SIDE:リナ
卒業旅行も無事終わり、新しい住居、st.ヒルデ魔法学院の学生寮に戻ってきたあたしとなのは、そして居候の良牙。
でも水を被った良牙が子豚に変身してしまった…てか何で?
『…事情はわかった。今、データベースを検索して…あ、あった。』
さっすがユーノっ!伊達に最年少司書長候補は名乗ってないわね…。
『…別に僕は名乗ってないよっ!…と言うかこれ、地球の伝説なんだけど。…呪泉郷っていう場所が中国の何処かにあって、そこにある泉1つ1つに悲劇的な言い伝えがあるって。』
悲劇的な言い伝え?例えばどんなのよ?
『…1500年前に女の子が溺れて亡くなった泉、〈娘溺泉〉で溺れた生物は、水を被ると女の子になってしまう体質になるそうだよ。』
「ブィ、ブイブィ!」
なのはに抱き抱えられたままユーノの話を聞いていた良牙(子豚ver)が猛烈に頷いてる…どうやらビンゴみたいね。
『…あ、黒豚溺泉ってのもあるね。1200年前に黒豚が溺れて亡くなったって…これじゃないの?』
「ブキッ!」
…で、どうやったら元に戻るのユーノ?早く教えなさいよ!
『まぁ待ちなよ…元に戻すには…お湯をかけたら元に戻るってさ。』
お湯をかけたらって…どこのインスタント食品よ全く。でも今日はお湯は出ないって…あっ。
あたしたちの視線はコンロにある沸騰したヤカンに…良牙、これでいいの?
「ブイブィ、ブキィ~ッ」
…どうやらいいみたいね。でもこのまま元に戻ったら素っ裸だから…シャワールームに行って浴槽に熱湯を入れて少し水を埋めてっ…と、これでいいかな?
「良牙、準備いいわよ。…なのは、離してあげてくれる?」
「…はぁい…。」
…なんで残念そうなのよあんたは…
なのはから解放された良牙(子豚ver)はシャワールームに飛び込んでいく。そして…。
ボチャ~ン
お湯に飛び込む音がして数分後、寝間着に着替えた良牙が姿を現した。
「…すまない。お陰で助かったよ。」
いや、別にいいけど…良牙、さっきユーノが言ってた呪泉郷ってのに落ちたわけ、アンタ?
「あぁ…と言うか、こっちの世界にもあるのか、呪泉郷はっ?!それならそこにある男溺泉に入ればこの体質は…」
『…残念だけどこの資料は平行世界の物も含まれてるから…こっちの地球に在るとは限らないんだ。』
ユーノの言葉に落ち込む良牙。…ま、元気出しなって。
『呪泉郷については僕も続けて調べてみるよ。何か判ったら連絡する。』
うん、ありがとねユーノ。…ん、どったの良牙?
「…なぁリナ。あのユーノって…お前の彼氏か?」
なっ?!…いきなりこいつはなんて事を…
「違うよ良牙くん。ユーノくんはリナちゃんの弟だよ。…義理のね。」
こら、なのは!間違ってはないけど意味深な発言はやめてっ?!
「?!…まぁいいか。それより方向音痴と変身体質はなんとかしないとな…」
「それは大丈夫よ。今チート気味な科学者チームが解決策考えてるから。」
マリーさんとプレシアさん、それにリニスとシャーリー…こんだけ面子が揃ってたら大概の事は解決するんじゃない?
『もしもしリナさん?シャーリーですっ!』
…ほらね。
『良牙さん用のデバイスが出来たんで、明日管理局の方へ来て頂けますか?あと良牙さんの魔力ランクも調べるので。』
「わかったわシャーリー。あと追加で…」
あたしはたった今起きた事件をシャーリーに説明する。
『…水を被ると子豚に変身って…一体あの人何者なんですかっ?…まぁそれぐらいだったら明日来るまでに何とかなるんじゃないですか?』
…マジですか…どんだけチートなのよあんたら…
『それじゃ明日お待ちしてまーすっ!』
そういってシャーリーは通信を切った。
やれやれ、明日は管理局本局か…いや、ちょっと待て…あたしら無事に辿り着けるんだろうか…?(汗)
で…翌日、あたしたちは管理局本局に辿り着いた…問題なく。今日はなのはが手を繋いで来たんだけど、なんともなかった。
「良牙、迷子になるのって何か法則でもあるの?」
「わからん!わかってたら自分で何とかしてるだろう?!」
…それもそうね。それじゃマリーさんの処へいきますか。
「あ、いらっしゃいリナさん。待ってたわよ。」
あ、プレシアさん!マリーさんとリニスも久し振り~っ!
「相変わらず元気そうでなによりだわ…その子が良牙くん?」
「…はい、響 良牙です。…あなたは?」
「あ、ごめんなさい。自己紹介がまだだったわね…私はプレシア・テスタロッサ。フェイト・テスタロッサは私の娘よ。」
「…娘…だとっ?!姉の間違いじゃないのかっ?!」
…良牙、間違いなく2人は親子よ…ちなみに年齢は…ゴニョゴニョ…
「な、何!ろくじゅ…」
しっ!声が大きいわよっ!…まぁ気持ちはわかるけど。
「…リナさん、何か言ったかしら?」
いやいやいやっ?!何も言ってませんよ!
あたしは良牙共々手を振って誤魔化す。
「…そう?不穏な空気を感じたんだけど…気のせいかしら?」
「そうそう気のせいですって!…それより出来たんでしょ、良牙のデバイス?」
「えっ…あ、そうだったわね…マリー?」
「は~い!…これが良牙さんのデバイスですよ。」
プレシアさんがマリーさんに持ってこさせたのは勾玉のついた数珠型のブレスレット。多分待機状態なんだと思うけど…
「とりあえずそれつける前に、魔力の測定しちゃおっか?ちょっと良牙くんこっちにきてくれる?」
そういうと良牙はマリーさんに奥の部屋に連れてかれた。
「ところでシャーリーから聞いたのだけど、あの良牙って子は時空をねじ曲げるって本当なのかしら?」
「ブブーッ!(×2)」
プレシアさんの質問にあたしとなのはは同時に吹き出す。
「…時空をねじ曲げるって…ただの方向音痴ですよ。ねぇリナちゃん?」
そ、そうなのかな…あながち間違ってはいないような…(汗)。
「えっ、これって…リナさん、プレシアさん、ちょっと来てくださいっ!」
奥の部屋からマリーさんの叫び声が…なんかあったのかな?
「どうしたのマリー?何か異常でも?」
あたしたちが奥の部屋…計測室に入るとマリーさんとリニス、シャーリーが驚きの表情でモニターを見詰めている。
「どうしたのマリー?」
プレシアさんの問いかけにマリーさんは無言でモニターを指差す。そこには…
響 良牙
魔力ランク empty
魔導師ランク no runk
…はぁっ?!魔力が測定不能で魔導師ランクは無し?プレシアさん、一体これって…
「…リンカーコアの不全ね。恐らく魔力は最低でもS~SSあるはず。だけどリンカーコアが未発達なまま育ったから魔法を行使することは出来ない…ということ。」
なるほど…じ、じゃあデバイスも?!
「それは大丈夫よ。出来ないのは魔力の行使であって、デバイスに対する魔力の供給はデバイスが管理するから。」
良かった…なのはが咸卦法を教えたら魔法が使えないのは十分カバーできるから…
「それじゃ良牙くんの方向音痴と子豚化は?!」
「えぇ、完全じゃ無いけれど希望する場所への自動ナビと子豚化の阻止機能は使えるわ。魔力が切れなければ、ね。」
「それは本当か?!」
良牙が測定室から飛び出してきた。
「え、えぇ…あとはバリアジャケットと武器の設定ね。こればっかりは貴方のイメージが必要だから。」
プレシアさんはそういうとさっきのブレスレットを良牙に渡して言葉を続ける。
「さぁ、貴方が必要とする武器と防護服をイメージしながらこの子の名前、そして『セット・アップ』と宣言しなさい。…準備はいいかしら?」
良牙は頷くと、ブレスレットを頭上に掲げ…
「いくぜっ!…『獅子神楽(ししかぐら)』、セェット・アーップ!」
良牙の叫びと共にオレンジ色の光が包み込む。
「…これが良牙くんの魔力光?!吹き飛ばされそうだよ…」
…確かに。こんだけの魔力があるのに使えないのはちょっともったいないかも。
そうこうしてるうちに光が消え、その後に居たのは黒い拳法着に身を包んだ良牙の姿。…うん、それはいいんだけど…
「…なんで武器が『番傘』なのよ、良牙…?」
そう、良牙の持ってたのはオレンジ色の番傘。確かに似合ってはいるけどさぁ…。
「大丈夫だよ良牙くん、とっても似合ってるから問題ないのっ!」
なのは、あんたはちょっと静かにしててくれる?話がややこしくなるから。
良牙は番傘を2、3度振り回し感触を確かめる。
「…これは驚いた。胴着もぴったりだし、番傘もいい感じだ。」
「それはよかったわ。とりあえずそれを着けておいたら道に迷っても元に戻ってこれるし、変身も防げるわ。ただし、さっきもいったけど魔力が切れたらダメよ。」
プレシアさんの言葉に頷く良牙。…やれやれ、これで一安心…かな?
あたしはなのはと顔を見合せ、お互い笑いあった。
そして次の日…あたしたちはst.ヒルデ魔法学院の門を潜った。
これから始まる学院生活、多分ドタバタするとは思うけど…楽しみっ!
次回からいよいよ本当に学院編が始まる…はずです。
次回、「はいすくうる〈7〉入学式~とっても無謀な挑戦者」
次回もリリカル、マジカル…
「高校生活も…」
「頑張りますっ!」
(BYリナ&なのは)