幸福の女神様と共に(このすばifルート)   作:圏外

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昨日のうちに投稿したかったのですが、予想以上に長くなった上ノリノリで書いていたら、夜中の2時半になってました。明日1限から講義があるのに……

気付いたら評価バーが真っ赤に……皆さんありがとうございます!これからも頑張ります!


第4話

 翌朝。

 

「早く準備してください!あの子がクエストに行っちゃったらどうするんですか⁉︎」

 

 まだ早朝だと言うのに、クリスはやけに急かす。ぼっち少女が心配なのは分かるが、さすがに時間が早すぎる。

 

「ちょ……落ち着けクリス。あの子が心配なのは俺も分かるが、まだ7時だ。朝飯を食うにしても少し早いくらいだぞ?それに今日は土曜だし、居るとは限らないと思うんだが」

 

「そ、そうですか……?」

 

 

 

 

 

 結論から言おう、居た。

 

「ほら!ちゃんと居るじゃないですか!」

 

 正直何故いるのかはわからない。あのくらいの歳の女の子が休日の朝っぱらから酒場でぼーっとしているのは想像もできなかった。

 

「……そうだな……しっかしなんでこんな時間に……?受付が開くのは9時からだってのに……

 あっ……」

 

「……どうしました?」

 

「い、いや、なんでもない」

 

 俺は気付いてしまった。

 キョロキョロと酒場を見渡す彼女が、酒場に居れば誰かが話し掛けてくれるかもしれないという哀しい期待を持ってこの時間に酒場で佇んでいることに。

 

「世知辛いなぁ……」

 

「えっと……と、とにかく話し掛けましょう!男性のカズマさんが行くと警戒されるかとしれないので、まずは私が行きますね!」

 

 意気込むクリスは、ぼっち少女の方へ突進していった。ぼっち相手にあの行動力は毒だと思うんだが……大丈夫か?

 

 

 

 

 

 

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

「……ふぇ?ひゃ、ひゃい!」

 

 クリスが話しかけると、ぼっち少女は裏返った声で返事をする。何故この少女の一挙手一投足は見ているだけで悲しくなるのだろうか。

 クリスは変わらず慈悲深い声で話しかける。

 

「私はクリスです。貴女、いつもソロでクエスト受けてますよね?もし良かったら、私たちのパーティに入りませんか?ウィザードの貴女がいれば、とっても助かります」

 

「……!……⁉︎……」

 

 ぼっち少女はとても嬉しそうな顔をしたが、俺を見て驚いた表情に変わり、急に警戒し始めた。

 流石の俺もこれにはムッときたが、とりあえず冷静に分析を試みる。ぼっちの彼女にいきなり男のパーティメンバーは厳しいのか?だったら冒険者なんてやらなきゃいいのに……

 

 するとぼっち少女の内情を察してか、クリスが俺に耳打ちをしてくる。

 

「ちょっとカズマさん!あの子怖がってるじゃないですか!もしかして、その……む、胸とか見てたんじゃないですか⁉︎」

 

「みみ、見てねーよ!……ほら、多分友だち経験が少ないから、男に偏見があるんじゃないか?」

 

「……確かにありえそうですね……」

 

 むむむ……と悩むクリス。心配になりながらぼっち少女の方を見ると、意外なことに彼女は俺ではなくクリスを凝視していた。

 

 別に嫌がってるわけではなさそうだ。いや寧ろすごく嬉しそうにニヤけているぼっち少女は、とても可愛いのにちょっと不気味に見える。

 だが、何故かこちらを警戒している。それも、男の俺ではなくクリスの方を。

 

 何かややこしいことになってる気が……

 

 

 

 

 《sideゆんゆん》

 

 何時ものように朝一番に酒場に行き、誰かが話し掛けてくれるのを待っていると、プリーストの女の人が話し掛けてきた。

 

「あの、ちょっと良いですか?」

 

「……!は、はい!」

 

 話しかけられ待ちはこの街に来てから日課のようにやっていたが、実際に話しかけられたのは初めてなのでちょっと驚いたが、普通に返事を返すことができた。

 良かった、ここで声が裏返ったりしたら頭がおかしい子だと思われる所だった……

 

「ねぇ、もし良かったら私たちのパーティに入りませんか?」

 

「……!」

 

 きっ、きき、来たぁ‼︎仲間へのお誘い!これこそ私が長らく待ちわびていた……

 

「……?……⁉︎」

 

 ガッツポーズの一つもしたくなるくらい喜んでいたのもつかの間、プリーストの彼女の後ろを見ると、ショートソードを持った変な格好の男の人がいた。これって、もしかして……

 

「ちょっとカズマさん!あの子怖がってるじゃ……」

 

「……多分友だち経験が……」

 

 何やらコソコソ話をしている。やはり、私の見立て通りのようだ。

 

(この女の人……彼氏持ちのリア充ッ!)

 

 あんなに顔を近づけて話ができるということは、相手は彼氏ということに他ならない。

 

 つまり、私が彼女のパーティに入るとあの男の人も付いてくる。そうなると仮に私が入れば、3人のパーティで1組のカップルと私。間違いなく孤立する。

 

 パーティのお誘いはとっっっっても嬉しい。思わずにやけてしまうほどに嬉しいが、コレだと私は邪魔者なんじゃないだろうか。もしかしたら彼氏(仮)の方は仲間を増やすことに反対で、今話している内容も「やっぱり俺は2人きりで居たい」とか話しているのかも……

 

 そんなことを考えていると、しびれを切らしたように彼氏の方が、

 

「なあ、取り敢えず今日、お試しで一緒にクエスト受けてみようぜ。後から改めて入るかどうか決めて良いからさ。俺はサトウ カズマ。お前は名前、なんて言うんだ?」

 

 一番聞かれたくない質問を、投げかけてきた。

 

 

 

 

 《side・カズマたち》

 

「お前は名前、なんて言うんだ?」

 

 クリスとの話し合いの結果、まず男性への耐性が足りないぼっち少女は俺を怖がっている。だから俺が話しかけ、怖くないことをアピールしろと言うことになった。

 

 そんで名前を聞き出せとのこと。元ニートの俺になんて高難易度のミッションを与えるんだ……

 

 だが、クリスの頼みを断るわけにはいかない。ぶっちゃけこの子も胸は結構大きいし、元の世界で公園に集まるガキどもとゲームで遊んでいた頃のコミュ力を思い出せ俺!

 

「……ぇっと……そ、その……」

 

 ぼっち少女は名乗ることもままならない様子。クリスは俺を怖がって話せないと思っているようだが、俺にはわかる。これは恥ずかしがってる奴の行動だ。

 

 名前を言うのも恥ずかしいのか。これは前途多難だな……

 

 すると、しびれを切らしたようにクリスが話に入ってくる。

 

「さっきも言ったけど、私はクリスです。貴女と友だちになるためにも、名前を知りたいです」

 

 そう言うと、彼女はびくんと体を震わせ、顔を赤くした。どうやら『友だち』というワードが弱点らしい。この時点で俺は涙が溢れてきた。

 

 そして、ぼっち少女はついに名乗った。

 

「……え……わた…………わ、我がにゃわっ!」

 

「うおっ、え?今なんて言った?」

 

「あ、そ、その………………ゆんゆん……です」

 

 とても恥ずかしそうに名乗ったぼっち少女はゆんゆんという名前らしい。ゆんゆん……

 

 正直、この世界でもかなりおかしなネーミングセンスだと思った。だが流石にそれを口に出すのもアレだし、クリスが睨んでくるのでとりあえず社交辞令で名前を褒めておくのが無難だろうか。

 

「……えっと、良い名前だな。可愛らしくて」

 

「⁉︎」

 

 ……さらに警戒を強められました。どうすりゃええっちゅうねん……

 

 

 

 

 《side・ゆんゆん》

 

 

「えっと、良い名前だな。可愛らしくて」

 

「⁉︎」

 

 このカズマさんとか言う彼氏、なんと言ったのか。

 

『良い名前だ』?『可愛らしくて』?

 

 もしかして、あの紅魔族と同じ感性を持っているのか?普通の街に住んでいるくせにそんなへんてこりんな感性を持っているという事は……

 

(この人、頭がおかしい!)

 

「ええいめんどくせぇ!」

 

 目の前のカズマさんの怒号に、私の体がビクッと跳ねる。

 

「何時までこんな事してんだよ!アホか!つーか社交辞令をマジメに取るなアホ臭い!」

 

「え、え⁉︎しゃ、社交辞令⁉︎」

 

「ちょ、作戦タイム!カズマさんこっち!早く!」

 

「……えぇ……?」

 

 何なの……?やっぱりあの彼氏の人、頭がおかしいのかな……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《side・カズマたち》

 

 

「え?冒険者……なんですか?」

 

「ああそうだよなんか文句あんのかコラ」

 

「ひっ……」

 

「カズマさん!」

 

 その後なんやかんやでクエストに行く約束を取り付け、今は情報交換の為に一緒に朝飯を食っている。さっき俺とクリスの冒険者カードをゆんゆんに見せたところだ。

 

 名前を聞くだけであんなに面倒くさい事になったせいでしびれを切らした俺はゆんゆんに怒鳴ってしまい、クリスに怒られた。怒っていてもクリスは可愛かったが、恐らく好感度が下がったので俺は今若干機嫌が悪い。

 

 そのせいもあってか、ゆんゆんには恐れられているようだが、そんなこと知るか。こんな面倒くさいやつとのフラグなんて立てなくても俺にはクリスがいるし。

 

「いえ……アークプリーストのクリスさんと交さ……パーティを組んでいるのが冒険者の方って言うのが意外だったので……」

 

「カズマさんも結構頼りになるんですよ?私が襲われそうになったら助けてくれますし。今はちょっと怖いですけど……」

 

「あぁ……」

 

 何故か納得した様子のゆんゆん。

 そんな話は良いんだよ。それよりゆんゆんのステータスだ。

 

「もう良いだろ俺の事は。それよりゆんゆんは何が出来るんだ?」

 

「あ、えっと、一応アークウィザードやってるので、一通りの中級魔法と上級魔法を幾つか……」

 

「へぇ〜……マジで⁉︎」

 

「ひっ!……は、はい……」

 

 驚くべきことに、ゆんゆんは上級職のアークウィザードだったらしい。

 

「カズマさん、この赤い眼といい綺麗な黒髪といい、ゆんゆんさんは恐らく紅魔族なんですよ。紅魔族は生まれつき高い魔力を持っていて、優秀な魔法使いが多いんです」

 

「ほー、つまりはサイヤ人のエリートって事ね。羨ましいもんだ」

 

「……そんないいものじゃないですよ紅魔族は……」

 

 ゆんゆんは小さく呟いた。エリートはエリートなりに何か悩みがあったりするのだろうか?

 

「それでもパンピーの俺からしたら嫌味にしか聞こえんけどな」

 

「カズマさん!もう……ごめんなさいゆんゆんさん。普段はもっと優しい人なんですけど……」

 

 そりゃ女神様に対して暴言なんか吐けるわけないだろう。女神と知らないならまだしも、そんなことできる奴がいたらこの眼で見てみたいね。もし居たらぶん殴ってやる。

 

「取り敢えずクエストに行こうぜ。ゆんゆんがパーティに加わるかどうかはそこで決めて良いから」

 

 

 

 

 

 

 そして俺たちがやってきたのは前にも行った草原。『3日以内にジャイアントトード5匹討伐』のクエストを受けている俺たちはまだ1匹しか倒していないにもかかわらず、昨日1日をゆんゆんの観察に使ってしまったので時間が無いのだ。

 

 そんでカエルがいる草原に来た。前回は1時間もかけて倒した1匹しか倒せなかったカエルを4匹も倒さなきゃいけないので、苦戦を覚悟していたのだが……

 

「【アースバインド】」

 

 地面が波打ち、埋まっていたカエルが頭だけ地面に出現し、そのまま地面が固まってカエルを拘束した。そして俺が頭をかち割り、とどめを刺す。

 

 すかさず【敵感知(エネミーセンサー)】を発動させ、カエルが1匹だけの地点を探す。奴らは地面に潜って寝ていて、音や衝撃で一斉に目を覚ますので、派手に魔法で倒すと囲まれてしまう。よってゆんゆんには拘束だけをお願いして、俺がカエルを倒すやり方を取っている。

 

「ゆんゆん、次は向こうの丘だ。俺から25メートルの地点に1匹潜ってる」

 

「分かりました。【アースバインド】」

 

「【神言・筋力強化(エンブレイス・パワード)】。ゆんゆんさん、魔力は大丈夫ですか?魔法を連発されてますが」

 

「この位はなんとか……クリスさんこそ、凄い支援魔法ですね。低レベルなのに……聞いたこともない魔法ですし、一体何者なんですか?」

 

「あはは……別に大したこと無いですよ……」

 

「お前ら怖い会話してんじゃねーよ。俺の肩身が狭いじゃねぇか……よっと。これで5匹か……前回苦戦したのが嘘みたいに簡単に終わるな……アークウィザード様々だな」

 

「そんな……カズマさんこそ、前衛と司令塔を両立しているじゃないですか。凄いことですよ」

 

「ありがとな、ゆんゆん」

 

 褒められるのに慣れていないのか、えへへと顔が綻ぶゆんゆん。

 

「ゆんゆんさん、どうですか?私たちのパーティに入ってくれますか?」

 

「えっと……お、お邪魔じゃなければ、ぜひお願いしたいですが……」

 

 そう言って俺の顔色を伺う。多分俺が怒鳴ったせいでまだ怖がられているのだろう、クリスの目線が痛いぜちくしょう。

 

「……怒鳴ったのは悪かったから、もう許してくれ……邪魔なわけないだろ?これからも宜しくな、ゆんゆん」

 

「は、はい!」

 

 ぱぁぁと笑顔になり、嬉しそうなゆんゆん。彼女はとても単純でチョロいようだ。なんか簡単に騙されそうで心配になってきたな……

 

 クリスもとても嬉しそうだ。仲間が出来たからってよりは、俺とゆんゆんが仲直りしたのが気に入ったらしい。やっぱりクリスマジ天使。女神だけど。

 

「討伐数もクリアしましたし、帰りましょうか。ジャイアントトードの状態も良いですし、報酬にも期待できそうです」

 

「?なんでジャイアントトードの状態を気にするんですか?」

 

 ゆんゆんが不思議そうに聞いてきた。

 

「なんでって……買い取りして貰えば報酬に加算されるだろ?傷んでなければ良い価格で買ってくれるし」

 

「買い取り……ああ、そういうシステムもあるんでしたね。すっかり忘れてました」

 

 クリスはその言葉を聞いて、同情の涙を流した。

 俺はクリスが何故泣いたのか少し考えた後、ゆんゆんの言葉の意味に気付いて、泣いた。

 

 

 

 

 

「はい、ジャイアントトードの買い取りと今回の報酬を合わせて、計12万エリスとなります。ご確認ください」

 

 報酬を受け取り、皆で山分けにする。

 1人4万ずつに分けたので3日で4万エリス。初日は別として、それなりに待遇は良いと感じるが、いつも今日のようにいくとは限らない。今回のような簡単なクエストはそう無いし、安定して稼いでいくにはもっと難しいクエストも受けなければいけないだろう。

 

 このパーティで一番危険な役割を持っているのは間違いなく俺だ。陽動と壁役は下手すりゃ即お陀仏って事になりかねない。唯一の男だからしょうがないと言えばそれまでだが……

 

 

 

「カズマさーん!こっちですよ!」

 

 クリスとゆんゆんが呼んでいる。今日はパーティ結成祝いと祝勝会。既にカエルの唐揚げとクリムゾンビアーがテーブルに並んでいる。

 

「ほら、報酬金12万エリスだ。1人4万づつで良いよな?」

 

「え、いや悪いですよ。私は最後の1日しか居なかったわけですし……」

 

 ゆんゆんが山分けを渋る。こんな控えめな性格だから友達がいないのだろう。

 

「どうせ初日に1匹倒しただけですし、気にしなくても良いですよ?今日は間違いなくゆんゆんさんがMVPですから!」

 

「そうそう、仲間なんだから遠慮は無しだ」

 

「っ……仲間……」

 

 何か堪えていたものが溢れ出したように、ゆんゆんは泣き出してしまった。どうしたかとクリスが慰めようとするも、ゆんゆんは止まらない。

 

「わた、私っ……今まで、友達とか、殆どいなくて……だから……わたし……うぅっ……」

 

「……ゆんゆん……」

 

 このぼっち、相当哀しい人生を過ごしてきたらしい。まだ14歳らしいが、随分寂しい青春だったのだろう。

 

「大丈夫、私がいるから大丈夫ですよ。だから泣かないで。もう友達でしょう?私たち」

 

「っ!……はい……!はいぃ……」

 

 クリスにしがみついてわんわん泣くゆんゆんと、聖母のような優しい笑みでそれを包み込むクリス。

 

 ……美少女が抱き合ってるのを見てると、心が浄化されていくような感じだ。

 なんか、たまにはこう言うのも、良いものですよね……

 

「さ、いつまでもしんみりしてるのもアレだし、さっさと食おうぜ。今日は新しい仲間の歓迎会だからな!」

 

「!はいっ!」

 

 そうして新しい仲間を加えた俺たちのパーティ。順風満帆な冒険者生活だと思うが、順調すぎて逆に不安になるのは俺だけでしょうか。

 

「カズマさん、食べないならこの軟骨は私が貰いますね」

 

「あ!それは俺が取ってた奴だぞ!」

 

「なんかあっちも騒がしいですね。宴会でもやってるんでしょうか?」

 

「なんだ、あっちに混じってくるか?ゆんゆん」

 

「え、宴会に混じるなんてそんな!宴会に参加すると言うのはちゃんと前もって連絡を入れてから指定の時間までに……」

 

 ま、このパーティなら心配するだけ無駄だろう。……無駄だよね?

 

 




ゆんゆんめんどくさい(直球)

追記:技の名前を一部変更し、クリスの使った支援魔法は一般には知られて居ないものとしました。

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