この素晴らしい世界に更なる祝福を!   作:貧弱傍観者

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こんにちは、貧弱傍観者です。お待たせいたしました、閑話のメンバー交代編です!
ダストが冒険職と見下し、それに反応したカズマさんはどう対処するのか見物です。(※カズマらしくない為、ご注意下さい。)
それでは本編をどうぞ!


閑話② メンバー交代編

【一】

 

「すまない、聞こえなかったのでもう一度頼む。」

 

カズマは溜息を吐いてペラペラと喋るチンピラの言葉を再度確認すべく、そう返す。カズマ達ははウィズの心境を察し、先日のゾンビメーカー討伐のクエストをリタイアした。それをこの男は最弱職である冒険者のカズマをのけもの扱いするかの如く馬鹿にする。

 

「何度だって言ってやるよ、最弱職(・・・)。上級職が揃ったパーティで、何でゾンビメーカー討伐なんて簡単なクエスト失敗するんだよ。大方お前が足引っ張ってるんだろ? なあ、最弱職(・・・)さんよ?」

 

この男はどの平行世界でも冒険者ならば絡んでくるチンピラの冒険者であり、カズマの親友でもあった。男がそう言うと、同じテーブルにいた他の仲間と笑い合った。カズマは無言で男を見ている。

 

「―――――。」

 

何も返さない無言のカズマがビビッて何も言えないでいる(・・・・・・・・・・・・・)と誤認識されている為、更に馬鹿にしてくる。

 

「ハハハ!おいおい、何とか言い返せよ最弱職(・・・)さんよ?…ったく、最弱職(・・・)の癖にいい女ばっか引き連れやがって。ハーレム気取りか?どいつもこいつもいい女で、しかも全員上級職ときてやがる。―――さぞかし毎日、このお姉ちゃん達相手に良い思いしてんだろうなぁ?」

 

 

「うひゃひゃひゃ!おいおい、よく言えるなぁダスト。」

 

「止めなって、ダスト。駆け出し君でも頑張っているのよ。ププ…。」

 

 

男のパーティーである人たちが俺を見て笑う。そしてギルド全員の人々の爆笑が、ギルド内に響き渡る。

 

「カズマさん……!」

 

一人が多かった為、野郎の野太い声に思わず恐怖心を抱いて身体と拳を震わせる。無論、その中には怒りも含んでいる。友達になってくれたカズマを最弱職と侮辱し、上位冒険者の餌食とされている事についてだ。そしてめぐみんやダクネス、アクアが止めに入った。

 

「…カズマ、ああいうのは相手してはいけません。私なら何言われても気にしませんし。」

 

「ん、私も同意見だ。酔っ払いの言う事など捨て置けばいい。」

 

「そうよそうよカズマ。あの男、私達を引き連れてるカズマに妬いてんのよ!私は全く気にしないから放っておくのが賢明な判断よ―――って、カズマ?」

 

カズマは両目を瞑っている。

 

「……上級職におんぶに抱っこで楽しやがって。苦労知らずでよろしいこって! おい、俺と代わってくれよ兄ちゃ―――、」

 

男が言おうとした瞬間、カズマが口を開く。

 

 

 

 

「―――昔、貧困の地に一人の青年がいたという。」

 

 

 

 

 

カズマはバッグに入れていた本を片手にしてページを開き―――、突然と語り始めた。

 

 

 

「……はっ?」

 

 

 

無論、ギルド内は動揺として静止する。

 

「名を持たず、素性も不明。故に忌みの子と蔑まれ、それでも純粋な心を持つ青年は何時しか、人の為ならばと王都を目指したそうだ。」

 

「カ、カズマ…?一体どうしたのだ…?」

 

ダクネスが心配するも、カズマは語り続ける。ギルド内は静止したままで、全員がカズマを見る。

 

「無名の青年は騎士団を選び、水晶に手をかざし、与えられた命は騎士。正義に忠実な職業につけたと歓喜する。」

 

 

 

青年は功績を成すと共に、周囲の視線は嫌悪で満ち溢れていた。

 

―――ある者からは罵倒。誇りを踏み躙られながらも彼は人の為ならばと耐え、数多の功績として騎士団長昇格の許可が下りた。

 

―――青年は一層正義感が増し、巧みな指示によって敵軍を一掃する。一部の騎士は『我が誇り』と言わんばかりに堂々と民を救い、自分ならば正義の英雄となれると思っていた。だがそれは破滅の序章にすぎず、街に戻ったところ、その目は絶望へと染まる。

 

 

 

―――邪神によって、街は焦土と化していた。

 

 

 

―――青年は憤慨して卓越した力を行使して邪神を撃退するも、近くにいた騎士に壊滅の元凶として捉え、公開処刑として首を斬られたという。青年が最期に見たのは、青年らを嘲笑う騎士たち(同胞)の姿だった―――。

 

 

 

 

 

「これは誰かが執筆したものだが―――。侮辱、蔑ろ……。実に胸糞悪い内容。おまけに死後は魔に身を委ねる、か―――。」

 

カズマは本を閉じてバッグにしまう。一歩一歩男の正面に向かって歩き―――、そして止まる。

 

「それでな。その騎士共、不可解な死因を残して亡くなったんだよ。―――何故だろうね?」

 

カズマは、まるで子供を見守るか父親の様な微笑みを浮かべていた。

 

「……ヒッ!?」

 

カズマが微笑むと、ダストは怯えの声をあげる。彼もまた、カズマの魔性を浴びてしまったのだ―――。そしてカズマは笑みを止め、目を瞑って語る。

 

「万物万象凡ては優劣で決まるもの。力や権力、知恵に勇気―――。」

 

カズマは語り続ける。

 

「ならば優劣を変動させるには如何すればいいか。―――己を優劣の材料として使い、自身の存在を意義する。…元々生命は弱者。それ故に糧を得て熟れ、やがて強者に至るが道理だ。」

 

『………。』

 

ギルド内全員はカズマの語りを聞いている。ある者は称賛し、ある者は頷く。

 

「己の身分など関係ない。劣ってもいい、乞うてもいい。弱者なりに意地を見せる。……だが決して弱気になってはならん。先を見ず前を見る。優劣を決めるは己が剣、優劣を導くは己が意志。―――故に弱者とは弱者故に強者以上の力を持つ者なり。」

 

カズマは一歩一歩男に近づいていく。男の前に辿り着いたカズマは男の双眸を見据え、暫しの静止後に口を開く。

 

「俺は佐藤和真(さとうかずま)。―――名を聞こう、冒険者よ。」

 

「お、俺はダストだ……。それで何だ、先ほどの物語や演説が何だっていうんだよ。」

 

ダストが若干怯えながらも喰いかかる。

 

「お前も薄々感づいているのではないのか。秘めた弱者の力―――、英雄にはなれどそれに辿るまでの力の器を、お前自身が壊していることに。」

 

「ち、ちげえよ!俺はそんな三下の様な行為は絶対にやらん!単純に…、その…、アンタが上級職四人、しかも美女に囲まれているから妬んでいただけだ……。」

 

「つまりは妬みからなるものだと……、そういう解釈でよろしいか?」

 

「あ、ああ……。」

 

「ふむ―――。」

 

カズマはダストを見据え、その後に腰かけた女性のウィザードをチラっと見る。その女性ウィザードはダストをチラチラと心配の視線で見ている。

 

「……今後、蔑みや変な噂を流すなどといった行為は止めておけ。特に異性の妬みなら碌な目にあわん。―――そこな者に好意を寄せているなら尚更だ。」

 

「「な―――っ!?」」

 

ダストとリーンは頬を赤くする。

 

「ちょ―――、何言ってるの!?べべべ、別にダストの事なんか―――。」

 

「おおお、俺もだぞ!?何余計な事抜かしやがる!?」

 

「うひゃひゃ!お前ら顔真っ赤だし、とても言えたもんじゃねえぞ~!」

 

「「キースは黙れ!!」」

 

うひゃひゃと独特に笑うキース。再び、ダストはカズマの方に目を向ける。

 

「ダスト。お前は俺に喰いかかってきたが何が望みだ。……侮辱したいが為の俺のを」

 

「……流石に最弱職と馬鹿にして悪かったよ、カズマ(・・・)。正直あんたを舐めていた。どれだけ覚悟してこの地へ訪れたのか、あんたの先ほどの語りで理解出来た…。」

 

「……それでどうしたいのだ。」

 

「だけどよ。それでも俺はアンタが妬ましいんだよ、男として!上級職四人、それも全員とびっきりの美女だ!最早楽園(ハーレム)状態じゃねえか!」

 

「―――戯け、愚痴を言ってどうする。要件を言え。」

 

カズマの圧によってギルド内は黙り、ダストは冷や汗をかく。

 

「つ、つまりだ。―――俺とあんたで代わってほしい!」

 

「つまりは楽園(ハーレム)とやらを楽しみたいとの事か。……いいだろう。お望みとあらば一時的ではあるが―――、変わってやるよ。」

 

 

「「「「えっ」」」」

 

『えっ?』

 

 

シリアスモードからギャグモードへ移り変わった瞬間だ。ギルド内に素っ頓狂な声が響き渡る。無論、その中のカズマのパーティーも鳩が豆鉄砲を喰らったかのような声をあげる。

 

「フフフ、お前は愚痴を垂れこぼしまくったから俺も吐かせてもらおう。いい女に楽園(ハーレム)楽園(ハーレム)といったか。―――お前、顔にくっついているのは目玉じゃなくてビー玉か何かか?どこにいい女が居るのか、寧ろ俺に教えてほしいんだが。良いビー玉を付けているのだな、俺の濁った目玉と是非取り替えて欲しいものだ。」

 

「「「「あ、あれ?」」」」

 

『……我が主よ。苦労しているならどんどん愚痴をこぼしておいたほうがいい。……というかしてください。私も苦労しているので、気持ちは痛いほど分かります。』

 

エンドラが自分のキャラを忘れてまで愚痴吐きを強く希望していた。

 

 

「ヒソヒソ(あの…。カズマさんのあれって愚痴ですよね…?)」

 

「ヒソヒソ(フフフ…、私を糞女扱いか。んん、最高だ。やはり私の目に狂いは無かったな。この男は真の鬼畜だ、騎士の鏡だ!―――さあどんどん愚痴を吐け!この私を罵ってくれ!)」

 

「ヒソヒソ(鬼畜に騎士道なんて全く関係無いわよ!?……違うからダクネス。そこ喜ぶところじゃないから。あんたのソレがカズマのストレスに繋がっているわよ。多分。)」

 

「ヒソヒソ(カズマの気持ちも一理あります。そこで爆裂魔法をぶっ放してカズマに見せてあげるべきです。きっと疲れが飛ぶでしょう!)」

 

「(躊躇いなくぶっ放すめぐみんの爆裂魔法もストレスの原因でしょうが!?)」

 

 

カズマのパーティメンバーの四人が、それぞれ小声で呟いた。そしてカズマは―――、

 

「で、何だ?良い女?……何処にいるんだ?お前は俺が羨ましいと言ったな?聞いたよ、聞いちゃったよ俺。」

 

―――愚痴を弾丸の如く愚痴を吐いている。

 

「あ……あのう……」

 

恐る恐る右手を上げて意を決し、四人を代表して出たアクアの声。カズマは目もくれず、愚痴を吐き続ける。

 

「それと……、上級職におんぶに抱っこで楽しやがって!?苦労知らずだぁぁぁぁぁぁ――――!?」

 

「ヒッ!?……そ、その。ご、ごめん……、俺も酔ってた勢いで言い過ぎた……。で、でもな!お前さんは確かに恵まれている境遇なんだよ!代わってくれるって言ったな?―――おい、お前らもいいか!?」

 

そう言い、ダストは自分のテーブルの仲間にも確認を取る。

 

「俺は構わないが……。今日のクエストはゴブリン狩りだしな」

 

「私もいいよ?でもね、ダスト。あんたさ、居心地が良いからって『もうこっちのパーティに帰ってこない』とか言い出さないでよ?」

 

「勿論、俺も構わん。ひよっ子一人増えたってゴブリンぐらいどうにでもなる。その代わり、良い土産話を期待してるぞ?」

 

絡んできた男と同じテーブルに居た仲間達は口々に言った。

 

「(…カズマさん、私らのリーダーとして貴方はよく頑張っています。一日だけですけれど、羽を休めてきてください。)」

 

ゆんゆんは胸に手を当て、心の中でカズマを労っていた。

 

「ねえカズマ。その、勝手に話が進んでるけど…、私達の意見は通らないの?」

 

「通らん。」

 

即答である。

 

 

 

カズマはダストのパーティメンバーの所へ向かい、自己紹介を交す。大剣を背負った鎖帷子を着込んだ男がカズマを見据え、口を開く。

 

「俺の名はテイラー。職業はクルセイダーで、このパーティのリーダーだ。……成り行きとはいえ、今日一日は俺達のパーティメンバーになったのだ。俺の指示には従ってもらうぞ?」

 

「(あれ、コイツの職業ってソードマンじゃなかったっけ?)……無論だ、よろしく頼む。」

 

この男はテイラー。平行世界ではアクセルの、ある施設を守る為に機動要塞の討伐に貢献した男だ。そして、平行世界のテイラーは騎士団に勤めていた。

 

「ではでは、次は私ね。名前はリーン。見ての通りのウィザードよ。魔法は中級の属性魔法までは使えるわ。よろしくね、駆け出し君?ゴブリンぐらい楽勝だから、私が守ってあげるわ。」

 

この女性の名はリーン。このパーティー唯一の紅一点であり、あのダストに好意を寄せている。

 

「俺はキースっつうものだ。クラスはアーチャー。狙撃が得意なんでオネシャス。」

 

独特な喋り方をする男の名はキース。平行世界では狙撃スキルを教えて貰ったり、共に風●店へ行った仲である。

 

「俺は佐藤和真(さとうかずま)。先ほども言った通り、ただの駆け出し冒険者だ。―――他に何か得意な事とか言ったほうがいいか?」

 

三人は吹き出した。

 

「いや、別にいい。……そうだな、カズマは荷物持ちでもやってくれ。ゴブリン討伐くらい三人でもどうとでもなる。心配するな、ちゃんとクエスト報酬は四等分する。」

 

テイラーが少々馬鹿にした様に喋る。

 

「了解した―――、よろしく頼む。」

 

「ああ、よろしく頼む。」

 

「よろしくね~!」

 

「よろしく頼むぜ?」

 

自己紹介を終え、カズマ率いる新パーティメンバーはネロイドと荒鰐(ブルータルアリゲーター)の定食を頼む。

 

「所でだカズマ。あの上級職ばかりのパーティで、お前の役割は何だったんだ?」

 

テイラーがそう尋ねると、カズマは口を開く。

 

「リーダーだけど。」

 

―――当たり前の様に言うカズマを見て、キースを除いた二人が絶句する。

 

「……ねぇカズマ君。それってマジ?」

 

「ん?ああ、マジだぞ。」

 

「うひゃひゃ!そりゃあカリスマ風に語られたら駆け出しなのか疑わしくなるのも当然だろう!」

 

「……何度も言っているが、正真正銘ただの駆け出しだ。」

 

「―――ふむ、ならばその話は置いといて今日のクエストについて話すぞ。」

 

カズマは手にしていたネロイドの入ったグラスをグビグビと飲み、荒鰐(ブルータルアリゲーター)の定食を完食する。

 

「東の方角に進むと山道が見えるが、今回は其処に住み着いたゴブリンの討伐だ。今から出れば深夜には帰れるだろう。―――それじゃ新入り。五分後にここへ再度集合し、出発するぞ。」

 

「了解。」

 

カズマたちは新パーティーと共に山地へ向かったのであった。

 

 

 

 

 

【二】※カズマ視点

 

―――ゴブリン。それはこの世界でも知らない者はいないメジャーモンスターだ。ゲームに出てくる雑魚モンスターとは異なり、この世界のゴブリンは意外と危険視されている相手らしい。

個体の力はそれほどでは無いが、基本的に群れで行動し、磨いた石製の武器を使って攻撃を仕掛ける。そして何より、その武器が非常に汚い。獲物をさばいたその血が付着したままで、あまつさえ手入れもしない為、言えば雑菌に塗れた石剣だ。だが、もしかしたらそれが彼らなりの狩猟方法なのかもしれないと王都随一の生態学者が論文に書き記したという。

俺達は山へ向かう途中の草原を、のんびりと歩いていた。

 

「しっかし、何故山地に住み着いたのが未だに理解出来ないわね…。ま、おかげでゴブリン討伐なんて滅多に無い美味しい仕事が出てきた訳だけどね!」

 

リーンが笑みを浮かべている。それもそうだ、ゴブリン一匹の討伐で報酬は二万エリス。そして俺は三人の後を荷物を背負ってくっついているだけ―――、美味しいも当然だ。

やがて、そのまま何の問題も無く目的地の山に着いた。山と言っても日本の緑豊かな山ではなく、山の殆どを茶色い岩肌が占めていた。こんな自然の恵みが少ない所にどうしてゴブリンが引っ越してきたのか不思議に思う。しかし、俺は懐かしい気持ちでいっぱいだ。

 

「ゴブリンが目撃されたのはこの山道を登り、少し下った所らしい。山道の脇にでもゴブリンが住み易そうな洞窟でもあるのかも知れない。ここからはちょっと気を引き締めたほうがいい。」

 

……今思うとこの世界でテイラー達とクエストに行くのは初めてだな―――。

 

 

 

 

 

『カズマさん、振り向いちゃ駄目!貴方はそのまま前に進みなさい!―――豊穣を汝らに(フレイヤ・ベール)!!』

 

『リーン!?』

 

『カズマ―――お前の勇姿が俺らを導いてくれたのだ。俺らはアイツを食い止める……。あの街を―――、あの店を救ってくれ!!」

 

『射出範囲指定―――、対象を魔王■■■に固定……。―――道を開いた。行け、カズマ!お前に未来を託したぞ!』

 

『俺はリーンと共に逝く。真駄男のキースとは違って駄目男は既に卒業しているんだ!―――ああ、そうだカズマ。お前はさっさとあの頭のおかしい面子とイチャついてこい!』

 

『ダスト…。』

 

『アイツらはネジが一個二個以上にぶっ飛んでる割にとびっきりの美女共だからな、俺には敵わねぇよ。心底苦労しているのは分かっているが…、それでも―――、お前が支えてやらなきゃ駄目なんだ!……それじゃ、行くぜ―――。』

 

 

 

『『『『そのまま逝ってこい、魔王!!!!』』』』

 

 

 

『―――すまないリーン。そしてテイラー、キース、ダスト!』

 

 

 

 

 

俺はふと、別の世界の記憶を思い出した―――。そう。正規とは違う、絶対王道の世界である佐藤和真の記憶(絶対に有り得ない幻想の幻想の幻想)だ。畜生……、今思えばこいつ等は最高だったな。俺が未熟故にアイツ等を犠牲にしてしまった。でも―――、

 

「(―――今はいる。亡きアイツ等とは異なれど、今度は守り切って見せる!)」

 

固く心に誓う。やがて俺らは目的地の近くを拠点とし、テイラーは地図を広げた。俺らは囲うようにして地図を見る。

 

「…今、俺らが滞在している場所は山地の広い道を進んだ所だ。そして近くには目的地であるゴブリンの洞窟がある。」

 

「なるほどな。俺らは其処に行ってゴブリン共を討伐するって訳か―――。待て、敵の気配がする。少し隠れておいた方がいい。」

 

俺は警戒し、皆を岩陰に隠れさせるように言う。隙間を見ると―――、初見殺しが徘徊していた。

 

「ヒソヒソ(ななな、何で初見殺しがいるの…!?)」

 

「ヒソヒソ(おい、リーン。静かにしないとケツ噛まれるぞ?)」

 

「ヒソヒソ(貴方は何でこういう時でも堂々と下ネタ言えるわけ!?)」

 

「ヒソヒソ(おいキースにリーン、バレるから静かにしとけ。)」

 

「ヒソヒソ(あぁ、わりぃわりぃ。)」

 

「ブツブツ(元はというとキースのせいなんだけどね…!)」

 

虎やライオンをも越える大きさのソレは、全身を黒い体毛で覆われ、サーベルタイガーみたいな大きな二本の牙を生やしていた。―――初見殺しは狡猾なモンスターとして有名だ。故にその悪知恵によって急所を突かれ、駆け出し冒険者から畏怖されている。

初見殺しは先ほどいた獲物(オレたち)の匂いを嗅ぎ、やがて俺達が登ってきた、街へと向かう道へ消えていった。

 

「……プハ―!!!!ここここ、怖かったあああっ!初心者殺し!初心者殺しだよっ!」

 

リーンが涙目で言ってくる。その狡猾さは中級の冒険者さえも悩まされている為、中級職の皆は強く警戒していた。

 

「おいおい…、初心者殺しなんて聞いてないぞ。危うく糞便ドバドバ漏らすとこだった……。」

 

「ねえ、さり気無く下ネタ入れるの止めてくれない?そこ直さない限り一生彼女出来ないと思うけど?」

 

「うっひゃっひゃ!生憎俺には夢という名の彼女がいるので、既に人生勝ち組!お前はいい加減彼氏でも見つけろってんだ!」

 

「んなっ……、うっさい!そもそも夢って何なの、人なの!?意味が分からないんだけど!?てかアンタのその笑い方、うざったいから止めてほしいんだけど!?」

 

「うひゃひゃひゃ!!夢っていうのはあれだ、あれ。男の楽園って奴?何でもかんでもやれる?的な?うひゃっひゃっひゃ―――!!」

 

キースが言う『夢』とは恐らくサキュバスの店の事だろう。

 

「意味分からないわよ!?はぁ…はぁ…。キースと喋ってると余計に疲れるわ…。本当残念なイケメンだわね。少しはテイラーを見習いなさいよ―――って、テイラー?」

 

「―――ボソ(俺も頻繁に行ってたから何も言えない…。)」

 

「ププッ…。うひひ、うひゃひゃひゃ……。やっぱテイラーも俺と同じふうぞゴバァッ!?」

 

テイラーがキースを無言で殴る。キースのハジケ具合にリーンはため息を吐く。

 

「キース、余計な事は喋るな。その時は半殺しにしてゴブリンの群れにポイ捨てしてやるから覚悟しとけ……!」

 

恐らくテイラーもサキュバスの店の常連なのだろうと、カズマは察した。

 

「取り敢えず―――、助かった……。感謝するぞ、カズマ。」

 

テイラーが俺を見て感謝する。

 

「ああ。その感謝の意、しかと受け取った。―――それにしてもテイラー、此れで疑問は解消したな。」

 

「「?」」

 

リーンとキースは何がだろうと言わんばかりの表情を浮かべ、首を傾げる。

 

「つまり、だ。―――ゴブリン共はあの初心者殺しに追われて急遽、この山道を住処としたんだよ。」

 

カズマが言った事を聞いて、ああなるほどと口にするリーンとキース。

 

「しかし、カズマが敵感知のスキルを覚えているとはたまげたな!」

 

そう言って関心するキース。

 

「確かに敵感知は敵感知だ。だが敵感知であってスキルではないぞ?」

 

「…どういう事だ?」

 

俺がそう言うと訝しむテイラー。

 

「研ぎ澄まされた五感と勘で生まれた技術だ。敢えて俺は体技の範疇として認識している。」

 

「…つまり貴方はスキルを使わず、体技で敵を感知したっていうの?」

 

「そうだけど。」

 

そういうと、テイラーとリーンは驚いていた。

 

「う、嘘……。」

 

「馬鹿げている……。」

 

三人は俺を異質扱いする様な視線で見てくる。

 

「……お前って本当に駆け出しか?」

 

意を決してテイラーが答える。

 

「俺が高位の強者とする。己を駆け出しと偽り、何のメリットになる。得られるものなど皆無だ。」

 

「それはそうだが……。」

 

「一つ聞きたいんだけど…。ダストに放ったあの殺気、あれも体技の一種だろ?」

 

キースは、カズマがダストに放った殺気について尋ねる。

 

「そうだな、まさしく体技の一種だとも。」

 

「……すまんがその体技で敵を感知してくれないだろうか。」

 

テイラー達に敵感知スキルが無いため、緊急のリスクを伴う危険性を考慮してのお願いなのだろうと、カズマは思っていた。

 

「勿論構わん。」

 

テイラーがゴホンと咳をして再び真面目モードに入った。

 

「それでは作戦だ。―――とりあえずゴブリンの討伐を済ませた方が得策だ。……初心者殺しは、普段は冒険者をおびき寄せる餌となる、ゴブリンやらを外敵から守るモンスターだ。ゴブリンを討伐して山道の茂みに隠れていれば、俺達が倒したゴブリンの血の臭いを嗅ぎつけ、さっきみたいに俺達を通り過ぎてそっちに向かってくれるかもしれない。近づいてくればカズマの体技で感知してくれるだろう。帰ってくるかどうかも分からない初心者殺しを待って、何時までもここで隠れてる訳にもいかん。まずは目的地へと向かうとしよう。」

 

「「「「了解!」」」」

 

俺は皆の荷物を持って目的地へ向かおうとするが―――、

 

「よいしょっと。」

 

―――リーンが、俺が持っていた大きな荷物の一部を背負っていた。

 

カズマさん(・・・・・)に持たせるわけにはいかないしね~。それにもし、初心者殺しに会ったら皆で逃げる時に身軽な方がいいからね~。私も持つよ。―――そ、その代わり、潜伏と敵感知の体技、……頼りにしてるよ?」

 

自分の分の荷物を持ちながら、おどおどと言ってきた。そのリーンの言葉にテイラーとキースも俺の背中から荷物を取る。

 

 

「「べ、別に…、俺達はカズマを頼りきってる訳じゃないからな!」」

 

 

ツンデレ発言した男共の発言を休憩終了の合図として、再び目的地へと歩んでいった―――。

 

 

 

 

 

【三】※第三者視点

初心者殺しが引き返してくる気配も無く、カズマ達は警戒を怠ることなく山道を登っていると、テイラーの持つ地図の通り、山道が下り坂になる地点に出た。ゴブリンが目撃されたのはどうやらこの辺りらしい。

 

「…………。」

 

カズマが周囲を警戒している。

 

「……どうした、カズマ。」

 

「―――敵が複数体いる。恐らく討伐対象のゴブリンの群れだ。……だが、それにしては多すぎるぞ。」

 

「ね、ねえ。そんなに居るの?カズマさんがこう言ってるんだし、ちょっと何匹いるのかこっそり様子を伺って数えてから―――、」

 

リーンが言いかけようとしたその時、複数の敵が動いた。

 

「―――ッ!?数えている暇は無い!テイラー、指示をしろ!複数で攻めてくるぞ!」

 

「分かった!!―――総員、戦闘態勢!リーンはカズマをサポートし、隙あらばゴブリンの討伐にかかれ!キースはゴブリン共の両目を手早く狙い射て!」

 

「了解だわ!」

 

「合点承知!」

 

皆が戦闘態勢に入る。そして一体―――、

 

「ギギャァァァ!!」

 

―――ゴブリンがキースに襲い掛かる。

 

「二本装填―――、分裂射出。」

 

キースは素早い手際でゴブリンの両目を射た。彼は生まれつきから視力が良く、2,0という遥かに優れた視力を持つ。その為―――、、

 

「ギギッ!?」「グボラァッ!?」

 

―――キースにアーチャースキルが合わさり、最強に見えるのだ。ゴブリンは跳躍して襲い掛かろうとしたが、両目の損傷によってゴロゴロと崖から転落していった。そう―――、裏世界で幕を閉じたのだ。

 

「しっかし弓矢二本を使用頻度とすると…。やべえよ、弓矢の残数尽きるかもしれん!うっひゃっひゃ!―――分裂射出!」

 

「グギャ…ギィ!?」「ゴボボォ!?」

 

矢の残数を考えずにお構いなくぶっ放すキース。

 

「キースって根っからの馬鹿なのね!?少しは計算して戦いなさいよ、この尻軽男!」」

 

「なるほど、俺は尻軽男ですか!じゃあその反対は?」

 

「えっと、尻重女?―――って、何言わせんのよ!?誰がケツデカ女ですってぇぇぇぇ!?!?」

 

リーンの口調を聞いてアクアを思い出したカズマ。このツッコミ具合と怒り方に共通点がある。もしやアクアとリーンを組ませたら結構仲良くなれたりして?と考えていたカズマであった。

 

「うひゃひゃひゃひゃ!!!!―――オラァ!派手にぶっ飛びな!」

 

「プギャッ!?」「グベフォッ!?」

 

「キース、後でぶっ飛ばすから覚悟しなさい!!―――火球(ファイアボール)!」

 

「ギャラパッ!?」「グボラァッ!?」

 

ゴブリンたちがキースとリーンによって倒されていく。そして、カズマはため息を吐く。

 

「あー、面倒だな……。んじゃあ―――、一丁派手に一掃しますかねぇ!」

 

そういうと彼の弓が輝き始めた。カズマは口をあんぐりと開けたままキースを見ている。

 

「え、お前それ何……?」

 

それに気づいたキースはカズマを見て再びゴブリンの方へ向き、ニヤリと笑って喋る。

 

「見てろよ、カズマ!これが俺の中級属性魔法と弓を融合させた俺の魔法だ!」

 

「ちょっ、キース……!」

 

そう言って弓を七体のゴブリンに向ける。リーンは何故か焦っている。

 

「俺は悲しい、彼女の出来ない俺が悲しい。だったらその悲しみどうするか―――。無論、夢の楽園(サキュパス)の店へ駆けつけて忘却の彼方に悲しみを葬る他あるまい!!」

 

「キース……。」

 

カズマはキースを見て、真の男だと関心する。

 

「七本装填、魔力共有許可、対大群用炎属性付与、中級炎属性魔法発動段階突入―――。」

 

キースは詠唱を終える。

 

 

 

「―――堕天七弓(セブンズレイ)!!」

 

 

 

―――詠唱後、七本の弓矢が空中を飛んで一点に集中する。やがて花弁を彷彿するかの如く七本の弓矢が飛来し、七体のゴブリンを追尾して炎属性攻撃が放たれる―――。

 

 

「「「「「「「ギギァァァァ――――ッッ!!」」」」」」」

 

 

中級魔法である堕天七弓(セブンズレイ)を喰らった七体のゴブリンは軽度の火傷を伴い、やがてゴブリン達は倒れた。

 

「貴方がハジケまくったせいで弓矢が無くなったじゃない!?どうするの!?」

 

「まあ仕方ないだろ、リーン。ふー、派手に中級魔法使っちまったから魔力切れだわ―――。って、どうした……カズマ?」

 

そしてカズマは呟く―――。

 

「(この世界のキースって強くね?)」

 

こうして、キースの元からゴブリンの群れが消えたのであった―――。

 

 

 

 

 

【四】

テイラーのもとに一体のゴブリンが襲い掛かる。

 

「魔力共有、魔法細工解除完了―――。」

 

どんどん増えていき、計五体のゴブリンがテイラーを襲う。

 

「―――魔弦断絶《ジャガーストリングス》!!」

 

「ギャッ!?」「グァギィ!?」「ヒデブッ!?」「ブリュリュッ!?」「ブッチチッ!?」

 

計五つの紫色の斬線が五体のゴブリンを切り刻んだ。だが、これは連撃ではない―――。

 

「ギキィッ!」「シャァッ!」「コッコッ!」「グルルァッ!」「ヒギィッ!」

 

ウォータージェットは3800以上の気圧に加圧された水を0、1mm程の小さな穴を通じ、音速で流す事によって切断を可能としたものだ。

 

「一変死んで来い、小鬼共めがぁぁぁぁ――――――ッッッッ!!!!」

 

「ギャァ!?」「ドゥエッ!?」「ブリュッ!?」「ブフォッ!?」「ンギィッ!?」

 

テイラーの剣の刃には0,1mmの小さな穴が何ヵ所もある。つまり何が言いたいのかというと、ウォータージェット切断の仕組みを利用して造られたものだ。その大剣には魔法の細工を何重とされていて、特殊な詠唱を唱える事によってその細工が解かれるという仕組みだ。無論、その詠唱とは―――、

 

 

「―――魔弦断絶《ジャガーストリングス》!!」

 

 

そう、『魔弦断絶《ジャガーストリングス》』である。詠唱後、自動的に彼の持つ魔力が剣に流れ―――、数か所の穴から気圧魔法によって加圧された魔力を噴出するといった仕組みだ。

 

「つくづく俺はゴブリンに好かれているとみた。―――フンッ!!」

 

「グギャッ!?」

 

後ろから不意打ちしようとしたゴブリンを片肘で攻撃する。見事顎に命中されたゴブリンは軽い脳揺れを起こし、その間にテイラーはゴブリンの方を向きながら裏拳をかまし、素早く抜刀してゴブリンを切り裂いた。

 

「グボ…ギャァ……!?」

 

彼のもとからゴブリンがいなくなったと思ったその時、頭上にゴブリンが飛び降りてきた。

 

 

 

「―――蹂躙鉄拳(ジャスティス)。」

 

 

 

テイラーの頭上にいたゴブリンは果てまで飛んで行った。

 

「テイラー、今のは周囲の警戒を怠ったお前のミスだ。気を付けろ。」

 

「あ、ああ…。すまない、カズマ。―――確かに、目の前に強敵がいるな。」

 

こうしてゴブリンの群れを討伐して任務完了と思いきや―――、

 

「おい、お前等。気合い入れ直せ、初見殺し(ボス)がやって来たぞ。」

 

「おいおい……。」

 

「嘘……!?」

 

―――初見殺しがゴブリンの血を嗅ぎつけてきたのだ。

 

 

「プギャァァァ……!!」

 

 

「―――キース……、あいつの両目潰せるか?」

 

「テイラー、無理いうな。今の俺じゃあ太刀打ち出来ねぇ…。」

 

「……やっぱ、中級のお前でも実力差はあちらの方が上なんだな。」

 

「ああ、アイツ狡賢いから実力言えばあっちの方が上手だ。それに…、弓矢尽きちゃった。」

 

「……は?」

 

テイラーはマヌケ面して裏声をあげる。

 

「だから弓矢ブッパしてたら底尽きちゃったんだよ…、無駄に弓矢拡散して撃たなきゃ良かったぜ。」

 

そう、キースは馬鹿笑いしながら調子に乗って撃ちまくり―――、おまけに後先考えずに弓矢を拡散連射していたのだ。

 

「お前馬鹿なの!?尻軽どころか、遂に頭まで軽くなりやがったか!?尻から頭まで全身軽くなってんじゃねえよ!?お前人間辞めて水素にでもなってこい!」

 

「うひゃひゃひゃ!!水素とかお前、面白すぎなんだけど!……まじでどうします。」

 

「貴方が馬鹿したせいで一方的に不利な状況に立たされたんだけど…、そこらへん自覚ある?」

 

「あるに決まってるじゃないですか~、リーンさん。……それで、どうしますかねぇ。」

 

キースが初心者殺しを最大まで警戒している。

 

「……テイラー、リーン、キース。俺―――、やるよ。」

 

「お、おいカズマ!お前、正気か!?」

 

「そうよカズマさん!貴方の実力は認めたけれど、それは愚考よ!?止めておきなさい!」

 

「せっかくのエロ友が死んでもらっては元も子もねえ……。カズマ、流石に―――。」

 

三人が止めに入ろうとしたその時、何かが三人の脳裏を蹂躙する。

 

 

「如何なる手段を以てでもやらねばならない時がある―――。」

 

 

「「「―――ッ!?!?」」」

 

 

絶対な声の圧が氷となって三人を襲う。

 

「こ、この威圧って……!!」

 

「……間違いない。ダストに放った殺気だ……!!これも体技の一種とは、カズマは化け物か何かか…!?」

 

「う、うひゃひゃ……。コイツは凄いな。……おい、リーンにテイラー!手を出すんじゃねぇ、巻き添え喰らいかねないぞ!」

 

闘争心を滾らせたキースは、テイラーとリーンに戦闘の介入禁止を命じた。

 

「キースが真剣に言うのなら介入は諦めたい所だが、リーダーとして見過ごすわけにはいかん。…それに新人が代表し、こうして勇姿を見せて戦おうとしているのだぞ?」

 

テイラーはそう言うも、二人は納得しない様な顔をしている。

 

「貴方の意見に同意するわ、テイラー。…だけど相手は初見殺しよ?流石に今のレベルで挑んだら勝算率は一割と言ってもいい。それに真っ向な勝負では死亡確定よ?何か策でもあるわけ?他に手があるとするなら―――、って。……ああ、そういう事ね!」

 

リーンは漸く理解し、納得の表情を浮かべる。キースはため息を吐いてどういう事なのかを訊ねる。

 

「二人とも、俺にはさっぱりです。…教えてくだしあ。」

 

テイラーはニヤリと笑い、キースに言う。

 

 

「―――カズマのバックアップを行えば勝算は上がるって事さ。」

 

 

キースは沈黙し、爆笑する。

 

「うひゃひゃひゃひゃ!!成程な!そんなら安心して挑める!―――だったら、奴のケツ穴に一矢報いる手段は一つしかねぇな。」

 

「貴方はシリアスモードでも下ネタ全開なのね……。―――テイラー、私たちが望む指示(・・・・)を頂戴!」

 

テイラーはその言葉を待ってましたとばかりに口を歪ませ、リーンとキースに命令する。

 

「ああ、俺らに残された手段は唯一つ―――、全力を以て佐藤和真(新入り)をサポートせよ!!」

 

リーンとキースはお互いに目を見て、テイラーの方を向いて誓いを立てる。

 

「「(ブ)ラジャー!!!!」」

 

―――今ここに、正規とは異なる友情が芽生えた。

 

 

 

 

 

【五】

今の佐藤和真は正規とは大きく異なり、利己的に欠けている。それもそうだ。カズマは現在、今は『無き騎士王(サトウカズマ)』に準じた思考回路なのだから。

 

同胞(・・)を守るに特化した誠実の騎士。誠実にして忠実、如何なる手段を以て救助を遂行せし者。故に亡き者たちは言ったのだ―――、

 

 

―――鬼畜にして外道の正義者であると。

 

 

「プシャァァァ……!!」

 

「―――――。」

 

双方、互いに威嚇が始まる―――。

これはスポーツ等で開始直前に行われる行為。相手を意図的に威嚇し、破壊衝動を昂らせて攻撃動作の単純化を狙ったもの。あるいは自身の闘争心を昂らせる為に使われるかだ。

 

「フシャァァァ――――!!!!」

 

そして威嚇に煽られた初見殺しは、カズマの喉元を定めて喰らわんとする―――。カズマは聖剣を抜刀せず、収めた鞘で攻撃を防ぐ。

 

「血迷ったか。我が挑発に乗るなど―――、威を知らぬ狗め。」

 

カズマは鞘を力任せに初見殺しの喉を捉えてぶつける。初見殺しが鞘を噛み付いていた為、思いっきり引き抜くと鞘が持ってかれてしまう。だが―――、

 

「―――スティール。」

 

今は無き過去の祝福神(エリス)の幸運―――、それでも侮ってはならない。凡人の彼(サトウカズマ)には平均以上の幸運が実っているのだから。幹部、邪神、竜を悉く倒して培われた彼の幸運は最早常軌を逸している。カズマは狙いを定めた鞘を一発で引き当ててしまう。

 

「ギャインッ!?」

 

鞘をすり抜け、初心者殺しは思いっきり舌を噛んだ。無論、全力故に損傷は酷くて口元が血塗れだ。そしてカズマは片腕を挙げる。

 

「……?」

 

いきなり何をするのかと初見殺しは疑念を抱きながらも警戒を忘れず。―――魔力が増加していく。初見殺しの双眼は増加する魔力の跡を追い、カズマの頭上を見ると―――、

 

 

「魔弦断絶《ジャガーストリングス》!!」

 

 

テイラーがありったけの魔力を消費し、五つの弦を放った。その弦は追尾型だと理解した初見殺しは五回の回避に専念する。弦と弦の間を避けて避けまくる。それを一、二、三、と―――。迫り続ける魔力弦を躱し続けるが、無論カズマ達はそれを許さず、次の攻撃手段へと入る。

 

風渦(ウィンドカーテン)!!」

 

「―――ッッ!?」

 

暴風が過る―――。

リーンは風属性の中級魔法を発動し、初見殺し目がけて放つ。初見殺しは回避に専念していたので、前方の魔法攻撃と、躱しきれなかった二連の魔力弦の攻撃を受けてしまった。そして―――、

 

「―――ティンダー、ティンダー、ティンダー、ティンダー、ティンダー、ティンダー、ティンダー、ティンダー、ティンダー、ティンダー、ティンダー、ティンダー、ティンダー、ティンダー、ティンダー、ティンダー、ティンダー、ティンダー、ティンダー、ティンダー。」

 

「(いや、唱え過ぎでしょ!?)」

 

リーンは心の中でツッコむ。呪詛の様に詠唱するカズマは風渦(ウィンドカーテン)の渦の中に、初級魔法のティンダーで生成された計二十の炎をぶっ放す。

 

「ギニャァァァァ――――――ッッッッ!?!?」

 

そもそも風渦(ウィンドカーテン)は攻撃魔法ではなく、付与魔法の類なのだ。

 

「(まさか遠距離攻撃を弾く風渦(ウィンドカーテン)を利用して魔法を放つとは―――、やっぱり只者じゃないのね!)」

 

「ハッハッハ!これは前代未聞の瞬間だぞ!性欲大魔王ことダストの助けも不要になったな!」

 

「うひゃひゃひゃ!ダストだけに不要ってか、うひゃひゃ!!何だあれ、初級魔法で押してんじゃん!」

 

リーンとカズマは嬉々としている。それもそのはず、彼らは連携して初心者殺しを押しているからだ。

 

 

「女神直伝―――、神拳(ゴッドブロー)!」

 

 

カズマの拳に青い光が宿り、初心者殺し目がけてボディブローをかます。

 

「ギャインッ!?」

 

初心者殺しは躱しきれず、バキバキというえぐい音と共に左脇腹を損傷した。そして―――、

 

 

「―――十振二十総切(じゅうしんにじゅうそうせつ)。」

 

 

計二十連の斬撃が初心者殺しを悉く斬り刻む。

 

「す、すげぇ…!あの初心者殺しを圧倒してやがる…!!」

 

キースはカズマを見て興奮している。そしてリーンは、ふとある事を思い出して考え事をする。

 

「(そういえば私が見た御伽話の一つに騎士王物語があったけど―――、)」

 

―――曰く、その者、一度剣を振れば十の斬撃となる。彼の邪神はその者を勇者(サトウ)の末裔として畏怖の念を抱く。

 

「(確か騎士王は勇者サトウの末裔説は虚偽と判明したけど……。いや、今は関係ない!そんな事より彼が何者かどうかよ!)」

 

「シャァァ……!」

 

「……無様だな。そんなに死に急ぐか、狂犬め!!」

 

初心者殺しは山道の強者として君臨せし者。故に負けを絶対に認めず―――。必死と痛みを耐え続け、カズマを襲う。

 

「ギシャァァァ――――――ッッ!!」

 

カズマはアッパーをかまして顎に急所を食らわせた。その為、初心者殺しは軽い脳震盪を起こす。そして―――、

 

「はああああああああああああああああああああ、」

 

初心者殺しの後ろ両足をガッシリ掴んでグルグルと回転し始め―――、

 

「どっこいしょおおおおおおおおおお!!!!」

 

「プギャァァァァ――――――ッッ!!!!」

 

―――思いっきり岩壁にぶつけた。

だがカズマの猛攻撃は終わらず、初心者殺し目がけて走っていく。双眸はまるで野獣の如く、初心者殺しを捉える。

 

「―――拘束(バインド)!」

 

「ニギャッッ!?!?」

 

初心者殺しを拘束(バインド)で封じ、背後から腹部を両手で絡める。カズマはそのままブリッジする要領で―――、

 

男女平等折檻(ジャーマンスープレックス)!!」

 

「ギャァァァァ――――――ッッ!!!!」

 

「「おお!!」」

 

「おお、じゃないわよ!そんな仰々しい技で男女躊躇いなく折檻するの!?怖すぎでしょカズマさん!?」

 

―――元いた世界のプロレス技を行い、僅かなクレーターを残した。頭部に大ダメージを伴った為、初心者殺しはピクピクと痙攣して動かない。

 

男女平等折檻(ジャーマンスープレックス)か…。帰還したらカズマに教えてもらうとするか。今度ダストを誘って試しにやってみよう。」

 

「お、いいねぇテイラー!汚いティッシュに塗れたダストに去勢の裁きを与えてやんねぇとな!うひゃひゃひゃ!!」

 

「正気なの!?地面が陥没してるんですけど!?それをダストに試し撃ちしたら死ぬわよ!?」

 

そしてこちらはこちらで、恐ろしい事を口にしている。

 

「クリエイトウォーター。」

 

初心者殺しが痙攣している―――、その隙を好機と見なしたカズマは魔法を初心者殺し目がけて放つ。

 

「ニギャッ……!?」

 

初心者殺しは水を被り、冷たいと言わんばかりの声をあげる。

 

「クリエイトウォーター!」

 

「ギャラパッ!?」

 

何度も何度も重ねてクリエイトウォーターを初心者殺し目がけて放つ。肝心の初心者殺しは膂力を限界以上に動かし続けた結果、筋肉の痙攣を伴ってしまった。それに左脇腹を損傷している為、身体を用いた物理的な攻撃及び防御手段は全て不可能だ。故に睨む事しか出来ない初心者殺しは、強者の意地としてカズマ達を睨むしかないのである。

 

「フリーズ!!」

 

「グギギャッッ……!?」

 

―――フリーズで水面を氷結し、初心者殺しの足場を封じた。

 

「シ……、シャァァァ…!」

 

「余興は終わりだ、狂犬。―――テイラー!!」

 

テイラーが魔法役とマジックポーションを一気に飲み、マナタイトを所持する。

 

「―――前言撤回だ、カズマ。お前は只の駆け出しではない。お前はリーダーとしての才能を有していると、このテイラーが認めよう。」

 

「ギギィ……!」

 

テイラーはカズマを認め、大剣の魔力共有を解放する。魔法細工解除の詠唱を終え、大剣が光り輝く―――。

 

「カズマは我が恩人にして友人だ……。故にその勇姿を認め、問いに答えようぞ!」

 

テイラーがそう言い、大剣を輝かせる―――。

 

「第一波―――、魔弦断絶《ジャガーストリングス》!!」

 

五の魔力弦が初心者殺し目がけて放たれて初心者殺しを五回瞬時に切り裂く。激痛のあまり、初心者殺しは悲鳴をあげてしまう。

 

「ギニャァァァァ!?」

 

「第二波―――、真・魔弦断絶《ネオ・ジャガーストリングス》!!」

 

二度目の真・魔弦断絶《ネオ・ジャガーストリングス》が初心者殺しを十回切り裂く。だが相手は凄腕初心者も手こずるとされている初心者殺し―――、中々にタフである。追い打ちをかけるべく、テイラーは詠唱を行う。そしてカズマは鞘に納めていた聖剣チュンチュンを抜刀し、同時に詠唱する。

 

「我が二連の波は抑止の楔なり。故に汝を敵として此処に解放せん―――、」「紅魔は赤く、王は白黒と。数多の我が爆導に畏怖せよ―――。」

 

テイラーの詠唱が終わると同時に初心者殺しの頭上が紫色にキラキラ無数と輝く。そしてカズマの聖剣の刃は赤・白・黒の三色の光に輝く。

 

 

 

「―――天網恢恢、疎にして漏らさず(ジャガーストリングス・カタストロフェ)!!」「―――紅魔外道幻想剣(ファンタシズム・チュンチュン)!!」

 

 

 

百以上の紫色の光が魔力の琴となって初心者殺しを悉く切り裂き、同時に三色の爆裂が追い打ちとして放たれた。

初心者殺しは最期を迎えてもなお弱気を見せる事無く、強者としての全うを終えた初心者殺しは双眼を閉ざして倒れたのであった―――。

 

「「「や……、」」」

 

無論それは―――、

 

 

 

「「「やったぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――ッッッッ!!!!!!!!」」」

 

 

 

カズマ率いる新パーティーの勝利を意味する―――。

 

「凄い、凄いわ皆さん!!まさか初心者殺しを倒す日が来るなんて、まるで夢のようだわ!!」

 

「ああ、そうだな!これも全てカズマの戦略のおかげだ!」

 

「うっひゃっひゃ!!おいおい、俺は今歓喜してるぜ!!っべぇよ!報酬金ドバドバ出るんちゃう!?」

 

パーティメンバーは嬉しさのあまり、叫んでいた。

 

「よし、カズマ!今日からお前は俺らの友人だ!改めてよろしくな!!」

 

テイラーはハイテンションでカズマと握手する。

 

「ああ―――、改めてよろしく!!」

 

「私も忘れないでよね、カズマさん。本当、馬鹿にしてごめんね?―――これからもよ・ろ・し・く!」

 

「あ、ああ…。よろしくな、リーン!」

 

「うっひゃっひゃ!ケツデカ女の標的にされちまったな!―――改めて宜しく頼むぜ、カズマ?」

 

「ああ、よろしくな。キース!」

 

リーンとキースと堅く握手する。それは朝の様な皆の姿ではなく、まるで友人として接してきている。

 

「カズマ、特別にだが後で教えてやろう。俺とキースの―――、男の楽園(ハーレム)をな?」

 

「―――酒場に帰ったら是非その話を聞かせてくれ。」

 

「ああ、たっぷりと聞かせてやろう!―――な?キース?」

 

「うっひゃっひゃ!リーダーがこれじゃあ駄目駄目だな!だけど、話は聞かせてやろう。」

 

「何何、その話って?」

 

「「「リーン、お前は駄目だ。」」」

 

「何でよぉぉぉぉ――――――ッッ!!!!」

 

任務を終えたカズマたちはペラペラと雑談しながら帰っていった。道中、カズマは皆に男女平等折檻(ジャーマンスープレックス)を教えていったという―――。

 

「(まあ何者かは結局分からなかったけど、どうでもよくなったわ。こうして親密になれた訳だし―――、これでよくってよ!)」

 

野郎どもの話を聞きながら、リーンは心の中でそう思っていた。

 

 

 

 

 

一方、ダスト率いる新チーム―――――。

 

爆裂(エクスプロージョン)!!」

 

「ぬおおおおお!!!!貴様には断じて負けんぞ、飢えた野獣めが!私を凌辱したいならやってみせるがいい―――。いや、寧ろやってみせろ!!!!」

 

目の前には爆裂魔法を発動して倒れこむめぐみんと、集中(デコイ)を発動してモンスターへと突っ込むダクネスの姿と―――、

 

「キャァァァァ――――――ッッ!!??ちょっと何よ、蛙の癖に生意気ね!!」

 

巨蛙(ジャイアントトード)に捕食されているアクアの姿が映る―――。

 

「なあ、ゆんゆん。」

 

疲れ切ったダストはゆんゆんを尋ねる。

 

「なんでしょうか、ダストさん。」

 

ゆんゆんは笑顔で応じる。

 

「……お前んとこのカズマに謝りたくなった。」

 

「カズマさんの苦労を知ってもらえましたか?」

 

ゆんゆんは笑顔を絶やさず応じる。その顔を見るに、彼女は怒っているのだろう。

 

「ああ…。もうこのパーティー、嫌だ…。」

 

クエスト終了後、カズマに土下座して謝ったという―――。

 

 

 

 




ちなみに、ベルディア襲来時に再び干渉が起きて別人格とスキルを手にするかもしれないです。
生前やスキルの内容は伏せておきますが、強いて言うならカズマを更にゲス化した様な感じです。

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