それでは本編、どぞ!
NO SIDE
とうとう始まったStヒルデ魔法学院祭。
喫茶店〈MIDORI‐YA〉を開店させたリナたちだったが、初日早々に問題発生!
リナは1人レストランを経営するゼロスから、「知り合いを保護しているので連れ帰ってくれ」と連絡をうけゼロスの店に向かう。
一方〈MIDORI‐YA〉では異世界からの来訪者・シュテルの影響で猫カフェと化し、予想外の展開を見せていた。
SIDE:リナ
(…どうやったらこんな店出来るのよ…)
あたしたちがゼロスの店にたどり着いて最初の感想がこれだった。
『ははっ、凄いねこれは…』
「模擬店レベルを越えてるぞこれは…。」
「…多分、魔法で構築して組み上げたんでしょうけど…」
実際、ゼロスは前世で壊れたガラス張りの温室を一瞬で修復したことがある。しかもアイツにとっては「銅貨2枚分の労力」だったらしいから。
「…ま、行ってみましょ?」
あたしがそう言った途端…
ちゅど~んっ!
店の奥…多分厨房の辺りから爆発音と煙…間違いない、あの子ね…はぁ。
あたしたちが店の中に入ると、意外にも店内は落ち着いた雰囲気。お客さんもふつ~に食事してる。
「というか、さっきの煙はどこいった?!」
「…厨房と客席は結界で隔離してますから影響は無いですよ。…お待ちしてました、リナさん、それに皆さんも。」
厨房から現れたのはコックコートに身を包んだパシり魔族ことゼロス。そして…
「リナさん、それにレヴィもっ!…逢いたかったですぅ~!」
その後ろから飛び出して来たのは…レヴィと同じ世界から来た少女、ユーリ・エーベルヴァイン。
究極に可愛らしい外見とは裏腹に、その魔力はあのナハトヴァールに匹敵する〈紫天の盟主〉。
決して怒らせてはいけないタイプだ。
「おー、ユーリっ無事だったんだね…よかった…もしユーリになにかあったらボク…」
珍しくしおらしいレヴィ。やっぱり心配だったの…
「…これで王様に怒られずにすむよ、ほんとによかったぁ~。」
心配してたのはそっちっ?!
「はぁ~っ、感心して損したわ…ま、とにかくゼロス、約束通り…」
「…仕方ありませんね。我がレストランのコースを堪能していただきますか。…お客様を席にご案内して。」
ゼロスはそうウェイターに告げると、厨房に戻っていった。
案内されたテーブルに座りふと横を見るとそこでむさぼり食ってたのは…
「シ、シャーリー?!アンタどうしてこんなとこいんのよ?」
そう、そこにいたのはシャーリー。
「あ、リナさん!それにユーノ司書長に良牙さんも。お疲れ様ですっ!」
…いや、お疲れ様はいいんだけどさ…あんた仕事はどうしたのよ仕事は?
「…実は夢枕にワニを持った八重歯の可愛い女の人が現れて、『Stヒルデの模擬店を完全制覇しろ』と…」
「なんじゃその夢はぁ~っ?!」
そんなお告げが何処にあるってのよ、まったく…で、どれだけ制覇できたのよ?
「えっ?1年生はあと〈MIDORI‐YA〉さんで終わりですよ?」
…なん…だと?
あんたこの学院祭に1年生だけでどんだけの模擬店があると思ってんのよ?!
「でもほんとーの事だしー?!」
なんかしゃべり方まで別人に?!
「…お待たせしました。前菜の…」
お、あたしたちの料理が来たみたいね。ゼロスの料理なんて思えば前世でも食べた事無かったけど…大丈夫かな?
「「おいひ~っ!!」」
「うめぇ…こんなの食べた事ないぜ!」
レヴィ、ユーリ、良牙は脇目も振らずにひたすら食べてる…そこまでなのっ?!
あたしもとりあえず前菜のカルパッチョを一口…こ、これは?!
あっさりとした口当たりの中に濃厚なコク…でもこの味何処かで…あっ?!
「ちょっとゼロスっ!なんでこの世界にあたしたちの世界のニギタケがあるのよっ!」
…ニギタケは地球でいうところの松茸やトリュフにあたる高級食材のキノコ。もちろんこの世界に存在するわけがない。
「…僕を誰だと思ってるんですか?料理の白騎士である僕にとっては容易いことです。」
なんなのよそのふざけた能力は…?まぁ美味しいからいいけどさ。
それから小一時間、あたしたちはコースだけでなくアラカルトも完全制覇(もちゼロスのおごり)!
「…あ~おいしかった!ゼロス、あんたなかなかやるじゃ…ってあれ?」
ふと回りを見渡すとウェイターの人たちが閉店準備を始めてる。
「…おかげさまで食材切れです。リナさんはともかく、シャーリーさんとレヴィさんが予想外でしたよまったく…」
…えっ…(汗)…ごめん、あたしの分は払うわ。
「いいですよ、約束ですから。それよりレヴィさんと仰いましたか…貴女はこことは異なる世界のフェイトさんを素体としたマテリアル…という事でよろしいですか?」
「…?うん、そふだよ~、(モグモグ)それがどふかした?」
こらレヴィ、しゃべるなら口の中空にしてからにしなさいっ!
「ふわぁ~い…」
「で、それがどうしたのよゼロス?卒業式の時言ってたあれと関係あんの?」
あたしの問いかけにゼロスは頷く。
「さすがですよリナさん。貴女もお気付きの通りこのところ次元世界の壁が揺らいでいるみたいで、各地で次元漂流者が発生しています。」
うん、それユーノから聞いた。で?
「…その原因が貴女の転生にあるらしいことは以前伝えた通りなんですが…実はその影響が他にも現れているんですよ。」
「なっ?!…何が起きたっていうのよ?」
ゼロスは意味深にふぅとため息をついた。
「…簡単に言うと、『目覚めるはずのない、目覚めてほしくない』存在…そう、〈異端者/イレギュラー〉とでもいいましょうか。…とにかくそういう存在が目覚めの兆候を見せはじめているんですよ…。」
…〈異端者〉?あたしはその言葉に絵も知れぬ不安を感じた。
「その中でも1つの反応が活発化しています。…残念なことにその特異点は特定できませんが、目覚めは近いかと。」
マジか…あたしは天を仰ぎながら思いを馳せる。
(なによ〈異端者〉って?!…また厄介な事が起こるっていうの?…ま、この身に降りかかる火の粉は振り払うだけだけど。)
『お~いリナ、はやてから通信だよ!開いていい?』
はやてから通信?なんかあったのかしら。…あたしが頷くと、目の前にはやての顔が映し出される。
『あ、リナちゃん?食事中のとこごめんな!?』
「いいわよ、今終わったところだから。…なんかあったの?」
あたしの問いにはやては少し間をおいて応える。
「…うん、大きく分けてふたつな。1つはちょっと前にこっちにシュテルちゃんが来てな…今猫カフェと化しとるわ。」
「え、シュテルんいるのっ?!」
「よかったですぅ~!」
話を聞いてたレヴィとユーリも喜ぶ。…シュテルは相変わらずみたいね。
『それでもう1つなんやけどな…リナちゃん、ドッペルゲンガーって知ってるか?』
?…確か多重存在…自分とそっくりな姿をした何かが所々で出没しては姿を消す現象、もしくはその存在の事よね?
『実は少し前から学院祭の運営委員会に、わたしのそっくりさんがあちこちの模擬店に現れてはトラブル起こしてるってクレームが来とるんよ。でもわたしはずっとお店におるしなぁ…』
ん?それってもしかして…?
『…もしかしてわたしの生き別れのお姉ちゃん?』
「違~うっ?!…それって王様…あんたを素体としたマテリアル・ディアーチェなんじゃ…」
「何、もう閉店だと?怠慢じゃないのか…店主を呼べ、我が説教してくれるわ!!」
…今の声…どうやら当たりみたいね。
「王様ぁ~!!」
「ディアーチェぇ~っ!!…逢いたかったですぅ!」
その声を聞いたレヴィとユーリは扉のところで店員と揉めていた少女…ディアーチェ・K・クローディアに飛びつく。
「どわっ…おぉ、レヴィにユーリ!お前たちも無事だったか…心配したぞ。」
ディアーチェは2人を確認すると嬉しそうに頭を撫でる。
「やれやれ…お久しぶり、ディアーチェ。元気だった?」
「ん、お前…逢魔リナかっ?!…ということは此処は…?!」
「そ、此処はあたしたちの住んでるミッドチルダよ。…次元の穴に落っこちたんだって?」
あたしの言葉にディアーチェはばつ悪そうに顔を赤らめる。
「し、しょうがないだろうが?!咄嗟の事で回避出来なかったのだ!」
ま、別に責めてる訳じゃないんだけど。
「ということは、後は一夏だけだね…どこにいるんだろ一夏…」
レヴィの呟きにすぐさまディアーチェが反応する。
「何?!…それではシュテルの奴も…」
『シュテルちゃんはこっちで保護してるで?…あんたがディアーチェちゃんか?』
「…お前は子鴉?!…そうか、こっちの世界にもいるんだったな。いかにも、我がディアーチェ・K・クローディア。闇統べる王とは我のことよ!」
『…厨二病?』
「たわけ!子鴉、お前だけには言われたくないわ?!」
たはは…さっそく話が弾んでるわね。
後は一夏だけ…早く見つかるといいんだけどね。
「一夏~、早く逢いたいよぉ~っ!」
(BY レヴィ)