古代スタートで頑張ろう   作:ぼっち野郎

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こういう日常系を続けたい。って気持ちと、大筋も進めなくちゃなー。という気持ちがせめぎ合っています。どうしましょ?



VS 綿月依姫

 静寂、物音ひとつ聞こえぬ空間に一組の男女が相対していた。

 

 女は手に模擬刀を構え、目の前の敵を炯々と相手を見つめる。それに対し男は素手のまま構えも取る事なく立ち尽くすのみ。しかし、その目にはやはり気が篭っている。

 

 

「始めっ‼︎」

 

 

そんな2人の闘いが、今始まる。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 とある平日、杠と永琳はいつもの如く研究室に篭り新たな実験を行っていた。昼下がりになった頃、実験は大成功という結果を残し、今は満足気な表情を浮かべながら昼食を仲良く食している所である。メニューは何時ぞやの蕎麦屋の出前、もちろん蕎麦湯付きだ

 

 

「さてと、ご飯も食べたしこれから出掛けるわよ優斗君」

 

「む? ももへひふんえゆか?(ん? どこへ行くんですか?)」

 

 時間は大切、食べてる時間が勿体無い。がモットーの永琳が、時間は大切、食べてる時間を大事に。がモットーの杠に催促する。こればかりは長い間共に過ごしても変わる事はなかった。

 

 

「口に物を入れたまま喋らないの、お行儀悪いわよ?」

 

「んぐっ......そりゃ失礼いたしました。それで何処に行くんです?」

 

「私の親族の綿月家、そこの豊姫って子と依姫って子の所よ、優斗くん知ってる?」

 

 

 彼女は綿月の家名、そしてその娘の名前を口にし、それに対し心の中で杠はガッツポーズをする。

 

 

「ほぉ......まぁ、噂くらいには聞きますね」

 

 

 そんな嘘を適当に吐いている杠ではあるが、内心、この事実に震え上がり喜んでいた。

 

 ここに来て東方のキャラクター、綿月姉妹との面会らしい。綿月家と言う名は聞いていたが、月都の護衛任務を請け負うとしか情報がなかった上、彼女らは年齢不詳な為にまだ生まれてないと思い込んでいたのだ。彼にとってコレは嬉しい誤算であった。

 

 

「彼女たちの父親に稽古を付けてくれって頼まれてたの。だから空いてる今日の午後のうちに済ませて置こうと思ってね」

 

「あれ?それって俺が行く意味有ります?」

 

「優斗君には模擬戦してもらおうと思ってね」

 

「......誰と?」

 

「依姫と」

 

「......マジで?」

 

「ええ、勿論」

 

「............」

 

「........?」

 

「......イヤイヤイヤイヤ! 無理ですから! 絶対勝てないですって!?」

 

 

 側から見たら情けない怯えように見えるだろうが、コレばかりは無理だ。そう杠は考えている。

 

 将来の月の使者、あの八雲紫が土下座し、東方スレでは最強と名高い綿月姉妹。そんなものには例えどんな能力を使ったとしても勝てるはずがない。

 

 

「何をそんな怯えてるのよ、変なこと吹き込まれただか何だか知らないけど、絶対に負けないから安心しなさい。もし負けたら私の従者クビね」

 

「ヒィィィ!?」

 

 

 永琳はさも杠が勝てるに決まっている、と言った様子で話しを進めている。しかも負けたら従者クビという脅し付き。最早杠には訳が分からない。

 

 

「ほらもう、さっさと行くわよ。日が暮れるわ」

 

「ハイ......」

 

 

(ああ、憂鬱だ......)

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「はい、ココが綿月家よ」

 

「え?......なんか意外ですね」

 

 

 これから起こる悲劇の回避を諦め都市を歩く事数十分、二人はとあるビルの前に来ていた。

 

 この時代において、広い敷地というのは富を意味する。と言うのも、この都市が完成するや否や都市城壁を築いてしまったが為に、都市創設時から土地利用には幾らかの制限が掛かっていたらしい。

 

 だからこそのビル、土地は無いものの建築材は外から持って来れば済むので都市の住民達はこの様に上へ上へと伸ばす事で自らの持つ富を象徴したそうな。そうなると綿月は蓬莱山や八意とは1ランク下の家柄という事になるが......

 

 

「綿月家は比較的最近出来た家系なの。複雑な所だけど八意の分家になるのかしら?」

 

 

 又甥の嫁と又甥夫婦の息子の嫁だったか、うろ覚えの知識と照らし合わせてみるがどうも又甥となると理解が追いつかない。そもそも神話とこの世界の神では幾分か誤差がある為、何が正解なのかはわからないのだが。

 

 

「成る程、解説ありがとうございます。どの世界も複雑なんですね」

 

「ええもう、結婚って面倒臭いのよ。だからこそ後回しになっちゃうのだけど」

 

「永琳さん、それ行き遅れた女の常套句ですよ?」

 

「......今の無しで」

 

「さいですか」

 

 下らない談義に花を咲かせつつも、2人でビルに備わっているエレベーターに似たナニカを使い上階を目指す。霊力で動いてる為、エコで地球環境にも優しいすぐれもの、是非元の世界に導入してやりたいものだ。

 

 装置が10を示す階で止まり、目の前のドアが開く。降りてから真正面の扉、綿月と分かりやすい表札の置かれたドアに永琳がノックを三回、すると......

 

 

「お、お待ちしておりました、八意様! 杠さん!」

 

 

 玄関の前にちょこんと正座をする金髪の女の子、背丈こそ小さく服装も多少異なるものの、そこに居たのは間違いなく綿月豊姫その人であった。

 

 

「こんにちは豊姫、依姫の姿が見当たらないみたいだけど?」

 

 

 永琳は普段より比較的優しめに話しかける。永琳の呼び方は豊姫、依姫というらしい。

 

 

「それが、折角の機会だから先に身体を動かせるようにしておく! と言ってもう稽古場の方に」

 

「やけに張り切ってるわね。全く、何処かの誰かさんにも見習って欲しいものだけれど」

 

 

 嫌味ったらしく杠の方を向きながらこう呟く永琳。当てつけなのだろうが、無理やり連れてこられた上にいきなりの戦闘訓練と言われて張り切る方がおかしいのだ。

 

 

「誰が見習うもんですか、大体なんですか模擬戦て。俺いつから戦闘要員になったんすか」

 

「昔っからよ、優斗君が本気出せば妖怪にも勝てちゃうんじゃない? 例えば.....狼の妖怪とか?」

 

ビクッ

 

 

 完全に予想外だった。確かに隠し事があると言うのは教えたが、其処まで分かっているとは予想だにしていなかったのだ。あまりに咄嗟で思う様な返答が出来ない。

 

 

「え、えーと........」

 

「なーんてね、冗談よ冗談。どうしたのそんな慌てちゃって? 何か心当たりでも?」

 

「い、いやぁ、狼に襲われた時のトラウマが出たと言うか何と言うか、アハハハハ......」

 

「ふーん......まぁ良いわ、私達も稽古場に行きましょうか」

 

 

 そう言うと永琳は回れ右で来た道を引き返していく。振り返りもせずに手を振っている所を考えるに、先に行っている、豊姫と一緒に来い。と言う事なのだろう。

 

 

「すいません、お待たせしました」

 

「....ん? ああ、これっぽっちも待ってませんよ。すいませんが案内お願いしますね」

 

「はい、こっちです」

 

 

 当然道場の場所なぞ杠は知らない。支度、と言うより靴を履いただけであるが、ソレを豊姫に道場まで案内してもらう事にした。

 

 

 

「あのー、杠さん、で良いんですよね?」

 

 

 歩いてる最中、豊姫が杠に声が掛ける。年長者の杠が本当なら声を掛けるべき......年長者では無いのかもしれない。きっと彼女も驚く程生きているのだろう。

 

 

「あー、うん、杠 優斗です。呼ぶならお好きな方でどうぞ」

 

「えっと、じゃあ優斗さん。さっきの八意様の話では、優斗さんに依姫...妹の相手をしていただくという事なんですよね?」

 

「そうですね、無理矢理決められたんですけど」

 

「その、ええと......嫌、なんですか?」

 

「あー、えっとね......正直言うと嫌だね。明らかにこっちが不利だし、負けたら従者クビとか言われるし」

 

 

 気分が良くないかもしれないが、ここは正直に答えておく。コレは完全な負け戦、そもそも勝てるわけが無いのだ。

 

 

「え? 不利って、優斗さんがですか?」

 

 

 何故だろう、彼女自身はまるで俺が勝つと思っていたような口振りで意外そうな顔を此方に向けた。

 

 

「そりゃそうさ、何を言ってるんだい?」

 

「......あ、成る程。そうでしたね」

 

「?」

 

 

 今度は先程と違って1人で納得をし始める豊姫、聞いているだけでは話が一向に見えてこない。杠は混乱するばかりである。

 

 

 

「大丈夫です。確かにあの子の能力は脅威ですけど......あ、着きました。この中が道場になってます」

 

 

 会話の途中だったが、道場らしい扉の目の前まで来た為に、会話を中断し足を止める。

 

 他の入り口は全てドアになっているが此処だけは木目の格子のみ、この時代でも武道場の造りは生前と同じらしい。

 

 

「「失礼します」」

 

 

中に入ると其処にいたのは永琳、そして...

 

 

「こ、こんにちは!」

 

 

 遠くから大きな声で挨拶を掛ける薄紫色のポニーテールの道着少女、綿月依姫がいた。

 

 

「優斗さんこんにちは! 綿月依姫と言います! 今日はよろしくお願いします!」

 

 

 此方までわざわざ小走りで来て挨拶を交わす依姫、とても律儀で非常に好印象な少女である。

 

 

「どうも、杠 優斗と言います。此方こそ宜しくお願いします」

 

「はっ、はい!」

 

「さて、優斗君も来た事だし早速始めるわね。二人共、あの線の位置に立って頂戴」

 

 

 此方も丁寧に礼を返していた所で、永琳からの試合準備のお達しが飛ぶ。そもそも試合がしたい訳ではないのだが、ここまで来たら致し方ない、重い足を引っ張りながらも指示通りに動く事にする。

 

 互いの距離は20メートル、そしてこの道場の広さは50m×50mと言ったところだろうか、これならば逃げるのに不自由しないだろう。

 

 

「勝利条件は相手に参ったって言わせる事、もしくは相手の意識を奪う事よ。軽症は大目に見るけどあまりの怪我だと負わせた方が負け、判断は此方でするわ。いいわね?」

 

「了解しました」

 

「了解です!」

 

 

 各々声をあげルールに賛同する。不本意であるが、非常に不本意であるがここまで来たら闘れる所まで闘るしかあるまい

 

 

 

「では......始めっ!」

 

 

開始の合図が室内に響き渡る

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 先に動いたのは杠だった。

 

 懐にしまい込んでいた都市製の拳銃を引っこ抜き、依姫をターゲットに狙い一発撃ちこむ。中身は永琳特製の麻酔弾。形状的に言えば超小型の水風船と似た様な仕組みになっており、水の代わりに飛散タイプの麻酔が詰まっている。今回の為に麻酔量も子供用に調整済みだ。

 

 さて、そんな麻酔弾を撃ち込まれた依姫だが......

 

 

「ぬるいですね」

 

「やっぱそう簡単にいかないよね」

 

 

 弾を見事真っ二つに割っていた。しかも中を散らすこと無く、だ。コレが意味するのは...

 

 

(一切のブレなしに5ミリを切るのか、しかも模擬刀で.......)

 

 

 余りの達人技に心が折れそうになる。最早コレは有効打として使えないだろう。

 

 

「では此方もいきます! 志那都比古神(しなつひこのかみ)よ!」

 

 

 次に動いたのは依姫、その呼び声と共に模擬刀の切っ先を杠に向ける。

 そこには目に見えてわかるほど大量な空気が濃縮されていた。一つではない、三つほどの砲丸大の空気の塊がフォース状の形を取る。

 

 そして、ソレは暫くして杠に向けて発射された。攻撃範囲は広く、躱すのは難易度が非常に高いようだ。

 回避を諦めた杠が取った行動は防御、振り上げた足から純鉄の正方形ブロック2m×2mを目の前に創り上げる。

 

 直後、まるで思い切り壁を叩いたような轟音が辺り一面に響く。たかが風でこの威力、喰らっていたら間違いなく後方の壁に吹き飛ばされていた。

 十二分にあり得る未来を想像して杠は冷や汗を流す。

 

 

「なるほど! その手がありましたか!」

 

 

 ブロックの向こうから彼女の声が聞こえる、如何にも余裕と言いたげな声調であった。

 

 

「そりゃあ綿月依姫を相手にするんだ、対抗策は幾らか考えてあるさ」

 

(今の攻撃は初めて見たから関係ないけど)

 

「そ、そんなに考えて貰っていたとは、何か恥ずかしいような嬉しいような、変な気持ちですね......よし! ならばコレはどうですか!......金山彦命(かなやまびこのみこと)よ!」

 

「....あー、ドジった」

 

 

 彼女が打った次手により、目の前にあった鉄ブロックが砂と化したかの如く消えていく。そして、そんな鉄だったモノが次第に空中へと集まっていき、再び形を形成させる。

 彼女が行ったのは唯それだけであるが、ここが月ではなく地球である限り『それ』は絶大な効果を発するのだ。

 

 

ドガァァァァァン!!

 

 

「ハァ...ハァ...」

 

 

 爆音と共に堕ちて来た鉄塊を身体中の筋肉を全力で使用し、右方へと転がり回避した。まさに間一髪、紙一重でこの世に留まる事が出来た。

 

 

「ちょ、ちょっと! 今の当たったら即死じゃないですか! ルール違反なのでは!?」

 

 

 久方振りに味わった死に対する恐怖、まさかこんな所で体験するなぞ思いもしなかった為だろう。膝や掌、そして声が震え始めてしまう。

 これはいけない、そう思いレフェリーに抗議を始めるが......

 

 

「残念、誘導する程度の攻撃だからコレは白ね、続けていいわよ依姫」

 

「 ファ!? 」

 

「分かりました! どんどん行きます!」

 

「ま、マジですか......ホント死んじゃいますっ...って!」

 

 

 訴えは物の見事に棄却され、容赦のある隕鉄攻撃が再び頭上に降り注ぐ。

 

 手心が加えてあるのは事実らしく、常にギリギリ避けれる位置を狙われている。

 鉄ブロックで防いだのは明らかに失敗、この質量を生み出す方法は持っていても打ち消す手段は今は無い。飼い犬に手を噛まれるとはこの事なのだろう、杠は文字通りの隕鉄をただひたすら避ける事しか出来ない。

 

 丁度爆音が二桁に入った頃、ようやく攻撃の手が緩み上空から的外れの方向に隕鉄が落下する。

 

 

「ハァ、ハァ、ようやく終わった......」

 

「そうですね、時間切れです。なので次の業をお見せいたしましょう」

 

「あぁ、デスヨネー......」

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「火雷大神(ほのいかづちのおおかみ)よ!」

 

「アッツ!? 燃えるって! 室内だからここ!」

 

 

 現れた焔龍を紙一重で躱し、

 

 

「建御雷神(たけみかづち)よ!」

 

「ッツ!」

 

 

 紫電の一撃を咄嗟に作った避雷針で受け流し、

 

 

「火之迦具土神(ひのかぐつち)よ!」

 

「チィ! やっぱ甘くないかっ!」

 

 

 苦し紛れに放った銃弾全てを炎で溶かされ、

 

 

「罔象女神(みつはのめのかみ)よ!」

 

「!?」

 

 

 何処からともなく落ちてくる氷塊達を回避し続ける。

 

 

 そして......

 

 

 

 

 

「ハァ......ハァ......ハァ......」

 

 

 遂に、杠の足が止まる。

 短時間であるが常に全力の運動、そして回避する為に神経の行使にガタが来たのだ。動悸がいつに無く激しく、身体が言う事を効かない。止まっているのが危険だと分かっていても動く事が出来ない。

 

 

「流石、八意様の従者です。まさかここまで耐えられるとは思いませんでした」

 

 

 依姫が遠くで何かを言っているがそれには反応をしない。と言うよりかは反応する余裕が全く無いのである。一刻も早く態勢を整えなければならない。

 

 

「お手合わせ有難うございました。これで最後、行きます!」

 

 

 しかしコレは闘争である。当然相手が待つなど都合の良い事なぞある訳が無い。

 

 依姫はそう叫び、それを行動に移す。動作は至ってシンプル、木刀の切っ先下に向けたまま、大きく上に振り上げただけ。

 

 

「祇園様!」

 

 

 そして、とある神の名称と共に彼女は容赦なく床に模擬刀を刺し貫いた。

 

 

「!?....糞ッ‼︎」

 

 

 通称【祇園様の剣】、地面から無数の刃を出現させて相手を拘束する術、これに捕まれば吸血鬼や人間、更には女神ですら逃げる事が出来ないとまで言われる、文字通りの神業だ。

 

 これを喰らえば恐らく何も抵抗が出来ない。杠が一番警戒していた業であり。本来なら回避せねばならない一撃である。

 が、しかし。

 

 

(足が動かないっ!)

 

 

 依然杠の身体は硬直したまま、その場を一歩として動く事が出来ない。

 

 

 

ズガガガガガガガッ!!

 

 

 

 地面を貫く音が響く、無数の刀身が床を破りさながら蛇のように対象を周りを囲む。

 

 

「え?」

 

「んな...!?」

 

 

 業は確かに発動した。一歩も動けず、手を動かすことすらままならない完璧な包囲網は確かに実現していた。......だが、問題はそこでは無い。

 

 問題点とは、杠の周りにはそんな包囲網は微塵も存在していなかった事だ。

 

 

「ハァ......なんでこう、貴女は毎回毎回......」

 

 

 遠くからそんなぼやき声が聞こえてくる。声の正体は永琳、そして、そんな彼女の周りには無数の刀身が生え揃っていた。

 

 

「あ、あああ!!!!! すいません八意様‼︎」

 

「わかったから、早くこれを抜いて頂戴」

 

「ハ、ハイィィィィ!!!!」

 

 

ズボッ

 

 

ズガガガガガガガッ!

 

 

「え!? ちょ!? 私まで!?」

 

「こ、今度は姉様に!?」

 

 

 正直言って杠には理解が追いつかないが、どうやら依姫の能力が暴走しているらしい。本人は絵に描いたようにアタフタをしている。...隙を晒している。

 

 

 繰り返すようであるが、コレは模擬戦という形を取った、れっきとした闘争なのだ。相手に勝ってこその勝負なのだ。そうとなれば、彼の取るべき行動はこの場において一つのみ

 

 

「えー、隙あり」

 

 

パン! パン!

 

 

「しまっ!?ひのかぐ......ず、ち」

 

 

 彼女に向けて麻酔弾を二発発射する。彼女がこちらに気づいて抵抗しようとするも時既に遅し、詠唱が終わる前に全弾的中、即効性の麻酔によりそのまま地面にゆっくりと崩れ落ち、それと同時に彼女らの周りを取り込んでいた刃達も姿を消す。

 

 

「はい、優斗君の勝ちね。分かってたけど」

 

 

 拘束が外れた所でやれやれ、と呟きながら永琳が杠の白星というジャッジを下す。多少卑怯かもしれないが杠の勝利は変わらない。

 

 

「永琳さん、分かってたってもしかして...」

 

「こういう事よ。あの子、自分が勝ったと思うとビックリするくらい調子に乗るの。どうにかならないかしらね全く......」

 

 

 そう溜息をつきながら教育係としての苦悩を口にする永琳。杠の教育係とは違って、此方は本当の意味の教育係、どうも教鞭をとると言うのは難しいようだ。

 

 

「さて、麻酔が切れるまで待ちましょうか。それと優斗くん、最初に作ったアレ消せる?」

 

「あー、無理ですね。申し訳ない」

 

「そうよね、全く、後の事も考えて欲しいわ。怒られるの私なんだから」

 

「ああ、なんかすいません......」

 

 

 負ければ解雇と脅されて、買ったら勝ったでダメ出しされるという仕打ちに若干の不満が残る杠だった。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「んむぅ........ハッ!?」

 

「お、結構早く起きたね」

 

「...あれ? 優斗さん...ええッ!?」

 

ゴツンッ!

 

「あう!?」

 

「痛ーッ!」

 

 

 杠の膝枕の上で目を覚ました依姫は、その場で赤面して急に立ち上がる。その際に杠のおでこと激突。二人仲良く頭を抱えて転げ回る。

 

 

「な、なななな! なんで杠さんが膝枕をしてるんですか!?」

 

 

 先に復活をした依姫が再び顔を真っ赤にして杠に詰め寄る。

 

 

「いってー......いや、膝枕は永琳さんがやれって言うから...」

 

「し、ししょー......ああ、恥ずかしい。寝顔見られたぁ.....」

 

(かわいいなぁ......)

 

 

 今度は手で顔を覆いその場に塞ぎ込む依姫、年頃の娘らしい初心なリアクションに、杠の心中では素直な感情が湧き出てくるが決して口には出さない。

 

 

「それよりどう? 身体の調子が悪いとか無い? 大丈夫?」

 

「......はい。大丈夫です。身体もちゃんと動きます」

 

 

 

 塞ぎ込んだままそう答える依姫、どうやら異常も無いらしい。二発も撃ったので若干不安ではあったがそれは杞憂だったようだ。

 

 

「そうか、それなら良かった。それじゃあちらへどうぞ」

 

「...? あちらって......げ。」

 

 

 杠が指し示す方向、そこには無言の圧力を発する永琳と豊姫がいた。

 麻酔が残っているのだろうか? 依姫には二人がこめかみに青筋を立てているように見えた。

 

 

「...杠さん、いえ、優斗さん! なんか助けてください! あの二人怖いです!」

 

「今後同じ失敗をさせない為にキツーく言っておく、だってさ。まぁその...せいぜい頑張っておくれ」

 

「そ、そんなぁ!?」

 

 

 師匠である八意永琳と姉である綿月豊姫、この両者による説教は小一時間程続いた。その甲斐もあってか依姫からは慢心癖が綺麗さっぱり抜けましたとさ。めでたしめでたし。

 


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