いや書いてはいたんだよ書いては。気に入らなくて書いたそばから消してたけど。
もしかしたら今後は投稿スピード早くなるかもです、多分きっともしかしたら(真顔
カーンカーンカーン
一定のリズムで刻まれる金属音が茜色に染まった空に吸い込まれるように消えていく。
金槌が鉄の剣を叩くたびに火花が踊るように飛び跳ねた。
カーンカーンカーン
槌を振るう眉尻の下がった茶髪の青年は緊張しているようで額に汗をかいていた。
そんな様子を成功するか失敗するかなんて乱数で決まるのだから無駄だろうに、と表情を変えることなく考える。
因みに乱数云々については昨夜キリトが言っていたことなので本当なのかは知らん。ニュービー(?)なめんな(真顔)
そうこうしている内に剣が水色に光りはじめた。今までも何度か見たことのある光。すなわり強化時の光である。
こんな非現実的な光景も知らないうちに日常となるのだろうか、そう思うと少しだけ心が昂った、そんな気がした。
しかしそんな自分を冷静にさせたものがあった。パキリ、という聞き慣れないひび割れたような不快な音だ。
ん?と疑問視を浮かべて注視すればバキバキパリィィィン!と金床の上で我が愛剣がさながらガラスの様に、光の欠片に姿を変えて消えていった。
要するに砕けのである。
……って。
「なにぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?」
「も、申し訳ありません!!」
二人の男の悲しい叫びもまた、吸い込まれるように消えていった。
「ほ、本当に申し訳ありません!」
ペコペコと言葉通り本当に申し訳なさそうに頭を必死に下げる青年ー名をネズハと言うらしい-は冷や汗ダラダラで今にも泣きそうな面をしていた。
分かるぜその気持ち。俺も昔友人に借りたボールペン分解して遊んでたら戻せなくなって若干涙目になったからな。他人のもん壊すと超心苦しいの、分かるぜ。
まあだからといって許すつもりはありませんけどね?ヒトノモノコワスダメ、ゼッタイ。
おちゃらけているようでその実若干キレているのだ。何なら今すぐ叩き斬ってやろうか、てくらいには。まあ今剣ないけどな!
しかしこの場合知らん人を信じて預けた俺が悪いのだろうか。
うむむ…でもこらは言うなればお店側の過失でありお客である俺は悪くないのでは…?彼は俺の信頼に応えるべきだったのでは…!
とか考えてきた辺りで面倒になってきた。そこそこ強化したものではあったが別にレアドロップだった訳でもない。
NPCショップで普通に売ってた武器だ。(それでも2000円…コルもしたのだが)。今回ばかりは仕方がない。運が悪かった、ということで済ましてしまおう。そう決め口を開いた。
「それじゃ、今の剣と同じやつタダでくれ。未強化でいいから」
全然決まってなかった。むしろ引きずりまくりだった。
べ、弁解をさせてくれ!何も嫌がらせをしたいわけではないんだ!ただ…その…2000円は重たいっていうか…それだけ稼ぐのに何日必要だと思ってんねん、的なね?
この層のモンスターを20~30体殺さなきゃ稼げない額なのよ?そらこんな態度にもなるわ…命かかってるんだぞ…。
ただでさえ飲み食いしまくって金がない今上がってきたばかりの層で買ったばかりのやっすい剣で外出るとか無謀の極み。むしろアホの極致。
てなわけでさっさと寄こせはよ寄こせ、と言わんばかりに手を差し出した。
「す、すいません、今在庫を切らしていまして…」
「えぇ…まさかの…。それじゃああれ、強化代だけ返してくれれば良いや」
「は、はい、!」
青年が指先を虚空をなぞるように滑らすとチャリチャリチャリーンとお金の音が響き渡った。
視線をずらし所持金に強化代が加算されたのを確認する。しっかり600円…コル返金されているようだ。
最後に一つ文句でも言おうかと思ったがあまりにも悲し気な顔をしているのでそんな気もすっかり失せてしまい、まあそう落ち込むなよ的なことを告げ、俺はその場を離れた。
「はてさて、どうしたもんか」
アインクラッド第二層:ウルバスの街の小さな空き地にて寝転がりながら考える。
その内容は新しい大剣をどこで調達するか――ではなく、いっそ大剣使いやめてしまおうか、といった悩みだ。
熟練度上げておいてやめちゃうの…とか思うけどぶっちゃけ大剣あんまり性に合ってないっていうか…こう、一刀両断!とかは好きだけど実際戦ってみると自分はちまちまうざい感じに攻撃する方が合ってるっぽいのだ。
まあどうしてもヒットアンドアウェイになっちゃうよねー、だってモンスター怖いし。
特に人型のが多いって辺りが最高にビビる。殺した時微妙な罪悪感得てしまいそうで手が震えるわ。
てなわけで、どうしようか。候補としては短剣、片手剣、片手槍、細剣、と言ったところか。
更に絞り込むなら片手剣と細剣は却下。何故ならあの二人と被るから。
では短剣か片手槍か…んー、悩むけどやはり片手槍かなぁ、短剣じゃあまりにも攻撃力が心もとな過ぎる気がするし、ぶっちゃけ槍の方が好みだ。
そうと決まれば武器屋に直行あるのみ…とは思うがひとまず二人のところに戻ろう。
もしかしたらキリトならグレードの高い槍が手に入るクエ知っているかも知れんしな。
よし、と頷き立ち上がりんんっ、と背伸びをする。
パキパキッと体が鳴る音がする。
「本当にどこまでもリアルだな…」
感嘆の言葉を吐き、改めて茅場の凄さを思い知る。
―――ポロロン!
「うおっ!?」
聞き慣れない音が頭に響く。
何だ何だと見渡せば視界の端っこにメールのマークが点滅していた。
これはつまり…メールが来た、ということで良いのだろうか。
シュッと腕を振るいウィンドウを操作しメール欄を開くと一番上にfrom:Kiritoと表示されている。
タップすればブォンッと近未来的に目の前に文面が広がった。
内容は簡潔で、東端にある宿をとったからさっさと戻ってこいという内容であった。
因みに今日の飯はアスナの料理である、とも。
え、何それ怖いんですけど…ゲル状の物質とか出てこないよね?この世界の料理全体的に信用できないから…
唐突に不安になってきたがそれはそれ、取りあえずいざという時のために安物のパンを購入し宿へと向かっていった。
結果を言えば、パンは必要なかった。
といってもそこらのレストランの方が万倍マシ、というレベルではあったのだがそこはそれ。これから熟練度を上げて何時かは最高レベルに美味いもんをご馳走して頂ければそれでいい。
俺は先を見据えて動ける人間なのだ。何でも長い目で見るのが上手く生きるコツなのだよクククッ。
「てなわけで、剣が壊れたので良い槍手に入るクエとか知らない?」
「いやどういう訳だよ…」
「一から説明しなさい…」
「強化してもらおうと思ったら何かぶっ壊れた。良い機会だし変えよっかなって思った」
「いや意味がわからねーよ!?」
「なぜゆえ伝わらぬ!」
「雑に省略しないの…」
仕方がないなぁ…。これ以上は怠いだけなので懇切丁寧みっちり一から説明していく。
二人ともすごい眉間にしわ寄せながら話聞いてるからしわ増えちゃうぜ?と言ったらアスナに無言でアッパーを喰らってしまった。痛い。
「んー、困ったな。βでは強化で破壊、なんてことはなかったし…アルゴに聞いてみようか」
「アルゴ?ボス戦の時話題になったやつ?」
「そうそう、そいつそいつ」
キリトはそう言い手慣れたようにウインドウ操作し始めた。
その間暇なのでアスナと雑談してみる。
「俺がいない間そっちは何か面白いことでもあった?」
「そうね、この層は一刻も早く通り抜けたい気持ちが強まったくらいかしら」
どうやら上半身裸の牛男モンスターが跋扈しているようでそれが大いに気に入らなかったらしい。生理的嫌悪を催すとかなんとか。
俺は特にそんなことは思わなかったがそこはそれ、やはり女子ということのなのだろう。見た目中学か高校くらいだし。
「でも多分迷宮内はそいつらで埋まってるレベルだぜ?耐えられんの?」
「視界に入った瞬間殺すから問題ないわ…」
目を細めてそういうアスナの目力は割と迫力があって軽く引いた。
「ああ、そういえば、今キリトくんが連絡してるアルゴさんと今日会ったわよ」
「お、マジで?何円取られた?」
「どうして取られる前提なのよ…それにこの世界では円じゃなくてコルよ」
「あ、コルだったな。うーん、これだけはまだ慣れねぇな…」
金銭感覚だけはどうにも慣れないもんだな、と頭をかく。
どうしても円って言っちゃうんだよなぁ…
「おい、二人とも!今からアルゴこっち来るってさ」
「え、メールで済ますんじゃないんかい」
「気になるから直接聞きたいってさ」
「なるほど…」
「あからさまに面倒臭そうな顔しないの」
「そんな顔に出てた?」
「モロ出てたわね」
「不覚…」
いやお前どんなキャラだよというキリトの言葉を無視して顔をムニムニ触る。
そんな表情豊かでもないはずなんだがなぁ…
「顔に出やすいのが気になるのか?でも気を付けたところでどうにもならないぜ?」
「え、何故分かったし。そして何故だし」
「この世界の感情エンジンってのは少し極端でな、隠そうとしてもモロに出ちゃうんだよ」
喜怒哀楽、全てにおいてな。と続けるキリト。
つまりはこの世界では常に感情さらけ出した状態で過ごさなければならないということか…
ここに来て二か月、最大の驚くべき真実である。
だってテンションが下がってたり上がってたりするのが一発でばれてしまうってことだろ?めんどくさすぎるやんけ…。
いやぁこれからは無駄だとしても思いっきり気を付けなけらばいけないっぽいですね…流石にこの世界に来ることになって超喜んでるなんてばれたくないし。
だってバレたら不謹慎だ!とか言い出す奴絶対いるじゃん?個人の感想なんだから好きにさせろや、とも思うが世の中そんなに甘くないのも知っているのだ。
何てったって俺は大人だからなっ(高校生)
――コンコンコンッ
不意に扉が三回叩かれた。いやノックされた、というべきか。
噂のアルゴが来たってことか、と扉側に体を向けると同時にアスナが扉を開けた。
「ようアーちゃん、キー坊、そして…青年A]
「いやせめて名前聞こうぜ守銭奴ネズミガール」
「守銭奴とは随分な物言いじゃないかモブB]
「おうこら何ちゃっかり格下げしてんだネズミ」
「いやお前ら初対面なのに何でそんな言い合いしてんの!?」
キリトが思わずと言わんばかりに口を挟む。
「む、初対面ではないぞ?一層の攻略本こいつから買ったことあるし、それに色々噂も聞くし」
「ム?ああ、あの時の大剣使いか」
「おぉ、覚えてたんか」
「さっきまで忘れてたけどナッ」
ニャハハーと笑うアルゴ。無駄にあざといなぁ…なんて思ったり。
「まあ、てことで俺の名前はユクト、よろしく」
「オウ、よろしくな」
右手を差し出し握手する。心なしか力が込められていたがきっちり力を籠め返しておいた。
「そんなことしてないで本題に入りましょ」
「ン、それもそうだナ」
「ほら、早く話せユクト」
「あ、俺なのね」
てことで語りだす。二回目ともなると慣れたもんでさっきよりもスムーズに簡潔に話せた(と思う)。
「なるほど、光った直後に粉々カ…」
「何か心当たりあるか?アルゴ」
「いや、申し訳ないが見当もつかないナ。正式サービスから始まった仕様だと考えるのが一番現実味がありそうダ」
「やっぱそうなるよなぁ…」
「その鍛冶屋さんが何かしらの方法で破壊した、ってことはあり得ないの?」
「うーん…それは難しいだろうなぁ、誰にもバレずに耐久値をゼロにしたってことだろう?」
「それも他人のだしナ…厳しいとオレッチも思う」
「強化中は割と注視してたけど特に怪しい事はしてなかった、と思うぞ」
「うーん、結局分からずじまいね」
「ま、それならそれで良いさ、主武器槍に変えようと思ってたところだし」
「まあユクトくんが良いなら良いんだけど…」
「ン―、オレッチはオレッチなりにもう少し調べてみようと思う」
「俺も気になるし調べてみるよ」
そう言い残しアルゴは去っていった。
因みにちゃっかり俺のフレンド第三号になっていった。やったね!
「さて、てことで散々スルーされていたが槍の手に入るクエを教えてもらおうじゃないか」
「それなんだけどさ、やっぱ槍にしちゃうのか?」
「んーまあ熟練度はちょっともったいないと思うけどまだ取り返せる範囲内だし正直大剣は俺のスタイルにあってないっぽいから」
「まあそれならそれで良いんだけど、悪いが俺は槍の手に入るクエ知らないぞ」
「えぇうっそマジかよ…アスナは?」
「私が知ってる訳ないでしょ」
「ですよねー…」
とんだ期待外れだぜ…。少々失望しつつメニューを操作。フレンド三号に連絡すれば返ってきた返事が『500コルナ』というものだった。
くたばれ!と心内で叫びながら俺はしぶしぶ支払いのために外に出ていくのであった、まる。