幸福の女神様と共に(このすばifルート)   作:圏外

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夏休みに入ったから早速旅行に行ってたとか、シン・ゴジラが面白かったとか、この作品ifルート要素が殆どない事に今更気付いたとか、端的に言うと遅くなりましたすみません。


第11話

 ミツルギ事件(ゆんゆん命名)から数日。

 

 とっくにカエルはおとなしくなり、畑の秋刀魚は脂が乗って美味しい季節、つまりは秋になった。

 

 つい昨日のことだが、依頼されていた王都からの調査団がアクセルに到着した。だが到着した調査団が見たものは、以前のアクセル周辺となにも変わらない普通の状態に戻ったモンスター達だった。

 

 実のところ、元々強化されたモンスターの死骸は高値で買い取りされていたが、冬牛夏草のように姿形まで変形した奴ら以外に何かしらの痕跡は見つかっていなかったそうだ。調査団に配属された高レベルの冒険者集団は肩透かしを食らったことになる。

 しかし、彼らも手ぶらで帰る訳にはいかない。ミツルギやクリス達の話を聞き、強化の度合いや聖属性が効いたなどの話からアンデッド系の魔法を使えるモンスターが絡んでいると断定、その他被害があった農家の方々などに労災を給付した後、ギルドの職員が書いたらしい報告書を手土産にさっさと帰って行った。

 

 調査団の団長が帰り際に、自分たちが来るまで強化モンスターを駆除していた、王都でも実績のあるミツルギに正式に調査を依頼した、という話を聞いた。魔剣グラムを失い戦力が大幅ダウンしたミツルギは苦笑いを浮かべていたそうだが、同じくらいのレベルのクレアが戦えるのだし大丈夫だろう。

 

 魔剣グラムと言えば、今の所はベルディアさんに預かって貰っている。

 とにかく魔剣グラムは今現在ベルディアさんが持っている訳だ。ミツルギを憐れんだクリスが返してやれと頻りに言ってくるが、それは無理な話だ。

 

 まあ、もう少しで返してあげてもいい頃だと思うけどね。(返すとは言っていない)

 

 それはそれとして、俺たちはとある場所に来ていた。

 

 

「ここか。なるほど、流石に町一番の豪邸と言うだけはあるな!」

 

「……私は罪悪感で今にも潰れてしまいそうなんですけど……」

 

 街の郊外にある、一軒の巨大な屋敷。

 

 そう、ミツルギ事件で俺があいつに要求した『この街で一番広くて高い屋敷と、この世界で最高級の家具一式を全部屋分』の屋敷の方である。

 

「……それにしても大きいですね。屋敷にしては小さい方だと業者の方は言っていましたが、庭まで合わせると紅魔の里の五分の一くらいありそうですよ」

 

「いまいち例えがわからんが、別荘ならこんなものじゃないか?」

 

 ちなみに、ゆんゆんとクレアは我関せずの姿勢を貫くことにしたらしい。要求についてはやり過ぎだと思うが、ミツルギにも非があるからとりあえず静観、ということだそうだ。

 

「……カズマさん」

 

「ん、なんだクリス」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それでは、話を少し前に戻そう。

 

 魔剣グラムは、現在ベルディアさんの元で『預かって貰っている』状態である。これは別に、俺が魔剣を売っぱらったからベルディアさんの店のショーケースに展示してあるという意味ではない。ただ預かって貰っているだけだ。

 

 と言うか、元々俺に扱えないとわかった魔剣に興味はない。持ってみたところ結構重いし、下級の戦士職にすら就く事が出来ない俺にあんなでかい剣を扱えるとは思わないし。

 

 つまり、あの剣は交渉用に奪ったのである。屋敷はやり過ぎだというのは重々承知、その上でミツルギの中で屋敷と同程度の価値を持つであろう魔剣を奪っておき、片方を返すという条件で屋敷を手に入れようという算段だ。

 

『最初に無理難題を押し付け、少しずつ要求の度合いを下げる』というやり方の値引き方があるそうだが、俺は『交換条件を出すことで無理難題に正当性を持たせる』方法を採った。交換条件用の魔剣もミツルギから奪ったものだし、コスパ最高である。

 

「大丈夫大丈夫。勿論、約束は守る」

 

「本当ですよね⁉︎最後になってやっぱやめたとか言いませんよね⁉︎」

 

 まあ、ベルディアさんに念のため鑑定をしてもらったら、『神器はコレクターに売れば高値で売れる』と聞いたので、家具が揃ったら迷わず売りさばくけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃーん!なんとなんと、キセルから出てきたのはネロイドでしたー!」

 

「うおおおお⁉︎どうなってんだコレ⁉︎」

 

「アクア様!もうあんたが女神でいいから、もう一度!もう一度お願いします!」

 

「だーめ。やれと言われてやったら本当に芸人になっちゃうじゃないの。それに、一度ウケたからといってそれを何度もやる様な安い女神じゃないわ。

 そんな事より、次のもすごいわよ!なんとなんと……じゃーん!屋敷の壁に起動要塞デストロイヤーッ!」

 

「「「おおおおお‼︎」」」

 

「やめろ!俺の屋敷を汚すな……って凄っ⁉︎」

 

 俺が拠点を手に入れて初めての夜。

 

 一体何処から漏れたのか、俺が屋敷を手に入れたことが冒険者連中にバレていた。

 何かにつけて呑んだくれてるこいつらがこんな絶好のイベントを見逃してくれるわけもなく、俺の新居は宴会に巻き込まれてしまった。

 

 それを聞きつけ、宴会芸の神こと駄女神アクアもやって来た。宴会なら自分に任せろとばかりに駆けつけ、酒を呑んではしゃぎ回り、今は本業の芸の方をやっている。

 

 正直な所、うるさいだけでとても迷惑だと思っていたのだが、アクアの芸の腕はまさしく神懸かっていた。壁に描かれたハ◯ルの動く城っぽい兵器に至ってはもはや芸術品の域である。

 

「あれ⁉︎さっき酒を壁にぶっかけただけだった様な……ちょ、ちょっとアクアさん?もう一度同じ事を……ああいや、同じじゃなくてもいいから似た様な事を……」

 

「だーかーらー、さっきも言ったでしょ?私は同じことは二度とやらないの」

 

「そこをなんとか!一応ここの家主は俺なんだし、少しくらい……あいたっ」

 

「なにやってるんですか。アクア先輩もあんまり屋敷を汚さないでくださいよ」

 

「なによー!せっかく盛り上がってるのに!そんなこと言ってると、あんたのその胸パッド取り上げ「わー!わかりました!芸はやって良いですからそれ以上は言わないでください!あと壁も汚さないで!」ったく、しょうがないわねー」

 

 やれやれとかぶりを振り、また芸を始めるアクア。赤くなっているクリスは恥ずかしそうにしている。

 2人は先輩後輩の間柄だと言うし、案外天界では仲が良かったのかもしれない。少なくとも相性は良いように感じる。

 

「ハハッ、女神様にも可愛い一面があるんだな。意外だよ」

 

「いつもあんな感じだっての」

 

 今話しかけてきたのはミツルギだ。なんだかんだ宴会に参加しているあたり、ちゃっかりしている。屋敷を買ったのはミツルギなので、どちらかと言えばいない方がおかしいのだが。

 

 色々酷い目に遭わせたはずなのに話しかけてくるのは、さすがに女をはべらす勇者候補なだけあってリア充というか、図太いというか。

 

「……それにしても、アクアさんって何者なんだ?昔から凄い芸をするとは思っていたが、エリス様……もといクリスさんに先輩と呼ばれているようだが……」

 

「そっくりそのまま先輩の女神らしいぞ。もともとクリスが俺たちの世界の担当で、あのアクアがこの世界担当の女神なんだと」

 

「それは何というか……意外だな。昔ウチのパーティに勧誘したら断られた挙句逆にしつこく宗教勧誘されて困ったものだが、改宗してでもパーティに入って貰うのもアリかもしれないな」

 

 どうやらミツルギはアクアに目をつけたらしい。確かアクアの宗教は奇人変人の集まりだと聞いたが、こいつは知らないのだろうか。と言うかクリスに断られたから別の女神に目をつけただけのように見える。

 

「お前……あんなの見てよく誘おうと思えるな。この節操無しが」

 

「僕は、女神様をパーティメンバーに出来るのならどんな事でもするべきだと思う。それは君が一番良くわかってると思っていたんだが?

 ……まあ、前回誘った時はいずれ賢者になるかもしれないと思っていたのは否定しないが」

 

「ぶはっ」

 

 思わず吹き出してしまった。

 こいつ、アクアを遊び人だと思っていたらしい。流石に日本人だけあって、ドラクエネタが通じる。この世界に来てから日本の知識を持っているのはクリスだけだったので、日本のネタが逆に新鮮だ。

 

「け、賢者て……フフッ、ドラクエじゃねぇんだから……」

 

「ははは、そりゃあ日本人だからね。日本の頃のイメージは捨てきれないさ。

 意外と言えば、君がみんなのお酒代を払っているのも意外だったよ。かなりお金にはがめついイメージがあったんだが……」

 

「はぁ?なに言ってんだ、冒険者仲間とは繋がりを作っておくに越したことはないだろ。少なくとも、何かあったら助けてくれる程度の間柄は必要なんだよ」

 

 ミツルギの場合、チートを貰って転生したのだから1人でも充分に活躍が出来て、のちに仲間が出来た、という流れだろう。だが俺は俺自身が強い訳じゃないから、つーか俺自身は強くなれる気がしないから。

 

 いざという時、自分は頼りにならない。なら仲間に頼るしかないのだ。丸投げとも言う。

 ここの男の冒険者は()()()があるからか、結構高レベルな人が多い。

 

「……そうか。君にとっては、仲間は屋敷にも匹敵する程の……いや、何よりも価値があるものなんだね」

 

「……」

 

「改めて、この前の件はすまなかった。これで許してもらえるとは思っていないが、この屋敷を僕の気持ちだと思って受け取ってくれ」

 

 深々と頭をさげるミツルギに対して、俺はなにも言わなかった。

 ……印象って大切だと思うんだ、うん。

 

 

 

「……それはそうと、僕がここに来たのは宴会に参加するためじゃないんだ。ちょっと君に話したい事があってね」

 

 俺が微妙な顔をしていると、ミツルギが急に声色を変えて話し始めた。なにやら真剣な話らしい。

 

「よし、ミツルギ。おまえもう帰れ」

 

「あれ⁉︎何でそうなるんだ⁉︎」

 

「せっかく拠点を手に入れて、これから慎ましく暮らしていこうっていう最中に厄介事を持ち込む奴なんていらん。帰れ」

 

「そ、そんな理不尽な……」

 

 ミツルギは呆れつつも、話を続ける。

 

「厄介事を持ち込むと言うか、厄介事の報告、になるのかな?実際問題もう手遅れだし」

 

「お前ふざけんなよ、一体俺に何の恨みがあるっていうんだ!」

 

「いや恨みなら結構あると思うけど……」

 

 ……どうも避けては通れない案件らしい。まぁ、キャベツレベルなら何とかなるし、ちょっとしたモンスターくらいならクリスとクレア、それにゆんゆんがいれば何とかなるだろう。

 

「……で、何だって?俺は何をしたらいいんだ?」

 

「この間の強化モンスターの件なんだが、妙な話を聞いたんだ。どうやら僕たち、と言うか僕とクリスさんたちは、魔王軍に正式に目をつけられたらしい」

 

「は?」

 

「無論、クリスさんとパーティを組んでいる君も例外じゃないと思う。と言うより、クリスさんが狙われた時点で魔王軍と戦うのは避けられない訳だけど」

 

 え?魔王軍?

 

「えっと、魔王軍ってアレか?人類に敵対しているっていうあの……」

 

「そう、あの魔王軍だ」

 

 ちょっとまて、全く身に覚えがないぞ⁉︎何で駆け出しの街にいる最弱職の冒険者がそんな悪の親玉みたいな奴らに目をつけられなきゃならないんだ⁉︎

 

「あの強化モンスター、アンデッド系の魔法で強化されていたって話はもう聞いたかな。過去の記録を調べてみてわかったんだけど、実は前例があるらしいんだ。最も、かけられてた魔法は完全に同じ物ではなくて、色々と改造されていたらしいんだけど」

 

 つまり魔法を改造して効果を変えるレベルの魔法使い?へー、それはすごいね。そんな強い敵に狙われるなんてさすがは勇者候補だ。頑張って、俺はミツルギを応援してるから。

 

「そこで、ある大物の名前が浮かび上がってね。……まあ、相手がアンデッドである以上、女神かつアークプリーストであるクリスさんは相性が圧倒的に有利なんだけど……正直、クリスさん抜きで対峙した場合、僕たちの命はないと思ってくれ」

 

 おいやめろ、俺は(そういえばミツルギも転生者なので、ミツルギもか)一度死んでいるからもう蘇生魔法は効かないんだぞ!命はないとか言うな!

 

「少し説明口調になってしまったが、結論を言うとーーーー」

 

 おいばかやめろそれ以上言うなお願いだからマジで本当にたのむから

 

 

 

「僕らは、魔王軍幹部に狙われてるらしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《sideベルディア魔道具店》

 

「……ハァ」

 

 カズマくんが決闘で手に入れたと言っていた、魔剣グラム。使用者以外が使っても効果が薄い神器だが、珍しい武具として収集しているコレクターは少なくない。

 

 そういったコレクターの手に渡れば、未来永劫陽の目を見ることはなくなってしまうだろう。元騎士の俺は、この剣が可哀想に思えた。個人的には、どうにかして所有者に返してあげたいものだが……

 

 ミツルギとやらに要求したと言う屋敷を受け取ったら返すと言ってたのを信じるしかないが、おそらく売り飛ばすんだろうなぁ……カズマ君にクリス少女を言い籠められたら俺が止めても返り討ちにされるだろうし、どうしたものか。

 

 ……やめよう。カズマ君の良心を信じるしかない。

 

 返り討ちと言えば、クリス少女は一体何者なのだろうか。上級アンデッド、尚且つ魔王軍幹部の俺にダメージを与えるほどの浄化魔法など、普通ではない。

 それに俺は、あの時は邪悪なプリースト対策に聖属性を打ち消す類の魔法具を鎧の中に着込んでいた。結構な量があったと思うのだが、帰ってみると全てが逆に壊れてしまっていたのだ。

 

 効果の発動は確認した。それでも効果は無かった。

 クリス少女は、もしかしたら神の加護を受けた本物の勇者なのかも知れない。

 

 今の魔王もそろそろ歳だし、世代交代も近いかもなとか、そんな事を考えていると、からんと言う乾いた音が店内に鳴り響いた。

 

「はい、いらっしゃ……ッ⁉︎」

 

 店内に入ってきたのは、俺と同じ魔王軍幹部。

 

 ふわふわした茶髪のロングと、雪のように白い肌。そして無口無表情に鋭い目付きが特徴的だ。

 

 魔法効果を高めるローブを改造してミニスカートかつ胸元を開けるセクシーな格好だが、驚くほどに無口なキャラとの親和性が無いのは魔王軍でも有名な話だ。()()()()()も、同じような格好をしてパーティで俺のような幹部クラスの大物を倒し回っていた。俺も以前狙われた事がある。

 

『氷の魔女』『冷血の不死王(ノーライフキング)』『ミニスカドジっ子クール系厨二病ポンコツリッチー』など、様々な通り名がある。最後の一つはとある幹部の友人が名付けたらしいが、その時の2人の戦争ともいうべき衝突は記憶に新しい。

 

「久しいな、幹部ベルディア……手短に、用件だけを話すわ」

 

「お、おう……え?何そのキャラ」

 

 『幹部ベルディア』とか、そんな呼ばれ方されたことないんですけど。

 

 表情を変えずに、ぶっちゃけあんまり似合ってないキャラを崩さずに、魔女は言う。

 

 

 

「クリスとか言うアークプリースト……奴は何者だ?」




ウィズのキャラをいろいろ考えた結果、めぐみんに負けず劣らずの厨二病に成り下がりました。
……大丈夫かこれ?

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