古代スタートで頑張ろう   作:ぼっち野郎

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チョット変わった感じで書いてみました。難しいなー


従者としての杠 優斗

 

 杠優斗は都市の郊外にある件の森の入り口に来ていた。 

 八意永琳の付き人は本日の午後から、その前に済ませるべき事を済ませようと森の前に来たのだが......

 

(道わかんねぇ)

 

 盲点だった。あのスペースハウスを建てた広場までの道程が全く分からない。

 よく考えて永琳にでも話を聞いておくべきだったが後悔は後先立たず、どうしよう......そう考えていると。

 

ガサガサッ

 

「おお、お主か‼︎」

「......女の子?」

 

 白い肌、白い髪、更には白を基調とした赤ラインの入った和服を着た、幼い女の子が叢から顔を出す。

 向こうは此方を知っている様子だが、杠はこんな幼女と知り合いになった事はない。人違いだろうか?

 

「久しいな、人間よ」

「ええっと、どなたですか?」

「...? ああ、そうか。この姿を見せるのは初めてだったな。我だ我」

 

 そう言って幼女は自らの口を引っ張り八重歯を見せる。狼を彷彿とさせる鋭い牙だった。

 全身白、鋭い狼の様な牙、この二つから導き出される結論は......

 

「お前、大神なのか?」

「如何にも! この縄張りの主である狼だ!」

「......ん?」

「ん?」

「ええと、あの時の、赤い紋様を持ってた大神で良いんだよな?」

「だからそう言っておろう、お主に助けられた狼だ」

「「んん??」」

 

◇◇◇◇◇

 

「まぁ、その、災難だったのう」

「だろう?」

 

 杠と大神は森の中を二人並んで進んでいた。

 杠がスペースハウス、及びログハウスの道案内を頼んだからだ。それに対し大神は命の恩人の頼みなら、という事で快く引き受け今に至る。

 

「しっかしビックリしたよ。まさか人間に化けれるなんて。そんなのは狸と狐くらいのもんかと」

「いやいや、そんな化けるなどという大層なものでは無い」

「いやいや、実際に人間の姿してるじゃん」

「たったそれだけだ。化け妖怪は自由自在に変化出来るのに対し、我は喰らった人間にしか化けれぬからのう」

「お前......こんな幼い女の子を殺したのか?」

 

 大神の言葉を聞き、杠の表情が僅かに歪む。

 そして、その僅かな怒気に気づかない大神ではない。大神もまた杠の方を向き挑発的な笑みを浮かべた。

 

「ああ、そうとも......どうだ、憎いか? 恨めしいか? その仇、今直ぐ晴らすか?」

 

 殺意、と呼ぶには乏しい苛立ちが全身を走ったのが分かった。

 コイツは人間を殺した。女の子を殺した。こんな幼げで、純粋無垢であろう女の子を喰らったと言った。

 もしそれが一方的に辱める行為であったならば間違いなく理性がトんで、相手の首も飛ばしていただろう。知り合いや身内が一方的に殺されたのであれば怒り狂っていただろう。

 

「......いや、止めておこう。その子と親の責任だ。俺がああだこうだって言えるものじゃ無い」

 

 ただ、今回は違う。

 種族も価値観も違う者たち、どちらが正義でどちらが悪という訳では無い。強いて言うなら勝者が正義、勝てば官軍負ければ賊軍という訳だ。

 そして、幾ら同じ人間だからといってこの二つに割り込む事も、どちらに肩入れする事も難しいし、その資格が無いことは理解出来ている。

 

「そうか、変わっているのだなお主。その甘さが仇にならんと良いが......さて、着いたぞ。ログハウス、とやらだ」

 

 若干ギクシャクした空気になりもしたが、先ずは入り口から近かったログハウスに辿り着く。

 相変わらず生活感漂う見た目であるが、中には誰もいないのだろう。

 

「なぁ、狼って骨とかを大事に集めたりするもんなのか?」

「いや、特には......何をするつもりだ?」

「初めて見た時は逃げちゃったけどさ、コレだと罰当たりそうだからせめて土に還してやろうと思ってね」

 

 そう言いつつ、大神と共に家の隅の部屋まで足を運ぶ。

 もはや腐敗臭などしない。腐る部分が無いほど狼たちに食べ尽くされていたからだ。

 それが元々動いていたと考えると吐き気がこみ上げてくるが、何とかそれを堪えて骨を拾い上げる。更にそれを外に持ち出し、スコップで穴を掘り骨を埋葬する。

 

(墓じゃなくて悪いな)

 

 こんな所に人は住めない、そう月夜見は言っていた。

 どんな事情が有るかは分からないが、この男は独り身だったのだろう。ならばせめて供養くらいは自分がしよう。そう思っていたのだ。

 

「さて、付き合わせて悪いな。お礼に良いものご馳走してやるよ」

「別に我も暇だったから手を貸しただけだ。ただまぁ、そのご馳走とやらは気になるな。確か贅沢な物、という意味だったか?」

「まぁ、人間で言うところのご馳走だから大神の味覚に合うかは分からないけど」

「何でも良い。して、そのご馳走とやらは何なのだ?」

 

 ワクワクと顔面にありありと浮かぶ大神に向け、杠は馳走の名前を発表した。

 

 

「ショートケーキだ、紅茶のセット付き」

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「のー、まだなのかー? コレでは日が暮れてしまうぞー」

「焦るな焦るな、まだ二時間しか経ってないだろ」

 

 場所は移ってスペースハウス、そこにはテーブルをバンバン叩く幼女とコックさん装備に身を包んだ少年がいた。しかも片方は妖怪、片方は転生者という極めてレアな絵面である。

 

「くっそ、ケーキ作りって難しいな......」

 

 杠の手元には創り出したケーキの材料、更には『完全版!猿でも分かるショートケーキの作り方!』なる本が置かれていた。勿論足元から取り出した本である。

 

「まだかー、のー人間ー、まだなのかー」

「ああもううるさい! イチゴあげるから我慢しなさい!」

「ほぐぅ!?」

 

 煩い大神の口を塞ぐ為に手元の苺を幼女の口に放り込む。しかし、それを満更でもない様子で幼女はヘタごと咀嚼する。肉食系の誇りはどこに消えたのだろう。

 

「なんかお前、性格まで幼女に退化してないか?」

「む? ほうは?(ん? そうか?)」

「絶対そうだろ......」

「んくっ。まぁ、もしかしたらそうなのかも知れん。それよりこの果物美味しいな! 森の何処かに生えてないものかのぉ!」

「ご自慢の鼻で探してくれ。......っし、出来た!」

 

 失敗すること二回、三度目の正直で完成した普通のホールケーキ。彼自身も納得の出来、思わず写真を撮っておきたくなる完成度だ。

 杠はホールにナイフを入れ八等分に切り分ける。二切れを白狼に、自分の分は一切れ皿に乗せて後ろのテーブルに持っていく。

 

「さーて、出来たぞ。ショートケーキだ」

「おー! なんかよく分からないが美味しそうな気がするぞ!」

 

 そう言うや否や、用意していたフォークを使わず直接顔を近づけバクバクと食い始める大神、お行儀悪い事この上ないが狼なのでしょうがない。

 

 

「おいでませ、"風見幽華"様。......さてとっ」

 

 約束を果たす為にカウントダウンを進め、それと並行して沸かしておいたお湯をカップに注ぎ、紅茶パックに浸す。多分合っている。筈だ。

 

「大神、3分間我慢してくれ」

「......? 3分ってどれくらいだ?」

「すぐだすぐ、ちょっとだけ我慢してくれ」

「一体何を我慢するの......っ⁉︎」

 

 カウントダウンが終了し、風見幽香を憑依する。

 

『まぁ、こういう事よ。襲わないから安心して。ケーキのお替りいる?』

「あ、ああ。戴こうか.....」

 

 

 最早この浮遊感にも慣れたものだが、大神の方は面を喰らったような顔をしている。自分をボコボコにした妖怪の妖力が急に現れたら普通は驚くので正常といえば正常であるのだが。

 

『いただきます』

 

 そんな大神の事などつゆ知らず、風見幽香は目の前のショートケーキをフォークで切り分け口に運ぶ。三度ほど口を動かし、そして一言。

 

『まっず......』

 

 これでもかと言わんばかりに顔を顰め、目の前のケーキを睨みつける。その迫力と言ったら目の前の白狼が縮こまる程だ。

 

『............』

 

 次に紅茶、顰めた顔のままソレを口へと運び......

 

『......はぁ』

 

 一口飲んだ所で溜息、そのままカップを元の位置に戻す。

 

『......邪魔したわね。もう少し上手くなったら呼んで頂戴』

「妖力が消えた......戻って来たのか?」

 

 未だに3分も経っていないにも関わらず杠の身体の中からナニカが抜け、再び視点が通常のモノに戻る。能力が向こう側から解除されたらしい。

 

 そして、一方的に振られてしまった杠はと言うと......

 

「あぁ......酷いよゆうかりん......」

 

 何処がダメなのか、如何に下手だったのかを風見幽香の感性でキャッチし、メンタルがバキバキに砕け散っていた。肥料でも混ぜたみたいな不味さ、と自身の料理を食べて感じ取った時の悔しさ悲しさと言ったらここ数年で一番傷付く出来事であった。

 

「大神、悪い。俺もう都市に帰るよ」

「え、ちょっ、待て。今の説明をだな...」

「もうそんな元気残ってないや。ハハ......残ったケーキあげる。じゃあね」

 

ガラガラガラ、バタン。

 

 戸を閉めて森の中へと歩みを進める杠の背中には、とてつもない哀愁が漂っていたとは大神の談だ。

 

 因みにこの後彼は森の中で迷子になり八意亭に戻った時には既に昼過ぎ、1日目にして遅刻、そして説教を食らうのであった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「さて、働きましょう」

「はい......」

「もう、何時まで落ち込んでるのよ。説教がそんなに響いたの?」

「いえ、これっぽっちも......オホン、多少は響きましたがそう言う事では無くてですね」

 

 八意永琳の優しくない20分程の説教の後、彼を待っていたのは薬の研究だった。

 勿論、薬学の知識など杠は持ち合わせていないと断りを入れておいたのだが、"大丈夫よ!貴方でも出来るとっておきの仕事を用意してあるわ!"との事。

 此処である程度察しはついている、だからこそ気乗りしない。

 

 そんな不安を持ちつつも彼が案内されたのは屋敷の中心部、侵入や攻撃を受けた際に最も安全な場所に配置されているのは、言うまでもなく月の頭脳の研究室だ。

 

「ようこそいらっしゃい、私の研究室へ」

 

 部屋の中は雑多という言葉がよく似合う有様だった。散らかっていると言うよりは物が多すぎて溢れかえってるといった印象を受ける。特に書類の山が酷い。

 

「さぁ、これを着て頂戴」

 

 そう言うや否や永琳はタンスから白衣を取り出し杠に投げる。着てみると予め測られていたかのように完璧なサイズだった。入院当初に測っていたのかもしれない。

 

「おお、なんか良いですね。研究者!って感じで」

「研究者って感じも何も研究者なのよ。さぁ、ここ座って」

 

 給食以来の白衣にテンションを上げていると永琳が一組の机に座るよう催促してくる。

 周りにはウジャウジャと機械が繋がっている如何にもな研究場所、拷問場所という単語がチラつくが深くは考えないことにしよう。

 

「あのー、これって......」

「今から優斗君には治験をして貰うわ。ささ、この器具取り付けて」

「やっぱりなぁ......」

 

 予想通り治験、要はモルモット役であった。

 確かに、身近な人でないと試せない様な事ではある。しかし、だからと言って仕事初日でやらせる様な内容でもないのも確かだ。腑に落ちない杠であるが主人の命にはこれ以上逆らえない。渋々用意された椅子に座る。

 

「永琳さん頼みますよ、いやマジで」

「失礼ね、仮にも私は月の賢者よ? 失敗なんてそうそうしないわ」

「人の腹に矢をブッ刺した人のセリフとは思えない......」

「オホンッ! 始めるわよ!」

 

 頭にヘルメット的な何かを被り、腕には血圧計的な何かを巻き、終いには胸に直接吸盤の様な何かを六つ、何故かズボンの中に手を突っ込まれ腿の内側と外側にも貼り付けられる。

 

 視界は真っ暗、腕はキツイ、身体中を弄られる。カランカランという音の相乗効果で杠の恐怖心は既に8割程にまで迫っていた。

 

「はい、お待たせ。この試験官の中身をグイッとイっちゃって」

 

 ガタン、という音が眼前に響く。試験官立てでも置いたのだろう。思わず身体が震える。しかし、そんな杠にお構いなく永琳は口元に試験官の口を押し付ける。

 

「ほら、口開けて?」

 

フルフルフル‼︎

 

「大丈夫、大丈夫よ」

 

フルフルフルフル‼︎

 

 ここに来て恐怖心マックスだ。

 得体の知れない薬の実験と言われ視界を遮られての強要。とても怖い、側から見たら子供の様に駄々をこねている様に見えるかもしれないが、本人からしたらそれどころでは無い。本当にこの上なく怖いのだ。

 

「もう、困ったわね...ほら、深呼吸よ。吸ってー」

「す、スゥーーーーッ」

「吐いてー」

「はぁーーーーっ」

「吸ってー」

「スゥーー...んゴッ!? ンーー! ンーーー‼︎」

「ほーら飲めた、偉いですねー」

 

 深呼吸で息を吸い込んでる間に薬を無理やりねじ込むという永琳の荒技が炸裂した。

 塩水のようにドロドロした薄緑色の液体を必死に抵抗する少年に、女性がじっくりと時間を掛けて口に流し込ませる姿はさながらホラー映画の一幕だ。

 

「ゴホッゴホッ! なっ、何するんですか!?」

「だって飲もうとしなかったから」

「無理やり飲ませなくても良いでしょう!?」

「数値に変化は無し、っと......」

「話聞いてます!? ねぇ!?」

 

 漫才の様な一場面が続くが片方は至って真面目である。それはヘルメットを被った顔からでも読み取ることが出来る。

 

「大袈裟よ大袈裟。ほら、何も変化は無いでしょう?」

「まぁ、確かにそう言われると」

「大丈夫な薬なのよコレは。て事で続けてもう3本飲んでちょうだい。何なら飲ませてあげましょうか?」

「結構です! 自分で飲みます!」

 

 手を伸ばし、目の前にあるであろう試験官を探しそれを手に取り恐る恐る飲み干す。相変わらず変化は無い。

 

 続いて3本目、恐怖心が和らいだからなのか味を感じることが出来る。野菜ジュースとゴーヤジュースの中間の様な味、決して不味い味では無い。

 

「相変わらず変化は無いわね。配合間違えたのかしら......まぁいいわ。優斗君、最後の一本飲んじゃって」

「はいはい......」

 

 ここまで来ればもう慣れた。杠は試験官の中身を一気に飲み干す。

 

 ......この時、杠は八意永琳という人物について失念していた。

 

 彼女は確かに腕の良い薬師だ。東方随一と言って良い程の腕と頭脳を持っている。しかし、そんな彼女でも薬に於いて失敗する事だってあるのだ。

 

 東方緋想天、そのプレイアブルキャラである鈴仙・優曇華院・イナバが使用する、八意永琳が製造した緑色の薬がある。効果はドーピング、一定時間攻撃力と防御力を上げると言う代物だが、コレには一つ弱点があった。

 

 

 直後、杠の身体に異変が起こる。身体の内側から何かが膨れる感覚、そんな感覚が身体の隅々から発生する。その時杠は全てを思い出し、永琳は何かに気づき慌てふためく。......が既に遅い。

 

 

 後の国士無双の薬と呼ばれる秘薬を四度飲んだ杠の身体がエメラルドの光に包まれ、その光を中心に大きな爆発が発生する。

 

 端的に言おう、研究室と杠が吹き飛んだ。

 

◆◇◆◇◆

 

「悪かったわ、許して」

「ふん、知りません。どうせそんな事思ってないんでしょ」

「本当にゴメンッ! ね? この通りだから機嫌直して?今日は何でも食べて良いから!」

「まぁ、それなら......」

 

 今二人がいるのは中心街に位置する居酒屋。あの爆発の後、杠を待っていたのは研究所の後片付けと永琳のコレでもかと言わんばかりの平謝りだった。それでもヘソを曲げたままだった杠に酒を飲ませて今日の出来事を水に流す為にと居酒屋に連れ込んだのだった。もしかすると自分が飲みたいだけだったのかも知れない。

 

「ホント!? 良かったー! ...オホン! それじゃあ気を取り直して......本日、いや先日? どっちでもいいか。とにかく! 優斗君の全快と私の部下決定を祝いまして、」

「祝われまして、」

「「カンパーイ!」」

 

 最も、杠自身も初めての居酒屋、初めてのお酒の席という高揚感もあってか機嫌は既に持ち直していた。チョロいものである。

 

「おお、お酒ってこんな美味しいんですか」

「そうよー、月都のお酒は格別に美味しいの。夜中の月見酒なんかそりゃもう最高なのよねー。今度一緒にやりましょ?」

「まぁ、そりゃお付き合いしますけど...」

「やった〜! 大好き優斗くん!」

 

 カウンター席の隣から抱きついてくる永琳。しかし何故だろう、女性から抱きつかれるという行為の筈なのに、とてもとても鬱陶しく感じてしまう。

 

「...酔い回るの早くないすか? と言うよりも飲む前から出来上がってる?」

「なーにー? 文句あるのー?」

「いえ、全然」

「そうよねー! さっすが優斗くん! ...ったく、優斗君は許してくれるのに月夜見と来たら...」

「...? 何か有ったんですか? ............あ。」

「聞いてくれる!? 聞いてくれるの!? いやお願い聞いて‼︎」

 

 しまった、と杠が思った頃にはもう遅い。隣の永琳は首をグワンと直角90度回して杠の眼前に迫る。その目は待ってました!と言わんばかりに輝いていた。

 

 こういう酔っ払いが話を始める、特に愚痴ともなると恐ろしく長くなるのは経験則で知っている。別に嫌いとかウザイとか、そういうのではない。ただ単純に兎に角鬱陶しくて面倒臭いのだ。

 だが、彼女は仮にも上司、断ると言うのは気が引ける上、こんなに頼み込まれては断るものも断れない。

 

「...はい、聞きましょう。月夜見様にどんな不満があるんですか? 全部吐き出しちゃって下さい」

「ありがと! そもそもね、あの子とは5000万年くらいの付き合いになるんだけど............」

「(長くなりそうだなぁ...)すいません、焼酎と焼き鳥ください」

「あ、私も〜!」

 

 

〜10分後〜

 

 

「この焼き鳥美味いなー、1本50円の奴とは大違いだ」

「ねぇー聞いてる優斗君?」

「聞いてます聞いてます。月夜見様からの待遇が酷いんでしょう? あぁ、可哀想に」

「そうなのよ全く! 給料弾むくらいなら気を使って仕事量を減らしなさいよっての!」

「苦労なさってるんですね」

「本当そうなの! 流石私の従者ね〜、よく分かってるじゃない!」

「ねぎま美味いなぁ」

 

 

〜更に20分後〜

 

 

「すいませーん。追加のお酒お願いしまーす」

「ねぇー聞いてるのー? 優斗くん?」

「聞いてます聞いてます。実験が上手くいかないんでしょう? アレですよ。今回のもちょっと直せば成功したのかも知れません。灯台下暗しって言いますし。アレ? この諺あるのか?」

「そうなのよ全く! 何であそこで失敗するのかがてんで分からないの! やっぱりいつもみたいにうっかりしてるのかなぁ......」

「大丈夫ですよ、きっと上手くいきますって。何てったって貴女は月の賢者なんですから、不可能なんてありませんよ」

「そうかな〜......うん、そうよね! 流石私の従者だわ〜、よく分かってるじゃない!」

(話噛み合ってないな...)

 

〜更に40分後〜

 

「ねぇ〜聞いてりゅの〜!ゆうとく〜ん!」

「...ええ、聞いてます聞いてます。なんで男の人が寄ってこないかですよね?」

「そうなのよー! なんでなのさー! 周りはみ〜んなケッコンケッコンばっーかり! どうして私だけこうなのよ〜!」

「ええーと、アレですよ。みんな永琳さんの魅力に気付けない奴ばっかなんですよ。だから大丈夫、自信持ってください」

「ンフフ〜、うれしい事いってくれるわねぇ〜!流石わたしのじゅうしゃよ!」

「ええ、ええ......そうですね......」

 

 

〜更に2時間後〜

 

「.........................」

 

 乾杯から既に3時間ほどが経過した。

 余程不満が溜まっていたのだろう。永琳の毒舌マシンガントークは一度も止むことはなく、それに付き合わされた杠は常に対応に追われる事となった。テーブルの上には空となった熱燗の瓶が山程積まれている。

 

「ああもう...私なんてどうせダメ人間なのよ。グスッ...」

 

 チラリ、と横を見るとカウンターにうつ伏せになり、泣きながら自虐をし続ける永琳がいる。泣き上戸と言うよりは本気で参っている様な印象、少なくとも杠はそう感じ取る。

 

「そんな事ないですって、永琳さんは月の賢者なんですよ? もっと自信持ってください」

「ありがとう...はぁ、いい歳して子供に慰められるなんて...ホント私ってダメね...うう...」

「いえ、だからそんな事ない...」

「いいのよ、私いっつもこうだから。誰かと絡むと迷惑かけちゃって...だから部下も寄り付かないし、優斗君にも怪我させちゃうしっ...」

「............」

「だからね、優斗くん。嫌なら言ってもいいのよ? 月夜見にお願いされたからって気負うことない。私から上手い事言っとくし、暫くの間生活も面倒見てあげる。だから... 」

 

 永琳の口が止まる。うつ伏せになっていて表情は見えないが、先程とは何かが違う。少なくとも酔っ払いのソレでは決して無かった。

 

「えーと、参ったなぁ......ははは」

 

 それに対し、苦笑いしながらもぽりぽりと頭をかく杠。真面目な事は言いたくないんだけどな、と言いだげな表情をし、口を開く。

 

「なんて言うんですかね......アレです、永琳さんは色々と背負い込み過ぎなんですよ。月の賢者とかいう立場に囚われ過ぎです」

「......」

「単純な質問をしますよ? 永琳さんは俺がいない方が良いですか? 幸せですか?」

「...そんな事ない。誰かが近くにいてくれると楽しいし、それ以上に1人は寂しいもの......」

「ほら、それで良いんですよ」

「...え?」

 

 永琳が伏せていた顔を上げる。薄くではあるが、目に涙を溜めた彼女は驚いた顔付きで杠の方を向く。

 

「永琳さんがしたいと思ってる事をする。それだけで完結するじゃないですか」

「いや、だからそれだと優斗君に迷惑が......」

「考え過ぎなんですって。気負うのは分かります。月の賢者やって、自分が怪我させた子供の面倒を見なきゃで、尚且つ頼れる存在であり続けなきゃいけない。どうせそんなこと考えてるでしょ?」

「...ええ、まぁ」

「その気持ちは有難いですけどね、そんなくだらない事考えなくて良いんです。『お前は私の部下だ! 色々と付き合え!』ってくらい傲慢でも......甘えてもいいんですよ?」

「私が......甘える...?」

「そう。年齢とか立場とか、そんなの関係ありません。年甲斐もなく甘えればいいんです。迷惑掛ければいいんです。そしたら俺だってそれに応えますよ」

 

 それに、と杠は続ける。

 

「そうしてくれたら俺からも永琳さんに甘えますし、色々とご迷惑を掛けます。これで良いんです、足りない所は他の人に補って貰う、って言うのが人間関係の基本ですよ?」

「優斗君......」

「......あー、その、なんですか? 変な事言っちゃいましたね。アハハ...俺も酔っ払ってるのかな?」

「......あーあ、今日は優斗君に説教までされちゃったわ。本当ダメね私」

 

 ダメダメよホント、と言い続ける永琳。その顔は先程と違い、嬉しさを感じ取れる生き生きとした表情をしている。

 

「ご、ごめんなさい。あれなら忘れて貰っても......」

「いえ、そんな事ないわ。なんかそれ聞いて吹っ切れたわ、有難う。......そんな訳で優斗君に1つ命令が有るんだけど、良いかしら?」

「...ええ、何なりと」

「私の従者としてこれから頑張って頂戴、異論は認めないわよ」

 

 清々しいまでに傲慢で、この上なく自分勝手な命令。そして同時に彼女にとっての信頼の言葉でもある。ならば答えは決まっている。

 

「了解です、精一杯やらせて頂きます」

 

 杠は笑いながらそう答えるのであった。

 

「よし! それじゃあ改めて乾杯しましょうか!」

「まだ呑むんですか!? 流石に控えないと明日に支障が出るんじゃ......」

「そんなの明日考えれば良いの‼︎ だからこんなめでたい日くらい朝まで呑み続けましょ‼︎ コレは命令よ‼︎」

「ぐぬぬ...確かにそうは言いましたけど...仕方ない、こうなったら徹底的にお付き合いしますよ!」

「「カンパーイ!」」

 

 因みに、杠と永琳にコレ以降の記憶はない。翌日目が覚めた時に残っていたのはどうしようもない頭痛と吐き気だけだったと言う。




「甘えてもいいならチョット危ない治験もやって貰おうかしら♡」

「それとこれとは話が別です」



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