剣の世界で何を得る   作:泥人形

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凄い時間かかってしまいました。
そして凄まじいこれじゃない感。
多分次話もかなり遅れるんじゃないかなぁ…
まあ気長に待ってくれたら嬉しいです。
それでは四話目楽しんでくれたらありがたいです。


四話 二層へと

 爆散し、散らばっていく光の欠片が頬を撫でる。

 赤とも青とも言える粒子は大きく広がった後に天に還るように消えていった。

 そんな光景をどこか信じられないような気分で見守り、完全に消えた時に全身から力が抜けたように崩れ落ちる。

 軽くはない衝撃が体に走るが気にすることもなく呆然と天井を見つめた。

 

 徐々に体中からやる気というか、熱意が抜けていくような感覚。その代わりに大きな達成感が空っぽを満たしていく。

 そしてそれと同時に手先が震えてきた。

 それは多分、恐怖ではなく、嬉しさで。

 そのことを認識すると同時に笑いが込み上げてきた。

 

 埒外の存在。圧倒的強者。そんな存在を倒すことによってまた自分の中の現実が移り変わっていくようだった。

 ずっと生きてきた現代を少しずつ忘れさせていき、この幻想を現実だと思い込まされていくような気分だった。

 自分は何もできない平凡な学生ではなく一人の戦士であると認識されていくようで、とても気持ちが良かった。

 

 そんな心地の良い気分を味わっていると不意に茶色の頭が視界に入った。

 

 「congratulation、見事だったぜ、少年」

 

 そう言い笑顔で拳を突き出してくるのは妙にガタイの良いおっさん。

 確か攻略会議の時話してた…エギル、と言ったか。

 そのエギルに笑みを向けこちらも右拳を突き出す。

 

 ゴツン、という音と衝撃が何故だかとても嬉しくて、作るまでもなく新たに笑みが浮かんだ。

 ゆっくりと上体を起こし口を開く。

 

 「俺はユクトって言うんだ、よろしくエギルさん」

 

 「ああ、今後のボス戦でもよろしくな」

 

 さんは付けなくても良いし、敬語じゃなくても良いぜ、と握手をしながらそう言ったエギルは自分の仲間のところへ立ち去って行った。

 その背中を追うように視線を動かし周りを見渡した。

 そこにはハイタッチをするもの、互いに抱きしめ合うもの、肩を組み大騒ぎをするものなどそれぞれが大興奮しながら勝利を称えあっていた。

 

 両腕を後ろに回し体を支えるように床に手をついてそんな光景を眺めていると不意に両肩に軽い衝撃が。

 誰だろうか、そう思い顔を後ろに向けるとそこにはキリトとアスナの姿が。

 疲労感を滲ませつつも隠し切れない笑みを浮かべる二人に労いの言葉をかける。

 すると二人もほとんど同じタイミングで同じ言葉を返してきた。

 

 仲が良いこって、そう言うとそんなこと…! とアスナが必死に否定してくるがそんな必死にならなくても、とキリトが苦い顔してるのが中々面白い。

 そのまま二人をからかうように談笑しているとまたもや誰かが俺達の前にやってきた。

 

 「やあ、さっきは助かったよ。本当にありがとう」

 

 申し訳なさと感謝の念を声音に潜ませるのは青髪の片手剣剣士、ディアベルであった。

 その顔には疲れと、少しの焦りのような、恐怖のようなものが刻まれている。

 

 「気にするな、当然のことをしたまでだよ」

 

 「はは、そう言ってくれると助かるよ…」

 

 ディアベルにそう返したのはキリト。ちなみにアスナは訝し気な目でディアベルを見ている。

 そんなアスナの表情を読み取ったのか困ったように苦笑いをし、そしてその直後に真剣な表情でこちらを見てくる。

 それは、戦闘が終わり気が抜けるこの状況でするものではなく、どこか泣きそうにも見えた。

 

 「その、三人に…頼みたいことがあるんだ」

 

 「…なんだ?」

 

 「俺は…気づいているだろうけど、βテスターだ、だけどそのことは皆には―」

 

 「黙っていて欲しいんだろ? そのくらい言われなくても誰にも言わないさ」

 

 キリトの言葉に同調するように首肯する俺とアスナ。

 するとディアベルはほっとしたように表情を緩ませ微笑みありがとう、と申し訳なさそうに、しかし嬉しさを内包した声音でそう言う。

 しかしそれもまた仕方がない、と言えるだろう。

 今ここに集まっている俺たち以外のプレイヤーの間では、ディアベルはビギナーでありながら皆を率いるリーダーである、というのが共通の認識なのだから。

 その認識をここで崩してしまったら、間違いなくディアベルは信用を失い漸く一つになってきた前線組がまたバラバラになってしまうであろうことは想像に難くない。

 この状況でそんなことになるのはこちらとしても望んではいないのだ。

 …まあ俺たち以外にも何となく察しているやつはいるだろうがまさかこの場で糾弾なんてアホなことはするまい。

 

 そう言えばディアベルが切られてからキリトの指示に従い戦った訳なのだが、そのせいで恐らくキリトがβテスターだということを皆悟ったであろう。

 皆、どう思ったのだろうか。βの野郎情報を隠していたな、とでも思ったのだろうか。

 それともβテスターのお陰で助かった、と思ったのだろうか。

 ネトゲは嫉妬が酷いと聞くしもしかしたらラストアタックボーナスとやらを持っていかれた、と憤慨しているかもしれない。

 …流石にこの状況でそんなことを思う人間はいないか。キリトを糾弾とかお門違いにも程があるしな。

 

 しかしここにいるおっさんたちはどうもそこら辺信用しがたい。βかそうでないかで揉め事起こしてしまうくらいなのだ。悪い意味で、子供より子供らしい。

 そして現状一部を除いて恐ろしい程に頼りなさすぎる。いやディアベルが頼りないというわけではない。

 俺が言いたいのは未成年にすら見えるディアベルに引っ張ってもらい、纏めてもらっているおっさんたちはどんな考えを抱いているのだろうか、ということだ。

 疲れを滲ませつつも礼を残して立ち去るディアベルの背を見てそう思う。

 

 キリトとアスナはディアベルに付いていくように今回のボス戦の主力メンバーたちと話に行ったようだ。

 二人は俺にも来いと言ったのだがぶっちゃけ怠いのでパスさせてもらった。

 

 その後は天井を見上げながら、ぼんやり長々と呆けていると不意に肩をつつかれた。

 ぼんやりと巡らせていた思考を放り投げ後ろを見れば案の定アスナとキリト。

 

 「なしたよ」 

 

 「さっき話してきたんだけどさ、俺たちが二層をアクティベートすることになった」

 

 「アクティ…なに?」

 

 「アクティベートよ」

 

 「何それ?」

 

 「一層の転移門から二層の転移門に行けるようにすることだ」

 

 「なるほど。どうしてまた俺たちが?」

 

 「βテスターだってこと言ってきて、二層のことは知ってるから先にしてこようか、って提案してきたら」

 

 「あっさり了承、どころかお願いまでされたのよ」

 

 「ほう、そりゃ意外だな」

 

 βだってことをわざわざ公言したらキバオウ辺りが噛みついてきそうなものなのだが、ディアベルを助けてくれたし不問にしてくれたらしい。

 それでも友好を築けたわけではない辺りが面倒臭いが。

 

 横目でHPが問題ないくらいには回復しているのを確認した後に立ち上がり、行こうかと促す。

 言われなくても、と先んじて歩いていくアスナとキリトに追いつくように足を速めた。

 

 

 巨大なボスが守護していた大きな扉。

 それを三人で同時に押し開け長い螺旋階段を少しばかり早歩きで登っていく。

 ふと横を見れば次の階層を表しているのか広大な野原と走り回る牡牛の絵。

 中々想像が膨らむな、闘牛ごっことかしてみたい。布は…アスナのフードとかで良いか、赤いし。

 更に先に進めば色々な武器を持った人型の牛なんかも描かれていた。

 どうやら牛男にも種類はあるらしい。

 

 「この絵ってやっぱり次の層を表してるのか?」 

 

 「ああ、第二層は牛牛牛のモーモーランドだぜ」

 

 その言葉にアスナがうへぇ、と顔を少しだけゆがめた。というか俺もゆがめた。

 だって見る限りこのミノタウロスみたいなのなんて超筋肉質じゃん? こんなのが勢いよく迫ってくるとか生理的に受け付けなさそうだ。

 キリトはそんな俺たちを見てカラカラと笑っていた。

 

 そんなこんなで頂上である。

 階段の天辺にあったのは壁に描かれていたような美しい絵が描かれた巨大な扉。

 これまた二層を表しているようだった。

 

 少しだけ見惚れた後に勢いよく扉を押し開ける。

 開かれていく扉の隙間から吹き込んでくる風が体を煽る。

 現界まで開かれた時、映り込んできたのは途轍もない絶景。

 扉は急角度の絶壁の途中に設けられていたようだ。テラス状の下り階段も設置されている。

 思わず感嘆の声が漏れた。

 

 「絶景、だな…」

 

 「そうね…」

 

 二人が短く言葉を交わすのを尻目にふらりと先に進み岩肌から延びるテラスの端に寄り、ぐるりと二層の景色を見渡す。

 見慣れた一層と似ているようで、少し違う。

 連なる山の多さも、どこまでも広がる平原も、果てのない空の青さも全てが違うものに見えた。

 アクティベートとやらをしたらあそこに行ってみよう、あそこにも行ってみたいな、そう考えながら遠目にある街や山を見下ろしていく。

 

 「何時までも見ていたいけど、そういう訳にもいかないし、もう行こうか」

 

 「ん、了解」

 

 後ろからかけられた言葉に振り返らずにそう返す。

 階段に目を向ければかなりの長さ。

 かったるいなぁ…そう思いながら一段ずつ下りていく。

 やはり疲れているのか、会話をすることない。

 暇になってしまった俺はつづら折りのようになっている階段の段数を数えていくが30を超えた辺りでやめてしまった。面倒だったのだ。

 仕方がないので適当に妄想でもしながら進んでいく。

 頭の中では俺はとても強くてかっこいい勇者様なのだ! はっはっはっー! …虚しいな。

 

 思考を完全に停止させ無心で降りていく。

 考えることすら怠くなってしまったのだ。

 肉体的疲れは生じなくとも精神的な疲れは溜まるのだから、仕方ない。

 ふと後ろを見れば仲良く並んで歩くキリトとアスナ。

 容姿の良い二人は並べばそれこそお似合いのカップルにさえ見えた。

 思わずぐぬぬ、と歯を食いしばる。

 こちとら彼女なんて夢のまた夢だというのに…!

 別に二人は付き合っている訳でもないのだがそう思ってしまった。まあ仕方がない。

 

 仕方ない、何と素晴らしい言葉だろうか。

 どんな理不尽な状況に陥ってしまってもこの言葉一つでどうとでもなる魔法の言葉である。

 

 連想ゲームのように思考をつなげていく。無心でいるより何か考えていた方が楽だと気づいたのだ。

 そういえば、魔法と言えばこの世界には魔法というのはあるのだろうか。

 いやソードアートオンラインというくらいだからやはり物理攻撃しかないのだろうか。

 いやでもせめて魔法剣士みたいな…こう、付加系魔法みたいなのくらいは使ってみたいものだ。

 

 と言ってもこの世界に来てから使っているソードスキルはある意味魔法なのかもしれない。

 持っている武器が光出して自動的に体が動くとか何それファンタジー。あいやここファンタジーだったね。

 眼前に広がる景色を見てそう思う。

 

 下らない思考をぐだぐだ考えていたら階段はもう終わりのようだった。

 やっとか、そう呟き一段抜かしで降りていく。

 後ろからあ、待てよ! 何て聞こえてくるが華麗にスルー。

 一段飛ばし、二段飛ばし、三段飛ばしと抜かす段数を一つずつ増やしながら降りていく。

 そして最後に十段くらいあるのを少々ビビりながら一気に飛び上がる。

 ぶわぁ、と押し返すようにかかる風が気持ちいい。

 予想以上に跳んでしまったことに焦りながらも上手く着地。野原の草が軽く舞った。

 HPが多少減ったがそこはご愛嬌ということでここは一つ。

 減ったなら上手くねーじゃん! とかいう意見は無視の方向で。

 

 「ふー、微妙に焦ったな」

 

 額の汗を拭うような仕草でそう言った瞬間―

 

 ゴガァ!

 

 「ぐっはぁぁあああ!?」

 

 「うわぁあああすまん!?」

 

 背中にとんでもない衝撃と若い男の謝罪の声が。

 こいつ…碌に下を見ずにジャンプしよったな…

 この世界痛みはないが代わりに凄まじい不快感が走るのだ。

 パーティー故にダメージが入らないのが唯一の救いであったな。

 背中に圧し掛かっているキリトをどかし注意する。

 

 「全く、周りを見て動けよな――!?」

 

 ドカカァ!

 

 「ぐぉおおお…」

 

 「あ、ご、ごめんなさい…」

 

 背中にとんでもない衝撃と若い女の謝罪の声が。(あれ、デジャブ…

 こいつ…碌に下を見ずにジャンプしよったな…(二度目

 この世界に痛みはないが代わりに凄まじい不快感が走るのだ(さっきも言った気がする

 パーティー故にダメージが入らなかいのが唯一の救いだったな(既視感

 背中に跨るアスナをどかし青筋を立てる。

 前を見ればどうもニヤニヤしている二人の顔が。

 

 「お前ら狙ってやってない?」

 

 「ま、まっさか~…」

 

 「そ、そんなことしないわよー…」

 

 「そんなあからさまな棒読みで誤魔化されるかぁ!?」

 

 貴様らそこに直れぃ、とズンズン近づいていく。

 

 「はははっ、逃げろぉ!」

 

 「逃がすかっ!?」

 

 「あなたに追いつけるかしら?」

 

 笑いながらスタコラサッサと逃げ出す二人。

 どこか余所余所しかったアスナまで乗り気でいるのに少々驚きながらも俺は笑顔で勢いよく追いかけだした。

 

 

 

 


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