていたらアスナが同じ疑問を吐き出す。

 

「スイッチ? ポット?」

 

 瞬間キリトが少しだけ困った顔をしたまま俺の方を見るのでドヤ顔で応じるとがっくりと肩を下げる。何でやねん、失礼か。

 

「…後で全部説明する。この場で立ち話じゃとても終わりそうにないからな」

 

 キリトがそういうとアスナが少し悩んだように沈黙した後にこくりと頷く。

 そしてその瞬間俺はアスナが俺と同類だと確信した。

 

 何の同類かって? そんなんど素人プレイヤーってことだろうが、言わせんな恥ずかしい。

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてボス攻略会議はA~Gまでナンバリングされ、各部隊のリーダーの短い挨拶とコルとアイテムの分配を決め、ボスを攻略する日にちを決め終了した。

 ドロップアイテムは落ちた人の物となるとかなんとか。その方が蟠りが起きなくて良いらしい。

 因みにエギルは壁と呼ばれる役目を背負う部隊のリーダーで、キバオウは取り巻きのコボルド殲滅部隊のリーダーである。

 壁、というのはヒットポイントの高いプレイヤーや、防御力の高いプレイヤーがモンスターのターゲットになり体を張ることで、他には盾やタンクと言った名称がある…らしい。

 らしい、というのはキリトの受け売りだからである。

 そして先ほどA~Gまでの部隊が作られたと言ったがその中に俺たちは含まれていない。

 ナンバリングされるほど人数がいなかったためE隊―キバオウの部隊―のお手伝いみたいなものである。

 これに関してはアスナどころか俺たち三人ともうへぇ、と顔をしかめたが仕方ないということで割り切った。

 

 そうして現在俺たちは圏外の森の中にてキリト先生による講義を受けている。

 

「まずはPOTってのはポーション、つまりは回復薬ってことだな。これの特徴は分かるか?」

 

「あー…一気に回復しないでじわじわ回復する、とか?」

 

「イグザクトリィ! その通り。SAOのポーションは少しずつ回復する。更に言えば一度使った後にすぐまた使えないってところだな。まあ、上に行けば結晶ってのがあってそれなら一気に回復できるんだけどな」

 

 まあ高価だから中々大量に手には入れれないが、と言い言葉をつづける。

 

「つまりポーションで回復するには時間がかかるんだ。相手が雑魚ならこれで問題ないがボスが相手となると話は変わってくる。何故ならボスってのは攻撃の一つ一つが強力だからな。ゆっくりちまちま回復してたんじゃ次に喰らった時にHP全損、なんてこともありえてくる」

「そこで必要となってくるのがPOTローテだ。攻撃を貰ったプレイヤーがポーションで回復してる間に他のプレイヤーがモンスターの相手を務める。そのプレイヤーが傷ついたらまた他のプレイヤーが…て言った具合にな。これが俺たちがボスの相手を出来ない一番の理由だな」

 

「へぇ…そんじゃスイッチってのは?」

 

「スイッチってのはモンスターに攻撃するプレイヤーを細かく交代するってことだ」

 

「…何でそんな面倒なことをするの?」

 

 アスナがそう聞くとキリトはその言葉を待っていましたと言わんばかりに笑みを作る。

 

「まず、モンスターってのはボスやモブに限らず一番ダメージを与えてくるプレイヤーを優先的に狙ってくるものなのは分かるよな?」

 

「え、そうなのか。知らんかったわ」

 

 衝撃の事実である。そう思っていたらキリトに呆れ気味にそうなんだよ、と言われた。

 初のネトゲで今までソロでやっていたのだ。そんなこと知るわけないだろーが…!

 

「ま、まあそれでだ。モンスターに狙われた状態で一人でずっと攻撃し続けていれば当然同じように攻撃され続けてしまって回復も防御もままならなくなってしまう。そこで、他のメンバーが攻撃してやって意識をそらさせ、交代する。これをスイッチっていうんだ。あまり慣れてないパーティーならば声かけは必須だな」

 

「ほーん、実際やるとなれば結構難しそうだなぁ」

 

「そうね、確か…ソードスキル、といったかしら。あれ使った後数秒硬直するし」

 

「その通り。そこら辺は慣れていくしかないから、ディアベルはボス攻略の日を三日後にしたんだと思う」

 

「なるほどねぇ…色々考えてんのなぁ」

 

「ま、そういうことだな」

 

「それじゃ、これからその特訓ってことか?」

 

「そうしたいところだけど…二人とも大丈夫か?」

 

「問題ないわ」

 

「俺も大丈夫だ」

 

「よし、それじゃ早速迷宮区のコボルド相手に練習しにいくか!」

 

 

 こうしてキリト先生による~SAO講座~は実践編へと移った。

 

 

 

 青い軌跡を描き剣が華麗に舞う。

 それは凄まじい速さでコボルドの首に迫りそのまま直撃。

 コボルドのHPが一気に七割ほど削ったのを認識した瞬間声が響く。

 

「スイッチ!」

 

「了解!」

 

 それに素早く応え、交代するように前に出てコボルドの顔面に青白い光を纏った刃を突き立てた。

 ズガァッ! としっかりとしたインパクトが手に伝わってき、そのまま貫きコボルドの体を爆散させた。

 

 

「ナイス」

 

「ん」

 

 声をかけつつハイタッチしようと手を出すが華麗にスルーされる。

 無視とかお兄さん悲しいよアスナちゃーん…

 

「中々息があってきたな。ここらで今日はやめておこうか」

 

「分かったわ」

 

「それじゃ、今日は解散ってことで、んじゃねー」

 

 ぶっちゃけ凄く腹が減っていた俺はその場を速やかに後にし街に向かった。後ろでキリトが何か言ってるけどまあ無視で良いだろう、さっきフレンド登録したから緊急であればメッセージ寄こしてくるだろうしな。

 …初めてのフレンドでやはり気分が高揚したのは言うまでもない。

 

 ほぼ完ぺきな別世界とも言えるこの世界にも欠点はある。

 それはご飯だ。この世界のご飯は全てにおいて美味しくない。全て「あー○○っぽい味するわー」程度の物である。

 しかしそれでもここまで腹の虫が泣いているのならばそれなりに美味しく感じられるのではないだろうか。空腹は最高のスパイスともいうしな。

 若干ワクワクしながらも軽い足取りで街に到着。手近なレストランに入り席に着き見た目パスタな何かを頼む。

 

 頼まれたものが来るまでそれなりに時間がかかるのでその間にアイテムの整理をしようとウィンドウを開く。

 うーむ、コボルド狩りまくったせいかコボルド系のアイテムがアホみたいにあるな…宿屋に戻る前に換金してしまうか…おっ、武器ドロップしてんじゃん! さてさて性能は…今の武器より圧倒的に下だな、これも売却っと。他にもいらなそうなアイテムは…妙にドロップ数少ないのあるな、売っていいものなのか後で役に立つものなのか…悩む。後でキリトにメッセージ送って聞いてみようか。

 

 用途が分からないアイテムを前にうんうんと唸りながらも整理していたらテーブルにNPCと思われる女性がコンコンッと水とパスタを置いていく。

 それに反射的にありがとうございます、とつぶやく。

 相手はNPC、故に本来ならば必要ないのだがこういうのは気分の問題なのだ。

 

 と、まあ考え事もこんくらいにして、と。

 

「いただきます」

 

 手を合わせてそう言った後にフォークで黄色の面をクルクルと巻き一口。

 うん、不味くもなければ美味しくもないね! 

 麺はふにゃふにゃしていてアホみたいに柔らかいし、一応ミートパスタのような見た目なのだがミートパスタ風味のお菓子のような味がしてどちらかというと不味いまである。

 しかし食べられないほどでもないのでゆっくりと食べ進めていった。

 

 

「ふぅ、空腹と言っても限界まで空かせないとダメみたいだな、こりゃ」

 

 レストランから出ての第一声である。

 だって見た目に反してすっげぇ期待外れだったんだもの…料理スキル取ろうか本気で悩むレベルである。

 まあ結局取ることはないんだけどな。そんな娯楽的なスキル取るのはきっと今よりずっとレベルが高くなって余裕ができた頃だろう。

 

 

 そんなことを考えながら宿屋に到着。

 まあ宿屋と言っても民家なのだが。当時はクエスト探しにあちこち家に入っていたらそこに泊まれるということに気づき感動したものだ。

 と、まあ少しばかり値は張るが結構上質な部屋を借りれた俺はふっかふかのベッドに潜りこみそのまま意識とさよならをした。

 

 

 

 

 

 

 




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